4.ぶっつけ本番、確定!
※2018/9/13 入学試験を受験したい!から改題しました。
※2018/12/14 微調整しました。
※2018/12/27 次回予告を追加しました。
※2019/8/3 スマホフレンドリーに修正しました。
「姉様、リチャードさん、帰ってきましたよ? あと、そろそろ夕ご飯にしますので、食堂に来てください」
「うあー……寝てた……」
図書室の机についたよだれの後をこっそり拭きながら起き上がる。
さすがに貴重品の本にはかからないようにして寝てる。顔に呪文が転写されるのもヤだし。
食堂に着くと、もうご飯の準備ができていて、リチャードさんとアレックスが席に着いていた。ちなみにメニューは、ソーセージ入り野菜のポタージュ、ライ麦パンとエール。
「おかえりなさい、リチャードさん」
「やあ、ただいま、アニーくん」
いつもと変わらない受け答え。 とりあえず、色々ばれてなさそう。
「ところで、冒険者学校の件だが……」
「はい!」
「運が良かったね、試験は明日だそうだ」
「はいぃ?」
思わず変な声が出た。
「もともと、フライブルク以外からの受験者もいる事から、出願〆切は試験日前日になっているらしくてね。遠方から来て出願だけして試験日まで無為に過ごさせるのも負担を掛けるからだそうだ。代理申し込みも可能だったから、アニーくんの分は、今日早速申し込んでおいたよ」
「あ、ありがとうございます」
ぶっつけ本番、確定。
「合格者は毎年10人から20人といった所だそうだ。専業軍人になるのがそのうち7~8人で、それ以外は冒険者かな」
「倍率はどのくらいなんでしょう?」
私の質問に、リチャードさんは肩をすくめながら答えた。
「例年だと……受験者数が40~50人程度らしいから、3~4倍程度じゃないかな。何しろ出願〆切が試験日前日なので、今年の倍率は当日にならないと分からないそうだ」
それを聞いて私は、少し首を傾げる。
「結構、倍率高いんですね」
「まあ、倍率が低いとは言えないが、アニーくんなら普段通りに行動すれば試験は問題ないと思うよ。ところで、試験内容については知っているかね?」
「いえ、実はあまり……」
と、首を振って答える。
「聞いたところに寄ると、学科試験に面接、魔法と剣術の実技試験があるらしい。アニーくんなら、学科試験、面接、魔法はまあ問題ないだろう」
リチャードさん、大きく頷いた後に少し視線をそらした。
「剣術は、具体的にどのようなものになるのかは知らないが、魔術師志望の受験生に多くは望まないだろうから、できなくても問題はないだろうね」
「魔法剣士……物語に出てくる職業としては、魅惑的な響きですけど、わたし、剣には全然触れたことないですね」
頭の中で剣を持った自分を想像しながら答える。ちなみに私は腕力はホントだめで、家にあったレイピアを振ってみたことがあるけど、すぐに腕が上がらなくなってしまった……
「そうそう、明日もあれをつけて行った方がいいだろうね。魔法の実技試験があるので、変に制限をつけるのも危険かも知れないが、年齢的にもせいぜい一つ二つの魔法が求められるだけだろうから、問題は無いだろう」
「あれ、微妙に気持ち悪いんですよね……」
私のマナの多さは外見からは分からないのだけど、魔力を検知する探索呪文をかけた場合、灯台並に光って見えるらしい。
一人前になる前に、変に注目を受けるのを防ぐために、フライブルクに赴く際は、マナを吸い取るバングルを身につけるようにしている。
普通の人間だとそのまま倒れてしまいそうな勢いの代物だけど、私がつけると、ようやく人並みになるらしい。
「アニーくんの場合、まずは制御能力を身につけなければ、他人を傷つけるどころか、簡単に死に至らしめかねない力を持っているからね」
「そんなに凄いもんなんですかね?わたし」
思わずにへらと笑う。
ここだと、比較対象がいないので、正直よく分からないのよね……村の人たちは魔法が使えないし、私もわざわざ彼らの前で使ったりする事はしないし。
冒険者学校に行って、フライブルクで生活するようになったら、他の魔術師が身近に居る生活になるのかな?
「そんなに凄いもんなんだよ。笑い事ではなくて、まじめに。普通の12歳は、爆裂弾は使えないよ?いいとこ照明ひとつが使えれば上等という感じかな。自分が人を殺す力を持っている事には注意するように」
「はい、ありがとうございます。気をつけます」
確かに、あの図書室での勉強がなければ、魔法が使えるようにはなっていなかったはず。いつかは魔術師の道を選んでいたとしても、今ほどでは、ね。
「ところで、今日は何か変わったことはあったかな?」
「いえ、特に変わったことはありませんでしたよ。――私は」
アレックスが答えてこちらを向いた。
自分からは言わないけど、あなたが自分で言えとその目が言っている……
「わたしは……新しい魔法に成功、しちゃいました」
「ほう、どんな魔法?」
「い、業火の息吹、という、ちょっとだけ火が出る魔法?」
無駄な抵抗で、小さな声で可愛く言ってみる。
リチャードさんは、大きく目を見開いて驚いた顔をしてから、あごに手をやって考えながら話し始めた。珍しく驚かせる事ができたみたい。
「ふーむ、そのレベルに成功するとは……しかし、よくこの館が無事だったな」
「一応、空に向けては撃ちました。ここまで威力があるとは思いませんでしたが」
リチャードさん、改めて顔を上げてこちらに視線をやった。
「アニーくん、さっき言ったことは少し訂正しなければならない」
「はい、なんでしょう?」
「君は現在、すでに並の魔術師でも届かないレベルになっている。このレベルの術式は、魔術師ギルドでもマスタークラスでなければ使えない代物だ」
うーん、そこまで凄い魔法だったの?
「もちろん、独り立ちしてからは自由にしてもらってかまわないが、やはりそれまでは、少なくともフライブルクでは、力を制限する事を勧めるかな」
「これもリチャードさんの図書室のお陰です。もちろんそうしたいと思います」
街中であれを撃ってしまったら、賠償金が幾らになってしまう事やら……いや、お金で済めばまだいいんだけどね。
「あと、音も凄かったので、また苦情が来てしまうかもしれません。ごめんなさい」
謝るところは謝らないとね。リチャードさんは怒らないとは思うけど。
「わかった。ま、アニーくんに自由を与える必要経費だと思っているよ」
ほら、やっぱり。あくまで厚意で住まわせて貰っているだから、甘えてしまってはいけないのだとは思うのだけど、つい、ね……
と、一通り話題が終わった所で、アレックスがリチャードさんに話し始めた。
「――あの、リチャードさん。一つお願いがあるのですが」
アレックスのお願いとは珍しい。
「ほう、アニーくんはともかく、アレックスくんのお願いは珍しいね。何が必要なのかな?」
「実は、その……最近、細工に興味を持ちまして、教えて頂ける職人の方をご紹介いただきたいのです」
リチャードさんも興味深そうに顎をなでる仕草をしている。
「ふむ……何か作りたいものでもあるのかな?」
「付与系魔術にも興味があるのですが、まずは、その素材となる細工物が自分で作れると便利だと思いまして。鍛冶も興味はない事はないですが、体力的に難しいですから、まずは身の丈に合った所から始めようかと思いました」
確かに、魔法の効果つき指輪とか作るときに、わざわざ指輪から買っていたらもったいない。
鍛冶に関しては仕方ないか。あれはドワーフみたいな筋肉ダルマがトンテンカンしないと作れないから、とてもアレックスの手には負えそうにないよね。
「分かった。通いの生徒でも受けて貰えそうな職人を探してみよう」
「ありがとうございます。申し訳ありませんが、通学のお世話にもなる事になるかと思います」
ちなみに私たち姉妹は、リチャードさんの勧めで毎週フライブルクで武術と礼儀作法の習い事に通っている。
アレックスも一応、武術はかじっているけれども、余り前向きではないみたい。まあ、あの子は冒険者志望じゃないしね。
礼儀作法については、今後、冒険者になっても商売人や職人になったとしても、一流になると必ず上流階級とのつきあいを考えなければならないから、礼儀作法は修めておくべき、というリチャードさんの強い勧めで二人とも習っている。今のところ、披露できるのは村の人達とリチャードさんに対してだけなんだけどね。
フライブルクまでは、徒歩か荷馬車で1時間半。
騎乗なら1時間弱くらいだけど、リチャードさんとの相乗りになる。
二人とも小柄なので、まだなんとか三人乗りが出来ているけど、そろそろ厳しいかも知れない。まあ、私がフライブルグに下宿する事になると、自動的に解決するんだろうけどね。
そんなこんなのうちに晩ご飯も終わり、後は寝るだけ。明日も早いし、ご飯の後は翌日の準備をして早めに寝ることにした。
さあ、明日はいよいよ、というより、いきなり、冒険者学校の入学試験だ!
試験日を何日後にするか、本当に悩みました……
次回予告。
冒険者学校の入学試験に挑む私。学科試験の後、面接に挑む事になったけど、田舎者は魔法が使えなくて当たり前みたいな反応が返ってきてしまった。これは、いつかぎゃふんと言わせるしか!
次回「田舎者だと思ってバカにしてません?」お楽しみに!