77.ヤツはとんでもない物を盗んでいった、というお話
最近、Twitterでイラスト依頼の相場案というのを目にしましたが、まあ、妥当な数字かな、と言う気がしています。
予算取って、がっつりイラストとか入れられたらいいですよね。
次回は通常通り6月27日の木曜日に掲載予定です。
クリスの家に招かれての夕食が、いよいよ始まろうとしていた。
「料理は大皿に盛ってますから、自分で好きなものを、好きなだけよそってくださいね」
「「いだたきます!!」」
私は料理達を前に取り皿を手にして、どれから手を着けようか思案していた。
えーと、ミートボールのポテト添えに、魚介類のサフランスープ、ブラッドソーセージにニシンの酢漬け……この辺りの料理じゃない気がするなぁ。
「よし、これから行こうかな」
まずはニシンの酢漬けと、ジャム?が掛けられたミートボールを載せて自分の席に戻ってきた。
そして、ミートボールをぱくり。
――次の瞬間、私は思わず驚きの声を漏らしてしまっていた。
「ふわぁあああああ。なにこれぇ?」
「あら、お気に召しませんでした?」
私の余りの反応に、首を傾げるエレオノーラさん。
「ものすっごく美味しいです! ジャムがミートボールにこんなに合うとは思いませんでした!」
勢い込む私の返事を聞いて、エレオノーラさんは安心したような顔になった。
「本当はコケモモから作るリンゴンベリージャムなんですけど、この辺じゃ手に入らないんですよね。なので、ラズベリーで代用しているんです」
確かに、コケモモはこの辺じゃ手に入らない。北の方で育ってる野生の果物だったかな?
「この料理はすべてエレオノールさんが?」
「ええ、私の地元の料理なんです。スヴェリエっていう北の方の王国でね。こうやって並べるのも、スモーガスボードって言う風習なんですよ」
スヴェリエっていうと、この国の北にある帝国の、更に海を挟んだ北、無茶苦茶遠い雪国だ。
そう言われてみると、このラインナップも納得できる気がする。北国料理は余り詳しくないけど……
「へえ、それはまた、えらく遠くの国から」
「ええ、お姫様やってたんですけど、この人と駆け落ちしちゃったんですよ」
と、いきなりエレオノーラさん、二つもパワーワードをぶっ込んできた。お姫様? 駆け落ち!?
「お、お姫様? 王様の娘の?」
「ええ。二十年くらい前だったかなぁ……私がお城に住んでいた頃、この人が忍び込んで来てね。私がどなた?って聞いたら、泥棒です、なんて言うんですよ」
それを横で聞いていたシャイラさん、目を見開いて驚いた。
「王城に賊として忍び込んだのか! よく無事に脱出できたものだな」
「ぬふふふふふ、それはもう大泥棒やからね。何事も無く忍び込んで、何事も無く帰って行く所までが泥棒よ? ま、あの時は宝石や絵画なんかのお宝が目的やなかったし」
シャイラさんの驚きの声を聞いたビルさんは、独特な笑い方を交えながら自画自賛する。
「スヴェリエにそれはもう別嬪さんのお姫様が居るっていう噂を聞いてね、ぜひ会ってみたくなったんだわ。で、忍び込んでみたら、まあ、ほんと、可愛いのなんのって」
エレオノーラさん、肘をついた両手の上に顎を乗せながら、ビルさんを横目で見る。
「そうなのよね。その大泥棒さんが何を盗みに来たのかと思ったら、『籠の中の美しい鳥に、広い世界を見せてあげたい』なぁんて言っちゃって、私をまんまと盗んで行ってしまった、と言うわけ」
「ンで、その後がもう大変! 国境抜けるまで、衛視やら騎士団やら冒険者やら、果ては街の人達にまで、凄んごい勢いで追いかけられてしもて!」
「結局、帝国を北から南まで駆け抜けて、この街にまでたどり着いたんです」
ビルさん、大げさに肩をすくめてみせる。
「フライブルクまで来て、よーやっと、落ち着いた感じやったね」
「ようやく、ささやかながら結婚式も挙げて、クリスやカール、グスタフも生まれて……」
「仕事もまあ、それなりに順調といってええかねぇ?」
「私たちの子供たち以外にも、いろんな子供達の世話もできるし、私は、幸せだと思ってるわよ?」
と、エレオノーラさん、甘えるようにビルさんに頭をぽてんともたれかけさせた。
それを見ていたクリス、ジト目になりながら口をとがらせる。
「あんたら、娘の友達の前でいちゃいちゃせんでくれるか? うちが恥ずかしいわ!」
クリスの声を聞いて、私はとある事に気がついた。
「あれ、と言う事は、世が世ならクリス、お姫様?」
「いや、おとんがコレな時点であかんやろ」
と、顔の前で手をひらひらさせて答える。
「確かに、王族というものは、血筋だけで成り立つ物では無く……王族たる教育を受けて初めて王族と言えるのだからね」
「シャイラさん、詳しいね」
「歴史を勉強した事があってね。血筋だけで無責任な王族が、これまで何度、国を害して来た事か……」
渋い顔のシャイラさん。確かに、紅茶の国って結構歴史が長い国だから、色々あったんだろうね。
「それにしても……エレオノーラさん、お姫様だったとは。王族の人なんて、わたし今まで一回も会った事なかったよ」
「……」
私が呟くと、シャイラさんが微妙に口を尖らしながら、私の方をじっと見つめていた。
「ん、シャイラさん、どうかしたの?」
「いや、なんでもない。それにしても……」
私が声をかけると、シャイラさんは誤魔化すようにテーブルの上を見渡した。
「この人数にしてはかなり量が多い気がするな。まだ席にも余裕があるようだが、どなたか他にいらっしゃるのかな?」
「うちな、結構近所から食べに来るねん。両親が共働きでロクなもん食えてない子とか……もう充分ええ歳やのに来てるのもおるけどな」
クリスが答えている最中に、その言葉の通り、玄関から人が入ってくる物音が聞こえてきた。
やっぱり、ビルさんの声は山田康雄さん……は亡くなっているから、クリカンですかね?
そうなると、エレオノーラさんの声が島本須美さんに……
次回予告。
夕食会の席に後から合流した人達。私にとっては浅くしか知らない人達だったけれど、もう一人の私にとってはもう少し付き合いの深い人達だった。
次回「新たな知り合いができました(新しくない)」お楽しみに!