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47.ハロウィンの後始末

 ちょうど第5章がこの話で終わります。

 年末年始にも入る事もあり、このタイミングで登場人物紹介と第2章~第5章のあらすじを挟みたいと思います。

 帰省中なので、投下時間が若干ずれる可能性があります。


※2019/1/23 微調整しました。

※2019/8/5 スマホフレンドリーに修正しました。

「警備隊のアーサーと申します」


 私にとっては初めての、ハニーマスタードの時を含めると二回目の、アーサーさんによる事情聴取が始まった。私たちは一階の食堂を借りて、被害者の夫妻は二階の居間で、並行して事情聴取が行われている。

 ちなみに、強盗共は既に連行されている。恐らく詰め所なりで尋問されているんだろう。


 さて、アーサーさんの挨拶に応じて、私たちは口々に自己紹介を行った。


「クリスティンさん、シャイラさん、アニーさんにマリアさんで、皆さん全員冒険者育成学校の学生さん、と」


 アーサーさんは私たちの発言をメモに取りながら話を聞いている。


「最初に申し上げたいんですが、勝手に踏み込んだんは、うちが言い始めたことです。何か責任が問われる場合でも、うちだけに留めて頂けますか?」


 クリスの申し出にアーサーさんは片方の眉をぴくりと上げて「ほう」と驚いたように言った。そして、肩をすくめながら、あっさりと返答した。


「なに、問題ありませんよ」

「え?」


 余りにあっさりした返答に、私たちは思わず驚きの言葉を漏らした。


「冒険者ギルドの下部組織である冒険者学校の生徒は、要請に応じて冒険者ギルドの補助を行う場合もあります。なので……私が依頼して警備隊の指揮下にいたことにしてしまいましょう」


 アーサーさんは笑いながら言葉を続け、小さく両手を上げるポーズをする。


「あなた方も法的根拠を得られて、もちろんこの家の方々も助かって、ついでに私も手柄を立てた事になる。みんな幸せで万々歳ですな」


 経緯を誤魔化すと言う提案に、私は思わず口を出してしまった。


「えっと……いいんですか?」

「気にされるようであれば、これは貸しという事で、いつか返して頂ければ結構ですから。――なに、冒険者学校の期待の星に貸しを作れるんですから、私としても願っても無い話です」


 正直、この人に借りを作ると後でどんな取り立てが来るか分からないし、怖いんだけど……それより、聞き捨てならない言葉が。期待の星?


「期待の星……なんですか?」

「先日、そちらに伺わせて頂いた事がありましてね。その際に先生から一年生に有望なグループがいると言う事を聞いております。それはもう、今すぐ実戦投入しても仕事が出来そうなレベルだとか」


 学校に来たと言うのは、先日のハニーマスタードとの練習の事なんだろうね。まったく、先生たちも何を伝えてくれているんだか……


「は、はあ……恐れ入ります」


 アーサーさんは座り直してまじめな顔に戻り、落ち着いた声で話し始めた。


「さて、前置きはともかく、経緯について最初からご説明いただけますか?」



              ◇   ◇   ◇



 私たちはランタンが点いていたから訪問した事、出てきた男に疑いを持ち、さらにランタンを引っ込めた事が疑いを深めた事を話した。


「なるほど、確かにそれは怪しいですね。そして調査を試みた、と」

「そうです。まず、このマリアを玄関脇に待機してもろて、うちら三人は勝手口から入って調査を進めました」

「鍵は掛かっていませんでしたか?」


 クリスはちょっと躊躇してから、肩をすくめて質問に答えた。


「――掛かってましたが、うちが開けました」

「なるほど」


 アーサーさんは深く突っ込むこともなく、メモ書きを進めている。


 そして私たちは人質と強盗が二階に、三階には強盗のみが存在している事を掴み、三階から片付けた事を話した。


「なるほど、そちらのシャイラさんが両手杖でたたき伏せた、と」

「その通りです。余り使い慣れている武器ではありませんが、まあ、この程度ならなんとか」

「完全に奇襲だったとはいえ、お見事ですよ。さて、では残り一人はどうなりましたか?」


 アーサーさんの質問に、今度は私が答える。


「三階のドタバタを聞いたのか、わたしたちが二階まで戻ると、ご婦人を人質に脱出を計っているところでした」

「ほう」

「もちろん、迂闊に刺激して人質を害しないように、見逃しましたよ?」

「なるほど、それでマリア嬢が捕縛した、と」

「ええ、至高神の神官見習いですからね。逮捕術もお手の物です」


 アーサーさんはメモを書き終えると、手帳をパタンと閉じた。


「なるほど、事情は了解しました。確かに、あなたたちは今すぐ警備部に入っても働けるくらいの実力はありそうです。とはいえ、あなた方の安全のためにも、学生の間はこういった活動をする事はお勧めできませんよ。今回はうまく行ったからと言って、今後もそうとは限りません」


 まじめな顔で忠告した後、笑いながら言葉を続けた。


「最近では魔法少女なんていうのも現れていますが、あれはあれで規格外ですからね」


 ですよねー、と思いながら、私は曖昧に笑みを浮かべる。


「さて、こちらの用は終わりましたが……かなり遅くなってしまいましたね。こんな時間に未成年の女の子だけで帰らせるわけには行きません。部下に送らせる事にしましょう」


 まあ、滅多なことはないと思うけど、断るのもおかしいしね。ありがたく提案を受けることにする。


「ありがとうございます。それでは、私とシャイラさんは学校そばの下宿なので、そこまでお願いします。クリスとマリアは下町方面だったよね? そちらでもう一人お願いすれば無駄は無いかな?」

「分かりました、二人手配しましょう」


 そう言い残すと、アーサーさんは人を呼びに部屋から出て行った。

 あ、そうそう、私たちは仮装をしたままだった。元々の服は下宿に置いてあるから……


「下宿に置いてあるクリスとマリアの着替えは、明日学校に持って行くよ。あ、衣装は自分で持っておきたいならそれでいいよ。しまう場所が無いなら、とりあえず、うちで保管するから持って来てね?」

「ああ、それでええよ。この衣装は……おおきに。ありがたくいただくわ」

「私もそれで大丈夫です! せっかくの衣装は、もちろん、いただきます!」


 クリスとマリアの返事を聞いた所で、二人の警備隊員を連れたアーサーさんが戻ってきた。


「お待たせした。彼らに送ってもらってください。本日は協力ありがとうございました」

「「こちらこそ、御手数をおかけしました!」」


 私たちは警備の人達に送って貰い、夜も遅いのでもちろんすぐに寝る事にした。ちなみにシャイラさんの服は、流石に嵩張るのでうちで預かる事になった。

 まあ、シャイラさんはここが地元じゃないから、基本身軽でないと困るよね。



              ◇   ◇   ◇



 翌日。

 教室に入ってきたリズさんが、私たちの顔を見ると駆け寄ってきたかと思いきや、いきなり深々と頭を下げた。


「先日は、本当にありがとうございました」

「おはよう……ど、どうしたの?」


 いきなりの展開に、私たちは驚いてリズさんを見つめてしまう。

 教室にいる他の男子達も、()()リズさんがいきなり頭を下げていると言う光景を見て、雑談を中断してこちらに注意を向けているようだ。

 うーん、昨日訪問しただけで、いくら何でもこの丁寧なお礼はないと思うんだけど……

 リズさんは10数えるほどのあいだ頭を下げた後、頭を上げて私たちに説明を始めた。


「昨日、我が商会の従業員を、強盗の手からあなた方に救って頂いたと言う報告を伺いましたの」


 私は、それを聞いて納得する。あー、あれ、リズさんとこの人だったんだ。


「あー……、商人とは聞いていたけど、リズさんとことは思わなかった。まあ、確かに、リズさんちの近所だよね」

「彼は我が商会にとって、非常に有望なメンバーですのよ。それを犯罪で失われてしまっていたら、きっと多大な損害をもたらしましたわ」

「へえ、やり手なんやな。まあ確かに、あの若さであそこに一つの家を持ってはるのは、ホンマに大したもんやわな」と、クリス。


 そしてリズさんは言葉を続けた。


「つきましては、皆様にはお礼を差し上げたいのですが……」


 うん、そう来るとは思ったけど。でも要らないよね。


「わたしは要らないよ。別にお礼が欲しくて助けたわけじゃないし」

「ああ、私も同じだ」

「うちもやね。強盗(あいつら)が気にくわへんかっただけやし」

「悪を見逃さないのは当たり前ですから!」


 と言う皆の反応を見て、リズさんは困った顔をする。


「まあ、皆様ならそうおっしゃるとは思いましたが……ただ、わたくしとしても、このまま引き下がるわけには参りません」


 そして少し考えるそぶりをした後、マリアの方を向いた。


「確か年末に、至高神教会の主催でチャリティショーがございましたわね?」

「はい、ありますよ?」


 マリアは小首をかしげながら屈託無く答える。


「それでは、我がデイビス商会が支援に回らせて頂きますわ。もちろん、直接資金援助のような無粋な事は致しませんわよ。会場確保、設営、管理、集客など、募金がより集まるように協力させて頂きます」

「それは……助かります!」


 これはマリアも受けるようだ。教会のみんなのためだもんね。


「お姉様、アニーさんとクリスさんも、この形でまとめてよろしいですわね?」


 リズさんはこちらを向いて確認してくるが、もちろん私たちも同意する。


「ああ、無論だ」

「もちろん。わたしはこれでお礼を貰うなんて思ってないし」

「うちもやね」


 それを聞いてリズさんはマリアの方に向き直った。


「それでは、マリアさん。今度教会の方に打ち合わせのため伺わせていただきますわね」

「はい、教会の人に伝えておきます!」


 ちょうど話がまとまったところで、先生が教室に入ってきた。


「おはようさん。そろそろ授業の時間だぞ。皆席に着くように!」


 ――その後、先生からこの件に関する話もあったが、特にお褒めもお叱りもなく、単に「自分の実力と相談して、無理な事はするなよ?」と忠告を受けただけだった。

 マリアの頼みでチャリティショーの舞台をする事になった私たち。勧善懲悪はいいんだけど、この題材で神様的には本当に大丈夫なんだろうか……?


 次回「劇の名は『魔法少女ハニーマスタード』」お楽しみに!


 この話は短めのため、1月7日更新予定です。

(12月31日、1月3日に人物紹介と、これまでのあらすじを更新予定です)

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