56.打ち上げ中の人間模様(前編)
ちなみに、個人的にアニーの外見が一番近いかなと思っているのは、宇宙戦艦ヤマト2199の市川純です。
この話、本来は半話分の分量予定でしたが、普通の一話分以上にまでふくれあがってしまいました。なので、イレギュラーな投稿パターンとなりますが、次回と次々回は、今週木曜、来週月曜の形で投稿を進めていきます。
※2019/8/5 スマホフレンドリーに修正しました。
チャリティイベントは無事に終わり、近所の飲食店を借り切って打ち上げが行われている。
――もう警備隊はいないんだから、スレイとフランシスも参加してれば良かったのにね?
とか思いながら、私は独り、壁の花状態で料理と飲み物を満喫していた。
打ち上げに参加しているのは、男性6割、女性4割って所。
年代で言えば、年寄りは余りいないみたいだけど、私と同年代から中年一歩手前くらいまでが満遍なく居る感じ。
もっとも、初等学校も卒業してないような子供は、基本不参加のようなので、事実上、私たちが一番若いかな。
なんとなく年代別に分かれている感じではあるんだけど……何故か私の周りは男の子ばっかり。いや、確か、始まったときはもう少し女の子いたよね? そしてその割りに、話しかけて来たりしない。まったく失礼な!
とか考えながら口を尖らしてフォークをくわえていると、横から声を掛けてくれた人がいた。
「お嬢ちゃん、今日はお疲れさん」
「あ、大工のおじさん」
大道具とかを仕切ってくれていた大工のおじさんだ。普段は棟梁をしているみたいで、若いボランティア達にビシバシ的確な指示を出してた記憶がある。
「なんだかご機嫌斜めみたいだな。どうかしたんかね?」
「いやあ、男の子大勢居るわりには、声を掛けられないなーと思って」
「すまんね、こんなおっさんが声を掛けて」
はっはっはと笑いながら、白髪交じりの角刈り頭を掻いている。
「率直に言うと……若い子には、お嬢ちゃんは少し怖いんじゃないかな」
「え、怖い……ですか? わたし?」
思っても見なかった言葉に、私は首を傾げた。
「お嬢ちゃんは戦闘をこなす冒険者学校の学生さんだろ? しかも、魔法は使えるわ、あの二人組とも臆せずやり合えるわ、同年代の若いモンじゃ気後れするってもんだろ」
「あー……そういうモンなんですかねぇ。てっきり、余りにパッとしていないから、声を掛ける価値無しって思われてたのかと……うう」
と、自分で言っておきながら、自分でダメージを受けてがっくりと肩を落とす。
「そんな事ぁないと思うぜ? うちの母ちゃんの若い頃には及ばないとしても、ま、十人並みくらいには……」
「それ、褒めてないですよ?」
「すまんな、もちろん冗談だ。――ま、こんな壁でじっとしているよりも、中を動き回った方が発見もあるんじゃないかね」
私はしばし考えた後、小さく頷いた。
「うーん……そうですね、そうします。あ、今回は大道具作成、ありがとうございました!」
「ああ、こちらこそ、色々面白い物を見せてもらって、ありがとうな。また、一緒にやれるといいな」
「はい!」
私はおじさんにぺこりと頭を下げ、コップ片手に人混みに分け入っていった。
◇ ◇ ◇
――さて、知っている顔は……と。あ、一人発見。
「マリア、お疲れ様!」
マリアは教会関係の人と話をしていたけれど、私の顔を見て手を振ってくれた。
「アニーさんこそ、お疲れ様でした! アニーさんの魔法のおかげで特殊効果も凄く派手になって、皆さん楽しんでいましたよ!」
「それはよかった。でも、ホントに教会の劇で、”悪の魔女”が勧誘して良かったのかなぁ?」
私の疑問に、マリアはガッツポーズつきで答えてくれる。
「悪の魔女はちゃんと倒されて、正義は勝つ事を証明してくれましたから、大丈夫ですよ! 次回もぜひお願いします! 普通の宗教劇でもいいですよ!?」
「ま、まあ、考えてはみるよ……」
しかし、宗教劇で私の役は何になるんだろうか……東方より来たりし三賢者、とか? まあ、それは言い過ぎだろうけど。
おっと、司会をやったり、責任者の神官さんを補佐する役目もやっていたせいか、マリアに話しかけに来る人は結構多そうだ。ここで私が拘束するのも申し訳ないな。
と思った私は、早々に話を切り上げることにした。
「千客万来だね。それじゃ、また明日、学校で」
「はい! また明日!」
◇ ◇ ◇
手を振ってマリアと別れて、さて、次は……と。今度は、見事なプラチナブロンドが目立つ後ろ姿を発見した。
「あー、クリス、お疲れ様」
クリスはなにやら食べながら、複数の男の子に話しかけられているようだ。どちらかというと、話半分に聞いてる感じかな。
私の顔を見ると、あっさりと「あ、連れが来たから、ほなな?」とか言ってこちらに来てくれた。置いてきぼりの男の子たち、ちょっとかわいそうかも。
「アニさんこそ、お疲れさん。しかも事情聴取があったんやって?」
「そうなんだよね。本物のハニーマスタードが出て、寄付金泥棒を捕まえたらしいよ。スレイさんが見ていたらしいんだけど、なぜかわたしに事情聴取を押しつけて逃げちゃってねぇ」
「あらまあ、てっきりアニさんが捕まえたのかと思ってたわ」
クリスの誤解を私は全力で否定する。まあ、正確に言えば正しいんだろうけど。
「今回は私は傍観者だよ! スレイさんもフランシスさんも、打ち上げに来れば良かったのに」
「まあ、あの二人ならしゃあないわなぁ。――そいやアニさん、あの辺の料理、もう食べた?」
と、クリスは私の後ろの方に並べられている料理を指さした。
「うん。さっきいただいたけど美味しかったよ」
「お、そらええな。悪いけど無うなる前に取ってくるわ。ほなね」
「うん、また!」
と言う訳で、クリスはお皿を片手に料理の方に去って行った。どうも今日は食べ尽くしに来ているみたいだ。
次回予告。
チャリティイベントの打ち上げは続いている。人混みの中、シャイラさんを発見したのはいいものの、彼女はなんと、私に向けて支援要請を発していたのだった。
次回「打ち上げ中の人間模様(後編)」お楽しみに!