44.ハロウィン本番!
今回も残念サービス回です。文字で服装の雰囲気、伝わるでしょうか……?
月白ヤトヒコ様より、当方が投稿した感想の返信という形で、幾つか問題点のご指摘を頂戴しました。
ありがたく参考にさせていただいて、改善を進めていきたいと思います。
(今更ですが、冒頭の方とかも若干の修正を加えようかと考えています。小手先でどうこうなるレベルではないので、まあ、気は心ですが)
※2019/1/23 微調整しました。間違えて43話になっていたので修正しました。
※2019/8/5 スマホフレンドリーに修正しました。
初めてのお泊まり会から2週間後。仮縫い衣装のフィッティングのため、またまた領主館でお泊まり会。
翌朝、調整が終わった衣装をアレックスが持って来たので、これからリチャードさんにお披露目だ。
私たちは客間で着替えを行い、アレックスには書斎にいるリチャードさんを食堂に連れてきて貰う。
「ハロウィンの衣装ができたんだって? それは楽しみだ」
「んっふっふ~♪ まずはわたしから行きますね!」
というわけで、先陣を切るのは私。廊下から食堂への入り口を開けて、お芝居のようにしずしずと歩いて行く。
私の衣装は、まず頭には猫の耳がついていて。そして、お尻には猫の尻尾がついているんだけど、なぜか二股に分かれている。
両手には猫の手型のグローブを、足は猫の足を模した靴を履いている。
服装の方は、基本的に極東のキモノがベースになっているっぽい。つまり、猫耳と手足と尻尾がついているだけで、基本は極東の人のコスプレになっている気がする。
私の格好を見たリチャードさんは、さすがに驚いた顔をした。
「これは……極東のモンスター、つまり、妖怪か? アニーくんは、猫又かな? 年を経た猫の尻尾が二股に分かれ、人間に化ける事ができるようになると言われている。――もしかして、今回は妖怪シリーズなのかな?」
「うふふ、どうでしょうにゃー? 次はシャイラさんですにゃー!」
私の合図に応じて、シャイラさんが入ってきた。
シャイラさんの場合、上は白いキモノ、下半身はだぶだぶしたズボンで、足はゲートルを巻いてサンダルを履いている。
小さな丸くて黒い帽子をつけ、ボンボンがついたY字のベルト状の布をベストのように着込んでいる。白木の両手杖まで準備してくれた。
あと、最大の特徴は、黒い大きな羽根が背中に付いている事。
ちなみに、本来は一つ歯の木で出来たサンダルを履くらしいんだけど、さすがにまともに歩けそうに無いので、普通のサンダルに変更している。
「これは……天狗だね。確かきみは紅茶の国出身だったと思うが、実はこのテング、紅茶の国の神話に出てくるガルーダが伝わったものがベースと聞いている。だから、化け物と言うより、神の使いとしての性質も持っているんだ」
「なるほど、ガルーダなら存じています。異境の地に伝わるとこのような形になるのですね」
今度はクリス。
「次は、うちやで」
戸口から顔だけのぞかせてから、頃合いを見て入ってきた。
クリスは真っ白なキモノを着ている。帯は水色で作りとしては非常にシンプルだ。でも、白い肌、蒼い瞳、プラチナブロンドの髪に非常にマッチしていて、まるで人外の美しさを醸し出している。――喋らなければ、ねえ?
「恐らく、雪女だね。雪の妖精と言っていいのかな。雪山の奥深くで出会い、吹雪のような吐息で人々を凍らせたり、逆に人間の男性と結婚したりする場合もあるらしい」
「うちのおかんも北方出身やからね。でも凍らせるんは……笑い外して冷やすんはイヤやねぇ。まあ、情熱的に~なんてのも性に合わへんけど。――ほなトリはマリやんやな」
クリスが呼ぶと、マリアが元気よく入ってきた。
「はーい、マリア、入ります!」
マリアは紅色がベースのキモノを着ている。同じキモノでも他と違って子供服なのか、裾は短めで可愛らしい作りになっている。頭に小さなリボンがつけられていて、ただでさえ幼く見えるマリアが、更に幼い印象を受ける。
「座敷童子かな。家の妖精、ブラウニーが近いね。子供の姿を持っていて、それが住み着いた家は栄えると言われている」
「守り神、という事であれば、本望です!」
皆並んだところで、リチャードさんが感慨深そうに独りごちる。
「いやあ……それにしても懐かしい。ここでこの格好を見る事になるとは思わなかった」
その感慨深そうな感じが気になった私は、リチャードさんに聞いてみた。
「あれ、リチャードさんって極東の方からいらしたんですか? にゃ?」
「ん? ――まあ、そんな感じかな? ま、こちらのあちらとは違うかも知れないがね」
「??」
うーん、よく意味がわからない。
「ま、気にしなくていいよ。こちらの話だ」
リチャードさんは一つ咳払いをしてから、皆に対して言葉を続けた。
「いい衣装ができたようで、なによりです。せっかくのハロウィン、楽しんで来てください。ただ、治安が悪くなる場所もあったりするから、気をつけるようにね」
「「はーい!」」
◇ ◇ ◇
街に戻ってさらに日は進み、ついにハロウィン当日。学校の空に、リズさんの叫び声が響き渡った。
「ど、どういうことですのっ!?」
「あー……何も言って無くてごめん。仲間はずれというわけじゃなくて、単純に、衣装を決めたのリズさんが学校に来る前で……」
私たち4人だけでお泊まりして、ハロウィン用の衣装を作ったと言う話を聞いて、愕然としているリズさんに、慌てて説明した。
「それに、放課後、日が暮れてからの巡回だから、リズさん来られないよね? もっと早く言っておけばよかったのだと思うけど……」
リズさんは衝撃のあまり叫んではしまったものの、不可抗力であることは納得したらしく、一つ深呼吸すると少し落ち着いた感じを見せた。
「事情は理解しましたわ。それでは……今晩、必ず、わたくしの家にもい・ら・し・て・く・だ・さ・い・ね!?」
「う、うん」
一瞬落ち着いた感じを見せたものの、私の胸ぐらを掴んで至近距離での「お願い」に、私はカクカクと頷くしかなかった。
◇ ◇ ◇
――そして夕方を迎えた。
終わりの挨拶で担任の先生がハロウィンについて注意する。
「知っての通り、今日はハロウィンだ。仮装して繰り出すことは問題ないが、訪問して構わないのはランタンを出している家だけだから注意するように。また、今日はスリに置き引き、窃盗、強盗、傷害と、犯罪が非常に多くなる。くれぐれも一人や小グループで裏路地に入ったりしないように!」
「「はーい!」」
さすがに学校で着替えるわけにはいかないので、私たちは下宿に帰ってそこで着替え、街に繰り出すことにした。もちろん全員分の衣装は搬入済み。
「他の同級生たちの姿も見えるかもしれないし、まずは学校近辺を回る?」
「せやな。学生相手にランタンを準備している家も多いんとちゃうかな?」
と言うわけで、学校の近くまで戻って、ランタンを出している家を探す――あ、あった。
扉をノックして、家の人が出てくるのを待つ。
「何か御用ですか?」
家の人が出てくると、私たちは定番の台詞を叫ぶ。
「トリック・オア・トリート(にゃ)!」
ちなみに「にゃ」は私。猫又だから。あざとい?
「わあ、いたずらされたらたまらない、キャンディをあげるからゆるしてくれ」
家の人は棒読みで定番の台詞を言い、私たちにお菓子の小袋を渡してくれた。
基本の流れはこんな感じ。
そういえば、同級生の男子たちのグループはいるかな……? あ、いたいた。
「おーい!」
私は手を振って呼び止める。気がついた彼らは手を振り返してこちらに歩いてきた。
「やあ、君たちもハロウィンかい?」
男の子達の仮装は、まあ、一般的な感じ?
包帯巻いてミイラ男に、マント着て牙っぽいのをつけてヴァンパイア、目の部分だけ開けたシーツだけと言う手抜きゴーストもいる。
「そうよー? あんたたち……もう少し、凝ったら?」
「いやぁ、金も時間もないから。君たちは……逆に、ちょっと凝り過ぎじゃないかな?」
「私たちは、勉強も遊びも全力投球なのです!」
びしっと親指を立てたかったけど、この猫の手袋では上手くできなかった。
――まあ、手間はアレックスだし、費用もリチャードさん持ちだしで、私はなんにもしていないから、自前でやっているぶん、彼らの方が正統派なのかも知れない……
次回予告。
リズさんの家に立ち寄った帰り道、私たちはふと訪問した家に違和感を感じる。お尋ね者になるリスクを負いながらも、私たちは正義の執行を決断したのだった。
次回「リスクを負っても正義執行」お楽しみに!