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72.潜伏

 お下品な台詞が存在します。

 次回は通常通り、5月30日に掲載します。


※2019/8/7 スマホフレンドリーに修正しました。

 最終試験から数日後。ナイトシェードは必要な荷物をまとめて砦から出立した。


 その出で立ちは、もちろん暗殺者の格好ではなく、その辺りの村娘に合わせている。野暮ったいシャツにロングスカートを着込み、頭にはスカーフを巻いて、その上からすり切れた外套をまとっていた。

 顔も目立たない顔立ちに変装している。魔法の”変装”(ディスガイス)ではなく、技術(スキル)としての変装だ。スカーフなどで髪型などを隠しているとは言え、化粧などによって上手に「本来の自分自身」と違った印象を受けるようになっている。


 さて、ナイトシェードは山道を数時間歩き、昼過ぎにはフライブルクに到着する事ができた。

 街に入るためには審査が必要ではあるが、商売品を持っているわけでもなく、一見、数日分の着替えしか持っていないようであるため――勿論、暗殺者としての装備は鞄の奥底に隠されている――門番のチェックはおざなりに過ぎないものだった。


 暗殺者としての活動する前に、まずは生活の基盤を作らなくてはならない。

 働かなくても生活できているようだと、とかく人々の関心を買ってしまうため、長期的に潜むには”普通の暮らし”を立ち上げる必要があるのだ。


 ナイトシェードの場合は、年若い女性と言うこともあり、かりそめの身分としては「田舎から働き口を探しに都会に出てきた女の子」を名乗る事にしている。更に深く追求された場合は「村長から身体を狙われてしまい、身の安全のため故郷を出奔したため、出身は明かしたくない」と言う、同情を買うためのおまけをつけておく事にしていた。



              ◇   ◇   ◇



 まずは不動産屋――さすがにこれは適切な店が事前情報として与えられていた――を訪れ、安い下宿の紹介をお願いする。


「うーん、紹介者や保証人もなしで、出身地も余り明かしたくないと……」


 と、渋い顔をする不動産屋に、先のおまけを織り交ぜて頼み込む。

 もちろん、情感たっぷりに演技力を込めての懇願だ。暗殺者として、そのあたりのスキルは叩き込まれていた。


「無茶なお願いでごめんなさい! 村長に狙われていたので、必死に逃げてきたんです。こちらには伝手(つて)が全然なくて……誓ってご迷惑はおかけしません!」


 そして、それなりに豊満な胸を両腕で抱えて強調させながら、上目遣いでちらり。敢えて地味な格好をしているとは言え、顔かたちは整っているので、男性相手には効果的なテクニックだ。

 もっとも、やり過ぎると相手がスケベ心を出してきてしまいかねないので、やり過ぎは注意ではあったりする。


「む、むう……分かったよ。それじゃ、学生向けの安い下宿を紹介してやろう」

「ありがとうございます! ありがとうございます!」


 不動産屋は、少し顔を赤らめつつも、期待通りの安い下宿を紹介してくれた。

 ナイトシェードは、紹介された下宿を拠点とし、翌日から土地勘を作るための散策をしながら、適当な仕事を探し始める事にした。


 ちなみに、単純なお金稼ぎの効率だけで言えば、家賃が掛からない住み込みの年季奉公が好ましい。

 しかし住み込みの場合、任務による外出が目立ってしまう恐れがあるため、ナイトシェードは通いの賃金働きを探す事にしていた。



              ◇   ◇   ◇



 そして、ナイトシェードは困った顔をしていた。


「こおんな所を一人で歩いていると危ないよぉ? お嬢さん」

「そうそう、変な男に絡まれたりするからね」

「でも、お嬢さんは運が良かったなぁ。オレ達に出会って」

「オレ達がちゃあんと護ってやるぜぇ? お代はいただくけどよぉ!」


 フライブルクに入って数日後、少々治安が悪い界隈を散策していたところ、四人ほどのチンピラに絡まれてしまったのだ。ナンパなのか強盗なのか区別が分からないが、ナイトシェードにとっては単なる排除対象であって、区別はどうでもいい事だった。

 これ以上騒がれても厄介なだけなので、ナイトシェードは路地裏に引き込んで始末する事に決めた。勿論、死因が特徴的になってしまう毒は無し。普通に刺殺で充分だろう。


「あ、あの、どうすればいいんでしょうか?」


 怯えた顔をしたナイトシェードに、嗜虐心をくすぐられるチンピラ達。

 彼らはナイトシェードを囲むようにして、路地裏の方に引き込んでいった。それが自らの死刑執行書にサインする行為だと言う事も知らずに。


「こっちにいい所があるからよぉ、ちょっと着いてきなぁ?」

「なあに、痛い事ぁしねえから安心しな」

「初めてだったらちょっと痛いかも知れねえがよ、ま、最初だけだぁ」

「兄貴ぃ、そりゃお下品ですぜぇ?」


 チンピラたちの頭の悪い言動に、ナイトシェードは内心ため息をつきながら、表面上はあくまで怯えた顔をしてチンピラ達についていく。

 そして、そろそろ頃合いかと、忍ばせた短剣を取り出そうとしたところで……


 いきなり背後から、リュート(弦楽器)による軽快な旋律が響き渡った。


 素早く振り向いたナイトシェードが見たものは、ピンクのベレー帽とジャンパースカート、それに白のエプロンを身につけ、リュートを抱えた一人の金髪の少女だった。

 彼女はリュートをかき鳴らしながら、躍動感に溢れる蒼く光る瞳でチンピラ共を見据えている。

 次回予告。


 ナイトシェードの前に現れたのは、魔法少女を自称する少女だった。その身に秘めた強さを感じ取ったナイトシェードは、彼女を要警戒人物として認識する。


 次回「遭遇」お楽しみに!

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