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87.新しい日常

 いよいよ最終章の開始です。

 これまでは、基本週1回で掲載していました。この最終章では、常時週2回掲載で進めていきたいと考えています。

 ご意見ありましたら、お気軽にいただけると嬉しいです。


 次回は、8月29日掲載予定です。

 夕食の後、私とユーリは、領主館の中庭で間隔を取って対峙していた。


「それではアニー様、よろしくお願いします」

「本当に全力でかかっていって大丈夫?」


 武術の知識は持っていないと言うユーリに対して、全力で打ち込んで欲しいと言う願いは聞いたものの、いわば素人に対して全力を出すと言う事に、私はどうしても躊躇(ちゅうちょ)してしまっていた。


「はい、私は防御に徹しますから、遠慮無く打ってみていただけますか?」

「ユーリには常人を超える動体視力、敏捷性、腕力を持たせているから、気にしないでやってみてくれ」


 隅の方からそんな事を言ってくるリチャードさんに対して、私は一瞬ジト目を投げてから、改めてユーリの方に集中する。


「それじゃ、行くよ……はっ!」


 まずは小手調べに箭疾歩を繰り出してみた。

 少しの予備動作の後、マナのアシストをつけて、かなりの長距離を一瞬で跳躍していく。

 ひゅっと言う音と共に、拳がユーリの胴体に向かって突き進んでいくが……


(ぱしっ)


 あっさり、しかも柔らかくガードされた。寸前まで予備動作も見えなかったが、気がついた時には手の平があったという感じだ。


「それじゃ、これはどう!?」


 至近距離から、私は全力で猛攻を開始した。肘、拳、蹴り、両手両足も使って上下左右に散らした連続技を一気に繰り広げていく。


 しかしそれも、全てユーリの手の平によってガードされていった。


(どんどん)

(どんどんどんどん!)


 ガードの音が響き渡っているが……なんだか、違う音のようにも聞こえている、はて……?



              ◇   ◇   ◇



(……どんどんどんどん!)


「……さん!」

「――アニーさん!!」

「いないんですか、アニーさぁん!!!」


 外から激しく扉を叩く音と、私を呼ぶ声が聞こえていた。

 目を開くと、そこは冒険者学校に入学以来、変わらず住んでいる、下宿先の屋根裏部屋だった。


「んあ……」


 私はゆっくりとベッドの上で体を起こした。

 どうも、ユーリと初めて知り合った頃の夢を見ていたようだ。

 彼女が来た、と言うか、生まれたのが、冒険者学校一年が終わりかけの頃の夏だったから……もう一年半も前、と言う事になる。今は冒険者学校三年の冬で、新年から一ヶ月ほど経った頃、卒業まであと四ヶ月足らずと言った所だ。


「おーい、魔女さまぁ!?」

(どぅ)ぁれがぁ、魔女よおおおっ!?」


 禁句を耳にした私は、瞬時に駆けだして窓から顔を出した。

 眼下の街路に、冒険者ギルドで手伝いをしている同級生の姿が見える。


「あ、やっと出てきた」

「いったい何の用! 今日は遅番の筈でしょ!?」

「悪いんですけど、緊急の呼び出しなんです!」


 今日は昼頃に起きればいいはずなのに、少し早い頃合いのように感じる。どうやら、最近頻発している時間外の呼び出しのようだった。

 実はとある都合により、今は学校の授業は開店休業状態となっていて、私たち生徒は、警備部での手伝いを強いられている毎日を送っている。


「着替えるからちょっと待って!」


 私はそう言い残して鎧戸をぴしゃりと閉める。

 寝間着を脱いで、ハンガーにかかっているシャツやスカート、外套(クローク)に魔術師の帽子を身につけていく。

 本来ならば、冒険者ギルド警備部所属を示すために、浅葱色のベレー帽を被らなければならないのだけど、アイデンティティとして魔術師の帽子は外したくない。なので、冒険者ギルドのバッジを帽子につける事で勘弁して貰っている。


 そして階段を駆け下りて玄関から外に出て行った。晩冬の冷え冷えした空気が、頬をくすぐってわずかに残った眠気を遠慮無くぬぐい去っていく。

 呼び出しに来た彼は、そわそわしながら待っていたようだが、私の顔を見て顔を明るくしたようだ。


「おまたせ。また出たの?」

「はい、歩きながら説明します」


 と答えると、彼は早足で歩き始めた。私も横に並んで歩き始める。


「場所は、商業層の鷲獅子(グリフォン)通りです」

「なるほど……で、編成はなに?」

「レッサーデーモンが1体と、インプが2~3体のようです。シャイラさんは先に向かっています」


 そうなのだ。

 半年ほど前から、フライブルク内でデーモンを中心とした魔族が出没するようになってしまっていた。

 まあ、どう考えても、例の悪魔崇拝教団の仕業なんだろうけど、まだ、どうやってこの環境を作り出したのか分かっていないため、今のところは対症療法として、出てきた魔族を倒すしかない状態だった。


 で、この魔族達。アストラル体で構成されているため、何も魔力がかかっていない武器だと、非常にダメージが与えづらい。

 恒久的な魔法が付与されている武器があればいいんだろうけど、そんな貴重で高価なものを持っている人間は、警備隊なんかやってないわけで。

 なので、攻撃魔法を使うか、武器に一時的に魔力を付与する魔法を使うしかない。

 ただ、攻撃魔法は攻撃魔法で、抵抗力が高いから、生半可な魔法では効果がイマイチだったりする。

 そんなこんなで、治安を担う冒険者ギルドの警備部では、明らかに人手が足りていないため、こうして冒険者学校の生徒までかり出されていると言う次第だった。


 本来ならば、冒険者ギルドの傭兵部隊を動かすレベルなんだろうけど、外で出稼ぎする筈の部隊を中で動かすと、その費用は評議会予算からの持ち出しになってしまうため、なんとかなっている間は出動させる事はないようだ。

 そう、()()()()()()()しまっているのだ。


「それにしても……普通はレッサーデーモンって、中堅どころの1パーティが相手するレベルじゃない? 学生二人に任せるっておかしい気が……」

「そりゃまあ……あなたたちが普通にあっさり倒しちゃうからじゃないですか?」


 私のぼやきに、どストレートに返してくる彼。

 その通り。警備隊の一部の手練れや、私たちのように、魔族と戦う事ができる一部の人達がこき使われていて、なんとかなってしまっている状況なのだ。


「ところで、早番の人達は?」

「午前中に出たヤツとの戦いで弾切れでして。詰め所で休んで貰っています。幸いにも、負傷離脱者はいないので、回復すれば翌日には出られますね」

「ホント、ギリギリだなぁ……」


 とはいえ、時間外労働でなんとか保てている状況だから、魔族の出現がこれ以上増えるか、こちら側の人数が減ってしまうとあっさり崩壊してしまうような、危ういバランスの上に成り立っていたのだった。


 そんな事を考えているうちに、目的地に到着したようだ。建物の角を曲がった向こうで、なにやら暴れ回る音が聞こえていた。

 次回予告。


 レッサーデーモンとインプとの戦闘に入る私とシャイラさん。私たちはそれぞれ身につけた新しい技により、魔族達を蹴散らしていくのだった。


 次回「レッサーデーモンとの戦い」お楽しみに!

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