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35.この街の盗賊ギルドって知ってる?

 新章開始です。ハニーマスタードサイドのお話となります。

 各魔法の呪文を制定しました。過去にさかのぼって修正するかどうかは今のところ未定です。


※2019/1/19 微調整しました。

※2019/8/5 スマホフレンドリーに修正しました。

 ある日、私は魔法少女の姿で夜の街を巡回していた。もちろん、屋根の上から。


 と、商店の物陰でうごめく人影が見えた。

 私はそっと屋根から地上に降りて、忍び足で近づいていく。


 比較的若い男二人組が倉庫の扉の前で鍵をこじ開けようとしているようだ。今の月齢は三日月。明かりが無いとかなり手元は見づらいだろう。私は夜目(ナイトサイト)を使っているので、彼らの姿をはっきりと見る事ができる。

 更に近づくと、ひそひそ声で話し合っているのが聞こえてきた。


「なかなか開かないな」

「ちょっと暗いんだよなぁ……あと少しだと思うんだけど」


 それを聞いた私は小声で魔法を唱える。


「"マナよ、光となりて我が前を照らせ"――照明(ライト)


 光らせる対象は、私の手のひらだ。これなら比較的指向性を持たせられるし、手を握れば見えなくもなる。手元が照らされた男は、視線を動かさず礼を言ってきた。


「おう、これで大丈夫だ。ありがとう」


 もう一人の男は慌てて振り向いてきた。


「馬鹿、明るくしたら目立つじゃねえか!……って、誰だお前は!」


 鍵を開けていた男も異常に気が付いて振り向いてきた。立ち上がった男二人に対して、私はバックジャンプで少し距離を取る。


「私が誰か、ですって……?」


 ここで少し溜めてから、びしっと人差し指で男達を指さして、決め台詞を一発。


「魔法少女ハニーマスタード、ここに参上! 今宵(こよい)の私はぴりりと(から)いわよ!」


 私に指さされた男達は激高して口々に叫びだした。


「お前か、最近出没していると言う変な奴は!」

「俺たちは盗賊ギルドのメンバーだぞ! 俺たちに手を出して、どうなるか知らねぇのか!」


 私は冷ややかな目で見ながら、腕を組んで答える。


「知らないよ、そんなの。いずれにせよ、このわたしが現れた以上、盗みに入るのはあきらめる事ね。まだ未遂のようだから、このまま引き揚げれば見逃してもいいわよ?」


 私は警備隊でもないので、明らかな犯罪行為が成立しているとか、正当防衛でもなければ、相手を攻撃するのは気が引けるし、傷害行為と言われると説明がしづらい。うっかり拘束されると変装がばれてしまう可能性もあるし。


「そんな訳にもいかねぇんだよ!」


 男達は素手で殴りかかってきた。よし、正当防衛成立!

 私はひらりと男達の突進を一度回避してから、魔法の詠唱に入る。


「"マナよ、我が手に小さき(いかずち)を宿らせん"――電撃(スタン)


 二重で詠唱し、両方の手のひらに帯電した小さい魔法陣を生成させる。魔法陣からはパリパリと火花が散っている。

 これが前回の魔法少女(物理)の汚名を返上すべく導入してみた新しい魔法、電撃(スタン)。後に残るダメージはそれほど無いけど、気絶させたり無力化が可能……な、はず。


「ちょろちょろ逃げ回りやがって!」

「挟み撃ちだ!」


 頭に血が上った男達は、左右に分かれて殴りかかってきた。私は男達の拳を左右の手で受け止め……男達には魔法陣からの電流が流れ込んだ。


「い、痛ぇ!なんだこりゃ」

「うわぁあああ」


 男達は自分の体を通り抜けた高電圧の衝撃に倒れ込んで痙攣する。


「ふむ、無力化には使えそうね」


 私は倒れ伏している男達の横で、手のひらを開いたり閉じたりしながら、その感触を確認する。

 ――と、不意に背後から小さな声が掛けられた。


「そのあたりにして貰おうかしら」


 足下に小さな球が投げ込まれ、それは地面に落ちると炸裂して刺激的な白煙が広がる。


「しまっ……! ごほごほっ」


 私はうっかり少し吸い込んでしまい、咳き込んでしまった。急いで煙から出て壁を背にするように移動し、息を整えながら周辺を警戒する。


 ――煙が晴れてきた。そこに現れた新たな人影は二つ。大柄な男が倒れた男たち二人を肩に担いでいる。

 もう一人の細身の男が投擲用短剣(スローイングダガー)を片手に構えてこちらを油断なく見ながら、話しかけてきた。


「悪いわね、このバカ共は教習中なの。こちらとしては見逃して貰うと助かるんだけど、あなた、どうする?」


 私も彼らの動きを注視しながら、状況を考える。

 今の時点で被害者がいない以上、戦ってもそれで誰かを助けられる訳では無い。

 さっきの男共と違って、目の前の彼らはかなりの手練れのように見えるし、リスクだけあってリターンは何も無いように思う。


 結論が出た私は、肩をすくめてから男達に返事した。


「まだ被害は出てないからね。見逃すのは構わないよ」

「それは助かるわ。あたし達も青銅貨1枚にもならない戦いはしたくないの」


 そして男達?は闇の中へ消えていった。

 私は再び屋根の上に上ってから、緊張の糸が解けてぺたんと座り込んだ。手も少しぷるぷる震えている。


 ただのごろつきなどにはない、本当の戦う人間の殺気を浴びた気がする。

 でも、そういった緊張感の中で戦うのも、また楽しそうと感じてしまう自分もまた、居たりする。


 ともあれ、盗賊ギルドかぁ。今後敵対するかどうかは分からないけど、何も知らないのは怖いから、少し知っておきたいな。

 知ってそうな人間、誰か知り合いにいないかな?



              ◇   ◇   ◇



 と言う訳で、まずは次の日、クリスに聞いてみた。


「ねえ、クリス」

「ん、なんや?」

「この街の盗賊ギルドって知ってる?」


 私のいきなりの質問にクリスは変な顔をした。


「いきなりなんやの?」

「こないだ盗賊ギルドが出てくる本を読んで、この街にもあるのかなーって思ったから」

「へえ。それで、なんでうちに?」

「いや、この街育ちだし、マリアよりは詳しいかな、と」


 この答えに納得したのか、クリスは少し考える素振りをしてから答えてきた。


「せやなぁ……ある事はあるらしいけど、それ以上の事は知らんなあ」

「だよねぇ」


 まあ、クリスが知らないのは仕方ないよね。

 うーん。あと詳しそうな人は……やっぱり冒険者ギルド、かな。

 この街では、冒険者ギルドが警備を担っているので、盗賊ギルドの事は知らない筈はない。


 そう思った私は、魔法少女の衣装で放課後に冒険者ギルド本部を訪れた。

 人目を引く格好にじろじろ見られながら、受付で先日出会った警備部のアーサーさんに取り次いで貰う。


「こちらでお待ちください」

「はい、ありがとうございます」


 通された応接室で、ちんまり座ってアーサーさんが来るのを待つ。しばらくした後に扉がノックされ、アーサーさんが入ってきた。


「おや、ハニーマスタードさん、でしたか」

「突然、すみません。一つお伺いしたい事ができたので。少しだけ、いいですか?」


 アーサーさんは私の対面に座って、私のお願いを了承する。


「はい、もちろん、結構ですよ」

「この街の盗賊ギルドについて、教えていただけますか?」


 アーサーさんは、私の予想外の質問に少し驚いた顔をした。


「ふむ……そうですね。彼らと何かありましたか?」


 私は、窃盗を未遂に終わらせた事、別のメンバーが助けに来た事など、昨晩あった事をアーサーさんに話した。


「なるほど、事情は分かりました。恐らくそれは、新人メンバーの実践演習だったのでしょう。もちろん、盗みに入っているのは本当の商店ですから、侵入した時点で彼らは犯罪者です」


 アーサーさん、顎の下に手をやって、少し考える素振りをしてから話を続ける。


「後から来た男達は……教習のため、ベテランメンバーが近くで監視していたのでしょうね。あなたも手を出さなかったのは賢い考えだと思いますよ」

「ところで、今後同様の問題を見かけたならば、どうした方がいいでしょうか?」

「やはり、我々としては、警備を呼んで頂くのがベストですがね。呼び子を吹くのでも結構です」


 そして、懐から小さい笛を出してきた。


「これをお渡ししておきましょう。良かったら使ってください」

「ありがとうございます」


 私はその呼び子を懐に収めた。使う機会があるかどうか分からないけど、保険にはなるだろう。


「そうそう、盗賊ギルドに関してでしたね。我々が把握している内容をざっとお教えしましょう」


 アーサーさんが話してくれたのはだいたいこんな感じだった。


 盗賊ギルドは、もちろん存在する事。非合法ではあるが、違法では無い事。

 活動としては、スリや窃盗の指導、情報の売買が中心。ギルドマスターは比較的穏健派で、強盗や暗殺は推奨していない。

 スリや窃盗はもちろん違法だが、組織としてのギルドが行っている訳では無いため、下っ端の実行者しか罪に問えていない。

 組織としての収入は、商店からの保護料、情報の売買、盗賊からの上納金が中心。


「我々警備隊の人間としては、組織そのものは手を出せていませんね。はっきりした拠点が見つかっていない事もありますが、穏健派の彼らの存在によって、より凶悪な盗賊ギルドが侵入してくるのを防いでいる、と言うのもあります」


 ここでいったん切って、肩をすくめながら説明を続ける。


「あとは、街の指導層で盗賊ギルドに仕事を依頼している人間もいるらしくて。盗賊ギルドに対する敵対行為には有形無形の妨害が入ってしまうんです」


 アーサーさんの説明に、私は頷きながら答える。


「なるほど、警備隊の立場はわかりました」


 アーサーさんは、最後に冗談めかしてこう付け加えた。


「お願いですから、アジトを見つけて突入、なんてしないでくださいね? 組織そのものは違法では無い以上、その場合はあなたが罪に問われる事になります」

「ご忠告、感謝します」


 私は冒険者ギルドを出て、物陰で普段の服装に戻って、考えながら歩き始めた。


 おかげで、盗賊ギルドに関してはだいぶ理解する事ができたかな。

 確かに、突入して吹っ飛ばす、なんてのは後々街の人々に迷惑をかける可能性がある以上、やっちゃう訳にはいかないよね。

 当面は目の前に現れた悪人を吹っ飛ばす事に専念するしかないかなぁ。

 次回予告。


 盗賊ギルドに出会ってしまった私。こちらから無理に突っ込むつもりはないんだけど、向こうから来てしまうものは仕方が無い。


 次回「その顔見りゃ笑っちゃうの仕方ないんじゃない?」お楽しみに!


 次回は編成の都合上、半分くらいの長さしかないため、29日の月曜日に更新する予定です。

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