45.リスクを負っても正義執行
前半のリニューアルを計画していますが、不意にめんどい仕事が増えてしまったので少し延期します……
※2019/1/23 微調整しました。
※2019/8/5 スマホフレンドリーに修正しました。
さて、少し遠いけど、商業層のリズさんの家まで行かなきゃならない。
私たちは雑談しながら彼女のお屋敷まで歩いて行った。道行く人で仮装した人も何人か見かけられたけど、女の子集団だからか、完成度からか、私たちが特に周囲の目を引いていたような気がする。――たぶん、シャイラさんとクリスなんだろうけどね。目立ってたのは。
◇ ◇ ◇
「到着したけど……ランタンついてないね? 行っていいのかな?」
「まあ、うちら以外の野良グループが来るんを避けてるんとちゃうかな?」
「招待された訳だから、いいよねぇ」
と話しながら、玄関をノックする。
「皆さん、ようこそいらっしゃいました」
待ち受けていたのか、リズさんが直接顔を出してくれた。再び、私たちは定番の台詞を発する。
「トリック・オア・トリート(にゃ)!」
「……わたくし、お姉様にならいたずらされても構いませんわよ?」
と、リズさんはシャイラさんを見つめながらぽそりと呟く。それを聞いたシャイラさんは、こわばった顔をして私に耳打ちしてきた。
(お、お菓子を選ばなかった場合はどうなるんだ?)
私は苦笑しながらリズさんに注意する。
「リズさん、シャイラさんはハロウィン初めてなんだから、アドリブ利かせないでお約束通りに行こうよ? にゃ?」
「わ、分かってますわよ。きちんと焼き菓子もこの通り、用意してございますわ!」
と言いながら、リズさんは後ろ手に持っていた人数分の小袋を私たちに渡してくれた。そして、私たちを夕食を誘ってくれたが……残念ながら、時間的な都合で断らなきゃならなかった。
「ごめん、座ってゆっくり食べられる服装じゃないし、食べて帰ったら流石に遅くなるから……にゃ」
「そうですか……仕方ありませんわね。それでは、せめてこれで記録を録らせて頂きますわ」
と言うと、おもむろに懐から水晶玉を取り出した。
「なにそれ?」
「あら、ご存じないの? こちら、あなたの保護者製でしてよ? これはレコードクリスタルと呼ばれる魔法の道具。このように使いますの」
リズさんは水晶玉をこちらに向けて「録画開始、アニーさん」とコマンドワードを口にした。
すると、水晶球が薄く赤く光を放ち始める。
リズさんは光り始めた水晶玉を私の方に向けたまま、10秒間くらいじっと待ち……その後「録画停止」と口にすると、水晶玉の光がふっと消えた。
「これで撮れましたわ。そして、再生はこんな感じですわ。『再生開始、アニーさん』」
リズさんは誰も居ない方向に水晶玉をかざしてコマンドワードを口にすると、水晶玉が蒼く輝きだし、なんと、目の前に私と同じくらいの大きさで半透明の私自身の姿が映し出された!
「え、なにこれ、わたし?」
私が目を大きく見開いて質問すると、リズさんが大きく頷いて答えた。
「ええ、たった今撮ったあなたの姿でしてよ」
「凄いな、これは……まさに魔導技術の極みだね」
「仕組みはよく分かりませんけど、凄いです!」
初めて見る立体動画に、皆驚きの色を隠せない。クリスがふと思いついた感じでリズさんに質問した。
「これ、高かったんとちゃう?」
「ええ、確かに、市場に出ている数が限られている分、結構な値段で取引されていますわね。まあ、このような時のために用意してありましたから、全然惜しくはありませんわ。とはいえ……値段分は撮らせていただきますわよ!」
そして私たちは、リズさんの言葉の通り、彼女が納得するまで、全員分の映像をじーっくりレコードクリスタルに納められることになってしまった……
◇ ◇ ◇
リズさんの家を出たときは、もう完全に黄昏時。太陽は地平線の下に没し、空は青みを増してきていていた。
「さて、そろそろ暗くなってきたし、下宿に戻ろうか」
「せやな。途中にランタン出してる家があったら、寄ってもええしな」
「この辺りはお店やお屋敷が多いから、ハロウィンやってくれそうな民家は余りないかもです!」
と、周囲の家の様子を見ながら歩いて行くが、やはりハロウィンの訪問を受け入れてくれる印のランタンが出ている家はほとんど見つからない。
「あ、あの家、ランタンついてるね」
と、一件だけランタンをつけている家を発見。一応、私たちは伺ってみる事にした。建物は私たちの下宿と同じスタイルで、この街ではよくある、横幅は10mほどで奥行きが長い3階建ての町家のようだ。
「こんこんっと」
扉をノックしてみる。――なかなか出ないな。中でバタバタしている音はしているようなんだけど。
もう一度ノックしてみようかな、と手を上げたとたんに、扉がバタンと開いた。
「何の用だ!」
勢いよく出てきたのは黒いローブを着た、ガラがあまり良くなさそうなお兄さんだった。
「――あれ?」
余りにそぐわない雰囲気に、若干引きつつも、一応、お約束の言葉を言ってみる。
「トリック・オア・トリート!(にゃ)」
女の子4人の声にちょっと毒気を抜かれたのか、お兄さんは「ちょっと待ってろ」と言い残して扉を閉めた。
しばらくした後に、再び開いて「ほれ、キャンディだ」と放って寄越す。
「あ、ありがとう……」
と言う私たちの声を聞いたのか聞いてないのか、またバタンと勢いよく扉を閉めてしまった。
仕方ないから、その家を離れて歩き出す私たち。
クリスが、親指をかみながらどうも険しい顔で考え込んでいる。
「なーんか、気に食わんなぁ……」
「え、ガラが悪かったから?」
と問い返すと、首を振って否定した。
「ちゃうねん。ちょっとこっち」
皆を引っ張って、路地に入っていく。
「あれ、見てみ?」
先ほど入った家を見ると……あれ? さっきまであったランタンがない。
「ランタンがなくなってる?」
「せやろ? たぶん、うちらが来たから、慌てて引っ込めたんやわ」
「でも、どうして?」
私の疑問に、クリスは肩をすくめながら答えた。
「うちらみたいなのに、来て欲しく無いんやろな」
「だったら、最初から出しておかなければいいのに」
「――もし、あいつが、ランタンを出していた、本来の住人やなかったとしたら?」
クリスの言葉に、皆、はっとした顔をした。
「あいつ、黒いローブ着てたやろ? ゴーストのマスクでもすれば、立派な仮装のできあがりや。そうやって訪問したお宅で、そのまま押し入っているのかもしれへん」
「警備兵、呼んでくる?」
「ハロウィンの夜や。あっちもこっちも大騒ぎで、なかなか警備も来られんやろ。それに、玄関に出てこられた言うことは、家捜しはだいたい終わっとって、あとは逃げるだけかもしれへん。そうなったら、顔を見とる元々の住人は生かしておく必要も無いわな」
クリスは厳しい顔をしたまま、皆を見回して言葉を続けた。
「うちが言うんは、見込みが間違っとったらお尋ね者になるかも知れん事や。――それでもやるかいな?」
その問いに対して、私を含めた皆は当たり前のように返事する。
「こんな美味しい状況を見逃す訳にはいかないよね?」
「ああ、これを座して見逃すことはできないな」
「至高神は悪事を見逃しません!」
その返事を聞いたクリスは、両手をぱしんと打ち合わせた。
「よっしゃ、ほな強制家宅捜索、いってみよか!」
◇ ◇ ◇
私たちはそのまま、件の家を遠目に見ながら作戦会議を始めた。
「さて、基本方針としては……まず、忍び込む。そして、強盗かどうかを確認する。強盗だった場合は、住人を保護しつつ、犯人を確保、と」
「せやな。ただ、この家は多分、正面の玄関と、あと裏手に勝手口があると思うわ。玄関側は様子を見る人間を配置して、勝手口から侵入するのがええやろな」
「で、突入班の人選なんだけど……わたしたち仮装中なんだよね。しかも通常の装備を持ってない」
「せやな。まず荒事に支障がない衣装で、しかも両手杖を持っとるシャイさんは確定やな」
それを聞いたシャイラさんは、大きく頷いた。
「ああ、まかせてくれ。ただ、この翼だけは外させて貰うと思う」
まあ、明らかに廊下とかでつっかえそうだしね。
「あとは、わたしかな? ちょっとこの服、裾が長いから激しい動きは難しいけど、魔法があるから」
「せやな。うちの服は裾が長いから、前衛は無理や。やから、誰かと遭遇したら、即、後ろに回るで。短剣は持っとるけど、相手を傷つけずに無力化するのはでけへんし」
「三人が突入班と言う事は……」
私の疑問に、クリスがそのまま答えた。
「悪いけど、マリやんは玄関待機でお願いできるかいな? 裾が短いから荒事に支障は無いんやろけど、斧があらへんからな。まあ、この状況では斧があっても使われへんけど」
「はい、誰かは抑えておかないといけないのは分かります! 玄関はきっちり守って、悪人は逃がしません!」
私たちは全員、右手を出してお互いの手のひらを重ね合わせた。お互いの顔を見渡してから、行動開始の合図をする。
「よっしゃ、ほな行動開始や!」
「「おー!」」
次回予告。
ついに怪しい家への突入を決意した私たち。果たして中はどうなっているのか?
これ以上書くとネタバレになるので予告はここまで!
次回「ハロウィンの大捕物」お楽しみに!