36.その顔見りゃ笑っちゃうの仕方ないんじゃない?
今回は通常の半分くらいの長さなので、月曜日に投稿しました。(次話がまた長めなので、くっつけると2話分くらいの長さになってしまって……)
※2019/1/19 微調整しました。
※2019/8/5 スマホフレンドリーに修正しました。
盗賊ギルドと初遭遇を果たした翌日。放課後に一人で商業層を歩いていると、目の前で柄の悪い声が響き渡った。
「おうおう、よくも人の顔を見て笑いやがったな!」
「す、すみません」
どうもチンピラ二人が若い女の子の店員さんに絡んでいるようだ。
これはもう魔法少女の出番しかあり得ない!
私は素早く小路に入って魔法少女の衣装に着替え、屋根の上に上がっていく。
チンピラはまだ店員さんに絡んでいるようで、もうそろそろ人だかりができはじめていた。
頃合いもよし!私は鞄からリュートを取り出して演奏を始めた。
「なんだ、この音楽は!」
周りの野次馬もどよめき、この曲を知っているのか「来た来た来たーっ!」とか「待ってましたー!」なんて声も聞こえる。
私は屋根の上にすっくと立って、チンピラどもに向かって語り始めた。
「この美しい街の治安を乱す愚か者よ、天の裁きを受けるが良い……とうっ!」
屋根の上からジャンプして膝を抱えてくるくる回転、そして綺麗に両足を揃えて着地。人差し指でチンピラ達を指さしながら決め台詞を一発。
「魔法少女ハニーマスタード、ここに参上! 今日のわたしはぴりりと辛いわよ!」
「な、なんだてめぇ、昨日の奴じゃねえか!」
あれ?昨晩の二人組?
そして彼らの顔をよく見ると、思わず吹き出してしまった。
「笑いやがったなって、その顔見りゃ笑っちゃうの仕方ないんじゃない?」
二人とも、殴られたのか見事に目の周りに青あざが丸くできてしまっていたのだ。
「な、な、な、なんだとお!」
チンピラ達は私の方に殴りかかろうとして来る。
私はそれに対抗して魔法を準備しようとしたところで、パンパン手を打つ音と共に、別の声が割り込んできた。
「はいはい、そこまでよ」
野次馬の列の中から昨日遭遇した盗賊ギルドの二人組が入り込んできた。そして私の方を見て、一言。
「あら、またあなたなのね――ま、あなたの方はとりあえずいいわ」
そして、チンピラの方につかつかと歩いて言った。
「ス、スラッシュの兄貴……」
「まったくあなたたちは……」
チンピラより小柄なのに、凄い迫力だ。胸ぐらをつかんで、足はちゃっかりチンピラの足を踏んでいたりする。
「カタギさんに絡むなんてどういうつもり?」
「す、すみません、つい!」
「いい? 次はもう無いわよ? さっさと帰りなさい」
「「は、はひぃ」」
チンピラたちは這々の体で逃げていった。
それを見送った細身の男は、絡まれていた女の子に話しかけた。
「すみませんね、お嬢さん。うちの若いものがご迷惑をかけて」
「い、いえ、大丈夫です。こちらこそ、ありがとうございます」
「迷惑料をお渡ししても構わないのだけれど、それも逆に迷惑でしょうからね。お詫びにあいつらをこの辺りには近寄らせないようにするわ」
「は、はい、すみません」
そして今度は、私の方を向いた。
「あなたも、カタギの方にこれ以上迷惑が掛かるのを止めてくれたわね。一応、礼を言っておくわ」
私は肩をすくめて答える。
「そりゃどうも。今日はこれでお開きかな?」
「そうね。もう逢わない事を祈るわ」
そう言い残して、二人組はきびすを返して去って行った。
全ての役者は退場してしまったので、私ももうあとは立ち去るしか無い。人々の視線を切るために屋根まで上がってから別の小路に降り、私は元の服装に着替え直した。
そのまま散策を再開して冒険者ギルド本部前を通ると……掲示板に一枚の張り紙があるのを見つけた。
「HM、連絡乞う。アーサー」
うーん、これはたぶん、私の事だよね?
次回予告。
アーサーさんからの呼び出しを受けた私。彼の依頼は、警備隊に対する訓練依頼だった。そして勢い余った私は、うっかり派手にぶちかましてしまうのであった。
次回「今度は、全員で一斉にかかってきてください」お楽しみに!
次回は通常通り、11月1日の木曜日に更新します。