46.ハロウィンの大捕物
改稿作業、進行中です。現在は1話~10話の作業が完了しています。
少しは読みやすくなっているといいんですけど。
※2019/1/23 微調整しました。
※2019/8/5 スマホフレンドリーに修正しました。
「よっしゃ、ほな行動開始や!」
私たちは、クリスの合図と同時に動き始めた。
マリアは玄関脇にそれとなく立つ感じで待機し、私たちは迂回して建物の裏側に回っていく。ちなみにシャイラさんの翼は、玄関脇に隠してマリアに番をして貰うことにした。
クリスが先導して路地裏を歩いて行く。こうしてみると凄いな、足音が全く聞こえない。私とシャイラさんはそれほど足音を殺せていないから、全体としては余り意味が無いけど。
そして、勝手口の扉にたどり着いた。まずはクリスが扉に耳をあてて、様子を探ってみる。そして私たちに向かって、極小の声で話しかけてきた。
(近くには誰もおらんようやな)
次にクリスはドアノブをゆっくり動かしたが、すぐに手を離した。鍵が掛かっているようだ。
(鍵、掛かってるよね?どうするの?)
(ちょい、待っとき)
クリスは懐からピンを取り出して鍵穴に突っ込んだ。少しカチャカチャ動かしたと思ったら、あっさり解錠に成功する。
(ほれ、開いたで)
クリスの神業に、私は小声で感嘆の声を上げる。盗賊ギルドのへっぽこチンピラを見た後だけに、余計に凄さを感じてしまう。
(すごーい!こんなに暗いのに、なんでできるの?)
(乙女のたしなみやで?まあ、民家の勝手口やからね。無いよりゃマシ程度のしかついとらんで。こんなんなら目ぇつぶっても出来るわ。ともあれ、ほな行くで)
(うん!――あ、ちょっと待ってね)
私は、扉を開けようとしたクリスを手で制して、素早く魔法を唱えた。
("マナよ、闇を見通す視力を我にもたらせ"――夜目)
中が真っ暗だと行動に支障が出るから、3人全員に夜目をかけておく。
(なんやこれ、気味悪いくらいよう見えるな)
(これが魔法の力か。便利なもんだ)
(周りが明るい場所になっても、瞬きしたらうまく調整できるからね。さ、行きましょ)
(よっしゃ。ほな開けるで)
クリスは静かに扉を開け、クリス、シャイラさん、私の順番で侵入していった。
◇ ◇ ◇
勝手口の中は台所のようだった。明かりはついていない。そして、誰も居ない。
(居るとすれば、居間がある二階かな?)
(せやな、本来の住人も、たぶんそこやろ)
ちなみに標準的な町家では、一階は奥、つまり勝手口側に台所と食堂があって、玄関側の部屋は商家の場合、店舗や工房になっている。これが民家の場合は倉庫に使ったり、家畜を飼ったりしている事が多いかな。
二階には住人の居間や寝室が入り、三階や屋根裏部屋は倉庫や使用人の寝室として使われている場合が多い。
廊下に出ると、玄関にランプが掛かっていて、薄暗くも十分見える明るさになっていた。夜目が掛かっている、今の私たちにはまぶしい位だけど。
クリスを先頭に足音を殺して周辺の気配を確認しながら慎重に前進、まずは一階の玄関側の部屋の様子をうかがう。
クリスが扉に耳を当ててしばらく集中した後、指で×印を作って誰も居ないと言う仕草をした。
次は階段を上がっていき、二階の確認に入っていく。
二階に上がると、表側の部屋から明かりが漏れ、中での話し声が聞こえてきた。同時に、三階の部屋の方でどかどか荷物をあさっている気配にも気づく。
「――いただくものさえ頂けりゃ、すぐにおいとまするからよ、もう少し我慢して貰おうか」
「ああ、金や物だけなら抵抗はしない。何を持って行っても構わないさ」
「ふん、その金や物が無いがために命を失う連中も居るってのに、いくらでも回復できるって余裕は気に入らねぇな」
と、どかっと床を蹴る音がする。
「す、すまない。そう聞こえたのなら謝るよ」
「まあいい。お前ぇも迂闊な事を言ってオレを怒らせんじゃねえぞ」
――ふむ、どうも二階には強盗と人質が、三階には強盗がいるみたい。
二階を先に片付けるとすると、三階から降りてきた強盗と挟み撃ちになってしまいそう。
二階はすぐには命に関わる展開にはならなさそうだし、ここは三階から片付けた方が良さそうかな?
そう考えをまとめた私は、上を指さしてそちらを先に片付ける事を提案する。
クリスとシャイラさんは頷いて三階に向けて階段を上がり始めた。
扉の前に到着し、再びクリスが中の様子をうかがう。少しの間扉に耳を寄せてから、指を1本だけ立ててこちらに見せて中には一人だけ居る事を示す仕草をした。
シャイラさんが頷いて前に出て、クリスと入れ替わりに扉の前に立ち、両手杖を構える。
クリスがゆっくりドアノブを回すと、シャイラさんは扉を蹴り開けて部屋の中に躍り込んでいった。
「な、なんだ手前ぇ!」
「はあっ!」
部屋の中で家捜ししていた悪党がこちらを振り向いたとたんに、シャイラさんの両手杖による突きが炸裂する。
どかん、どかん、どかんと首、鳩尾、腹と三カ所の急所を突いた上で、思わず頭が下がったところを、振りかぶってばしっと脳天に一撃。
そのまま悪党は、声も無く昏倒してしまう。
「クリス、拘束お願い!」
「はいな!」
後処理はクリスに任せ、私たちは急いで二階に駆け下りていく。
二階にいた悪党が三階の騒ぎを耳にして逃げに移ったのか、人質の女性を無理矢理引きずりながら一階に降りようとしている所だった。
「な、なんだ、ガキ共がこんな所でなにしてる!?」
「通りすがりの正義の味方よっ!」
――うっかり勢い余って、ハニーマスタードって言わないように気をつけないと、ね。
悪党が持っているのはショートソード。刃渡りが長いから、以前使った防御で斬れなくする方法は使えない。
「それ以上近づいてみろ、この女の命は無ぇぞ!」
その台詞を聞いて、私たちは急停止し、悪党から少し距離を取った。
「ええ、その女性に危害を加えなければ、私たちもあなたに危害は加えないわ」
「よし、賢い奴だとこちらも助かる」
「あんたの相方はどうする? 解放しろなんて言う?」
それを聞いて悪党はにやりと笑った
「ガキに拘束されるような間抜けに用は無ぇよ。あいつが出てくるまで待つのはイヤだね」
「そう、ならいいわ」
と、私は肩をすくめて、悪党が女性を盾にしたまま、玄関に向かって後ろ向きに移動していくのを距離を保って追いかける。
「ほらよ、こいつは返すぜ!」
「きゃっ!」
悪党は玄関の扉を後ろ手で開き、そして人質の女性をこちらに向かって蹴り飛ばした!
「マリア、一人行ったよ!」
私は蹴りとされた女性を受け止めながら、外に向かって叫ぶ。
そして外に逃げ出した悪党は……
「悪党は許しません!」
「な、なんだ手め……ぐぅ」
私は女性の介抱をシャイラさんに任せ、玄関に走り寄って外をのぞき見る。
丁度、玄関で待機していたマリアが、外に飛び出た悪党に組み付いて締め落とした所だった。
「マリアって、ホント逮捕術は半端ないね」
「至高神神官の勤めですから!」
フライブルクでは街が大きいのと至高神の教会が小さい事から余り目立ってはいないけど、もともと至高神の教会は治安を担う場合もあったりするので、その神官は基本的に逮捕術を教わるようになっているそうだ。
マリアの場合は、馬鹿力に技術が伴っているため、一度組み付かれてしまうと剣術教官でも引きはがせないほどデタラメに強い。
◇ ◇ ◇
拘束した悪党共を再び二階の居間に運び込み、逆に人質となっていた男女二人を解放した。
「うちは警備隊を呼んでくるで。とりあえず場ぁ繋いどいてや!」
そして、クリスは警備隊を呼びに外に駆けだしていった。
「助けてくれてありがとう。君たちは……」
ロープで縛られていた手首をさすりながら、元人質の男性が私たちにお礼を言った。30前?くらいの賢そうな男性だ。
それに対して私が経緯を説明する。
「わたしたちは冒険者学校の学生です。たまたまハロウィンでこちらのお宅を訪問したんですけど、こいつらが出てきまして。状況から強盗に入られている可能性が高いと判断し、申し訳ありませんが踏み込ませていただきました」
「そうですか……その判断に、本当に感謝します。私は近所の商会に勤めている者で、この妻と二人で生活しております。せっかくなのでとハロウィンのランタンを出したところ、いきなりこの男達に踏み込まれて、この有様ですよ」
男性の紹介の後、女性、つまり男性の妻も私たちに頭を下げた。
「本当にありがとうございました。あなた方が来て頂けなければ、どうなっていたことか……」
「いえ、私たちこそ、勝手に踏み込んでしまって……」
「いや、本当に助かりました、なんとお礼を言っていいものか……」
「いえいえ、お礼だなんてホント……」
「いやいや、そういうわけにも……」
「いえいえいえ……」
「いやいやいや……」
…………
……
と、お互いにぺこぺこ謝り合っていると、そこに、別の声が聞こえてきた。
「連れてきたで! ……あんたら、なにやっとんの?」
顔を上げると、クリスが腰に手を当ててあきれた顔で戸口に立っていた。
どうやら、警備隊の人達を連れて戻ってきたようだ。
次回予告。
私にとっては初めての、ハニーマスタードの時を含めると二回目の事情聴取が始まった。罪に問われる事はなさそうだけど、その代わり、借りを作ったら面倒な人に借りを作ってしまった気がする。
でも、思わぬ所に貸しが出来たみたい?
次回「ハロウィンの後始末」お楽しみに!