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79.大噴水での密会

 ログイン状態だと自分の小説のアクセス数には計上されなくなるらしいですね。

 今まで、数が汚染されるのがイヤで自分の小説を小説情報などから確認できなかったので、非常に助かります。


※2019/8/7 スマホフレンドリーに修正しました。

 クリスの家でのお食事会から、しばらく経ったある日。


 放課後に街中を散歩、じゃなくて、巡回していると、道の真ん中で言い争いをしている声が聞こえてきた。


「今頃やってきて金を返したいったあ、どういう了見だぁ? もうその金はお前にやったもンだ。今更その金貨は受け取れねぇな!」

「今のオレは、あの時のオレとは違うんだ! 借金を踏み倒すわけには行かねぇ。借りた金貨3枚、きっちり返させて貰うぜ!」


 あー、なんか昔の話で、こんなの聞いた事あったなぁ。

 どこかの領主様の名裁きで、三方金貨1枚損みたいな感じで収めたんだっけ。


 私は早速変装して屋上に駆け上がり、男達からは見えない位置からリュートをかき鳴らした。


「ん、なンだぁ? この曲は?」

「こりゃおい、あれじゃないか? 最近よく聞く正義の味方とやら」


 そこで姿を現し、男達に向かって静かに語りかける。


「この美しい街の治安を乱す……までは行っていないわね。ともあれ、このトラブル、わたしが預かりましょう!」


 そして、屋根の上からジャンプして膝を抱えてくるくる回転、両足を揃えて綺麗に着地。人差し指で男達を指さしながら決め台詞を一発。


「魔法少女ハニーマスタード、ここに参上! 今日のわたしはぴりりと(から)いわよ!」


 騒ぎを聞きつけた野次馬達から、ピューピュー指笛やら声援やらがわき起こる。



              ◇   ◇   ◇



「で、お金の貸し借りの問題なのね?」


 改めて男達を見ると、二人とも一般庶民のようだった。一人は中年の職人っぽい風体で、もう一人はもう少し若い、チンピラとまでは行かないけど、まあ、ギリギリ踏みとどまっている感じに見える。

 私の登場で、すっかり毒気を抜かれてしまっていたが、中年の方の男が先に立ち直って口を開いた。


「あ、ああ。随分前にこいつに金を貸していたンだが、こいつ、すぐに消えちまったんだ。まあ、オレとしては他人を見誤った自分の勉強代だって考えてたンだが……今更戻ってきて金を返したいなンて言いやがってな」


 それに対して、もう一人の若い男が反論する。


「確かにオレは寸借詐欺まがいな事をやってた時期もあった。でも、色々あって心から反省したんだ。だから、金を借りた相手に返して回っているんだが、こいつと来たら、利息どころか元本すら受け取ってくれなくて……」

「なるほど、それが金貨3枚、と」


 金貨1枚あれば、庶民の一家族が一ヶ月丸々暮らせるから、結構馬鹿にならない金額だ。

 ちなみに、領主様の名裁きの場合は、領主様が手持ちから金貨1枚を加えて、言い争っている二人にそれぞれ2枚ずつ渡し、「どちらも3枚貰えるはずが2枚になって1枚の損。私も1枚出したから1枚の損。三方1枚の損という事で丸く収めるべし」と、なったそうな。


 でも、私は領主じゃない。

 少し考えた後、私は男が持っている金貨を指さした。


「この金貨3枚を1枚ずつに分けて、あなたとあなた、そしてわたしが1枚ずつ貰います」


 そして、二人と私を順番に指差す。


「あなたとあなたは、本来権利を放棄したのに1枚貰えて金貨1枚の得。で、わたしは、特に何も意味が無く1枚貰えて、金貨1枚の得。――これぞ、三方金貨1枚の得! ってところで、どう?」


 かわいらしく小首を傾げて提案する私に対して、猛抗議する二人。


「まてまてまてまて、そこはあンたが金貨1枚を出して、三方金貨1枚損とかじゃないのか!?」

「なんで見ず知らずのあんたに金貨を渡さなければならんのだぁ!?」


 私は軽く肩をすくめる。


「領主様だったら裁く権利と義務があるけど、なーんでわたしが見ず知らずのあなたたちに金貨1枚出さなきゃならないのよ? お互いが納得できる仲裁料として徴収します!」


 と、宣言した後、軽く微笑んで言葉を続けた。


「ま、それがイヤなら、おとなしく貸した金を返されなさい? 結局、トータルとしては、それが一番自然でしょ? 金貨3枚貸したのが、そのまま金貨3枚戻ってくる。利息はまあ、知らないけどさ」


 中年の男は少しの間逡巡した末、結論を出したようだ。


「ちっ……わかったよ。今回はあンたの顔を立てて、金を受け取ることにしよう。だが! 利息は取らねぇからな!」

「ああ、本当にすまなかった。利息分の借りは、誓って、別の形ででも返させて貰う事にするよ」


 私は二人を並んで立たせて、それぞれの手を持って握手させる。


「――これにて、一件落着!」


 大きく見得を切りながら宣言すると、再び野次馬の声援やら指笛やらをいただいたのだった。



              ◇   ◇   ◇



 あっちこっちの野次馬の方を向いて頭を下げつつ、そろそろ引き揚げようとした私は……


「ん?」


 野次馬をかき分けつつ、こちらに走り寄ってくる男の子の姿に気がついた。

 すり切れた服を着て、路上生活とまでは行かないのだろうけど、苦労してそうな感じの子だ。私より二つ三つ幼い感じなのに。


「ねえ、あんた、ハニーマスタードだろ?」

「あら、坊や、どうしたの?」

「スラッシュって人から、あんたに伝言があってさ。明日の昼六つ(午後4時)の鐘の頃に、中央広場の大噴水に来て欲しいんだって」


 スラッシュ……? と言う事は、盗賊ギルドの呼び出しって事?

 私は怪訝な顔をしながら男の子に返事をする。


「え、ええ、分かったけど。でも、よくわたしの居場所がわかったわね?」

「オレみたいな街の子供達に依頼が回っててさ。見つけて伝えたヤツはお駄賃貰える事になってるんだよ」


 なるほど、どこに出るか分からないから、広めに網を張っておくって事か。

 こういう子供達を情報収集に使うのは盗賊ギルドの十八番(オハコ)ってね?


「なるほど。それじゃ、その時間に行く事を伝えておいて」

「うん、分かったよ! それじゃね!」


 私が了解したことを伝えると、男の子は上機嫌にどこかに走り去って行った。早速情報を伝えてお駄賃を貰うんだろうね。

 軽く肩をすくめた後、私もその場を引き揚げていった。



              ◇   ◇   ◇



 翌日、指定の時間に私は大広場を訪れた。

 まずは遠くから様子見してみると……確かに、大噴水を背にスラッシュが手持ち無沙汰な感じに座っている。彼以外には盗賊ギルドの関係者っぽい人影は見えていない。


 路地裏に入って変装を施し……このまま出て行くと、目立ってしまうから、更にその上にフード付きの外套を羽織る。派手なピンクのスカートだから、まあ、それでも目立つと言えば目立つけど、無いよりはマシだろう。

 スラッシュからは大噴水を挟んだ反対側から近づき、噴水をぐるっと回り込む。そして、彼の隣に静かに座った。


 スラッシュは私をちらりと見たけれども、すぐに視線を別の方向に向け、静かに口を開いた。


「わざわざ呼び出して悪かったわね? でも、来てくれてありがと。礼を言うわ」

「一体全体どういう了見なわけ? こないだは協力して貰ったけど、一応、敵対してなかったかな」


 小声での私の抗議に、スラッシュはやっぱりそっぽを向きながら説明する。


「ごめんなさいね。ちょっとそうも言っていられない事情があって。詳しい話はギルドマスターからさせて貰うから、まずはついて来てくれない?」


 ギルドマスター……つまり、クリスのお父さ(ビルさん)んからって事?

 そりゃまあ、アニー・フェイとしては、彼に逢ったことがあるし、別について行って問題ないであろう事は分かっているんだけど……ハニーマスタードとしては、予備情報なしにいきなりついて行くのは、あり得ない話だろう。

 なので当然、渋い返事にならざるを得ない。二つ返事で受け入れたら、逆に怪しまれそうだし。


「うかうかとついて行けって事? 普通、ナイんじゃない?」

「無茶な事を言っているのは分かるわ。アジトに案内する事にはなるけど、誓ってあなたに危害を加えたりしないし、危害が及ぶような話じゃないわよ」


 どうしても、ハニーマスタードに用事があるようだ。私は仕方なく、大きくため息をついた。


「――いいわ。ここで押し問答していても仕方ないし。こないだ手伝って貰った借りもあるからね。でも、話を聞くだけで借りは終わりよ? なんだか知らないけど、受けるかどうかは別の話だからね」

「それで結構よ? ありがとう。それじゃ着いてきてね。そんなに遠くじゃないわ」


 スラッシュは礼を言うと立ち上がり、静かに歩き始めた。私も立ち上がり、彼の後ろを追いかけて歩いて行ったのだった。

 次回予告。


 盗賊ギルドのアジトに案内された私。当然、ギルドマスターであるクリスのお父さんと対面するわけなんだけど、その口から出たのは意外な名前だった。


 次回「デーモンコアの脅威」お楽しみに!

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