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63.空の上からこんにちは!

 申し訳ありませんが予定を変更し、63話予定だった「正当な商売とは?」は64話での掲載となりました。


 微妙な長さになったため、63話と64話として分割掲載にした事が理由です。


 いつものパターンならば、短い話として月木掲載なのですが、タイミングの都合上、通常時と同じ木曜日での掲載となってしまいました。

 次回は次の月曜日か、通常通りの木曜日のいずれかになると思います。


 それはさておき、ありがたくも評価5件目をいただきました。非常に励みになります!


※2019/8/6 スマホフレンドリーに修正しました。

 シャイロックさんとの一件があった後は、私は冬休みが終わるまで、人里離れた山間で飛行の練習に専念していた。

 ただ、最後に確認しておきたかった事として、長期休みの最終日に、村とフライブルクとの間の移動時間を測ってみることにした。


 朝食の後、いつもの鞄を肩から掛けて外出する。

 完全に人目に付いてしまうので、村を出て少し離れた場所まで移動した後、ハニーマスタードの衣装に着替えておく。もちろん、変装もね?

 速度はそれほど出さないし、距離もそれほどないから、防寒装備はコートと革手袋だけで充分だろう。


 さて、出発だ。

 なるべく村の人達の目に触れないコースをたどり、一直線にフライブルクへ飛んで行く。


「――あれ? もう着いちゃった」


 歩きだと折り返し折り返しの山道なので、一時間半は軽く掛かってしまう道のりが……空からまっすぐ行くと、10分掛かってない気がする。


「うーん、早いし安全だし、人目に付く事さえ考えなければ、無茶苦茶便利だよね、これ……」


 とか思いながら、私はフライブルクの上空をゆったりと散策し始めた。


 地上から見える光景と、空から見える光景はまったく違う。

 海の方を見ると、青空の下、きらきら光る海原と、フライブルクの港に出入りする帆船が遠目に見える。

 そして街の方を見下ろすと、街路を行き交う人々が小さく見えている。


「……なんか、すっごく見られてる?」


 眼下の人々を確認した私は、大勢の注目を浴びてしまっている事に気がついた。こちらを指さして何か叫んでいる人もいるみたいだし、走って私を追いかけている子供もいるみたいだ。――あ、こけた。

 どうしようかな、と考えているうちに、地上から呼び子の音がかすかに聞こえてきた。警備隊の人がこちらに向かって手を振りながら、鳴らしているようだ。

 そこで私は高度を下げ、警備隊の人の前に着陸することにした。


 高度を下げていると、屋根の上で修理かなにかの作業をしている男の子とおじさんが目に入った。

 おじさんはうずくまって作業を続けているけど、男の子は私に気がついたのか、目を丸くしてこちらを見上げている。


「親方ぁ、空から女の子が!」


 作業中のおじさんに声を掛けているようだけど、おじさんは構わず仕事を続けている。


「おい、ハンマーよこせ」


 と、男の子に指示しているにも関わらず、男の子は変わらずこちらを見上げたまま。とりあえず、にっこり笑って手を振ってあげると、男の子はおずおずと手を振り返してきた。


「おい、ハンマーだってば。なにボケっとしてんだよ」


 と、おじさんが顔を上げたところで、おじさんとも目が合った。


「おおおおお、なんじゃああこりゃああ!!」


 驚きの余り立ち上がったおじさんは、屋根の上でバランスを崩してしまう。危うく転げ落ちる所だったけど、男の子が支えてなんとか持ち直したようだ。


「お仕事中、ごめんね!」


 と声を掛けながら、私は屋根を通り過ぎて地上に向かっていった。

 すいっと地面に降り立つと、跨がっていた両手杖を右手に持ち替えて、地面をとんと突く。


「お疲れ様です、なにかありましたか?」


 警備隊の人に声を掛けると、なぜか怒りの声が帰ってきた。


「何かも何も、この騒ぎは誰のせいだと思ってます!?」

「え、騒ぎ?」


 私は周囲を見回すと……あっと言う間に人だかりができている事に気が付いた。大勢の人たちが遠巻きに私を見つめている。


「あらら、結構人が集まっちゃいましたね」

「ともかく、詰め所に来てください!」


 警備隊の人が先導して、人だかりをかき分けながら進んでいく。私は周りの人達に愛想笑いを振りまきながら、警備隊の人に付いていった。



              ◇   ◇   ◇



 詰め所に連れて行かれると、しばらくした後に、あきれた顔をした警備隊のアーサーさんがやってきた。


「ハニーマスタードさん……魔法少女と伺っていましたが、空を飛ぶだなんて、実は魔女だったんですか?」

「いえ、わたしはれっきとした魔法少女ですよ! 魔法少女だって空は飛べるんです」


 この世界、やっぱり空を飛ぶというのは伝説上の存在、魔女になってしまうのよね。自分で魔法少女を連呼するのも少し恥ずかしいけど、魔女じゃない事は強調しておきたい。


「いやはや、色々とんでもない事ができるようには伺っていましたが……今回は、また強烈ですね」

「すみません、お騒がせしたようで」

「まあ、とりあえず、幾つか質問に答えていただけますか?」


 私が軽く頭を下げると、アーサーさんはメモ帳片手に質問を始めた。


「確か、世の中に飛行という魔法はありませんでしたよね?」

「ええ、存在しません。ただ、今回わたしは、ちょっとした工夫によって、空を飛べる方法を作り上げました」

「なるほど……年末のチャリティショウの際、男に投げられて、かなりの長距離を飛んで行ったそうですが、それと何か関係が?」

「それがヒントになった事は確かです。外部の力が必要だったのを、何とか別の方法でまかなった感じですね」


 アーサーさんは、口の中で「なるほど」と呟きながら、メモ帳に私の回答を記入している。


「ところで、そのチャリティショウの強盗事件ですが、警備隊の到着を待たずに立ち去られたのはなにか理由が?」

「ごめんなさい、ちょっと野暮用があっただけです。そのときは事情聴取につきあう時間が無かったんですよね」

「ふーむ……ま、チャリティショウの件は、目撃者の証言で片が付いたので、結果的には問題ありませんでしたが……やはり、できれば事情聴取にはご協力いただきたいですね」

「ええ、努力します」


 メモ帳に一通り書き終えたアーサーさんは、人差し指を一本立てた。


「もう一つ、()()が盗賊ギルドの人間だった事はご存じでしたよね?」


 予想内の質問に、私は軽く肩をすくめた。


「ええ、もちろん。ただ、寄付金強盗は共通の敵という事で、一時的に共同戦線を張った感じですね。悪事を行っていたり、明確に敵対していれば張り倒しますが、彼らとは今のところ、そこまで敵対していませんから」

「なるほど。まあ、先日も伝えましたが、我々としてもその方がありがたいですな」


 アーサーさんはそう言うと、メモ帳をパタンと閉じる。


「お陰さまで、前回聞きそびれた事を伺う事ができました」

「そりゃどうも」


 アーサーさんは私の返事を聞くと、椅子に深く座り直した。


「――さて、前置きが長くなってしまいましたが、ここからが本題です。あなたが習得されたという飛行の術ですが……やはり、この辺りの人間は、あの姿を見ると伝説の魔女を思い出してしまうんですよ」


 その昔、ホウキに乗って空を飛んだり、大鍋で薬を作ったり、様々な(まじな)いを行ったりする魔女がいたと言う伝説が残っている。

 まあ、人々とは敵対する事は無かったらしいんだけど、やっぱり庶民にとっては胡散臭いと言うか、敬遠すべき存在ではあったようだ。


「なので当面、理由なく飛ぶ事は自重願えるでしょうか? もちろん、必要性がある場合は説明もしやすいので、まあ構わないと思いますが。いずれ、皆も慣れるかもしれませんし」

「うーん……」


 せっかくの飛行の技が使えなくなるのは、やはりイヤかなぁ。なので、私は腕を組んでしばらく考え込んだ。

 とはいえ、飛行の度に大騒ぎになるのでは、やっぱり使いづらい。だから私は、その提案を受け入れるしかなかった。


「ま、仕方ないかなぁ」


 上を向いて呟いた私に、アーサーさんは深々と頭を下げた。


「ご協力、感謝します」

「緊急時には飛んでもいいんですよね?」

「ええ、勿論。他人から見て、ああ、飛ぶほど忙しいんだな、と言うのが分かればいいかと思います」


 ゆっくり当てもなく散策する、と言うのがダメって事なのかな。

 アーサーさんの意図を理解した私は、小さく頷いて了承した。


「あと、今回の騒ぎについては、事情聴取と再発防止を依頼した、と言う事で済ませたい思います。うまく処理しておきますから、ご安心下さい。その代わり――」

「貸し1、ですか?」


 私のあきれた声に、アーサーさんは小さく肩をすくめた。


「ええまあ。近いうちに、なにかお願いさせて頂くかもしれません。――ともあれ、今日はこれで結構ですよ」

「はあ、それでは失礼しますね」


 ようやく解放されて詰め所を出た私は、仕方なく歩いて街を出た後、人目が付かない所まで移動して、残りの区間は飛んで帰っていった。ま、街さえ出てしまえば、街道を通らない限りは人目に付かないから、大丈夫だと思う。


 ちなみに、領主館でのお昼ご飯には無事間に合い、午後からはリチャードさんの馬に乗ってフライブルクに戻っていった。

 飛ぶのを覚えてしまったら、一時間半かけて歩いて行くのはちょっと面倒くささが先に立ちそうだ……

 ちなみに、村とフライブルクは、道のりだと7~8km程度の山道、直線距離で4kmです。


 次回予告。


 長期休みも終わり、学校が始まった。早速、リズさんにシャイロック商会の事について聞いてみたんだけど、帰ってきたのは割と険しい口調だった。あれ、まずい事聞いちゃった?


 次回「正当な商売とは?」お楽しみに!

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