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65.シャイロック商会の初訪問

 頑張って書き溜めを進めています。

 今回は編成の都合上、若干短めとなっています。


※2019/8/6 スマホフレンドリーに修正しました。

 放課後、私とシャイラさんはシャイロックさんの商会に向かっていた。

 リズさんに聞いたとおり、商業層のなかでも中堅商会が多い牡鹿通りの街角に、その商会はあった。


「あれ? 二軒あるね」


 確かに聞いた場所にシャイロック商会はあったものの、同じ屋号の看板が掛かった店舗が二軒並んでいる。

 見た感じ、片方はお金のやりとりを行う店舗で、もう片方は担保の品物を売っている店のようだ。


「シャイロックさんが居るとしたら、お金のやりとりする方、かな?」

「恐らくそうだろうね。販売の方は値段さえつけてしまえば、あとは部下に任せられるだろう」


 私たちは、目星をつけた方のお店の方に向かいながら、建物の様子を観察した。


「それにしても、やっぱりちょっぴり小さ目?」

「二軒分とはいえ、確かに、フライブルクを代表する五大商会なら、もっと大きな店舗を持っていてもおかしくはなさそうだが……ま、私も他の商会をよく知らないのだけどね」

「うん、わたしも大商会に用はないから、よく知らないかな」



              ◇   ◇   ◇



 入り口の扉を開けると、中は比較的広い広間になっていた。細かくブースに分かれていて、店員とお客さんがそれぞれ相談をしているようだ。


「いらっしゃいませ」


 中に入った私たちに、店員らしき女性が声を掛けてきた。黒髪を短めのボブカットにしている、切れ長の目をした20代前半くらいの綺麗な東洋系の女の人だ。制服らしき白いシャツに膝上丈の黒いスカートを身につけて、いかにも有能そうな感じに見える。

 そして店員さんは、年若い女の子二人組の入店に、少し困惑した顔をしていた。


「その……こちらは、資金の融通などを行う店舗となっております。商品の販売は隣の店舗で行っておりますが、本日はどのようなご用件でしょうか?」


 まあ普通、間違えて入ったと思うよね。


「わたしはアニー・フェイと言います。先日、こちらのシャイロックさんにお誘いいただきましたので、伺わせていただきました」


 私の返答に一瞬驚いた顔を見せたが、すぐに真顔に戻る。


「承知いたしました。確認いたしますので、こちらで少々お待ち下さい」


 と、店員さんは私たちを一つのブースに案内すると、一礼して店の奥に向かっていった。

 奥にある小窓を開け、そこに向かってなにやら話をしているようだ。


「なるほど、万一にも扉を開けた時に奥に突入されないようになっているのか」

「やっぱり警戒、厳重なんだねぇ」


 その様子を見て、私たちは小声で囁き合う。


 小窓を閉じたところで、新しいお客が入ってきたようで、店員さんは小走りに入り口に向かっていった。


「いらっしゃいま……」


 と、声をかけたかと思うと、それは大きな声でかき消された。


「か、か、か、金を出せッ!」


 その声に振り向くと、そこに立っていたのは、ぶるぶる震えながら短剣を構えている中年の男性だった。もとはそれなりの服のように思われるが、かなり汚れてすり切れている。

 店員さん、その姿を見ても全く慌てることなく、冷静に声をかけはじめた。


「お客様、当店はお金を融通できる場所ではございますが、武器をもって交渉する場所ではございません。まずは短剣をお納めいただけますでしょうか?」

「い、いいから金を出せばいいんだッ!」


 と、短剣をぶんぶん振り回す。


 私とシャイラさんは、それを見てブースから乗り出していこうとした。シャイラさんは腰の後ろに挿してある短剣に手をかけている。

 私たちの姿を横目に見た店員さんは、一瞬目線をこちらにやって、小さく首を横に振った。どうも問題ないという事らしい。


「どっちを向いている! お前はこっちに来いッ!」


 と、男――強盗は店員さんを人質に取ろうと突進していった。

 が、次の瞬間、がつんという重い音が鳴り響き、強盗の手から短剣が叩き落とされる。


 見ると、いつの間に抜いたのか、店員さんの右手に20cmほどの黒い鉄の棒?のような物が握られていた。これで男の手を打ち据えたのだろう。

 男はたまらず、「うあッ!」とか叫びながら、左手で右手を押さえている。

 男の頭が少し下がったところに、店員さんは右足を垂直になるまで大きく振りかぶった。まくれたスカートの中、ストッキングどころかガーターベルトまで見えているけど、気にする様子は一切無い。


「シッ!」


 そして、短い気合いの声とともに、男の脳天に踵が打ち下ろされる。


「――ッ!」


 直撃を受けた男は、声もなく昏倒した。

 店員さんは鉄の棒を腰の後ろに挿しなおすと、周囲に向かって頭を下げた。


「お騒がせいたしました。問題は解決したしましたので、皆様引き続きご相談を再開いただけますでしょうか」


 その様子を見ていた私たちは、再び小声で囁き合う。


「あれは……かなりの手練れだな」

「受け付けかと思ったら、警備も兼ねていたのかな?」


 そうしているうちに、小窓の隣りにあった扉から男性の警備員が現れて、強盗と短剣を運び去っていった。店員さんはそれを見送りつつ、こちらにやって来る。


「お客様、ご心配をおかけして申し訳ありませんでした。余程の武装勢力がやってきても我々店員のみで対処できますので、店内にいらっしゃる限り、ご安心いただいて結構です」

「今のは……鉄扇(てっせん)ですか?」


 と、シャイラさんが店員さんに問いかけると、店員さんの目が丸くなった。


「よくご存じですね。はい、その通りです」


 と言うと、腰から抜いて広げて見せた。なるほど、扇の両端が鉄でできているのか。扇子部分は普通と変わらないように見える。


「わたしも話に聞いた事はありましたが、本物を見るのは初めてです。いや、いいものを見せて貰いました」

「恐れ入ります」


 と、店員さんが視線を奥にやった。振り向くと、先ほど話しかけていた小窓が開いて、奥に誰かの顔が覗いているようだった。

 店員さんは、「失礼いたします」と言いながら軽く頭を下げると、小窓の方に向かっていった。

 小窓の向こうの人と二言三言喋ったかと思ったら、すぐに戻って来る。


「お待たせいたしました。会長がお会いになりますので、こちらに」



              ◇   ◇   ◇



 私たちは店員さんの誘導に従い、小窓の横にある扉から店の奥に入っていった。細い廊下を歩きながら、私は店員さんに話しかける。


「あの、さっきのような強盗とかは、よく来たりするんですか?」

「そうですね……それほど多くはありませんが、たまには」

「あの人、どうなるんです?」


 私の質問に対し、店員さんは言いよどむことなく、すらすらと答えてきた。いつも通りの対応、という事なんだろうね。


「まずはお話しを伺います。私どもは資金を融通するのが生業(なりわい)ですから、ご自身ではお気づきになっていないだけで、我々が融資するに足る何かがあるかもしれません。もしそれを見いだす事ができれば、きっかけはさておき、私どもは喜んで融資させて頂きます」

「何もなかったら?」

「残念ながら、強盗として取り扱い、法の裁きに任せる事になりますね」


 つまりは縛り首って事か。まあ、チャンスが与えられるだけ、マシなのかも知れない。


 と、店員さんは立派な扉の前で立ち止まった。

 扉をノックすると、中から「どうぞ」という声が聞こえてくる。

 店員さんはその声に応えて、重厚な扉をゆっくり開いていった。


「会長、アニー様ともうお一方をお連れいたしました」

 次回予告。


 シャイロックさんのオフィスにお邪魔した私たち。結局、シャイロックさんの自宅に案内される事になったんだけど、その道中、店員さんとの会話によって幾つか新しい情報を知る事になったのだった。


 次回「シャイロック邸へ」お楽しみに!

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