78.新たな知り合いができました(新しくない)
この章はこの話で完結です。
のんびりしてたらストックが……ともあれ次回は7月4日掲載です。
※2019/8/7 スマホフレンドリーに修正しました。
「うちな、結構近所から食べに来るねん。両親が共働きでロクなもん食えてない子とか……もう充分ええ歳やのに来てるのもおるけどな」
クリスの家での食事会の途中、人数に対する料理が多い事に対して、クリスがその理由を説明していた。
そしてその言葉の通り、玄関から人が入ってくる物音が聞こえてきたのだった。
「こんばんは。今日もいただきに参りましたわ」
「こんばんは! 勝手ながらお邪魔させていただきましたぞ!」
「「こんばんはーっ!」」
と、どこかで聞いたような声がしたから振り向くと、私は思わず大きな声を上げてしまった。
「あーっ!!! スレイにフランシス!!……だっけ?」
盗賊ギルドの二人組と、私たちより少し小さいくらいの男の子と女の子が二人ずつ、食堂の入り口に立っていた。
「おお、魔女様ではないか!」
「あらあら、チャリティショウ以来ね? お久しぶり」
「「はじめまして、お姉さんたち!」」
それを見たエレオノーラさんは、「はい、いらっしゃい。適当に席についておいてね」とか言いながら、後から来た人達のために、取り皿やら飲み物の準備を始めた。
◇ ◇ ◇
「クリスって、やっぱりスレイとフランシスと知り合いだったんだ」
「やっぱりって?」
「いや、チャリティショウの殺陣の時。クリスとスレイ達ともかなり息が合った感じでやってたから」
私がクリスの質問に答えると、クリスは苦笑しながら頭を掻いた。
「あー……まあ、普段のじゃれ合いとかで結構やりあってたからなぁ。兄ちゃんら、うちが物心ついた頃には、もう出入りしててな。歳はちっと離れてるけど、兄貴分みたいなもんやわ」
クリスの話を聞いた私が、スレイに視線をやると、彼は軽く肩をすくめた。
「あたしたちはまあ、孤児でね。親に捨てられて路上生活してたんだけど、おかみさんに食べにおいでって誘われたのよ。お嬢が生まれるだいぶ前の事ね」
「最初は信用してなかったが、まあ、おかみさんが強引でな。無理矢理引きずり込まれたのさ」
と、スレイとフランシスが話している所に、ワインのゴブレットと取り皿を持って、エレオノーラさんが戻ってくる。
「そりゃ、あんたたちの寂しそうな目を見たら、放っとけないさ」
「でも、少々強引じゃ無かったかしら? 無理矢理引きずり込まれて、服脱がされて」
「ああ、そうだったそうだった。それで体を洗われて、着替えさせられて、ご飯を食べさせられて……ベッドが待っていたんだったな」
スレイとフランシスで、されたことを指折り数える。
「だってあんたたち、そうでもしないと逃げちゃうじゃない。野良猫と一緒よ? 最初は少々強引にでもしないと、ね」
「まあ、そんなこんなで、なんとなく居着いちゃったってわけ」
「そうだな。――で、大きくなって、おやじさんの仕事を手伝うようになったわけだ」
「へー、なるほど、そうだったんだ。それで盗賊ギルドにねぇ……」
何気なく呟いた私の言葉尻を捉えて、スレイの目が鋭く光った。
「ちょっと待って? あなた、あたしたちの仕事のこと、知ってるの?」
ま、まずい! ハニーマスタードでは彼らが盗賊ギルドメンバーとして何回もつきあっていたけど、アニー・フェイではまだそこまで話してなかったっけ?
「え、えーと、ビルさんがギルドマスターだっていうのは、こないだ知っちゃったから。それで、仕事を一緒にしてるって言うし、そもそも、警備隊やら正義の味方やらが苦手だって言ってたし……」
しどろもどろで誤魔化す私。
「スーちゃん、そんなに詮索しない! あんただって、そんなに隠してなかったでしょ?」
エレオノーラさんの取りなしで、矛を収めるスレイさん。
「まあ、確かに、その通りね。あ、でも、あなた、”ここ”は、ギルドとは関係無い場所だって事は分かってよね?」
「うん、そりゃそうだよ、友達の家だもん」
「あとは……私たちがギルドメンバーだって事はまあ、おかみさんが言った通り、周知の事なんだけど、ここが縁のある場所だって事は知られてないの」
「それが広まると、いろいろな所に狙われる可能性がある、と?」
私の指摘に、スレイはわずかに微笑んで頷いた。
「その通り。分かってるじゃないの。あたしやフランシス、親父さんが狙われるのはまあ、いつもの事だし、覚悟している事よ。でも、おかみさんやお嬢、坊ちゃんらが狙われたら、ね?」
「確かに、そうだね」
「あとは、あなた自身もよ? 変に話すと”知っている人”として、他の組織に目をつけられる可能性もあるから、ね?」
「大丈夫ですよ、そのあたりは弁えてますから」
私はそう言って、肩をすくめてから、更に言葉を続けた。
「ま、そんなつまんない話は、ここじゃナシにしません?」
「そうね。まったく誰がこんな話を持ち出したのか……って、あたしか」
「わはははは、魔女様に一本取られたな、スレイ!」
渋い顔をして天井を見上げるスレイに、フランシスが笑いながら背中をバシバシ叩いてる。
「フランシスさんはフランシスさんで、いつまでわたしを魔女って呼ぶんです? あれは役柄の話でしたよね」
「ああ、チャリティショウの時のあんたの魔法の力に感服してな。 俺の中ではずっとあんたは魔女様さ」
「そんなに大した事はしてなかったと思うけど……と言うか、魔女って褒め言葉かな?」
口を尖らせて言う私に、フランシスは腕を組んで笑いながら説明してくれた。
「あの、魔法を使った演出を思いつく創造力と、それがきちんと実現できる魔法の技術、大したモンだと思うぞ」
「うーん、まあ、他の人と比べた事はないから、よく分からないけど……」
「で、オレに取っては、魔女様というのはスゴい人に対する褒め言葉みたいなものだから、まあ、気にせず、遠慮無く受け取ってくれて構わないぞ!」
フランシスのスゴい人理屈に、私は半分諦めてそれを許容せざるを得なかった。
「まあ、あなた一人が呼ぶ分くらいなら、いいですけどね? これ以上広まらなかったら」
◇ ◇ ◇
その後も夕食は楽しく続き、うっかりお暇するのが遅れてしまい、クリスの家を出た頃には、すっかり日が暮れてしまっていた。
帰路には治安に若干の不安もある界隈ではあったけど、私とシャイラさんはフランシスが、マリアはスレイが送ってくれて、もちろん全員何事も無く帰宅する事ができたのだった。
――ホント、気のいい人達ではあるんだよね。盗賊ギルドだけど。
ともあれ今回のお食事会、クリスの家族について知る事ができたのは良かったかなぁ。
盗賊ギルドの面々とは、いずれ敵対する可能性が高いから、正直これ以上付き合いは深めたくは無いとは思っているけど、さ。
次回予告。
街中で割と強引にトラブルを解決していると、意外な人物が私を探していると言う話を耳にする。うーん、かなり無理筋な気もするけど、一応顔を出しておいた方がいいのかなあ?
次回「大噴水での密会」お楽しみに!