74.侵入者アリ!
最近、スマホのChromeが頻繁にANRを出して使いづらいです……
実を言うと今回は、実話ベースの話だったりします。凄い勢いで”盛って”ますけどね?
※2019/8/7 スマホフレンドリーに修正しました。
私たち4人による領主館でのお泊まり会は、定期的に行われていた。
そんなとある春の週末、私は次回のお泊まり会の許可を、リチャードさんにお願いしていた。
「――と言うわけで、また来週末にお泊まり会をしたいんですが」
「ああ、もちろん、構わないよ」
と、快諾したあとで、少し言いづらそうに口を開くリチャードさん。
「あー、ただ、実はこの週末は夜釣りに出かける予定でね。大丈夫かな?」
「ええ、大丈夫ですよ。――それに、わたしとアレックスの二人だけより、三人増えた方が安全じゃないですか?」
「確かに、それはその通りだね。それでは悪いが行ってくるよ」
リチャードさんの数少ない趣味が魚釣りで、たまに渓流とか港とか島とか、色々な所に釣りに行ったりしている。
一時期はそれで食べていた時もあったとか無かったとか……
「今回はどちらにいらっしゃるんですか?」
「実は、フライブルクの埠頭でいい魚が揚がっていると言う噂を聞いてね。ぜひ試してみたくなったんだ」
「おいしい魚、期待していますね!」
――そして、あっと言う間に一週間は過ぎ、次の週末がやってきた。
「「おじゃましまーす」」「ただいまー」
皆が領主館に着いたのと入れ替わりに出かけていくリチャードさん。
「やあ、いらっしゃい。私は不在で申し訳ないが、ゆっくり羽を伸ばして下さい。アニーくん、戸締まりには気をつけるようにね。私は、明日の午前中には戻ってくるよ」
「はい、リチャードさんも気をつけて」
「「いってらっしゃいませ!」」
と、釣竿を担いだリチャードさんは、私たちに見送られて馬に乗り、フライブルクに向かって去って行った。
◇ ◇ ◇
夕食の後は、客間にベッドを4つ入れて、恒例のパジャマパーティの始まりだ。
話題は、新しくできたアクセサリのお店やお菓子の事、はたまた、授業や実習の話など、たわいも無い話で盛り上がっていった。
ちなみに、色恋沙汰とか浮いた話は……まったく無いなぁ。うん。学校の男子共は頼りないし。
――盛り上がっているうち、夜半を過ぎてかなり遅い時間になってきた。
「ふあぁぁぁぁあ」
私は大きく伸びをしながら欠伸をする。
「リチャードさんが居ないからと言って、流石にちょっと遅いかな? そろそろ寝なきゃね……」
と、呟いたところで、私はかすかに、何かの物音が聞こえたような気がした。
「――あれ?」
いきなり険しい顔をした私に、皆はおしゃべりを止めて私に注目する。
「今、玄関が閉まった音しなかった?」
私の質問に、皆すこし考えた後に口々に回答した。
「すまない、私には感じられなかった」
「わたしもわかんなかったです!」
「そう言われると、したような気も……風でどうこうなるような安普請、なんてこた無いやんなぁ?」
なんとなく耳を澄ませた所で、かすかにドアをノックするような音が耳に入ってきた。やっぱり玄関の方だ。
「誰か来たのかな? リチャードさん?」
「それだったらノックはしないんじゃないかな」
「気味悪いな。様子見に行こか?」
「百聞は一見にしかず、です!」
と、皆で連れ立って様子を見に行く事にした。小さなランタンを持った私を先頭に、何となく気配を探りながら進んでいく。
特に誰にも遭遇する事無く玄関ホールまでやってきた。外には常夜灯のランプが掛かっているが、中の明かりは消されているため、手持ちのランタンがないと真っ暗でほとんど見えない。
見えない、はずなんだけど、玄関のドアノブに何かが掛かっているのが見えた。明かりの灯った小さなランタンと鍵、そして何か書かれた羊皮紙だ。
私は掛かっている鍵を手にとって観察してみた。
「これは……この館の鍵、かな? リチャードさんのかも?」
と言う事は、リチャードさんに何かあった、と言う事!? 慌てて羊皮紙の方にランタンの光をかざし、読み始めた。
「えーっと……『鍵を持って外出する時には、懐に気をつけたまえ』……? これって、盗まれたって事?」
首を捻り始めた私を尻目に、そこでクリスが何かに気がついたかのように、慌ててキョロキョロし始めた。
「アニさん、”照明”かけてぇな、”照明”。今すぐ!」
余りの剣幕に、思わず問い返す。
「え、”照明”?」
「うん、ランプでも魔法でもなんでもええから、周辺がくまなく見えるように!」
「う、うん。分かった。"マナよ、光となりて我が前を照らせ"」
詠唱中にもクリスは叫びながら周囲をキョロキョロ見回している。
「くぅおらぁ! 手口は分かってんねんで! 入り口に注目を集めといて、その隙に奥に忍び込むつもりやろ!」
「――”照明”!」
魔法が発動すると、玄関ホールが魔法の光で満たされた。
その直後、クリスが周辺を見渡したかと思うと、私たちが来た方の廊下に突進していった。
「そこや!」
と、指さす先を見ると……小柄な中年の男性が壁際に張り付いていた。濃い色のフード付き外套をまとっていて、その下も黒っぽい服装が見えている。
「げっ!」と、いきなり指さされて固まる男。
「だ、誰!?」「くせ者!?」「悪人ですか!?」
慌てて戦闘態勢を取ろうとするシャイラさんにマリア。さすがに寝間着じゃ帯剣していない……と思ったら、シャイラさんは短剣を持ってきていた。さすが。
クリスは、と言うと……何かをこらえるかのようにぷるぷると震えている。
「こ、こ、こ……」
そして、全力で絶叫した。
「こ、の、アホ親父ぃーーッ!?」
「「ええーーーーーーっ!?」」
驚きの声を上げる私たちを尻目に、凄い勢いで中年男性の方に駆け寄り、襟首を掴んでブンブン揺さぶり始めた。
「寄りにもよって、娘の友達の家に忍び込むったぁ、どういう了見やねんっ!?」
「す、すまん、まさかお前が錬金術師リチャードと知り合いやとは……」
「うちがシュタインベルク村に泊まりに行く言うてる時点で、少しは可能性考えなあかんやろぉっ!?」
「いやあ、あんまし美味しそうな獲物やったから、つい」
「つい、で、やるなっ!!!! うちの学校生活と交友関係、どうしてくれるねん!?」
「ま、まだ何も盗んでへんし、もともと見物だけで盗む気もあらへんかったし」
「鍵ぃ盗んで忍び込んだ時点で、かぁん全にアウトやぁぁぁぁぁっ!」
ものすごい勢いで叫んだかと思うと、襟を掴んでいた手を外し、がっくりと膝を折り、ぺたんと床に座ったかと思うと、両手で頭を抱えた。
「も、もう……あかん……」
どうしようかと困惑しているところに、脇の方から静かに声が掛けられた。
「姉様」
声の方向を向いてみると、そこにはアレックスが立っていた。
「あ、アレックス、起きてたの?」
「これだけ騒いでいたら、厭でも目が覚めますよ……事情はよく分かりませんが、さしあたって、食堂にご案内してはいかがでしょう?」
「そだね……」
私は、がっくりと床に膝をついていたクリスに手を貸して立ち上がらせ、食堂に連れて行った。
クリスのお父さんは、その後ろを体を小さくしてついて来ている。
◇ ◇ ◇
人数も多いので、私は普段はリチャードさんが座る席に腰を下ろした。
そして左右にはシャイラさん、マリアにクリスが座り、クリスのお父さんには、私の対面側に座って貰った。
紅茶の準備をしていたアレックスが戻ってきて、それぞれの前にカップを置き、紅茶を注いで回る。
一通りの準備が整い、落ち着いたところで、私は口を開いた。
「さて……まずは、お名前を伺ってもよろしいでしょうか?」
「ウィリアム・ヘンリー・ゴート三世。長いからな、ビルでええよ」
まるで貴族のような?名前が帰ってきた事に、私は少し驚いた。
「自分で勝手に三世とか言うてるだけやから、気にせんといて……」
私の反応を見たクリスが、ぼそっと呟く。ただ、下を向いているため、その表情はよく見えない。
「お名前ありがとうございます。わたしはアニー・フェイと言います。現在、ご存じのように家主のリチャードさんが不在のため、私が代行として、幾つか伺わせていただきます」
「ああ、こうなっては是非も無し。なんでも聞いてくれて構へんで」
「それを居直り言うねんで……」
肩をすくめながら答えるビルさんに、再び、ぼそっとツッコむクリス。
「では、ビルさん。この鍵はどうされました? リチャードさんの物ですよね?」
私は玄関から回収した鍵をテーブルの上に置いた。
「――晩にフライブルクの埠頭を散歩してたら、釣りながら居眠りしよる人がおってな。不用心やなぁ思って顔みたら、なんと錬金術師リチャードやったんやわ。で、あの錬金術師リチャードの家を拝むチャンスや思て、回収したんよ。――もちろん、他の物には一切手はつけてへんで?」
「鍵盗んだ時点でもうあかんのに、何を偉そうに言うてるんや……」
相変わらず隣りでぼそっと呟くクリスに、微妙に冷や汗を垂らすビルさん。
私はとりあえずそれに構わず、質問を続けた。
「リチャードさんの顔と、家の場所をご存じだったんですか?」
「少なくともその存在は、フライブルクで知らん人はおらんよ? 家の正確な場所そのものは知っとる人は多くないかも知らんけど。オレは、まあ、事情通やから」
「どうでもええ事ばっかり知っとるけどな……」
そして私はついに、最も肝心な質問を投げかけた。
「仮に鍵を手に入れたとしても、普通なら忍び込もうとかは考えないと思いますが……ビルさんのご職業をお伺いしてよろしいですか?」
次回予告。
ビルさんは大見得を切りながら、ついに自らの職業を明らかにした。私は、クリスを落ち込ませている彼の所業に対して、ついうっかり怒りにまかせて鬱憤を晴らしてしまう。
次回「尋問ターイム!」お楽しみに!