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59.空を飛ぶにはどうすれば?

 はい、タケコ××ー!という章です。


 ところで、先日新しい評価をいただきまして、総合評価が初めて三桁に載りました。読んで下さっている皆様には、感謝の言葉もございません。

 引き続きよろしくお願いします!


※2019/8/6 スマホフレンドリーに修正しました。

 チャリティイベントも無事に終わり、学校は年末年始の冬休みに入っていた。

 10日間ほどではあるけれども、長期休みという事で、私は実家であるリチャードさんの領主館に戻っている。

 同じく下宿暮らしで、実家が無いシャイラさんも領主館に誘ったんだけど、バイトは変わらずある、というより逆に、休みの間に集中して稼いでおきたいとの事で、そのまま下宿に残っていた。


「久しぶりのゴロゴロ……」


 私は朝食を食べ、片付けを済ませた後にベッドに寝転がり、そのまま昼寝に入りそう……だったんだけど、鉄の意志でなんとか押しとどめる。

 そう、この休みで、私はなんとか空を飛ぶ方法を編み出しておきたかったのだ。

 なので、私は自分の頬を両手で二、三回叩いてから、ベッドを抜け出して中庭に向かって歩いて行った。



              ◇   ◇   ◇



「さて……どうやったら飛べるかな? 空中に浮くだけなら簡単なんだけど、そこからの移動手段が問題なんだよね」


 まず、基本となるのは、浮遊(レビテーション)

 これは、術者、あるいは術者の近傍にある物体を、空中に浮かせる魔法。

 ただ、移動能力は著しく低く、這いずり回る速度くらいしか出す事ができない。これじゃ歩いた方がはるかにマシだ。


 でも、空中にいる状態では抵抗が少ないから、外部から力を与えられれば、それを維持できる事が分かっている。

 これまでに見たり試したりした方法は三つ。


 一つは、お泊まり会の時にクリスが試した、壁を蹴って進む方法。

 もう一つは、警備隊との練習の時に使った、爆裂弾(エクスプロージョン)による爆風を使う方法。

 最後の一つは、こないだのチャリティイベントで使った、ブン投げられる方法。


 私はまず最初に、クリスの方法を試してみることにした。


「要するに、超低空で浮いて、足で蹴って進むって事だよね……?」


 私は浮遊(レビテーション)を唱え、5センチほど浮いてみる。

 片方の足は浮かせたまま、もう片方の足をつま先立ちにして、地面を蹴ってみた。スケート靴かスキー板でも履いているかのように、超低空をすいっと前進する事ができた。


「ふーむ、一応、(なめ)らかに移動はできる……」


 クロスカントリーのように、両手にストックを持ってもいいかもしれない。


「でも、だめだよね、これ」


 速度に関しては、普通に走る速さで精一杯だし、かなり整った地面でなければ綺麗に進めないし、体力の消費は少なめとはいえ、浮遊(レビテーション)の維持でマナを使い続けているわけだし。

 これはこれで、今後使える状況はあるかも知れないけど、少なくとも飛行にはなっていないと思う。


 警備隊との練習で使った、爆裂弾(エクスプロージョン)の爆風は、もちろん常用としては論外。

 防御(シールド)で守らなければダメージを受けるし、空中で爆裂弾(エクスプロージョン)を炸裂させるには何かぶつける必要があるし、そもそも爆音がやかましいし、マナ効率は最悪だし。


 最後のブン投げられる方法は、ブン投げる人がいないので却下。投石機(カタパルト)みたいなので飛んで行けば行けるかもしれないけど、投石機なんて、完全に地面に固定する装備だよね?


「と、なれば、やっぱり何かの魔法で押してやるしかないなぁ……」


 ブレス系は基本ダメだと思う。反動が使えればいいんだけど、ブレス系の反動って魔法陣が引き受けてしまうから、術者には来ないのよね。普段使う分にはいいんだけどね? 噴射中の反動を(こら)えなければ吹っ飛んでしまう、なんて仕様だと、使いづらくて仕方が無い。

 あー……反動はナシとしても、向きをこちらに向けられたら、その勢いは使えるかもしれない。


 そう思った私は、食らってもダメージがない、風の魔法の詠唱を開始した。


「"マナよ、力強き突風となりて我が前に姿を現せ"」


 魔法の発動場所を背中側、しかもこちらに向かって吹くように設定してみた。


「――突風の息吹(ウィンドブレス)!」


 (ごう)、と、魔法陣から強烈な風が吹き出す。

 そして私はそれに煽られて、はじかれたように前進した。


「うわっと! ――あれ? 消えちゃった」


 一応、少し移動はできたものの、術者である私自身から離れすぎた魔法陣が消えてしまった。

 ブレス系の魔法は至近距離でないと維持ができない特性があるのを忘れてた……


 どっちみち、移動に使うには何回も唱えないとダメだし、衝撃がきつくて割とつらい、これ。

 うーん、じゃあ、もっと範囲が広い魔法、これなら……


「"マナよ、この地に吹き渡る風を司る力を我に与えよ"――風力制御(コントロールウィンド)


 これは、直径と高さがそれぞれ30mの円柱の範囲内で、風を制御できる魔法。場所に対して発動できるため、私との距離は関係無い。

 中庭をすべて覆い尽くすほどの範囲で風が吹き渡り、私を斜め上に放り投げた――水平だと、建物にぶつかるからね?

 私は放り投げられた勢いのまま、中庭から建物部分を飛び越えて外にまで吹き飛んでいく。もっとも、すぐに空気抵抗で速度は落ちてきてしまうのだけど。


 うーん、加速もそこそこマイルドだし、それなりに遠い距離まで移動できるし、まあ、ありと言えばありなのかも知れないけど……やっぱり、間欠的に加速しなきゃならないし、残った風の領域がはた迷惑だし、後ろからの風に吹かれて進むと言うのは、やっぱり見た目悪い気がする。髪もぼさぼさになるし。


 あと、私は使えないけど、世の中には天候制御(コントロールウェザー)と言う魔法もあるらしい。これならマイル単位で天気や風を制御できるそうだけど、流石に、個人の移動にそんな事するのは……ねぇ?

 でも、そのレベルまで来たら、帆でも持って飛んだら効率よく進めそうな気はする……



              ◇   ◇   ◇



「ううーーーん……」


 心当たりのある魔法を使い切ってしまった私は、昼食後、図書室の椅子に座って頭を抱えていた。

 机の上には、棚から取り出した本がいくつか積み上げられている。


姉様(ねえさま)、お悩みのようですね」


 そんな私に、アレックスが声をかけてきた。


「うん、浮遊(レビテーション)で浮いたところに、外部から力を加えると飛べそうなんだけど……その力をどうやって与えるか思いつかなくてねぇ」

「外部からの力、ですか? 風を吹かしてみるとか」

「それはもう一通りやった……」


 と言って、ぺしゃっと顔を机につける。冷たい机が頬に当たって気持ちいい。

 アレックスは、そんな私を見つつ、「なるほど」と言ってから口調を変えて言葉を続けた。


「――それで、中庭があんなに荒れてたんですか?」

「う……荒れてた?」


 やばい。確かに、中庭一杯に暴風吹き荒れさせたからなぁ。


「ええ、突風でも来たのかと思っていましたが……姉様でしたか」

「ご、ごめん」


 すでに頭は机につけているので、これ以上頭は下げられないけど、とりあえず額をゴンと机にぶつけておく。


「まあ、あとで片付けておきますから、いいですよ……その代わり」


 と言ってアレックスは、本棚の上を指さした。


「姉様、あの棚の上の本を取って頂けませんか?」

「え、あれ?」


 天板の上に、本棚から溢れた本が一冊置かれている。天井近くまである本棚だから、とてもじゃないけど、そのままでは背が届かない。


「はい、探していた本があそこで見つけたのですが、手が届かなくて」

「はいはい、仰せのままに」


 私は本棚の下まで歩いて行き、両手を腰にやって考え始めた。


 うーん、ハシゴ……を持ってくるのは面倒だな。

 浮遊(レビテーション)で上がってもいいんだけど、今日は浮遊(レビテーション)はもうなんかお腹一杯な感じで使いたくない。

 そう思った私は、別の魔法を唱え始めた。


「"マナよ、万物を引き寄せる力の源となりてここに現れよ"――重力子(グラビトン)


 私の目の前に、小さく丸い”闇”が現れる。

 これは重力子と呼ばれる物質で、周辺の物体を引き寄せる力を持っている。そして、ある程度の距離まで自由に制御ができる。

 これだけ聞くと便利そうなんだけど、なにぶんにも力が弱すぎて、持ち上げるのは本くらいの重さが精一杯。図書室の本で覚えたものの、これまで使った事はあまり無かったりする。


「よっ……と」


 私は重力子を誘導して本の上に持って行き、ゆっくりと本に近づけた。

 すると重力子に引かれて本は浮き上がり、私はそのまま重力子を誘導して手元まで下ろす。


「はい、これでいい?」


 アレックスは本を受け取るとぺらぺらめくって確認する。


「はい、ありがとうございます。――ところで姉様」


 アレックスは本を懐に抱えて扉の方に向かおうとしたが、ふと立ち止まって私の方を振り返った。


「先程、外部からの力と言いましたが……」

「うん?」

「今使われた魔法では駄目なんですか? 確か力は弱いと伺いましたが、抵抗はほとんど無いと言う事でしたら、こちらで充分ではないでしょうか」


 アレックスの言葉を聞いて、私は重力子(グラビトン)の特性を考えてみる。

 術者相対の座標を設定できて、継続的に力を及ぼす事ができて、しかもそこそこ運用コストが低い。


「あ……いける、かも?」


 私は喜びの余り、思わずアレックスを抱きしめて叫んでしまった。


「ありがとうアレックス! 早速試してみる!」

「は、はい、お気をつけて」


 アレックスは本を懐に抱えたまま、突然の抱擁に当惑した顔をするばかりだった。

 次回予告。


 ついに、複数の魔法を組み合わせる事で、これまで不可能とされていた飛行を実現できた私。とはいえ、まだまだ研究状態、色々試しつつ、様々な不都合を解決していくのだった。


 次回「空へ!」お楽しみに!

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