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50.白の奇術師のマジックショー!

 文字でのマジックの表現。うまく伝わっているといいのですが……


※2019/8/5 スマホフレンドリーに修正しました。

 あっと言う間に時間は過ぎ、ついにチャリティショーの当日となった。


 午前中は聖歌コンサートや典礼劇など、宗教色の強い出し物が行われ、午後からはエンターテイメント性の強い出し物が行われるようになっている。私たちの劇はもちろん午後の部だ。


 例年であれば、ささやかな大きさの教会の中で、こぢんまりとした感じで行われているらしいんだけど、今回は、デイビス商会の後援のおかげで、街の中心の広場で特設ステージを作って行われる事になってしまった。


 舞台袖から観客席の方を覗いてみると……特設観客席が人で一杯になっている。例年だと多くても100人と考えて……10倍、20倍? もっとかも知れない。絶対、街の人だけじゃなくて、近郊の村々からも来てる気がする。うーん、デイビス商会の宣伝力、恐るべし。



              ◇   ◇   ◇



 そんな事を考えているうちに、昼五つ(午後2時)の鐘が鳴り響いた。さあ、いよいよ午後の部の始まりだ!

 当初の予定では、教会の神官さんが午前午後を通して司会をする予定だったんだけど、責任者として来賓の対応に追われてしまい、結局、午後の部の司会は、マリアがやる事になってしまった。


 緊張した面持ちで袖から舞台に上がろうとするマリアの肩を、私たちや教会の皆さんが励ますようにポンポンと叩いて行く。

 マリアは私たちの方に向かって、右拳を上げて頑張るぞって言う感じのポーズを見せてから、舞台に上がっていった。


 割と地味でちみっちょいマリアが舞台に上がってきたので、少しほほえましい感じで観客から拍手がわき起こる。


「本日は、至高神教会主催のチャリティショーにようこそいらっしゃいました! これより午後の部を開始いたします。これからの司会進行を勤めさせて頂く、マリアです! よろしくお願いします!」


 さすがは教会での練習を経ているからか、何気に遠くまで通るいい声をしている。

 マリアの声を合図に、再び拍手がわき起こる。それが一通り収まったところで、マリアはこれから行われる演目を観客に告げた。


「最初の演目は、白の奇術師のマジックショーです! 私も何をやるか聞かされていないので、楽しみです! さあ、白の奇術師さん、どうぞ!」


 なんでも、白の奇術師とか言う人が来て、ショーをしてくれる、と言う話は聞いていたんだけど、どんな感じのショーになるのかは全然聞いていない。練習やリハーサルでも姿を見せていなかったし。


 とか考えていると、反対側の舞台袖から、目の部分だけを覆う仮面をつけた、白いベレーに白いインバネス・コート、白いチュニックと、とにかく白ずくめの男性と、同じく仮面をつけたメイド服の女の子が舞台に現れた。

 この男性が白の奇術師さんと言う事なんだろうけど……


 うん、どう見ても、リチャードさんにアレックスにしか見えない。と言うか、仮面をつけただけで、まるきりいつもと同じ格好なんだけど。

 出るなんて、聞いてなかったよ? そもそも、奇術が出来ると言うのも初耳だし。


 左右に首を振りつつ、頭の中でハテナマークがぐるぐる回っている私を尻目に、舞台に上がったリチャードさんとアレックスは、観客に向かって大仰に一礼した。

 それを合図に、舞台脇に控えていた楽団がリズミカルな曲の演奏を開始する。


 さあ、白の奇術師……というか、リチャードさんのマジックショーの始まりだ!



              ◇   ◇   ◇



 リチャードさんは、まず舞台に用意されたワゴンの上から、直径30cmくらいの金属のリングを4つ取り上げた。


 一つを右手に持ち、もう一つを左手に持つ。そして、ひょいっと二つをぶつけると、何故か輪を通り抜けて、二つが鎖のように見事に連結されてしまった。

 そして、少しの間リングをぐるぐる回したかと思うと、またひょいと二つに分離する。

 うーん、見たところ、ホント継ぎ目なんか全く見えないのに、通したり通さなかったり、どうなっているんだろう?


 その後もリングをくっつけたり外したり、繋がっている筈なのに、すとんと通り抜けて落ちてしまったり、リチャードさんはさまざまな演技を繰り広げた。


 私は舞台袖から、音が出ないように拍手する。もちろん、観客席の方からも拍手が聞こえてきた。


「ほう、これはリングマジックだね」


 隣で舞台を覗いていたシャイラさんが、ぽつりと呟いた。


「知っているんですか? シャイラさん」

「ああ、以前、私の誕生日に父上が演芸団を呼び寄せた事があってね。その時に見たことがある。確か……絹の国(セリカ)発祥の奇術だと聞いている」

「へえ、じゃ、ちゃんとした奇術なんですね」


 正直、自主開発した宴会芸かと思ってた。


「ああ、勿論そのときに見たのはプロの奇術師だったが、リチャードさんのこれもそれに勝るとも劣らない腕前のように見えるね」

「観客の前に立つなんてのは、リチャードさんの一番嫌いな事だから、他で使う機会もないだろうし、なんでできるんだろう……」

「アニーくんの保護者殿も、なかなか謎が多い人物のようだね」

「私たちの前では、割と普通なんですけどねぇ」


 手元でリングを操る曲芸が一段落付いたところで、リチャードさんは二つのリングをアレックスに渡した。残り二つのリングは、リチャードさんの左手と右手に持っている状態になっている。

 リチャードさんは、左手のリングを上にぽーんと放り上げてから、落ちてきたところを右手に持ったリングを一閃。きぃんといった軽い音とともに、見事に連結される。


 次に、少し離れた所に立っているアレックスに対して、リチャードさんの方に投げるようにジェスチャーで指示をする。

 アレックスは頷いて、リングを持った腕を下から大きく振り始めた。


 1、2、3、のタイミングでリングを二つとも、リチャードさんに向けてぽーんと放り投げる。

 リチャードさんは飛んできたリングに対して、またしても右手のリングを一閃、見事にこれも連結してしまった。


 ここでリングを使った曲芸は終わったらしい。リチャードさんとアレックスは観客に向かって再び大仰に礼をした。

 そして観客は二人に対して、大きな拍手でそれに応えたのだった。



              ◇   ◇   ◇



 リングを舞台脇のテーブルに置いた後、リチャードさんは同じテーブルから大きめの本を取り出した。

 リチャードさんは舞台中央に立ち、観客に向かって、その本を開いて、見開きページを見せているようだ。残念ながら、舞台袖からは本の内容は角度的に見る事ができない。

 そして、背表紙を片手でぽんと叩くと……本の中から、いきなり数匹のチョウチョが飛び出した。


「本に挟んでいたのかな?」


 と、ぽつりと呟くと、今度はクリスがそれに対して答えてくれた。


「流石にああやって見開きで見せた状態では、本に隠すのは無理なんとちゃうかな。一般的にこう言うんは、大きく見せた部分には何も無くて、観客がそれに気ぃ取られてる間に、見えないところで、何ンかやってる事が多いんとちゃうかな。袖口から出したり、とか。白づくめと言う事は、白い物なら紛れて分かりづらい利点があるわな」

「クリスも奇術とか詳しいの?」

「あー、うちはそういうのは専門外やね。そらまあ、ここフライブルクは海外交易での拠点でもあるし? 演芸団やらなんやらが公演しに来たりする事も多いけど、うっとこは家族で見に行くような余裕はなかったからなぁ。ま、騙されンようにするには、騙しのテクニックも知っとかんといかん、言う事やね」

「うちも、フライブルクまで見に行く事は無かったかなぁ。お祭りの時に、村に来てくれる雑伎団みたいなのなら見た事あるけど」


 今度は、シルクハットをテーブルから取り出し、中身に何も入っていない事を示した。そして、アレックスがシルクハットを捧げ持ち、その上に本を開いてかぶせる形で置く。

 ジェスチャーで1、2、3と数え、再び本の背表紙をぽんと叩く。


 本をシルクハットから外し、何も無いのかな……と思ったら、シルクハットから二つの長い耳がぴょこんと飛び出した。白ウサギだ!

 リチャードさんは、シルクハットに手を入れてウサギを取りだし、観客に披露して見せた。そして、拍手を受けながら、ウサギをアレックスに手渡しする。


「これも普通に考えたら、シルクハットに細工があって、中に入ってたんやろけど、な。流石にこの距離と角度では、仕掛けまでは良ぅわからんわ」


 今度は別のページを開いて、またぽんと叩くと、白い鳩が飛び出してきた。

 いや、チョウチョなら本の間に生きたまま挟めるかもしれないけど、鳩はどう考えても入らない、はず。


 リチャードさんは右手で本を支えて、左手でページをぱたぱたとめくり始めた。そして背表紙の後ろにある右手の指先で、本をぽんぽん叩いているように見える。

 すると、本から鳩がわらわらと飛び出してきて、周りを舞い始めた。

 観客の人達はこの光景を見て、どよめきと共に盛大な拍手で賞賛した。


「ちょい待ち? これはどう考えてもおかしいで? 一羽や二羽くらいなら袖口に仕込めるかも知れんけど、さすがにこの数やったら、絶対バレるはず」

「こういう奇術で花びらや紙吹雪などを飛ばすのであれば、私も見た経験はあるが……流石に、鳩は見たことがないな」

「うーん……術式魔法じゃ、こういう空間をいじる?ような事はできないはず」


 私たち三人は、その光景に驚いてそれぞれの感想をこぼす。でも私は、一つの可能性に気が付いた。


「あ、でも、暴食の鞄(グラトニーバッグ)があったっけ。あれは無限に格納できるから、もしかしたら魔法の道具なのかも?」

 マリアは司会中なので、雑談には加われません。まあ、加わっていたとしても「凄いです!」位しか言わない気がする……


 次回予告。


 リチャードさんのマジックショーは続いている。仕掛けが全く分からない奇術の連続に、私たちは考える事をあきらめ始めた。

 万雷の拍手に送られて舞台袖に引き揚げてくるリチャードさんを待ち受け、そのタネについて説明してもらおうとする。


 次回「リチャードさんのネタばらし」お楽しみに!

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