81.依頼・要請・リクエスト!
よそ様のサイトで恐縮ですが、エブリスタで「書き出しレビュー全員プレゼント」企画というのをやっていたので、この小説のスピンオフのスピンオフを2話ほど投稿してみました。
世界は一緒ですが、時も場所も登場人物も異なります。続きの予定は今すぐにはありませんが、よろしければご覧下さいませ:https://estar.jp/novels/25507112/
こちらの次回は短めにつき、7月22日の月曜日に掲載予定です。
※2019/8/7 スマホフレンドリーに修正しました。
盗賊ギルドのアジトでの、リングマスターとの話は続いている。
彼が言うには、デーモンコアというデーモンの核になりうるアイテムが、フライブルクに持ち込まれようとしているらしい。
「つまり近い将来、この辺りに魔神級がいきなり現れる可能性もある、と?」
「ご名答! そゆことやね」
私の返答に軽く手を叩くリングマスター。そしてその手を頭の後ろにやりながら、彼は話を続けた。
「ただ、今の時点じゃ、デーモンコアが疑われる、に過ぎんのだわ。なので今回の依頼は、持ち込まれたデーモンコアを押収し、それが本物かどうかを鑑定する事」
「そんなレアアイテムを鑑定できる人が、王都ならともかく、この街に?」
「ああ、この街……やなくて近郊やけどね。魔術に関連した事なら随一のお人がおってな」
なんだか、凄ぉくイヤな予感がしてきたぞ。
リチャードさんの名前を持ち出されると反応に困るし、その前に止めておいた方が良さそうだ。
「だ、誰が鑑定するなんてのはどうでもいいわ。それで、それがデーモンコアだったらどうなるの?」
慌てて制止した私を、リングマスターはなにか物言いたげに見詰めたあと、気を取り直して再び口を開いた。
「もしそれがデーモンコアであれば、そのまま没収やね。破壊か封印か……とにかく、こんなおっかない代物は早々になんとかせんといかん。そうでなければ、それとなく持ち主に返される事になるかね。ただ――」
そう言うとリングマスターは、椅子に座り直して肘をつき、両手を顔の前で組み直した。
「ただ、これだけの話やったら、わざわざお嬢ちゃんに話を持ち込む事はせえへんのよ」
「というと?」
「フライブルク近郊のいずこかに、悪魔崇拝の教団があるらしいんだわ。今回の一件、どうもこの教団が絡んでいる節があるねん」
そう言うと、右手の人差し指を空中で軽く二三回回した。
「ほれ、いつぞやお嬢ちゃんが張り倒したクスリの密売組織も、その関係でな。前々から色々この街にちょっかい掛けてきとるんだわ」
「あー、あいつらね」
私もそれを思い出して軽く頷く。
「まあ、単純に悪魔を拝んでいるだけなら大した事ぁないんだが……奴さん達、暗殺者を大量に飼っててな。そいつら、腕が立つ上に、ご丁寧に強烈な毒を使う事が多いんだわ」
頭をがしがし掻きながら言葉を続けた。
「うちらもそれなりに腕が立つ人間はいるものの、こう言う輩が相手だと、数が居ても死人が増えるだけなんよね。なので、エース級しか投入できんのよ」
リングマスターは後ろのスラッシュの方を振り向いて頷いた。
それを受けてスラッシュは無言で軽く肩をすくめる。彼もエース級の一人、と言う事なのかな?
「で、都合良くこの街にいた、うちのエース級以上の力の持ち主に助けて貰おうって算段なんだわ」
「なるほど……って、ちょっと待って。わたしを当てにしてるの!?」
何気なく返事してから、その意味を理解した私は眉をひそめて口を荒げる。
「無理筋ってどころの騒ぎじゃないんじゃない? そもそも、買いかぶりすぎよ」
「そらまあ、ね。お嬢さんみたいな子を暗殺者と戦わせるなんてぇのは、罰当たりにもほどがあるとは思っとるよ」
ただ、と口にしてリングマスターは言葉を続けた。
「その魔法攻撃力でお嬢さんの右に出る人間は、オレの知る限り他に存在しない、と言うのもまた事実なわけでね」
と、リングマスターは何か思い出したような表情を浮かべた。
「そういえばもう一人……娘の友達の魔術師にも、いい線行ってるのがいるんだが、さすがに巻き込むわけにもいかんわな」
「へー、娘さん、いるの」
娘の友達の魔術師……まあ、どう考えても私の事だよね?
だったら、巻き込んでるよ! これ以上も無く、巻き込んでるよ!
と、心の中でツッコみまくりながら、一応、話を合わせておく。
「ああ、お嬢さんと年の頃も一緒だし、少し雰囲気似てるかな。最近反抗期でなぁ。家族のために仕事を頑張っとるのに、なかなか理解してくれへんのよね」
「リングマスター、話がずれて来ているわよ?」
シリアスな話から、違う方向に行きかけていた話題を、スラッシュが修正してくれた。
「せやな、すまん。――ともかく、頼みたい事は、うちらが暗殺者と交戦しているときに、後方から魔法で支援してもらいたい、と言う事やね」
「後方支援?」
「ああ、流石に前に出て戦って欲しいなんて事は言わへん。それに、これなら悪の暗殺者に襲われている、善良な市民を護ると言う形式にできるやろ?」
「どの口から善良な市民が出てくるんだか」
勝手な言い分に、私は口を尖らせる。
「まあ、そないいけず言わんでくれ。今回ばかりは流石にヤバそうでな。失敗して魔神でも降臨してきたら、この街は間違いなく壊滅する……というか、この街だけじゃ済まんわな。報酬が必要なら用意する。なんとか護ってやってくれないか」
リングマスターはそう言うと、深々と頭を下げた。
◇ ◇ ◇
私は眉をひそめたまま、手を口に当てて考え込む。
純粋に戦力的な話で言えば、この盗賊ギルドには魔術師系はそれほど居ないようだし、私が後方支援すれば全体の戦力が上がる事は間違いないだろう。
道義的に言えば、こんな話に乗る義理は無いし、そもそもなんだかんだ言ってやっぱり、泥棒の片棒を担いでいる事に変わりは無い。
でも……まあ、悩んでも無駄なのかも知れない。もしデーモンコアが本物だったら、確かにこの街どころか、近辺の全ての人達が被害を受ける可能性があるのは間違いない。
それを防ぐチャンスがあるとすれば、正義の味方としては、見逃す訳にはいかないだろう。
私は大きく息をついた。
「正義の味方としては、デーモンコアを見逃す訳にはいかない、か」
「やって……くれるか?」
リングマスターは私の心の動きを見逃さないかのように、じっと私の表情を見詰めている。
それに対して、私は口元を緩めて軽い口調で答えた。
「見逃したらこの街が壊滅するかもしれないような事を言われたら、ね。仕方ないでしょ」
「すまん。恩に着る」
改めて頭を下げるリングマスターに、私は苦笑しながら言葉を続けた。
「あなたに恩に着られてもね? わたしが自主的に勝手にやる事だから。だから報酬も要らない。とにかく、私は襲われていたら護るだけよ。それでいい?」
「ああ、それで充分や」
リングマスターはそう言うと、ふと思いついたように言葉を続けた。
「欲を言えば、お嬢さんは飛べるらしいから、目的地まで運んで貰えると助かるんやけど……」
それに対して、私はぴしゃりと拒絶する。
「それは欲をかき過ぎね。そりゃ空なら、比較的安全に輸送できるかもしれない。でも、盗みだか強盗だかの片棒を担ぐのは勘弁よ。あくまで善意の第三者って事を忘れないで」
「そらそやな。すまん。しょうもないお願いやったわ」
私は腕を組み直して、言葉を続けた。
「だから、基本的に別行動を取るからね。わたしはあなた達が何人で進めるのかも聞かないから。ただ、時間と場所だけを教えて」
私の質問にリングマスターは大きく頷いた。
「分かった。ほな、明日の晩、夜五つに。商業層、骨董通りの古物商、デミトリー商会がターゲットや」
「わかったわ。もちろん、直前まで近づかないからね」
「ああ、それで頼む。うっかり事前に見つかって警戒されんように、な」
と、リングマスターは机の上にガラスの小瓶を幾つか置いた。中に黄色やらオレンジやらの液体が入っている。
「あと、これを持って行ってくれ。――毒消し薬と回復薬や。あの錬金術師リチャード製の特上品やで。毒消しの方は暗殺者どもからかすり傷でも受けたら、すぐに飲みなはれ。かなり即効性の毒らしいから、十数秒が勝負らしい。使わんかったら、そのまま持って行ってくれて構わんから」
「ありがとう。遠慮無く頂いていくわね」
流石に今までの人生で、毒を受けるなんて経験はした事ない。
どんな気分になるのか分からないけど、そんな強烈な毒って事だったら、すぐに飲まないとマズいんだろう。
今度はリングマスター、人差し指を一本立てて口を開いた。
「あと、もう一つ。もし倒れるなら、なるべく地上で倒れてくれるか」
「――どういう事?」
意図が分からないお願いに、私は首を捻る。
「別途、回収部隊を伏せておく予定や。なので、万一攻撃を受けて行動不能になっても、トドメを刺されん限りは、なんとか助けられると思う」
「なるほど、至れり尽くせりね」
「お嬢さんがよく居る屋上で倒れられると、上がるのに間に合わんかも知れんし、そもそも、そのまま下に落っこちる危険があるからな」
確かに、三階建ての屋根の上から意識不明で転落したら、間違いなく、そのまま即死してしまうだろう。
「そうね、なるべく気をつけるわ」
「なんで、もし我々の誰かが倒れとっても、お嬢さんは気にせんで構わへん。健在なメンバーの支援を優先して欲しい」
「ええ」
私は小さく頷いた。
回復魔法を持っているわけじゃないから、倒れている人間をどうこうする事はできないけど、放置していても大丈夫というお墨付きがあるのは気が楽かな。
あとで死んだなんて聞かされるのは目覚めが悪いし。
◇ ◇ ◇
さて、頼まれごとは理解したし、背景も知る事ができた。
そろそろお暇の時間、かな?
「――さて、用事はこれで終わり?」
「ああ、明晩はよろしく頼むで」
「ええ、それじゃ、ね」
その後私は、スラッシュに再び大噴水まで送られていき、隠れて変装を解いたあと、下宿に帰って行った。
――そして、当日の夜を迎える事になる。
次回予告。
ついにデーモンコア押収作戦が始まった。私は屋上に潜み、彼らが襲われた時に支援する役割を担っていたが……
次回「眼下の敵!」お楽しみに!