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92.フライブルクは終わり、です

 ようやく自室のエアコンも置き換わって、2週間ほど停滞していた作業が進められるようになりました。(うっかり寝落ちして一日寝込んでたりもしましたが)

 それはさておき、最終章に入ってからのアクセス数の落ち込みが著しく、やっちゃった感をひしひしと感じています……


※2019/10/18 93話タイトル変更に合わせて、次回予告のタイトルを修正しました。

 アーサーさんは、私が描いた図形と、魔族の出現を示した街の地図を交互に見ながら、私が示した要石の位置に、正しく魔族が出現している事、そして、一ヶ所のみ、まだぽっかりと出現していないエリアがある事を確認した。


「なるほど。つまり、我々に残された猶予は、あと一ヶ所のみ、と言う事か」

「はい、その通りです。時間の猶予は全くありません。既に置かれたと考えられる要石の排除が、最後に置かれることが予想される場所の確保か、いずれかを急ぐ必要があります」


 私の提案を聞いたアーサーさんは、自分たちにその権限がない事に、軽く顔をしかめた。


「そして、その権限は公安にしか、ない、と」

「はい、()()()()()()するのは今のところ、公安部にしか許されていません」


 アーサーさんは、腕を組んでしばらく考え込んだ後、私に向かって指を一本立てて質問してきた。


「もう一つ。これが完成した場合に予想される被害は?」

「完成した状態では……そうですね。まず、要石周辺に限られていた魔族の出現が、より広範囲に広がります。敷居も下がるため、頻度や出現する魔族のレベル、数も増える可能性が高いでしょう」


 今でさえギリギリのラインで維持できている事を考えると、完全に破綻してしまうと言う話に、今まで雑談していた周りの皆も話を止め、私の言葉に注目しているようだった。


「それは……完全に我々の処理能力を越える話になってしまうね」

「これはまだ、今までの被害の延長であるため、生やさしい部類に入ります」


 厳しい顔をするアーサーさんに、私はあっさりと、もっと酷い事が待ち受けている事を示唆した。


「というと?」

「先ほど言った通り、すべての要石が配置されると、街は魔界に近い土地となります」


 軽く首をかしげるアーサーさんに、私は言葉を続けた。


「さすがに、魔神級が勝手に飛び出してくることは無いと思いますが……生け贄なり憑依素体なりを用意してやれば、これまでと比べて非常に容易かつ簡素な準備で、魔神級を呼び出せてしまう可能性が高い、と考えています」

「なるほど、そうなれば……」


 私は口元に笑みを浮かべながら、アーサーさんの問いに対する回答を口にした。


「フライブルクは、終わり、です」


 私が導き出した結論に、誰かが「ヒュウ」と口笛を吹いた。


「出現した魔神級の掃討には、この国の戦力を結集する必要があるでしょうし、仮に討ち果たすことが可能だったとしても、それは、その戦闘の余波で街が崩壊してしまうような、壮絶な戦いとなるでしょう」


 アーサーさんはゆっくりと首を振りながら、私のこの見解に間違いがないか確認を取ろうとした。


錬金術師(アルケミスト)リチャード氏はこの件について何か意見は?」

「はい、この想定に同意してくれています。ただ、リチャードさん自身は、評議会から意見を求められればともかく、自分自身が持ち込む事は考えていないそうです」


 と、説明しながら、私はリチャードさんに相談した時の事を思い出していた。



              ◇   ◇   ◇



「確かに、アニーくんの想定通りの危機が、フライブルクに迫っているのは間違いないと思う」

「私から公安に対処をお願いしているんですが、さっぱり反応が無いんですよ。リチャードさんの方から、冒険者ギルド上層部か評議会に働きかける事はできませんか?」

「ふむ……そうだね」


 リチャードさんはしばらくの間腕を組んで考えていたが、最終的にかぶりを振って否定した。


「――いや、止めておこう。彼ら自身が気づいてアクションを起こすべきだね。私から動くのはルール違反かな」

「ルール違反、ですか?」

「ああ。この世は『求めよ、さらば与えられん』と言う奴でね。求めてもいない人々まで助けるのは、サービス過剰だろう」


 リチャードさんの反応に、私は目を丸くした。


「意外に冷たいんですね?」

「家族以外にまでお節介を焼いていると際限が無いからね。それでも普通は、助けを求めても救われないんだから、それに比べると遙かにましだとは思うが」


 リチャードさんは穏やかな顔を見せながら、言葉を続けた。


「アニーくんも危険を感じたならば、早めにこの領主館まで逃げてきなさい。もちろん、お友達も連れてきて構わない」

「そんな状態だと、この辺りも危なくなりません?」

「なに、どのような状態になっても、ここだけは大丈夫だよ」

「はあ……」


 リチャードさんの自信満々な態度に、そのときの私は、それ以上の追求を断念せざるを得なかったのだった。



              ◇   ◇   ◇



「なるほど、状況は分かった。もう一度公安をつついてみるよ」


 私が渡した羊皮紙を懐にしまうと、アーサーさんは何か思い出したかのように口を開いた。


「そうだ、もう一つ。アニーくんのルートから、公安部に持ち込む事が可能かもしれない」

「私のルートですか? 公安部に知り合いなんか居ませんよ?」


 首をかしげる私に、アーサーさんは少し声を潜めた。


「余り(おおやけ)になってはいないんだが、実は、公安部はシャイロック氏の働きかけで設立されたんだ。確か、アニーくんは、シャイロック氏と縁があったように記憶しているが……」

「あ、はい。確かに、シャイロックさんのお宅にはお邪魔することはありますが……」

「彼の方から手を回すと、もしかしたらもう少しスムーズに事が運ぶかも知れない。情けない話ではあるが、そうも言っていられない状況だろう」


 二年くらい前に始まったシャイロックさんの娘、ジェシカさんに対する私の魔術指導は一応続いている。

 しかし残念な事に、最近著しくジェシカさんの病気が悪化している事と、私自身が魔族掃討に忙殺されていたため、ここしばらく伺う事はできていなかった。


「そうですね……今度、コンタクトを取ってみます」

「ああ、よろしく頼むよ」


 今は、少しの可能性も無駄にしたくない。私は次の非番の日にでも、シャイロックさんの所に伺う事を心に留めておいた。


 それにしても、シャイロックさんが、あの感じの悪い公安をわざわざ作ったと言う事には、少し引っかかりを感じるかな?

 確かに、高利貸しのシャイロックさんは守銭奴に見えるらしく、世間一般からの評判は決して良くはない。でもそれは、ジェシカさんの病気を治すためであって、私は彼自身を筋が通った人間のように感じている。その彼がわざわざ作ったというのは、何か理由があるんだろうか?

 後は……仮に働きかけというのが資金提供を含んでいたとして、ジェシカさんに関係無い事にお金を使った事に関しても、違和感がある気がする。


 まあ、逢ったときについでに聞ければいい、かな?


 私が考え込んでいる間に、アーサーさんは戸口まで移動していた。扉に手を掛けて廊下に出ようとしている。


「ともあれ、もう一度公安に当たってみる。早出してもらって申し訳ないが、引き続き警戒をよろしく頼むよ」

「はい、よろしくお願いします!」


 と、私は出て行くアーサーさんを見送った。



              ◇   ◇   ◇



 部屋から出て行ったアーサーさんではあるが、ほんの数十秒後に戻ってきてしまった。


「済まない、元々の用事を忘れていた」


 部屋に入ると、私の方に真っ直ぐ向かってくる。そして、凄く言いづらそうに口を開いた。


「凄く言いにくいんだが、先ほどの一件で公安から苦情が来ていて、ね。公安部の人間を恫喝するなど何事か、と」

「へ……?」

「なので、始末書の提出をお願いできるかな?」

「始末書……ですか」


 私の表情を見て、アーサーさんは手を合わせて頭を下げながら頼み込んできた。


「状況は聞いている。アニーくんが怒るのも無理はない。ただ、結界の件もあるから、申し訳ないが、頼むよ」


 私は怒りを通り越してあきれ果てた気分になっていた。いずれにせよ、アーサーさんに怒っても仕方が無い。彼らの望む物を与えるしか、私の執るべき手段は残されていなかった。


 ったく、不問に付すんじゃなかったのかな? あの(不適切発(ピー)言)公安め……


「――分かりました。やっておきます」

「一応、形式だけ整えてくれればいいから、今日中によろしく頼むよ。それじゃ!」


 と、口早に言い置いて、アーサーさんは素早く部屋の外に出て行ってしまった。

 アーサーさんを見送った私は、眉間にしわを寄せて唇を尖らせながら、自分のデスクに赴いて始末書の準備を始めたのだった。



              ◇   ◇   ◇



 ――なお、この日はこれ以上魔族が出没する事も無く、無事に退勤時間を迎える事ができた。夜一つ(午後6時)の鐘を聞いて退勤し、シャイラさんと二人で下宿に帰り、夕食を頂く。


 本来ならば、あとはもう休むだけ……なんだけど、私はそういうわけにはいかない。ここからは、魔法少女ハニーマスタードの時間だ。

 次回予告。


 私はハニーマスタードとして、盗賊ギルドでの作戦会議に参加していた。そこに、最終段階に入ってしまった知らせが舞い込んだのだけど……


 次回「作戦会議」お楽しみに!

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