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84.目覚め

 あと少しで連載開始一周年です。あっと言う間ですね。

 次回は通常通り、8月8日掲載予定です。


※2019/8/7 スマホフレンドリーに修正しました。

 私は夢を見ていた。懐かしい夢だ。


 子供の頃、私に姉もいて、日が暮れるまで姉や同じ村の子供達と遊んでいた。

 ちょっと遊びが過ぎると、私は家に帰る途中で眠くなり、よく我が儘を言っておんぶしてもらったものだった。


 ゆらゆら揺れる、姉の背中の上で眠るのは楽しかった。


「ねーたん、今日の晩ご飯、なんだっけ?」

「そうね、アニー。確か野菜シチューだったと思うけど」

「やったぁ、わたし、シチュー、だーいすき!」


 親戚?のおじさんの家でよくしてもらっていた記憶は残っているけど、少なくとも両親に関しては全く記憶が無い。

 妹のアレックス以外でかろうじて覚えているのは、この、行方不明の姉だけだ。


「さ、もう少し寝ていいわよ、私がちゃんと連れて帰ってあげる」

「はーい、おやすみなさい」

「おやすみ、アニー」


「…………」

「……」


 なぜそんな夢を見たのか分からないけれど……ともかく、私の意識はまた闇の底に消えていった。



              ◇   ◇   ◇



「――ッ!」


 目を覚ました瞬間、私はがばっと起き上がった。

 勢いよく上半身を起こしたのはいいものの……頭がくらっとして、また横にならざるを得なかった。


 ベッドに横になったまま、周囲の様子をうかがった。


 私はベッドの上に寝かされていたようだ。周りを見ると……仮眠室のような、見知らぬ部屋だった。はて、ここはどこだろう?

 窓の外を見ると、もう日が昇っているけど、午前中の早い時間のように見える。

 着ている物も変わっていた。ハニーマスタードの衣装どころか、その下に着ている普段着ですらなくなっていて、綺麗に洗濯された普通の服に替わっていた。

 ”変装(ディスガイス)”の魔法もとうの昔に切れているので、今の私はハニーマスタードではなくて、完全にアニー・フェイという事になる。


「ここは……」


 ぽつりと呟くと、どうも目が覚めた気配を感じたのか、ドアからノックの音が聞こえてきた。


「あ、はい、どうぞ」


 と応答すると、ドアが開いて知った顔が入ってきた。冒険者ギルドの警備部で、事件が起きるたびに顔を合わせている、アーサーさんだ。


「気がつきましたか」

「あれ、アーサーさん」


 寝ながら応答するのも失礼なので、よっこらしょと上半身を起こそうとするが、アーサーさんに手で制止された。


「ああ、寝たままで結構ですよ」

「それじゃ、このままで失礼しますね」


 再びベッドに横になる私。寝るとそうでもないけど、やっぱり体を起こすとちょっとつらい。


「えーと、アーサーさんが居ると言う事は、ここは……」

「ええ、冒険者ギルド本部です」


 その答えを聞いて私は怪訝な顔をした。昨晩暗殺者と戦った場所からは、まるで違う場所だ。


「わたし、なんでここに?」

「未明に、この建物のすぐそばで倒れていたんですよ。入り口をノックする音が聞こえたので係員が出たところ、あなたが倒れていたそうで」


 アーサーさんは軽く肩をすくめると、心配そうな口調で続けた。


「それよりも……体調はいかがですか?」

「え、体調ですか? 体を起こすとちょっとクラクラするけど、寝てたら大丈夫みたいです」

「発見時、あなたは血まみれだったんです。もっとも、見た限り、傷跡は見当たらなかったそうですが……服も血まみれだったので、勝手ながら着替えさせて頂きました」


 そう言うと、慌てて一言付け加えた。


「――あ、もちろん、女性職員が、ですよ? ですから、ご安心を!」

「あ、ありがとうございます……」


 私は斬られたのど元に手をやってみた。普通にすべすべしてる。確かに、手触りには全く不審な所はない。


 でも、私、なんで生きてるの?

 どう考えてもあれは致命傷だった。

 仮に、回復魔法が掛けられたとしても、”全快(リフレッシュ)”クラスの神聖魔法じゃないと追いつかないはず。そんなの使えるのは大司教以上だろうし、この街にそのレベルの神官は存在していない。少なくとも通りすがりの大司教が、たまたま掛けてくれましたー、なんてのはあり得ない。

 あの暗殺者が助けてくれたんだとしても……自分が()()()相手を、わざわざ回復させて、しかも冒険者ギルドに預ける理由がやっぱり思いつかない。

 盗賊ギルドの回収部隊だったら、冒険者ギルドじゃなくて盗賊ギルドの方に運び込むだろうし。


 実は特異体質で命が複数あるんですー、みたいなご都合主(チート)義だったら、アリかもしれないけど……


 もし、そうだったとしても、本当かどうかなんて試せないよ! 回数制限があって、これが最後の一回とかでしたー、とかになってしまったら目も当てられない。


 とはいえ実は、あり得なくはないんだけどね。村が襲撃された時、私はざっくり刺された記憶が残っている。夢だったのかもしれないけど。でも、ともあれ、こうやって生きているし、その怪我も残っていない。

 もしかしたら、今回と同じ現象が発動したのかもしれない。


 いずれにせよ、発動するのは命に関わる時だけなんだろうね。もっと小さい頃、遊んでてうっかり骨折れたりしたときは、普通に痛かったし。リチャードさんに回復薬貰ったけど。


 今度リチャードさんに相談……と言っても、ちょっと言いにくいな。なんで暗殺者と戦って、しかも致命傷受けてるのかって話になるし。



              ◇   ◇   ◇



「それで、アニーさん? ――大丈夫ですか?」


 おっといけない、考え込んでいる間、アーサーさんが話しかけていたようだ。


「あ、ごめんなさい。ちょっとぼーっとしてて」

「その、差し支えなければ、何があったか教えていただけませんか? 分かる範囲で結構ですから」

「あ、はい……」


 さて、言い訳を考えないといけない。

 戦っていた、と言うのも、普段の私の行動でもあり得なくはないんだけど、深夜に屋根の上で戦っている理由にはならない。

 それに、私が使えるとは言っていない”爆裂弾”(エクスプロージョン)”雷撃”(ライトニング)も見られている可能性があるし、これはハニーマスタードのせいにしてしまおう。


「その……なんとなく眠れなくて、夜中に下宿の付近を歩いていたら、いきなり現れた黒い服を着た人に、襲われちゃったみたいなんです」

「下宿の付近というと、冒険者学校のそばですね? 時間はいつくらいですか?」

「詳しい場所は、ごめんなさい、よく覚えていなくて……時間は、たぶん、夜五つ(午前二時)は過ぎていたと思います」


 ホントなら地面も血まみれになっているはずだろうけど、下宿の近所にはそんなのないからね。自分でも苦しいと思うけど、なんとか誤魔化し通すしかない。


「ふむ……実はその時間、何者かが派手に戦闘を行った記録が残っていまして。もしかすると、彼らのどちらかに偶然遭遇したのかも知れません。目撃者を消したりするのは、よくある事です」

「そうかも、知れませんね。なにしろいきなりでしたから」

「とばっちりと言えばとばっちりですが……城壁の中と言えども、こう言う事がありますから、深夜の外出はお勧めできませんよ」


 アーサーさんは、腕を組んで厳しい顔をしている。治安を担う人間としては、安心して出歩ける環境を整備できていない腹立たしさもあるのかな。

 ともあれ、言っていることは至極当然なので、私はおとなしく謝っておいた。


「そうですね、気をつけます」

「ま、済んだことはこれでいいとして……そうだ、お荷物をお返しいたしますよ」


 と、アーサーさんは軽い口調で言い残すと、離席していった。



              ◇   ◇   ◇



 数分後、小さな布袋と、ハンガーにかかった私の普段着を持って帰ってきた。


「服は……まあ、ご覧の通りですが、どうします? 希望されるなら、こちらで処分しますから」

「うわぁ……よく、生きてましたね、私」


 私の普段着が戻ってきたのはいいけど、脇腹の部分が破れているのはともかく、首回りから背中に掛けての布地が真っ黒に血で染まっていた。


「これがあなたの血なら、常識的には死んでると思いますけどね。傷も無いようですから、他の血がつけられたのかも知れません」

「どっちにしろ、これはもう洗ってもシミは取れないと思うので、処分をお願いします」


 私の返答を聞いたアーサーさんは、「分かりました」と言いながら、服をハンガーから外して別の麻袋に移していった。

 それを横目に、私は渡された小さな布袋を開けてみる。


「この袋は……あ、回復薬と毒消しだ」

「ええ、ポケットに入っていました。高級品じゃないですか。奪われなくて良かったですね」


 私は回収された回復薬と毒消しをベッドに並べて置いて、少し考え込んだ。

 考えがまとまった後、私はアーサーさんに向けて笑顔を浮かべ、口を開いた。


「この回復薬をここで飲んで、これでお(いとま)したいと思います。病院じゃないですから、長期間お世話になるわけにも行きませんし」



              ◇   ◇   ◇



 冒険者ギルドをお暇してからの下宿に帰る道中、私は色々考えにふけっていた。


 そういえば、ハニーマスタードの衣装に関しては何も言われなかったな。

 着たままだと確実に正体がばれてたから、不幸中の幸いかもしれない。


 と言う事は……暗殺者が脱がせて持っていったって事なのかな?

 そうする理由がよく分からないけど。私の正体がバレないように気を遣ってくれた、と言うのも考えづらい。


 まあ、もし残っていたとしても、血でどろどろなのは一緒だから、どのみち使えなくなっていると思うけど。

 またアレックスに作って貰うしかないか……でも、理由を聞かれたら説明しづらいなあ。うーん、返り血で汚してしまった、とか? それはそれで物騒すぎる説明だよね。


 そういえば、盗賊ギルドに顛末を聞きに行きたいけど、ハニーマスタードの衣装じゃないとマズイかな? あの衣装なしで、顔と髪型を変えるだけで、正体に気付かれずに済むかどうか……?


「うーん……面倒だ、面倒過ぎるぅ……はあぁぁぁ」


 色々厄介な事になってしまい、私はため息を連発しながら帰って行ったのだった。

 次回予告。


 翌日、なぜか綺麗に洗濯されて戻ってきた、ハニーマスタードの衣装。ともあれ私は、それをまとって再び盗賊ギルドの門を叩くのだった。


 次回「一体全体どうなってたの?」お楽しみに!

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