6.一緒に入学できるといいですね!
今まで作品情報ページでしか読者様の動向を確認しておらず、読まれているのか読まれていないのかよく分かっていませんでしたが、アクセス解析で読んでいる人がいらっしゃらない事はない事がわかりました。
非常に心強く思っています。
ただ、そうなると、ブックマークやレビューされない問題が出てくるのですが……頑張ります。
ところで、この話で新キャラがまとめて登場します。濃いめです。
※2018/9/13 (試験中でも)お友達を作りたい!から改題しました。
※2018/12/14 微調整しました。クリスの言葉が南方→西方ナマリに変更になりました。マリアの口調が現行版に改訂されました。
※2018/12/27 次回予告を追加しました。微調整を加えました。
※2019/8/3 スマホフレンドリーに修正しました。
午前中の試験を終えて、玄関から出てみると、リチャードさんがもう木陰で待っていた。
「やあ、アニーくん。お疲れ様」
「すみません、待たせてしまいました?」
「さっき着たところだからお構いなく」
私は鞄からお弁当の包みを取り出して、リチャードさんに提案する。
「お昼休みに中庭を使っていいと聞きました。そちらでお弁当、食べませんか?」
「なるほど、それはいいね。ではまず屋台で飲み物を買ってこようか」
その辺の屋台でシードルのジョッキとコップを調達して中庭へ。ランチ用と思われる、テーブルとベンチを使わせて貰おう。
ハムサンドの包みを広げて、まずはシードルをコップでごくり。軽い炭酸と酸味が口の中をすっきりさせる。
そしてアレックス謹製のハムサンドをぱくり。ディジョンマスタードが利いていて、酸味と辛みが鼻に抜ける。ちょっと蜂蜜が入っているらしく、ただ辛いだけでないのもポイントが高い。それをまた、シードルで洗い流す。うーん、この飲み物、ハムサンドに最適だ!
リチャードさんも同じように食べ始めている。ちょうど飲み物を飲んだタイミングで、リチャードさんが試験について聞いてきた。
「さて、試験はどうだった?」
「筆記試験は特に問題なく終わりました。面接もそれほど問題は。魔法に関する質問も、使えるかどうか、という事しか聞かれていませんね」
リチャードさんは、少し肩をすくめて答える。
「なるほど、最初の面接としては妥当なところかも知れないね。レベルに関しては、入学後追々分かっていくから問題ないという事だろうね」
「あと、剣術の実技試験において、素手ではなく、なにかしら武器を選ぶように言われています」
それを聞いて、リチャードさんは口に手をやって考え込む素振りをする。
「なるほど、素手ではどうにもならないという事か」
「ご存じの通り、わたしは武器は全く使ったことがないのですが……どうしたらいいでしょう?」
「そうだな……まず、アニーくんの場合、腕力は年相応……よりも低いくらいだから、片手剣などはやめておいた方がいいだろう。重さに振り回されて、下手すると受けただけで怪我をする」
リチャードさんの言葉に、私は小さく頷く。腕力のなさには自信があるからね!
「いわゆる両手棍、クォータースタッフならいいんじゃないかな。剣術未経験者を実技試験でどう見るか、という事を考えると、軽く斬りかかってどう躱すか、などを見たいのだと思う。腕力がなくても扱いやすいクォータースタッフで、なんとか一撃を躱すことができれば、十分合格点になるだろう」
そしてリチャードさんは周囲を見てなにか武器の代わりになるものを探したが、見つからないので腰から小剣を鞘ごと取り出した。
「今ここにクォータースタッフはないから……この小剣をこのまま両手で持って使ってみようか」
そろそろ食べ終えていたので、私は小剣を受け取り、両手棍に見立てて、両手で構えてみる。
「そう、目の前に斜めにして構えて。相手がこう斬りかかるから――」
リチャードさんは、”エア長剣”で、ゆっくり斬りかかるふりをする。
「こんな感じで受け止める、と。手を斬られないようにね」
「なるほど、ありがとうございます」
「たぶん、一回受けられればそれで試験は終わると思う。もちろん、受けられなくても合否には影響しないと思うけどね。ともあれ、これで少しイメージできていると、試験の役に立つだろう」
リチャードさんに小剣を返し、お昼ご飯の後片付けをする。
「私はまだ寄る所があるから、試験が終わったら、また玄関で落ち合おう。悪いがジョッキとコップを屋台に返しておいてくれるかな」
「はい、わかりました」
「泣いても笑ってもあと少し、がんばるんだよ」
「はい!がんばります!」
リチャードさんは笑いながら私に声を掛けて、また外に出て行った。私の方はジョッキとコップを屋台に返し、受験生控え室へ戻っていく。
◇ ◇ ◇
男女比が10対1という事もあり、何となく女の子だけ4人で固まって座っていた。
一人は紅茶の国方面出身なのかな。長身で長い黒髪に黒い瞳、小さい頭にすっと通った鼻筋。少し気がきつそうだけど、本当に美人さんって感じ。
もう一人は、北方出身なのかな? さらさらしたストレートのプラチナブロンドに透き通るような肌、青い瞳、まるで妖精のように可愛い娘だ。
最後の一人は、聖職者の服を着た割と小柄な感じの女の子。失礼ながら、赤毛で垢抜けない感じが、私のお仲間っぽさを感じる。
緊張のせいか、お互い目は合わせていない。
午後の試験が始まるまでには、まだ少し時間があるし、せっかくなので、他の女の子に話しかけてみる事にしようかな。
冒険者志望の女の子って、村で見たことなかったし。
「あの……はじめまして」
女の子3人全員、顔を上げてこちらを見た。
「皆さん、冒険者志望でしょうか?」
正直言って、女性の専業軍人志望は少ないと思うので、それを踏まえた質問。
と、北欧系妖精さん的な子が話し始めた。
「うちは――せやな。冒険者志望や」
あれ? 見た目に違わず、鈴の音がなるような、すっごい可愛い声なんだけど、なんだかアクセントが特殊な気が……
「なに、自分も見た目にだまされる口?うちかて好きで喋りと外見にギャップがあるんと違うで。親から受け継いだ血ぃ言う奴やな。外見も喋りも。お陰さんで、ご近所さんでは有名な、喋らんかったらなぁ、という前置きがつく人生やわ。――それはそうと、他人になンかモノ聞く時には、まず自分から喋るもんと違うか?まあええわ、自分が先陣切ってくれたお陰で喋り易ぅなったし、とりあえず、うちの自己紹介しとこか。うちはクリスティン、クリスでええよ。フライブルクのダウンタウン在住。見ての通り……言うても普通の服やからわからんわな。軽戦士志望や。斥候とかもできるで。まあ、今ン所はこんなもんかね。ほな次、自分、頼むで」
凄い勢いで喋られて、最終的に指さされた。え、ちょっと待って、ギャップが……
「え、えーと、ごめんなさい、今、一瞬ついて行けてなかった」
男の子も含めて、みんな呆然としてその娘の方を見てる。まあ、そうだよね。
「わ、わたしはアニーと言います。シュタインベルグ村から来ました。見ての通り、魔術師の冒険者志望です。魔法もそれなりに使えます。体術は習っていますが、剣とかはさっぱりです。よろしくお願いします」
と話して、ぺこりと頭を下げる。
「アニさんやな、よろしゅうに。ほな次、あんた」
と、今度は紅茶の国の人を指さす。
「わ、私か。私の名前はシャイラ、シャイラ・シャンカーと言う。紅茶の国出身だが、故あって、この国で学ぶ事となった。剣士と考えて貰っていい。無論、この地で軍人になるつもりはない。なので、冒険者志望と考えて良いのかな。やはり女性が少ないようだが、皆受かるといいな。よろしく頼むぞ」
良かった、シャイラさんは見たとおりの人だった。いかにも格好いい系の剣士さんだ。もしかしたら、地元ではお貴族様とかだったりするのかも。紅茶の国の剣士ってどうやって戦うんだっけ?砂漠の国とかだと、すごい薄着の絹織物を着た女性の、新月刀とかでの剣舞が有名だけど、紅茶の国とは結構離れてるよね。
「ほうほう、シャイさんかね。 よろしゅう。ほな最後はあんたやな」
最後に残った赤毛の人を指さした。
「初めまして、マリアです!至高神の神官見習いです!この街のダウンタウン在住です!この街では、残念ながら至高神の神殿は余り大きくなくて、訓練が難しいから、こちらで勉強したいと思ってます!」
商業都市だけに、商売神は大盛況なんだけど、至高神は微妙に人気ないのよね……
「おおきに。マリさん……いや、マリやん、でええかな」
と、クリスさんは大げさに腕を組んで考え始めた――というより大声で独り言を言い始めた。
「ふむ、剣士、軽戦士、魔術師に神官かいな。こらまた計ったようにええバランスのパーティやな。強いて言えば、受け止め役がおらん問題があるが――ま、なんとかなるやろ。ほな、みなさん、よろしゅうに。うっかり落ちて、パーティのバランス崩すんやないで。特にあんたや、アニさん。魔術師抜けたら、目も当てられんで」
ま、また矛先が戻ってきた。
「は、はあ……がんばります。皆さんも、よろしくお願いします。一緒に入学できるといいですね」
とりあえず、顔見知りにはなれたと思う。いろんな人がいるもんだなぁ。
ホント、みんな一緒に入れるといいよね。
と、そこで、先生が戻ってきて、昼休みの終了を告げ、交流タイムはお開きとなった。
◇ ◇ ◇
さあ、次は魔術の実技練習だ。
「魔術の実技試験は、練習場で行われます。皆さん、一列になって私についてきてください。荷物は持ってきて頂いて結構です」
ぞろぞろ並んでしばし歩くと練習場にたどり着いた。敷地の都合か、一階の土間で、そこそこ広い部屋が使われている。
「何らかの魔術が使える人は、右の列に並んでください。そうでない人は左の列へ。本試験は見学となります」
右の列に並んだのは、私と神官のマリアさん、男の子が3人……50人近くいて、少なくない?こんなもんなの?
「まず、これを持っていてください」
30cmもない、短い白木の棒を渡された。
「これに対して、照明の呪文をかけてください。他の呪文がいい場合は、その旨言ってくださいね」
照明は、術式魔法、神聖魔法共通で存在し、たいていの人間が最初に覚える呪文。仮に暴発しても誰にも危害が与えられないため、確かに試験には適切かな。
「前から順番に。まずは君から」
先頭の男の子が指名された。
「はい!」
左手に白木の棒を持って目を閉じ、右手を軽く動かしながらささやくように詠唱を行う。
棒の先頭部分を輪切りにするように、赤く光る小さな魔法陣が形成される。
「"マナよ、光となりて我が前を照らせ"――照明!」
呪文を唱え終えると、魔法陣は収束し、木の棒の先端部分が光り始めた。
無事発動できたようだ。
「お見事」
試験官は一言言い、結果をメモに残している。
見学者はもしかすると初めて見たのかも知れない術式魔法の発動に、どよめいている。
「次は君」
「はい!」
二人目の男の子が詠唱を開始する。
ただ……術式に間違いがあったのか、魔法陣が形成されたかと思うと、割れて消失してしまった。失敗だ。
「あ……すみません、もう一度やらせていただけますか!?」
「ああ、構わないよ。あと一回だけ」
男の子はもう一度詠唱を開始する。
「"マ、マナよ、光となりて、我が前を照らせ"――照明!」
今度は、たどたどしくも正しく詠唱できたのか、問題なく呪文は発動した。
ただ、二回の呪文の詠唱でマナを消費してしまったのか、男の子の顔色は少し悪く、脂汗が出始めている。
「うん、成功。でも君は少し座っていなさい。マナをぎりぎりまで使ってしまっているのでは」
そして、もう一人の男の子も、問題なく発動できていた。
次は、マリやん……もとい、マリアさんの番だ。神聖魔法って見たことないけど、どうやって使うのかな?
彼女は木の棒を床に置き、跪いて両手を組み、祈り始めた。
「"偉大なる至高神よ、汝が使徒をその御光で照らしたまえ"――照明!」
あ、最後は一緒なのね。ともあれ、魔法は無事に発動し、白木の棒は光り始めた。
それにしても、こう言っちゃなんだけど、神様も大変そう。棒一つ光らせるのを頼まれたりして。
(そうでもないぞ。余に声を届けられる人間は、そう多くないものでな)
ふーん、そんなもんなんかね。――あれ?今、誰か喋った?耳元で何か声が聞こえた気がするけど。
きょろきょろ見回して見たけど、そんな声を出しそうな人間は、周囲に誰もいなかった。
気のせいかなぁ?うーん。
「では、君で最後かな」
おっと、自分の番をすっかり忘れていた。
「はいはい、むにゃむにゃむにゃ、照明っと」
面倒なので、呪文は唱えた振りしてそのまま短縮発動。さすがに目の前で詠唱無しだと怪しまれるからね。
「む……今ので、発動、できてるのか。ちょっと棒を見せてください」
勿論、普通に発動させているので、試験官に素直に棒を渡す。
「ふーむ、問題ないようですね。分かりました。ありがとうございます」
いろんな角度から棒を見て、光量なども問題ない事を確認したようだ。
これで魔術試験は、問題なく完了したみたい。
次は、最後の剣術試験を残すのみ!
クリアするぞ、おー!
アクセントはこの世界観の西方訛りです。当方、似非関西人につき、あくまでフィクションと言う事で……
次回予告。
ついに剣術試験に突入した。シャイラさん、クリスさん、マリアさんは試験官と真っ向から対峙して試験に挑んでいく。そんな中、私は思いも寄らなかったトラウマに遭遇し、思わず"業火の息吹"を詠唱してしまう。
次回「やだ……こない……で!」お楽しみに!