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7.やだ……こない……で!

※2018/9/13 剣術試験をパスしたい!から改題しました。

※2018/12/14 微調整しました。

※2018/12/27 次回予告を追加しました。微調整を加えました。

※2019/8/3 スマホフレンドリーに修正しました。

 さて、最後の剣術実技試験だ。

 試験会場はこのまま練習場で行われるようだ。

 魔術試験の試験官に代わって、今度は戦士のおっちゃんが試験官として現れた。

 レザーアーマーに、鞘に入ったロングソードを下げている。


「ようしお前ら、これが最後の試験だ。剣術経験者は、お前達の今の実力を見せて貰いたい。オレに向かって、遠慮無く切り込んで欲しい。武器はここにある練習用装備を使ってくれ。未経験者は、まあ、そうだな、切り込むなり受けるなり、自分が今見せられるものを見せてくれればそれでいいさ」


 受験者を見渡してから、言葉を続ける。


「ふむ、手加減するのは面倒くさいからな、先に女子をやってしまおう。お前ら4人、前に並べ。あとの男子どもは適当に後ろに並ぶように。ああ、あと、この試験が終わったら、そのまま帰っていいらしいぞ。合格発表は明後日の朝、また学校に来てくれ、だそうだ」


 なんとなく順番は、シャイラさん、クリスさん、マリアさん、私の順番になったようだ。


 シャイラさんは紅茶の国(バーラト)風の曲刀、タルワ―ルと、バックラーを手に取った。

 貸し出し用の練習用の武器で、自分の武器ではないから、少し振ってみながら様子を確認している。


「そろそろいいか? そこの印を打っているところが開始場所だ。まずはそこに立ってくれ」


 と試験官さんが指示し、両者、練習場の指定の場所に立って、いよいよ試験開始だ。


「それでは――始め!」

「承知!シャイラ・シャンカー、参る!」


 シャイラさん、まずは右手の剣を顔の前に立てて礼をする。そして、右手の剣を手首だけでぐるぐる回しながら前進していった。

 ほう、これが紅茶の国(バーラト)流剣術なのか。

 間合いギリギリまで近寄ったところで、手首をうまく使いながら、上下左右から連続攻撃を浴びせている。


 さすがは試験官さん、連続攻撃を長剣で綺麗に防御している。

 試験官の突き――!も、左手の盾で上手にいなして懐に潜り込んだ!

 と思ったら、今度は試験官さんの膝がカウンター気味にシャイラさんのお腹に突き刺さる――!


 その寸前、試験官さんは「ここまで!」と言って動きを止めた。


「シャイラと言ったな。ケレン味のない、なかなかいい動きをしている。だが、冒険者の戦い方は、そんな綺麗事では済まない部分もある。もっとやりたかったが、すまんな。なにせ全部で50人近く相手にせにゃならん。ともあれ、お前さんの試験はこれで完了だ」


 シャイラさんは一礼して引き揚げてきた。少々不満げな顔をしている。そして、私たちの方へ近づいてきて話しかけてきた。


「あの試験官、なかなか食えない奴だな」

「そらまあ、受験生にあっさり負けてたら、ここで教わる必要無いわな。3年の内に追い越したらええんとちゃう?」

「ふっ、そうだな。ここなら冒険者らしいやり方も学べそうだ」


 と、茶化すクリスさんに対しても、やっぱり格好いいしゃべり方。ここが女子校ならファンが大勢つきそうだ。

 残念ながら、ここにいる4人だけが、この学年の女子の最大人数なんだけどね……


 さて、次はクリスさんの番。軽戦士って言ってたっけ。武器は短剣(ダガー)だけを使うようだ。


「さあ、始めるぞ!」

「はいな。クリス、行っくでぇ!」


 体を正面に向けて、両手を軽く広げてゆっくり前進する。

 最初こそいつもの感じで軽い口を叩いたが、今の目はかなり真剣だ。

 妖精のように綺麗なだけに、黙って真剣な顔をすると、本当に凄みを感じる。


 試験官さんは最初は攻撃する気がないようで、長剣の範囲内になっても特に動きを見せていない。

 クリスさんは軽く二、三回突きを見せたが、長剣の腹で見事に防いでいる。

 そして、試験官さんはバックステップで短剣の範囲外に抜けてから、シャイラさんの時と同様に突きを見せてきた。

 クリスも短剣を長剣に沿って滑らせて、突きをかいくぐりながら、試験官さんの懐に潜り込もうとする!

 そしてまた、試験官さんの膝が出てきたが……なんとその膝に右足を掛けて、ひらりと宙返り。


「それは、さっき見たでぇ!」


 しかも、その頂上から短剣を試験官さんに向けて投げ放った。

 しかし、試験官さんは慌てながらも、長剣の(つか)でガードに成功している。


「おおっと、ここまで! ふーむ、今年の女子どもはなかなか有望だな」

「そらおおきに。全員通してくれる事を願ってるで」


 と、肩をすくめながらクリスさんが戻ってきた。

 試合が終わると、またいつもの飄々とした感じが戻っている。


「さて、前衛二人は終わったで。あとの後衛二人は、まあ、怪我せんように受かってくれればええかな」

「あの……クリスさん、私、神官見習いとは言いましたが、後衛とは言っていませんよ?」


 と、マリアさん。手に持っているのは……身長ほどもありそうな、両刃斧!?練習用なので、刃の大部分は木で出来ているが、それでもかなり重量がありそうだ。

 でも、軽く振り回してみて、こんな事言ってるよ……


「やっぱり、木の部分があると、軽くて扱いづらいですね」


 試験官さんもしばらく呆然と見ていたけど、気を取り直して声を掛けてきた。


「今年の女子は凄えな……よし、位置について!」


 マリアさん、両刃斧を体の前に下げて戦闘態勢に入る。


「始め!」


 マリアさんは両刃斧を構えて前進、届く範囲になったところで、まずは横殴りに一閃する。速い!


「おおっと!」


 さすがの試験官さんも、長剣で両刃斧の直撃を防ぐのは難しいらしく、バックステップで回避。

 マリアさんの攻撃は空振りになってしまったが、それでバランスを崩すことなく、くるっと一回転して、また構えに戻った。

 どれだけ腕力があったら、こんな事ができるんだろ……


 そして今度は、もう少し踏み込みを大きくして、更に一閃。

 試験官さんも再びバックステップで回避するが、どんどん壁際に追い詰められていく。


「そろそろ終わり、と言いたいが、せめて一矢報わないと試験にならねえな」


 あと一回避けると、もう壁際に追い詰められて逃げ場がなくなってしまう。


「もうこれで、逃げる所はなくなっちゃいます!」


 マリアさんの一撃をまたもバックステップで回避、したと思ったら、試験官さんは後ろの壁を蹴っていきなりダッシュ!

 空振りをこれまでのように一回転して立て直そうとしたマリアさん、一瞬目を切ってしまってその動きに気がつくのが遅れてしまう。


「しまっ……!」


 試験官さんはマリアさんの後ろに回り込んで、肩をとんと叩いた。


「はい、ここまで。追い詰めたと思ったとしても、油断しちゃいけねえぞ、と」


「――はい、ありがとうございました」


 マリアさん、がっくり肩を落として戻ってきた。結構行けそうだったもんね。


 ――さて、いよいよ私の番だ。

 クォータースタッフを両手に持ち、開始位置に立つ。

 試験官さんは、抜き身の長剣を持って、反対側に立っている。


「今度こそ、未経験者だったな。では、試験を始める。なあに、ゆっくり行くから大丈夫だ」


 と、こちらに向けてぎらっと光った剣と、にやっと笑った歯を目にすると、自分の心臓が――どくんと大きな音を立てたのに気がついた。


 長剣を構えてゆっくり近いてくる試験官さんと、いつも見ている悪夢に出てくる人影が重なっていく……

 瞳孔が開き心拍数がどんどん上がっていくのを感じる。体中から汗が噴き出し、喉がからからになっていって声が出ない。

 呼吸も速くなってきて、息が苦しい。


 頭では、自分の心が混沌に覆い尽くされていくのを感じつつも、何もする事ができない。


「や、やだ……こない……で」


 無意識に喋っているようで、自分の声が自分の声でないようだ。

 緊張がピークに達し、ついに杖を放り投げ、叫びながら目をつぶってしゃがみ込んでしまった。

 そして、近づいてくる試験官さんに向かって手のひらを向け、使ってはならない筈の、自分が知っている最も強力な攻撃手段を選択してしまう。


「来ないで――ッ!!!業火の息吹(インフェルノブレス)!!」


 短縮状態でも魔法は成立し、体の大きさほどもある魔法陣が形成される。

 しかし制限がかかった状態では、魔法を支えるべきマナが一瞬にして枯渇してしまい、魔法陣はすぐさま消え去ってしまった。

 私は、完全にマナ切れの状態となり、そのまま意識が遠ざかっていく……



              ◇   ◇   ◇



 ――どうも気を失っていたのはわずかな時間のようだ。咳き込みつつ、なんとか意識を取り戻した。


「お、おい、大丈夫か! 誰か、医務室の先生を呼んできてくれ!」


 試験官さんが長剣を置いてそばに座っているようだ。


「うう、ぎぼぢわるい……けど、大丈夫です。すみません」


 吐き気はマナが尽きたからか、パニックを起こしてしまったせいか。

 普通の人ならマナ切れで意識を失うと、数時間は昏睡状態になるらしいけど、私の場合は回復力が段違い。


 上半身を起こして、試験官さんに説明する。


「どうも、自分でも思ったより、剣に対してトラウマがあったようで、パニックになっちゃいました。すみません。でも、もう大丈夫です」


 戦士である試験官さんは魔術に関しては素人だし、周りの受験者も、私のやらかした事、つまり、高レベルの魔法の正しい術式を、それも短縮状態で構築できてしまっていた事と、マナが尽きてもすぐに回復した事には気がついてないみたい。


 ――そこで呆然と座り込んでいる、魔術師の先生は気がついたかも知れないけど。なんとか、使おうとしたのがそんなに高レベルの魔法じゃなくて、マナもギリギリ枯渇寸前、でも意識を失うレベルではなかった、という事で誤魔化すしかないかな。


「おう、でも顔色がかなり悪いぞ。試験はこれまでだな、しばらく休んでから帰るといい。あー、アニーと言ったな。剣術の試験で点はやれんが、もともと未経験者じゃろくに点は取れん。できなかったからと言って、気にするな」

「はい……ありがとうございます」


 そうだ、確かに、試験ができなかったんだ、私。

 それどころか、剣を見たらパニックを起こす魔術師なんて、仮に入学できて冒険者になれたとしても、ものの役に立たないよ。


「ああ、それと面接で套路を見せて貰うと言ったが、さすがに今日は無理だろう。また今度でいいぞ」

「はい、また今度……」


 今度って、来るのかな?

 ようやく立ち上がると、女の子三人が助けに来てくれた。


「アニーさん、一人で歩けるか?」


 シャイラさん、背が高いだけに肩を借りたら安定しそうだけど、とりあえず、気持ちが悪いのは既に解消している。


回復魔法(キュア)、かけましょうか?」


 マリアさん、怪我じゃないから回復魔法(キュア)じゃ治らない……気持ちは嬉しいけど。


「う、なんかうちだけ何もできんな。えーと、なんか小話、しよか?」


 うん、また頭が痛くなりそうだね。

 ともあれ、ほんと、みんなの気持ちが嬉しい。でも、仲間になるには、これ(トラウマ)を克服しなくちゃならない。


「みんな、ありがとう。でも、もう気分は大丈夫。ただ、このトラウマは何とか解決しないと、みんなの役に立てないので、急いでなんとかします」

「うむ……剣に対してトラウマがあるとの事だが、私に何かできることはないだろうか?」

「私も、教会で神官の方に聞いてみます。悩み事解決は教会が一番のエキスパートですから」

「うちも、身内に聞いてみるわ。あ、でも、アニさん、村住まいやんな?どうやって会えばええんや?」


 私はしばし考えた後に提案した。


「明後日、ここで合格発表がありますよね?その時にでも。わたしも、自分のトラウマを知ったのが本当に今なので、詳しいことはよく分かりません。わたしも、できる限りのことは調べたいと思います」


 皆、それに同意して頷いてくれた。


「そうだな。では、二日後の午前中に」

「私、早速、教会に帰って聞いてみますね」

「うちも、やれるだけの事はやってみるわ。ほな、明後日な?」

「本当に、みんなありがとう。また明後日!」


 まだ知り合ってすぐなのに、私のことを真剣に考えてくれる……なんか、嬉しいな。

 さあ、自分も何か考えないと!

 リチャードさんばかりに頼ってはいられないよね。

 次回予告。


 まさかのトラウマに気が付いた私。克服するには剣術に対抗できる技を身につけるのが一番と、武術の先生を訪ねていく。先生が見せてくれた技に、私は一縷の光を見いだすのだった。


 次回「試験、うまく行きませんでした。」お楽しみに!

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