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3.業火の息吹(インフェルノブレス)、行ってみよう!

※2018/9/13 新しい魔法を試したい!から改題しました。

※2018/12/12 呪文を追加、微調整しました。

※2018/12/27 次回予告を追加しました。

※2019/8/3 スマホフレンドリーに修正しました。

 裸足でぺたぺた歩きながら、自室に戻る。

 靴下が真っ黒になりそうだ……アレックスに叱られる……

 靴下を脱いでサンダルに履き替えてから、汚れた靴下をこっそり洗濯かごの奥へ。


 ばたばたしてた事もあったし、そろそろお腹が空いてきたかも。

 ハムサンドの包みを持って食堂へ。


 飲み物は……ワインでいいか。

 樽からコップに注いで、水差しの水で薄めておく。朝は紅茶を飲んだけど、やっぱり一人の時は飲みづらい。


 この辺りは、王国の他のどの都市よりも紅茶は手に入れやすくはあるのだけれど、高価な輸入品である事に変わりは無い。いや、別に一人で飲んでも、リチャードさんは怒らないと思うけどね。


 アレックスが淹れるのなら兎も角、私が淹れるのだと、紅茶の精霊が怒って夢枕に立ちそうだから。うん。


 一人でもそもそ食べてお昼ご飯は完了。初等学校行っている間は、みんなで教室で食べられたんだけど……一人だと、やっぱりつまんないな。同級生はみんな村の農家や酪農家の人達だから、もうみんな家業を手伝っている頃だろう。


 さて、反省会だ。

 自室に戻って、サンダルを脱いでベッドに寝っ転がり、先ほどの失敗について考え始めた。


 さっきのは、真上に飛び上がったのが敗因だと思う。今回は暴風雪(ブリザード)だったけど、これが炎の息吹(ファイアブレス)だと、下が燃えていたかも知れない。そもそも、横に移動する方法がない以上、そこで倒しきれないとデッドエンドだ。二、三階の高さでは、剣を投げられただけでも防ぎようがないし。


 街中限定ではあるけど、重力軽減(ディクリーズグラヴィティ)までは正解で、そこから壁に向かってジャンプして、屋上に上がるのが良いような気がする。魔法を撃ち込んで攻撃してもいいし、反撃を受けても物陰に隠れられるし、逃げ出す選択肢も使えるし。それに、最近練習している軽業方面ではあるから、違和感なく使えそうな気がする。


「うーん、それにしても、空中で移動する方法、なんとか見つけたいなぁ。箒で飛ぶような魔法、どこかに落ちてないかな? ドラゴンとかに変身できるのでいいけど」


 言うまでも無いけど、そんな都合のいい魔法は存在しない。ただの愚痴……



              ◇   ◇   ◇



 自室で反省会(ごろごろ)の後、中庭に戻ってみると、さすがに夏の日差しによって石畳は解凍されていた。今は素足にサンダルなので、革靴は回収して隅っこへ。


「気を取り直して、本日のメインイベント! ひゅーひゅーぱふぱふ」


 思わぬトラブルで、少しテンションが下がってしまったが、なんとか自分を鼓舞してみる。

 図書室で見つけた、結構面白そ……いや、強力そうな魔法を使ってみるのだ。


 名前は「業火の息吹(インフェルノブレス)」。どうも炎を吹き出す魔法のようだ。

 似たようなのに炎の息吹(ファイアブレス)があるが、その発展系のように思える。


 かなり難しい魔法である事が予想されているため、さすがに精神を集中し、慎重に魔法の詠唱に入る。


「"マナよ、地獄の業火となりて、我が前に立ちふさがりし全ての愚か者に裁きを下さん"」


 先ほどの暴風雪(ブリザード)より更に大きい魔法陣が形成された……のも一瞬、残念ながら魔法陣は消えてしまった。これは術式の整合性に問題があったための不発だ。


 別の候補の術式で詠唱してみる――先ほどより長くは持ったが、やはり魔法陣が自壊してしまった。


 ちなみに、これらの失敗でもマナはそれぞれ消費している。自分でも感じられるくらい減っているので、この魔法のポテンシャルはかなり高いようだ。


「恐らく、これで問題ないはず」


 これまでの反省を踏まえた、決定版と考えられる術式を、メモで確認する。そして、詠唱を開始する。


「"マナよ、地獄の業火となりて、我が前に立ちふさがりし全ての愚か者に裁きを下さん"」


 今度は安定した魔法陣が形成されている。うまく行きそうだ。でも、なんかいやな予感がするので、水平方向ではなく、仰角を持たせて空を狙うようにしておいた。


「――業火の息吹(インフェルノブレス)!」


 魔法陣から轟然と火焔が噴出し始めた。かなりの高温高速、高圧で噴出しているように見える。爆発音ではないが、かなりの轟音が継続して響き渡っている。

 魔法陣が反動を吸収しているようだけど、それでもビリビリと震えているように感じる。

 目の前が真っ白になって何も見えず、顔も灼けるように熱い。これは目を閉じないとたまらない。

 十数秒後、ようやく魔法陣が収束し、炎もおさまった。


 建物は炎の直撃を受けていなかったようで、なんとか無事に見える。屋根のスレートから陽炎が発生していて、気のせいか輻射熱まで感じる。あぶられて高温になっているのかも知れない。

 建物に直撃させていたら、吹き飛ぶか炎上するか、あるいは両方になっていたかも知れない。


 吹き出した炎の残滓か、中庭から空高く白い雲だか煙だかの跡が残っている。

 建物に囲まれた風通しの悪い空間なので、ここだけサウナのような温度になってしまっている。


「危っぶなかった……建物の中で使ってたら絶対死んでたよ、これ」

姉様(ねえさま)、今のは何だったんです?」


 ぎぎぎと顔をそちらに向けると、あきれた顔をしているアレックスが目に入った。

 う、いつの間にか、アレックスが帰ってきていたようだ。


「あー……えーと……今のって?」

「この領主館の中庭から吹き出していた、とんでもない熱量を持った炎です。この中庭に存在していて、かつ、そのような事ができそうな人は、私は一人しか知りませんが?」

「はい、ごめん。わたしです……」


 頭を下げて右手を挙げる。

 これはもう、誤魔化しようがない。

 通りすがりのドラゴンがブレスを吐きましたーなんて言っても、じゃあ、そのドラゴンはどこに?という話になるだけだし。


「魔法で遊ぶのは姉様の自由ですが、私たちの居場所を失いかねない事は、避けて頂きたいです」

「ごめん、思ったより凄かった……」

「まあ、姉様は、失敗は二度繰り返さない方ですから、もういいですけど。ところで、頼まれていた例の服の件ですが」


 アレックスは一般家事の他、裁縫も実に見事な腕前を持っている。一家に一人いると、ほんと便利。ちょっとキツいけど……

 で、ちょっと凝った服の制作をお願いしていたりする。


「私だけではさすがに手に余るので、マルガレーテさんに手伝いをお願いしています」


 ちなみに、マルガレーテさんは村の裁縫が得意なお姉さんだ。


「あー、まあ、仕方ないよね。今回のは難しいと思うし」

「つまり、この村内であれを着ると、仮に顔が分からなかったとしても、服から正体が分かってしまうという事です」


 ――用途は何も言っていないのに、なんだか感づかれている気がする。


「街デシカ着ナイカラ大丈夫ダト思ウヨ?」


 思わず棒読みになってしまう。


「まあ、冒険者学校に行けないと、話は始まらないでしょうけど」

「う……まあ、そうだけど……」

「冒険者学校に行けたとして、の話ですが、恐らく9月からですよね? 学校が始まる頃には間に合わせますよ」

「ありがとう、アレックス!」


 思わずアレックスをぎゅっと抱きしめる。


「暑いのでどいてください、姉様。それとも手伝ってくれます? 今から洗濯を始めるのですが」


 うう、やっぱり冷たいなぁ……いいよ、今日は手伝ったげよう。


「あら、珍しいこともあるものですね、姉様。それでは、洗濯かごを一緒に持っていただけますか」


 二人で台所まで行って、二人で洗濯かごを中庭の井戸まで運ぶ。アレックスは棒石鹸(シャボン)とナイフをエプロンのポケットに入れている。

 洗濯かごの中身を、井戸の横に立てかけておいた洗濯桶に移し、棒石鹸(シャボン)をナイフで”ささがき”にして適量振りかける。次は、洗濯物がひたひたになるまで、井戸から水をくむ――のだけど。


 水を入れる瞬間、突然アレックスが洗濯物の山に手を突っ込んで、真っ黒の靴下を取り出した。


「これは汚れがひどいので、別に洗っておきますよ。それにしても、何をしたらこうなったんです?」


 うわ、見つけるか。


「ちょっと、裸足で歩かなきゃならなくなっちゃって……」

「まあ、いいですけど。あと、ひどく汚れたものを奥に押し込まれると、他の洗濯物に汚れが移ってしまいますから、次からは別にしておいてください」


 そう言うとアレックスは、靴下に改めて棒石鹸(シャボン)を念入りにふりかけ始めた。


「わたしはこちらを洗っておきますので、姉様は洗濯桶の方をお願いします」


 気を取り直して洗濯桶に水を張って……あとはひたすら脚で踏むだけ!


 ――数分後。


 一通り洗い終える事はできたけれども、私は完全に体力が尽きてしまっていた…… ぺたんと座り込んで、荒い息で喋るのが精一杯だ。


「ぜーはーぜーはー……アレックス、よくこんなの毎回やってるわね」

「慣れてますから。でも姉様ももう少し体力をつけられた方がいいのでは?」


 アレックスは素知らぬ顔だ。


「それなりに動かしているつもりなんだけどなぁ」

「すすぎはわたしがやりますから、姉様は休んでいただいて結構ですよ。手伝い、ありがとうございました」


 クビ宣告、いただきました。

 家事能力の余りの差に、ちょっと絶望感を持ってしまう。仕方ないので、夕ご飯まで図書室に籠もっていることにしよう。

 次回予告。


 帰ってきたリチャードさんから、冒険者学校の受験要項について話を聞くことができた。なんと試験は明日だそうで、いきなりぶっつけ本番となる事が決まってしまった。

 更に、珍しくアレックスもお願いがあったりして、今日の晩ご飯は色々盛りだくさんな話題となってしまった。


 次回「ぶっつけ本番、確定!」お楽しみに!

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