38.おっと、わたしも突入しなきゃ!
ブックマークが減ったり、評価が下がったり、ちょっと今ひとつ芳しくないため、地の文を少し増やしてみたりしています。自分でも、読みやすくなっているのかどうか、正直わからないままやっているので、あまり自信はありません。これで改善されているといいのですが。ご意見を賜れる事ができると助かります。
※2019/1/19 微調整しました。
※2019/8/5 スマホフレンドリーに修正しました。
翌日。
私が学校に行くと、教室の中はやはり昨日の警備隊とハニーマスタードとの訓練の話題で持ちきりだった。
曰く、年の頃は同じくらいの、金髪の美少女だった。
曰く、強力な魔術師で、警備隊の面々では相手にならなかった。
曰く、おそらくエルフで、見た目の年齢ではないに違いない。
――その他、わたしが育てただの、ボクの嫁だの、訳のわかんない事を口走っている人たちもいた。
そんな感じのみんなの話を聞き流しながら自分の席についていると、クリスに話しかけられた。
「昨日のあれ、アニさんは見てへんかった?」
「あれって?」
「噂の魔法少女が、練習場で警備隊相手に訓練してたらしいで」
下手に見たっていうと、嘘に嘘を重ねる事になりそうだから、見てない事にするのが一番かな?
「へぇ、ごめん、昨日は早めに帰っちゃったから見てないよ。そんな事があったんだ」
「うちも初めて実物を見たけど……なんか、髪型うちと似てたなあ」
うーん、私自身の本当の髪は少し癖っ毛で、クリスのさらさらストレートヘアには憧れてたから、雰囲気似せたんだよね。クリスのプラチナブロンドに対してブロンドと、色こそ違うけど。
「わたしも一回見てみたいなぁ」
「アニさんも魔術師やし、話合うんとちがう?」
「かもねぇ」
と、今のうちはさらっと流しておく。
うーん……パーティメンバーには打ち明けてもいいのかも知れないけど、でも、それはそれで、迷惑かかるよね。
◇ ◇ ◇
さて、その日の晩。私は約束通り、港湾地区につながる城門前を訪れた。
警備隊のアーサーさんが一人で現れて、無言で手を振ってきたので、私も無言で手を振って彼についていく。
数分後、私たちは港湾地区の倉庫街の一角にたどり着いた。物陰に警備隊の人達が隠れている。
「もうじき私たちはあの倉庫に表と裏から同時に踏み込む予定です。ついては、あなたには……」
アーサーさんは目の前にある倉庫を示しながら囁き始めた。そして、最後にさらっと、とんでもないお願いがついてきた。
「上から一人で進入していただけませんか?」
「へ?」
思わず間抜けな声が出た。
アーサーさんは二階にある、明かりが漏れている窓を指さしながら、説明を続ける。
「あの窓の中、中二階に事務室があります。私たちが下から侵入した場合、そこの証拠を消される可能性がありますので、我々の突入にタイミングを合わせて突入し、部屋を押さえて欲しいのです」
今度は屋上を指さしながら話を続ける。
「屋上からロープでぶら下がって進入する場合もあるのですが、この建物の場合、ロープが引っかけられそうな場所がないんですよ。あなたのような優秀な魔術師なら、魔法によって空中に浮かんで侵入する事はできますよね?」
と、私が不穏な顔で見ているのに気がついたのか、少しフォローを入れてきた。
「あ、もちろん、突入するのは危険が無いと判断できた場合のみで結構です。こんな事をお願いしておいて恐縮ですが、あなた自身に怪我が無い事を最優先にしてください。また、念のため、あなたが彼らを殺したり傷つけても一切罪には問われませんから、安心してください」
うーん、君にしかできないとかいう頼まれ方をされると、私は非常に弱い。
「確かに、わたしならロープなしであそこから侵入できるけど……」
大きくため息をついてから、仕方なく同意する。
「はあ。分かりました。言われた通りにやりますよ」
「すみません、お願いします」
「今回限りですからね!」
と、言い捨ててから、私は重力軽減を唱えて隣の倉庫から屋上に上がり、指定の窓の上で待機する。
――さて、どうやって覗こう?
少し考えてから、屋上の端に立って、静かに魔法を唱える。
「"マナよ、我が求めに応じ空をたゆたう力となれ"――浮遊」
そして、窓の横を静かに降りて、ゆっくり中をのぞき見る。
うん、誰も居ない。
下に居るアーサーさんの方を見て、両手で大きく丸を作って、誰も居ない事を伝える。アーサーさんも了解のジェスチャーを返してきた。
警備隊の面々が倉庫に向けて動き始めた。そろそろ突入するようだ。入り口には鍵なりカンヌキなりがかかってそうだけど、どうするんだろう?
上から見ていると、一人、魔術師らしい服装をした警備隊員が出てきて、魔法を唱え……爆裂弾を扉に向けて放った。
爆裂弾は轟音を立てて炸裂し、扉を粉砕したようだ。反対側でも同様の音がしたので、恐らく、同じ光景が繰り広げられたのだろう。
ちなみにその魔術師は、爆裂弾だけでどうも打ち止めらしくて、そのまま後ろに下がってしまった。うーん、そんな魔力量だと浮遊で上から侵入なんてのは、つらいかもね。
警備隊員は破れた入り口に向けて鬨の声を上げながら突入し、中にいる売人共と剣を打ち合わせる音を鳴り響かせ始めた。
「おっと、わたしも突入しなきゃ!」
ついつい、彼らの動きを目で追ってしまっていた私は、二階の窓からするりと事務室に侵入する。飛び込んで体を低くし、周りを確認したが、とりあえず今はこの部屋には人がいないようだ。
でも、廊下をバタバタ走ってこちらにくる足音が聞こえたので、制圧用の魔法、電撃の矢を唱え始める。
「"マナよ、雷をまといし矢となりて我が敵を討ち倒せ"」
扉がバタンと開いた瞬間に、魔法を成立させて侵入者に向けて放った。
「――電撃の矢!」
「ぐわぁっ!」
小剣を持ったごろつきが、魔法の直撃を受けてそのまま倒れ伏す。
「く、くそっ、ここにも!」
走っていたのは今倒した一人だけではなく、もう一人後続が居たようで、片割れが攻撃を受けたのを見て、そのまま部屋の前を走って通り過ぎていった。
私は慎重に扉から顔を出して状況を確認する。
まず、ここは中二階で、キャットウォークが壁の全周に張り巡らされている。
倉庫自体に壁が作られているわけではないのだけれど、高く積まれた荷箱によって大小二つの空間に大きく分断されている。そして、その空間同士を行き来するには、このキャットウォークを通るしかないようだ。
大きな方の空間では、売人どもと警備隊が交戦中。
小さな方の空間は……床に、地下に繋がる扉が開いていて、先ほど目の前を通った魔術師らしき服装の男が逃げ込んでいくのが見えた。
つまりまとめると、魔術師が地下に向かって逃走中であり、警備隊は未だ戦闘中で彼を追跡できていない、と言う事。
「これは……やるしかないわね」
頼まれた通りに、この事務室のみを死守する手もあったけど、ここは魔術師を捕縛に行った方がいいだろう。
そう判断した私はキャットウォークに繋がった階段を降り、地下への入り口に向かって走って行った。
ものすごく関係ない話ですが、本稿は一部、渋谷のスターバックスでおしゃれピーポーに混ざって書きました。地元のドトールとかエクセルシオールではよく書きますが、渋谷だと、うーん、落ち着かないかも。
また、予定より長くなってしまったため、急遽2分割しての投下となりました。
続きは予定通りに11月8日(木)に投下予定です。
それともう一つ。投下時間の試行錯誤を再開しています。詳しくは別で連載中の、へっぽこ小説書きの方で説明したいと思います。(データ取りは終わっているのですが、今はこちらが優先で書けていません・・・)
◇ ◇ ◇
次回予告。
アーサーさんの頼みに応じて、私はクスリの売人アジトに対する強制捜索に協力している。地下道に単騎突出していた私は、そこで意外な人物との再会を果たすのであった。
次回「わたしはこの男を追いかけてきただけ」お楽しみに!