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71.胎動

 いきなり今までと違う雰囲気ですが、安心して下さい。これは確かに「フライブルクの魔法少女」です。

 グロいシーンが存在します。

 次回は短めのため、5月27日月曜日に掲載予定です。


※2019/8/7 スマホフレンドリーに修正しました。

 フライブルクにほど近い山中に()()はあった。

 もともとは山砦だったのだろうか。街道はおろか山道からも離れており、崖や段差で地上からの接近も困難である事から、地元の猟師ですらこの砦の存在を知る者はいない。

 これから始まるのは、その砦の奥深くにある大広間での出来事。


 その大広間は非常に大きいが、地下にでもあるのか、床は土がそのまま露出している状態だった。窓は全く存在しておらず、壁には幾つかの松明が掲げられており、ゆらゆらと光を放っている。

 目を引くのは正面に禍々しい雰囲気を放つ異形の巨大な石像……山羊の頭、蝙蝠(こうもり)の羽根を持った、人型の像が飾られている事だった。

 その周囲にも多くの松明が掲げられ、石像をその炎で照らしている。


 石像の前には人影が幾つか見えている。


 石像の正面には、ローブ姿の小柄な人影が一つ。そしてその左右後方に、その人影を護るかのようにローブ姿の人影が一人ずつ立っていた。

 そして、彼らに相対する形で、二人の人影が見えている。二人とも十代半ばから後半の若い娘のようだ。


 一人は、東洋系のようで、長いストレートの黒髪を、頭の後ろで一本大きくポニーテイルの形で結っている。

 切れ長の瞳は冷たく輝き、感情の色は一切見せていない。

 ぴっちりとした漆黒のソフトレザーアーマーを身にまとっており、腰の後ろには50cmほどの長さで、内側に「く」の字状に曲がった、ククリナイフを佩いている。


 もう一人は北欧系か、赤く輝く癖毛を、ショートのウルフカットで自然にまとめている。

 琥珀色(アンバー)の瞳は激しく燃え上がり、挑戦的な視線をローブの男に送っている。

 こちらの女性は刺突用の短剣であるスティレットと、深紅に染められたソフトレザーアーマーを身につけている。



              ◇   ◇   ◇



 石像前に居たローブの男が、静かに口を開いた。


「これまでの長きにわたる訓練、よく耐え抜いてくれた。ナイトシェード、ブラッドモスよ」


 声の調子は初老の男性といった所か。

 それを聞いた東洋系の娘は何も反応を示さなかったが、北欧系の娘は口を開いた。


「ふん、あたしとナイトシェードのペアなら、あんな修行はどうって事ないさ。いつでも実戦で狩る力を証明できるぜ」


 ローブの男は口の端を少し歪めた。


「それは頼もしい事だ。しかし、我々には掟があってな。暗殺者として実戦に出るには、最後の試験が必要なのだ」

「最後の試験? そりゃ楽しみだ。いったい何をやればいいんだ?」


 ローブの男の口が、更に大きく歪んだ。


「簡単な事だ。お前達二人で殺し合いなさい。生き残った一人だけが、正式な暗殺者として採用される」

「なッ!?」


 色めき立つ北欧系の娘に対し、ローブの男は静かに言葉を続けた。


「暗殺者になるには更なる(カルマ)が必要なのだよ。今まで背中を預けてきた相棒を殺す業を等しく背負うことによって、我が教団の暗殺者として活動できるようになるのだ」

「そんなバカな話があるか!? なあ、ナイトシェード」


 東洋系の娘――ナイトシェード――の方を振り向いた北欧系の娘――ブラッドモス――は、ためらいなく腰のククリナイフを抜こうとしている彼女の姿を見て、絶句した。


「なッ……」

「私は命令があれば殺す」


 冷ややかな目つきでブラッドモスを見つめるナイトシェード。その口調にも感情は気配一つ感じられない。


「そうかい! それじゃあたしもやるしかないね!」


 ブラッドモスはそう言い放つと、腰からスティレットを抜き放った。



              ◇   ◇   ◇



 ナイトシェードとブラッドモスはお互いの武器がギリギリ届かない距離で対峙している。


 まずはナイトシェードが無造作にククリナイフを横に振ると、ブラッドモスはスティレットで防御した。ギィンと言う金属音と共に火花が散り、お互いの顔を一瞬明るく染める。


「普段なら組み付くんだが……あんたの毒が怖いからね」


 ブラッドモスはそう言うと、精神を集中してマナを右腕に集中させた。


「”瞬腕”!」


 小さく呟くと、マナによって腕が強化され、その動きが加速される。


「正攻法で行くしかないな……っと」


 目にも止まらない速さになった突きを、ナイトシェードはククリナイフを器用に扱って防御する。しかし、鋭い突きを避けきれずに肩、頬、脇に浅い傷が増えていく。


「並の敵が相手ならこれで終わりなんだけどな……あんたにゃ毒が効かねぇから」


 少し距離を取ったブラッドモスは懐から小さな球を取り出し、それをナイトシェードに向かって放り投げた。ゆっくりと放物線を描いた球は、ナイトシェードの足下に向かって落ちていく。


「”瞬歩”!」「”瞬歩”!」


 ナイトシェードがかき消えたように後方に高速移動したのに合わせて、ブラッドモスも同様の技を使って追撃する。

 ぽんと小さな音を放って球が破裂し、周辺に白い煙をまき散らしたが、すでにその効果範囲には入っていない。

 しかし、一瞬それに気を取られ、ナイトシェードがブラッドモスの方に向き直るのが遅れてしまった。


 次の瞬間、左手を口にやったブラッドモスは、そこから緑色の毒霧を吹き出してナイトシェードの顔面を覆い尽くす。


「――ッ!」

「あんたにゃ毒は効かねぇが……単なる目つぶしなら!」


 顔面を緑に染めたナイトシェードは、目をつぶったまま開けられない。

 その様子を見たブラッドモスは、わずかに緊張を緩めた。そして、ゆっくりとナイトシェードに向かって近づいていく。


「これであんたも終わりだ……悪く思うな。あたしも生き残らなきゃならない」


 目をつぶったままのナイトシェードは、だらりと両手を下に垂らしたかと思うと、小さく呟いた。


「――”無明氣照”」


 その次の瞬間、ナイトシェードからすさまじい勢いで気迫が吹き出し、周辺の雰囲気を支配した。


「今のは……ええい、無駄なことを!」


 ブラッドモスが素早くスティレットを振るうが、ナイトシェードにゆらりと躱される。


「馬鹿な……見えているのか?」


 再び突きによる連続技を繰り出すが、今度は全く当たらない。


「くっ!」


 思わず大ぶりになった瞬間、ナイトシェードが左手を一閃した。ククリナイフの鞘に収められていた小刀(カルダ)が、ブラッドモスの頬に小さな傷をつける。


「痛ぅ……しまった!」


 ブラッドモスの動きがガクガクと止まり、その場で膝をつく。かろうじて両手を床につき、倒れ込むのを防ぐ。


「これがあんたの毒か……凄まじい、な」


 頭が重く、もう上げる事すらできない。視界の端に、ナイトシェードの足を見つけたブラッドモスは、力を振り絞って言葉を紡いだ。


「ナイトシェード……あんたの勝ちだ。あたしの分まで生き延びなよ」


 そして残りは、口の中で小さく綴っていく。


「ジェレミー、サム……ごめん、姉ちゃん、駄目だったよ」


 ナイトシェードは懐から手拭いを出して顔をぬぐい、ブラッドモスの様子を静かに見守った後、ぽつりと呟いた。


「――さよなら」


 そして、右手のククリナイフを一閃させた。

 ブラッドモスの体から丸い物体が転がり落ち、胴体から血が噴水のように噴き出していく。



              ◇   ◇   ◇



 ナイトシェードは無言のまま、ククリナイフを払って血を振り落とし、腰につけている鞘に収めた。落ちている小刀も拾い上げ、同様に鞘に収めている。

 一連の後始末の後、ローブ姿の男の方に向き、小さく礼をした。


「試験完了しました」


 ローブ姿の男はその様子を見て小さく手を叩いた。


「良くやった、ナイトシェードよ。さすがは我が教団始まって以来の優秀な暗殺者候補だ。ああ、これからは候補の字は無くなるな」


 男は、転がっているブラッドモスの死体をちらりと見た。


「さて、ブラッドモスを(にえ)として、そなたにちょっとした魔法を掛けてやろう」


 そして男は低い声で魔法の詠唱を始めた。一般的な術式魔法とも、神聖魔法とも違う、なにか禍々しい響きを持った魔法だ。


「魔界に住まいしバフォメットよ、我と汝の(しもべ)に対し、その命に(たが)えし時は痛苦をもたらす(くびき)を与えん事を――”制約(ギアス)”!」


 ナイトシェードを縛るかのように、その周囲に異形の魔法陣が現れ、集束していった。

 だが、その様子を見たローブの男はわずかに首をひねる。


(手応えが……浅かったか? 相棒を自ら殺した精神的衝撃による抵抗力低下と、(にえ)による強制力上昇で、失敗する可能性は無い筈だが……)


 男は少しの間、逡巡していたが、「まさか、な」と肩をすくめて追求を断念したようだった。

 そして、声を改めてナイトシェードへの指示を行った。


「そなたに最初の使命を授けよう。今後のそなたの活動の舞台となる街への潜入を命ずる。まずは、目立たぬように潜伏し、土地勘を養うことだ。次の指示があるまで、警戒される事なく過ごすように」


 指示を聞いたナイトシェードは、「承知しました」と、小さく頷いた。

 男は満足そうに頷いてから、思い出したように付け加えた。


「ああ、あともう一つ。これからこの砦を出て行動する訳だが……変なことは考えない事だ。我が意志に背いた場合、そなたには死にも勝る苦痛が襲いかかる事になるだろう」

「我が意志は教主様の意志と同じにございます」


 ナイトシェードはそう言いながら緩やかに頭を下げ、向き直ってから質問した。


「して、向かうべき街は?」


 ナイトシェードの問いを受けた男は、勿体(もったい)をつけるようにゆっくりと、一つの街の名前を口にしたのだった。――フライブルク、と。

 次回予告。


 フライブルクに潜入したナイトシェード。まずは土地勘を養うために散策に赴いたが、いきなりチンピラどもに絡まれてしまった。そこで響き渡った旋律は……


 次回「潜伏」お楽しみに!

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