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9.ありがと。お母さんみたいだね。

※2018/9/13 今日の出来事を振り返りたい!から改題しました。

※2018/12/19 微調整しました。クリスの方言が南方→西方に変わっています。

※2018/12/28 次回予告を追加しました。微調整を加えました。

※2019/8/4 スマホフレンドリーに修正しました。

 フライブルク冒険者学校の入学試験も終わり、リチャードさんと私は、村への帰路についている。剣術試験の失敗で落ち込んだ気分も、その後のリー先生との練習ですっかり持ち直した。

 なので勢い、話題も入学試験の事となる。


「もー、魔術師の試験官ひどかったんですよー。田舎者は魔法使えないなんて、ひどい偏見ですよ」

「まあ、普通の村の子供は魔法を覚える機会は無いからね。使えないと思うのも仕方ないさ」


 私は帽子と外套に手で触れながら文句を言った。


「それにしても、この帽子と外套(クローク)を見て魔法が使えないと思うのは……ごっこ遊びの格好に見えてるって事ですか?」

「うーん……まあ、そう見えなくもないかも知れないが」

「そこははっきり否定して欲しいんですけど」


 口をとんがらせて抗議する。


「あー、ところで、他に女の子は受験していたかね?」


 あ、話題をそらされた。


「他に三人いましたよ。紅茶の国(バーラト)の剣士さんと、北方系ですっごい可愛いんだけど、口が悪い軽戦士の子、あとは、両刃斧使いの神官戦士さん」

「剣士と軽戦士と神官戦士、そしてアニーくんが魔術師、と。このままパーティが組めればいいバランスになりそうだね」

「ええ、軽戦士の子も言ってました。えーと、確か『こらまた計ったようにええバランスのパーティやな』だったかな?」


 私の口まねに、リチャードさんは少し考えてから口を開いた。


「そのアクセントは……西方系、かな。相当早口で口が悪かったんじゃないかな?その娘」

「ええ、かなり。自分でも、喋らなかったら美人、みたいな事言ってましたね」


 ほんと、外見は妖精さんのようだし、声も鈴を鳴らしたような可愛い声なんだけど……


「まあ、口は悪いが、西方系の人たちは裏表なくて付き合いやすい人が多い。気にせずに付き合っていけばいいんじゃ無いかな」

「はい、とてもいい人たちだと思います。まだ知り合ったばかりですが、剣術試験でわたしが倒れたときに助けてくれました。そして、各々の知り合いに、トラウマ対策を聞いてくれるそうです」

「それは、いい人たちと知り合えたね」


 リチャードさんの言葉に、私は大きく頷いて同意する。


「はい!それで、合格発表の時に落ち合って教えてもらえる事になっています」

「なるほど。それでは、アニーくんも自信をもって解決法を説明できるように、明日は少しでも箭疾歩(せんしっぽ)の習得を進めておいた方がいいね」

「はい、がんばります!」



              ◇   ◇   ◇



 しばらく無言でかっぽかっぽと移動する。私はふと思いついた事をリチャードさんに聞いてみた。


「そうそう、魔術試験ですが、私の他、神官さんと男の子が3人しか居ませんでした。人数的にはこんなものなんでしょうか?」

「50人中、であれば、5人というのは妥当な線かな。アニーくんの年代で、すでに魔術を修められる環境にある人間は、やはりかなり限られているからね」

「そう聞くと、やっぱり恵まれてるんだな、って思いますね」


 私の感想を聞いて、リチャードさんは小さく頷きながら返事する。


「環境があっても、素質と努力が無ければ大成できないからね。アニーくんに力がある事は間違いないし、今後も伸びて行くと思うが、私としてはそれが間違った方向に進まない事を願っているよ」

「はい、がんばります、というのは変ですが、道を間違えてるようでしたら、教えてもらえると嬉しいです」

「そうだね。アレックスくんも居るし、皆の言うことを真摯(しんし)に聞く事を怠らなければ、大丈夫だろうね」


 またしばらく無言で移動した後、今度はリチャードさんが口を開いた。


「ところで、剣術試験では、他の受験生はどんな感じだったのかな?」

「女の子三人しか見ていませんが、みんな前衛扱いだったので、試験官を攻撃する形でした。さすがに、試験官の方はかなり腕が立つようで、一太刀入れたのは見ていません」

「なるほど、魔術師の層は薄いようだが、戦士系はさすがにきちんとしているようだね」


 私は剣術試験の先生の言葉を思い出しながら、リチャードさんに質問した。


「結局、剣術試験の点数は貰えなかったようなのですが、合否はどうなるんでしょうね?」

「さっき言った通り、もともと魔法を使える人間は希少価値が高いから、魔法が使えるだけで合格する確率はかなり高いと思うよ。身もふたもない話ではあるけどね」


 魔法が使えるだけでフリーパスというのはありがたい話ではあるんだけど……


「明後日の合格発表まで、落ち着かないですよ……」

「まあ、それも明日一日だけの事だよ。明日は家で武術修行だね。そもそも合格すれば剣術実習もあるだろうし」

「はーい。わかりました」


 とかなんとか、色々話しているうちに、領主館が見えてきた。色々な事があった外出から帰り、やっと一日が終わる感じだ。



              ◇   ◇   ◇



 館について厩に馬を納めていると、アレックスが凄い形相で飛び出してきた。


「お帰りなさい、随分遅かったですが、何かありましたか!?」


 確かに、夕方には帰る予定だったけど、もう黄昏時と言ってもいい時間だ。


「あー、ごめん、試験でちょっとトラブって。でも、大丈夫、解決しそうだから」


 私たちの雰囲気に特段の変化が無い事と、私の返事を聞いて、アレックスはようやく表情を緩める。


「そうですか……姉様(ねえさま)がなにかやらかしていないか、心配しましたよ」


 しゃべり方もいつもの感じに戻ったようだ。

 もしかして、結構真剣に心配してくれていたのかも?


「アレックス、もしかして心配してくれてた?」

「いいえ、わたしが心配していたのは、姉様が勢い余ってフライブルクを吹き飛ばしていないかどうか、ですよ」

魔力吸収(マナドレイン)のバングルつけてたから大丈夫よ。――それが無かったら危なかったけど」


 アレックスの目つきが険しくなる。


「姉様……この館どころか、この国に居られなくなるような事をしでかしたりしないでくださいね?」

「大丈夫大丈夫、問題はいずれ解決できると思うよ。詳しくは晩ご飯の時にでも話しましょ」

「分かりました。今日の晩ご飯はミネストローネとライ麦パンですよ」

「はあい、ありがとう。もう、お腹ぺこぺこ!」


 リチャードさんと私は、自分の部屋に荷物を置いて食堂に集合する。

 その頃にはアレックスは配膳をおおむね終えていた。


「「いただきます」」


 早速晩ご飯を食べ始める。

 ミネストローネにパンを浸して、一口食べる。

 ――あれ?普段は使っていない、コショウが利いてるな。


「アレックス、今日の、コショウ使った?」


 アレックスは肩をすくめながら答える。


「ええ、今日の姉様は試験で疲れたと思いますから、姉様の好みに少し近づけていますよ」

「ありがと。お母さんみたいだね」


 私の感想を聞いて、アレックスが眉をひそめながら答えた。


「――二つ下の妹に使うには、不適切な呼び方だと思いませんか?しかもお互い、両親の顔を知らないのに」

「そう感じるのはホントだもん」

「まあ、いいですけど。ところで、今日の話を聞かせていただける事になっていたのでは?」

「そうそう、今日の試験なんだけど――」


 かいつまんで今日の試験と、トラウマの件と、リチャードさんとリー先生に教わった解決法について話した。


「なるほど、そういう事でしたか。確かに、うなされるくらいですから、そのような問題が発生しても不思議ではありませんね」

「でも、克服する道筋は見えてきた感じ。まず、リチャードさんのおすすめのイメージトレーニングを行って、抜き身の剣と相対した時の心の負荷を軽減する事」


 私は右拳を上げて、まず人差し指だけ立てた。


「そして、リー先生から教わった歩方、箭疾歩を磨いて、イメージだけではなくて、本当に剣を持った戦士に対抗できる力を身につける事。んで、最終的に、実際に戦士と戦って勝つことができれば、それが自信となってトラウマを克服できるはず」


 次に人差し指に加えて中指、薬指と立てて行く。


「――と、考えているんだけどね」


 と、話したところで、リチャードさんも頷いて同意する。


「アニーくんの考えで、手順としては間違いないと思う。ただ、その相手をする戦士をどう用意するか、という問題は残っているがね」

「姉様は冒険者学校に入るのですから、生徒なり先生なりに付き合って貰えばいいのではないでしょうか?」

「いやあ、入れるといいんだけどね、この有様ではどうなる事やら……」


 両手を頭の後ろにやって苦笑する。


「先ほど伺ったところによると、その戦士の試験官は、『また今度、套路を見せてくれ』と言ったのですよね?」

「まあ、そんな感じに言ったかな?」

「であれば、入学後に見せてくれ、という意味ではないでしょうか?」


 ふむ、アレックスの指摘はもっともだ。よく気がついたなぁ。


「もっとも、来年おいで、という意味かも知れませんけどね」

「また、そういう事を言う……」


 持ち上げて落とすのが、アレックス流、なのかも知れない。


「まあ、どのみち、準備ができなければ、実際に戦士と練習することはできません。今はまず、姉様自身でできる事を片付けるべきでしょうね」

「うー、頑張るよー……」


 口をとんがらして同意するしかない。


 夕食を終え、片付けを手伝った後、ベッドに寝転がりながら、今日のことを振り返る。


 トラウマの件で吹っ飛んではしまったけど、冒険者学校の入学試験、あれでうまく行ったのかな?リチャードさんもアレックスも大丈夫とは言ってくれてるけど、やっぱり心配なものは心配。受かってなかったら、ホントどうしよう?


 入学試験で出会った女の子たち、とても面白くて、強そうで、いい人たちだったな。うまく入学できれば、あの子たちとパーティを組んだりできるんだろうけど……


 剣に対するトラウマ、まさか、今ここにきて、こんなものが出てくるとは……イメージトレーニングと、箭疾歩、早速明日から練習を進めないといけないね。特に箭疾歩、明後日みんなに見せてびっくりさせよう!


 あとはマナ制御による強化、面白い事が聞けたな。腕力がさっぱりなので、もともと武術による攻撃力には問題があったけど、このアシストが有効ならば、結構、威力とかも上がるかもしれない。


 そんなこんなを考えながら、次第にまぶたが落ちていった……

 なにげーにシスコンな妹です。

 台詞過多ですね……馬で移動中では、地の文が入れられなくて。



 次回予告。


 私は終日、リー老師に教えて頂いた箭疾歩の練習を行っていた。そこにリチャードさんが現れ、練習相手になってくれると言う。私は初めて実戦に近い形で技を繰り出すことになった。


 次回「リチャードさんが練習相手になってくださるんですか?」お楽しみに!

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