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62.馬車の中にて

 一週間前に上げる予定が、まさかの投稿日当日の仕上がりに……


※2019/4/4 次回の予定が変わったため、予告を変更しました。

※2019/8/6 スマホフレンドリーに修正しました。

「やれやれ、助かりましたよ」


 馬車から降りてきたのは、仕立てのいい服を着た、50代くらいの白髪交じりのおじさんだった。御者さんは、おじさんが馬車から降りるために手を貸すと、一礼して静かに後ろに控えて行った。


「えーと、こいつらは山賊で間違いないですよね?」


 私の問いかけに、おじさんは苦笑しながら答えてくれた。


「ええ、隣町からの帰りに、近道しようとうっかり山道を通ったらこの有様です。いきなり襲撃されましてね。ところでお嬢さんは……」


 と言いかけたおじさん、首を振っていったん言葉を切る。


「……と、まず、私から自己紹介すべきですな。シャイロック商会の代表、シャイロックと申します。こちらは護衛のトウベイ」


 御者さん、いや、護衛のトウベイさんは、紹介されて再び私に向かって軽く目礼した。


 私は「私は……」と言いかけたところで、今の格好では顔がまるで出ていない事を思い出した。口元まで巻いていたマフラーを降ろし、伊達眼鏡を取る。そして、再び名乗ろうとした所で、シャイロックさんに先に声を掛けられてしまった。


「おや、もしかして、アニー・フェイさんじゃないですか? フライブルク冒険者学校の」


 いきなり言い当てられて、私は驚きの声を上げた。


「え、わたしの事を知っているんですか?」

「ええまあ、一方的に存じ上げているだけですが。それにしても、錬金術師(アルケミスト)リチャードの秘蔵っ子に助けられるとは、光栄です」


 シャイロックさんはそう言うと、少し周り――つまり、散らばっている山賊達の死屍累々――を見渡した。

 そして、軽く肩をすくめると、馬車の方を手で示して同乗を提案してきた。


「ふむ、こんなところで話を続けるのも何ですな。少しお話しをさせていただきたいのですが、お乗りになりますか? 逆方向でなければ、ですが」


 私は少し考えてから、シャイロックさんに向かって頷いた。確か、この道をそのままフライブルク方面に行けば、途中で村に向かう分かれ道があったはずだし。


「ええ、そうですね。お邪魔します。行き先はフライブルクですよね? わたしはそこまでは行かないので、キリのいいところまで、ですが」

「承知しました。降りたい時は、いつでも声を掛けて下さい」


 シャイロックさん、私の返答に頷きつつ、乗り込むのに手を貸してくれた。

 トウベイさんは私が乗り込んだ後に扉を閉め、そして馬車を走らせ始める。



              ◇   ◇   ◇



 馬車の中は、どうもどこかに暖房が仕掛けられているらしく、結構暖かい。

 かなり着込んでいた私は、一言断ってからコートやらマフラーやらを脱ぎ始めた。さすがに荷物を納める場所は無いので、膝の上に畳んでおいておく。


 頃合いを見て、シャイロックさんが私に向かって軽く頭を下げてきた。


「改めて、ですが、この度はご助力頂きありがとうございました」


 それを聞いた私は、小さく肩をすくめる。


「トウベイさん、無茶苦茶強いじゃないですか。わたしの助けなんかなくても解決できましたよね?」

「いえいえ、あなたが彼らの気を引いて隙を作ってくれたのもありますから。あなたこそ、そのお歳でその強さ、感服いたしました」

「はあ、どういたしまして」


 まだ、彼の意図がよく分からないので、とりあえず生返事をしておく。


「さて、助けて頂いた事に対してお礼を差し上げたいのですが……残念ながらここにはなにもありませんので、ぜひ一度、我が商会にご足労いただけませんか?」


 お礼の提案に、慌てて否定する私。


「お礼なんていいですよ。わたしがいなくても解決していたでしょうし、お礼のために助けたわけでもありませんから!」

「ふーむ……困りましたね。私も借りっぱなしと言うのは好きではないんですよ」

「そもそも、借りができていないですよ?」


 かたくなに遠慮する私に、シャイロックさんは腕を組んで考え込んでいる。しばらくした後、考えがまとまったのか、小さく手を叩いた。


「――それでは、こうしましょう。ご都合のよろしい時で結構ですので、我が商会に遊びに来て頂くと言うのはいかがでしょう。せめてお茶なりお菓子なりでもごちそうさせていただけませんか? もちろん、お友達とご一緒でも結構ですよ」

「お茶、ですか?」

「ええ、単なる懇親という事で」


 そして、ニコリと笑って言葉を続ける。ニヤリではなく、人柄の良さが出ているような笑みだ。


「率直に申し上げると……実は、私の娘があなたの大ファンでして。このまたとない好機に、娘に逢わせてやりたいんですよ」

「え、わたしの!?」


 ハニーマスタードならともかく、私自身じゃ、余り目立った活動してないと思うんだけど。強いて挙げれば、こないだのチャリティショウくらい?

 首を傾げる私に、シャイロックさんは背景の説明を始めた。


「娘のジェシカはあなたと同じくらいの歳なのですが――」


 なんでも、ジェシカさんは生まれつきの心臓の病気で、激しい運動ができないんだそうだ。

 でも、自由奔放に生きられる冒険者に憧れていて、運動ができない状態だったとしても、まだ可能性があるのは魔術師、という事で、家庭教師を入れて魔術師の勉強を始めているところらしい。

 もちろん、体調の問題で冒険者学校には入学どころか、試験すら受けていないのだけど、たまに、こっそり練習などを覗きに行ってたりもしてたんだとか。


 ――で、そこで聞いたのが、私の話題だったそうで。


「あなたは、冒険者学校始まって以来、最高の魔術師と聞いております。娘にとっては、まさにあこがれの存在なのですよ」

「あはは、そうなんですか……?」


 ストレートに褒められると、流石に恥ずかしい。私は首を左右に振りながら、曖昧な笑みを浮かべるしかない。


「もちろん娘は、年末のチャリティショウも拝見しております。私は残念ながら伺えませんでしたが、後でかなりの時間、舞台上のあなたがどのくらい素晴らしかったか、延々と聞かされましたよ」


 シャイロックさんは頭を掻きながら言葉を続けた。


「実は、私自身はこれまで、あなたの力を直接は見ておりませんでした。なので、話半分に聞いていた部分もありましたが……今回の一件で、評判に違わぬ力量をお持ちである事を確信いたしました」


 力量と言っても、爆裂弾一発見せただけなんだけど? と思った私は、その点について指摘してみる。


「爆裂弾一発で、そこまで評価されるほどではないと思いますけど?」

「ええ、もちろん、同様の魔法を使う魔術師は、フライブルクに何人もいる事でしょう。しかし、あなたはまだお若い。彼らとは将来性が全く違います。あとは……あなたの様子から察するに、今ですら、まだまだ手札をお持ちのように見受けられますが」


 う、この人、なかなか鋭いかも。


「あはは、どうでしょうね? ご想像にお任せします」

「なるほど、それでは、今後のご活躍を楽しみにしていますね」


 下手な誤魔化し方で逃げようとする私に対して、シャイロックさんはそれに乗って深くは追及しないでいてくれた。ただ、何か思いついたらしく、人差し指を一本だけ立てて私に示してきた。


「――あ、そうだ。一つだけ、あなたに注意して頂きたい事があります」

「はい?」

「今はまだ、あなたの力を知る人は少ないと思います。しかし、近い将来、必ずフライブルク中、いや、もしかすると国中で、あなたを知らない人はいないくらいになるでしょう。そうなると、あなたを手に入れようとする人間が、昼夜問わず日参する事になるでしょうね」


 色々つきまとわれたらイヤだなぁ……と、想像した私は、思わず顔をしかめてしまう。


「なので、変な人間に引っかからないよう、今後、近づいてくる人間には注意する事をお勧めします」


 そしてシャイロックさんは、またニコリと笑って言葉を続けた。


「もちろん、私も例外なく、です。私としても、ぜひアニーさんとは、この縁を生かして協力関係を結んでいきたいと考えています。しかしそれが、あなたにとって有意義な関係であるか、よく検討される事をお勧めしますよ。もちろんその結果、お断りされたとしても、残念ですが、恨むことはいたしません」


 シャイロックさんはそう言うと、真面目な顔になって、少し遠い目をした。


「ただ……私の娘に関しては、あなたを利用してやろうとか言った気持ちは、全くありません。願わくば娘との交流は、私とは別枠として考えていただけると助かります」


 シャイロックさんの言葉に納得した私は、大きく頷いた。


「なるほど、おっしゃりたい事はよく分かりました。――ともあれ、今は帰省中なんですよ。もし伺うことがあったとしても、休み明けですね」

「ええ、こちらはいつでも大歓迎ですよ。お待ちしています」


 と、シャイロックさんが軽く頭を下げたところで、馬車は私が住んでいるシュタインベルク村と、フライブルクに分岐する分かれ道にたどり着いたようだった。

 私はシャイロックさんにそれを伝えて馬車を止めて貰う。


「それでは、本日はありがとうございました。改めてのお願いになりますが、ぜひ一度、我が商会に遊びにいらしてくださいね」

「ええ、まあ、考えておきます」


 私はフライブルクの方に向かって走り去る馬車を見送り、彼らから私が見えなくなったであろう事を確認してから、離陸して領主館に帰って行った。


 うーん、ジェシカさんかぁ……そこまで憧れられているのは、まあ、嬉しいと言えば嬉しいんだけど。休み明けに皆にこの商会の事を聞いて、それから行くかどうか決める事にしようかな?

 次回予告。


 長期休みもいよいよ終わり。私は最後に試したかった事として、村とフライブルクの間を飛んだ場合の移動時間を計ってみることにした。人目に付くのは想定内だったんだけど……


 次回「空の上からこんにちは!」お楽しみに!

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