33.すみません、先生の事を正直見くびってました
ただいま週一ペースで運用中です。進行、遅くなってしまってスミマセン。
それはさておき、感想・ブックマーク・評価お待ちしております。
※2019/1/17 微調整しました。
※2019/8/4 スマホフレンドリーに修正しました。
お昼ご飯の時間になった。
男子共がリズさんを誘おう……と動く前に、やっぱり、私たちの席に来るリズさん。
「お姉様、お昼ご飯はこちらでよろしいですわね?」
「ああ、いつも昼は4人で食べているね」
今までは机を四つくっつけて食べていたんだけど、うーん、5人か。
どうしようかと考える前に、リズさんは隣の机を持ってきて、側面にくっつけた。そして、鞄からお弁当の包みを取り出す。
へえ、お嬢様と言えども、さすがに執事とシェフがやって来たりする訳じゃないんだ。とか思いながら見て居ると、視線に気付いたのかリズさんがこちらを向いた。
「アニーさん、あなた、考えている事が分かりやすすぎですわよ?」
「えっ!?」
「市井には疎いわたくしでも、こう言う時はお弁当という事は知っていましてよ」
「あはは……ごめん」
「そういえば、自己紹介を伺っていませんでしたわね。お聞かせ頂けますか?」
それを聞いた私は、やっぱりこの間のは聞いてなかったのかと、微妙に不服な顔をする。
「ほら、アニーさん、またダダ漏れですわ。先日は通りすがりの自己紹介。今日はクラスメイトとしての自己紹介。話すべき内容と、わたくしの聞く姿勢が異なるのは当然の事ですわ」
「う、うん。理屈は分かったけど」
「それでは、アニーさん、さあどうぞ?」
と言う訳で、みんな改めてリズさんに自己紹介を行った。
ちなみに私は、村出身で下宿している事、魔術師志望で魔法が使える事くらいしか言ってない。
いきなり、あの錬金術師リチャードさんにお世話になってるんですーとか、自分から言うのも、ねぇ?
「なるほど、お姉様が剣士で、アニーさんが魔術師、クリスさんが軽戦士でマリアさんが神官戦士、と。練度は存じ上げませんが、バランスは良いパーティのようですわね」
「リズさんは実技には参加しないんだっけ?」
確か、入ってくる時、先生はそう言っていた気がする。
「ええ、わたくし、これまで魔法も剣術も触れたことはございませんし、これからもないと思いますわ。午後からは基本、これまで通りに自宅で学習する予定ですの。――あ、でも、今日は見学させていただきますわよ?」
「そうなんだ。ま、学科授業とは少し違うみんなの姿が見られると思うよ」
「お姉様の活躍、楽しみにしておりますわ!」
うーん、リズさんも、ある意味分かりやすい人だと思うけどね。
◇ ◇ ◇
さて、お昼休みが終わると、午後の実技が始まる。今日の魔術の実習は、珍しく魔術練習場で行われるようだ。
先生曰く、今日は見学者もいる事だから、魔術の経験者に実際の魔法を見せる事を中心にしたい、と言う事だけど……まさかとは思うけど、リズさんに皆の芸を見せたいわけじゃないよね?
最初、ナイスミドルでちょっと格好いいかも、とか思った当時の自分に喝を入れたい気分になってきたよ。
芸を見せるのはいいけどさ、自分たちだけ見せるのもしゃくに障るなぁ。そういえば先生の実力、見たことがなかった気がするから、この機会にかこつけて見せて貰おうかな。
「先生、まずは先生がお手本を見せてくれませんか?」
「ふむ……そうだな。わかった」
先生は了承すると、射撃台の方に移動して、皆に下がるように言った。
「皆は少し下がっていてください。大きな音が出るから、耳をふさいでいた方がいいかもしれない」
少し息を吐いてから、標的である布人形を見据えて静かに呪文を唱え始める。
「"マナよ、天空の怒り、稲妻となりて我が前の者どもを討ち倒せ"」
先生の前に魔法陣が形成され――おやおやこれは……思ったより高度な魔法が使えるみたい――魔法は完成した。
「――雷撃!」
轟音と共に、一条の稲光が魔法陣から飛び出して標的を直撃する。
布人形は一瞬のうちに灼け焦げて、隅っこからちろちろと火が出てしまっている。
「おお~」
他の皆は轟音とその威力に驚いて、戸惑っているが、私は思わず拍手してしまう。
雷撃は、暴風雪と同じくらいの難度で、生半可な魔術師が使える代物じゃない。よほどの大物が相手でない限り、必殺技と言ってもいいくらいのレベルだ。
「すみません、先生の事を正直見くびってました。ここまでの魔法を使えるのなら、冒険者でも仕官でもできるでしょうに」
私は正直な感想をぶつけてみた。
「宮仕えも切った張ったも苦手でね。ここで後進の育成に専念するようにしているんだよ」
うーん、先生にも先生なりの事情はあるんだね。一面だけを見て判断しちゃいけないか。
「わかりました。では、その心意気に対して、わたしもちょっとした芸をお見せしましょう」
と言っても、魔力吸収のバングルをつけているから、大した事はできないけど……たぶん、これくらいならなんとかなる、はず。
私は先生に代わって射撃台に行き、布人形をじっと見詰める。そしておもむろに魔法の詠唱を始めた。
「"マナよ、矢となって我が敵を討ち倒せ"――魔法の矢!」
小さい魔法陣が目の前に三つ形成され、同時に、しかし上と左右に分かれて射出される。
それぞれの魔法の矢を制御し、布人形に三方向から同時に命中させた。
「先生の雷撃と比べるといささか地味ですけどね、こう言うのも面白いでしょう?」
さすがに今の状態ではこんな魔法ですら、魔力を一杯一杯使い切ってしまった。急に襲いかかる倦怠感に脂汗を流しながら説明する。
リズさんも含めて、魔法が使えない人達の感想は……やっぱり、先生の魔法と比べると、地味だなって感じのようだ。
魔法が使える男の子は……と。目が点になってるな。先生の様子は……?
「な……三本同時発動!? そんな事ができるものなのか?」
――あれ? 先生も知らない技だった?
「魔力の消費はその分増えますけどね。なんて言うか、頭の中を棚を作る感じ? コツさえつかめば、それほど難しい事ではありませんよ」
「アニーくん。君はいったい……?」
なにか不気味な物を見るような目で見る先生に対して、私は手のひらをひらひらしながら答えた。
「いやですねぇ、ただの魔術師志願者ですよ? 魔法の矢たった三発で息も絶え絶えになる。幸い、家に魔術に関する本が沢山あったので、人よりちょっとだけ研究が進んでいるだけです」
「確か君は……シュタインベルグ村出身だったか」
「そうですよ?」
そこでようやく気がついたようだ。
「シュタインベルグ村――あの錬金術師リチャードが住んでいる?」
「ええ、リチャードさんは、わたしの保護者ですが」
それを聞いた男子共は、ノーマークの私が有名人?の関係者であった事にどよめき始めた。
リズさんは……と。腕組みをして知らんぷり。あらら、特に反応なし、か。
私と視線が合ったリズさんは、腕組みを解いて話し始めた。
「アニーさん。わたくしを見くびらないでいただきたいですわ。わたくしがその人間とつきあう事を決める材料は、わたくし自身が見極めた人となりだけ。その方がどのような立場にあるかとか、どのような方と知り合いなのか、と言う事は一切考慮しませんわ。商売になれば、また話は別ですけどね」
「あはは……ごめん」
私はまた笑って謝るしかない。リズさんに対する私自身の偏見も解かないとね。
その騒ぎの横で少し考え込んでいた先生は、私に質問を投げかけてきた。
「アニーくん、そこまで研究が進んでいると言う事は、現在のこのクラスで教わるべき事は無くなっているだろうか?」
「――そう、ですね。そうかもしれません」
余りストレートに言うのもなんだか悪いしね。軽く婉曲的に答える。
「では……次回から、経験者の指導をお願いしてもいいだろうか?」
私は意外な質問に少し驚いたけれど、やってみる事はできると答えた。
「そうか、それは助かる。私は未経験者の指導に専念する事ができるよ」
◇ ◇ ◇
この後は、後の魔法経験者男の子二人と、マリアが照明をかけ、いつも通りの初心者授業に戻るのだった。
私?マリアは神聖魔法だから教える事はできないし、経験者といえども初心者の男の子二人は照明で魔力使い切っちゃってたし、今日はあまりできる事はなかったかなぁ。
次回から、なにか方法を考えようかな。人に教えたことってやった事ないけど、うまくできれば自分の勉強にもなるかもしれないし。
次回予告。
剣術実習ではパーフェクト・シャイラさんがついに先生との対戦を行う。その後、私たちはリズさんを家に送って行き、そこで新たな人との出会いが生まれたのであった。
次回「友達というのは頼まれてなるものではありません」お楽しみに!