23.おかげさまで、自信がついてきました!
※2018/9/13 トラウマを克服したい!から改題しました。
※2018/12/30 次回予告を追加しました。
※2019/1/16 微調整しました。
※2019/8/4 スマホフレンドリーに修正しました。
私たちの他は誰も居なくなった教室で、私たちは先生と顔を向き合わせている。
「で、アニー・フェイ。試験の時のあれは何だったのか、説明できるか?あ、難しいとか苦しいとかであれば構わんが」
「はい、大丈夫です。そもそもは――」
私は、子供の時の体験が元で、恐らく「抜き身の剣と相対した時」にパニックを起こすトラウマを持っている事、でも、解決方法は分かっていて、周りの皆の協力を得ながら克服しようとしている事を話した。
「なるほど、そんな事があったのか」
先生は頭の後ろに手を組んで頭上を見上げる。
「お前さんのやる気もさることながら、周囲の人間に恵まれたな」
「はい、そう思います」
先生はしばし考えていたが、何か思いついたのか急に手を解いてこちらに向いてきた。
「ちょっと待てよ。その流れで言うと、最終的な解決方法は……」
「はい、抜刀した先生と再戦して、無事に一発入れられたら卒業かな、と思ってます」
それを聞いた先生は、頭を掻きながら苦笑した。
「やれやれ……そいつぁ責任重大だな。自信をつける事が目的だから、手ぇ抜いたらダメなんだよな。――で、まだ、その時ではないんだろう?」
「はい、今はまだ、先生に勝てる自信はありません」
「そうか、その時になったら知らせてくれ。楽しみにしているぞ」
「はい!」
「で、それまでは木剣なら問題ないんだな?」
「はい、木剣なら村でチャンバラもしていましたから」
先生はこの答えで納得したらしく、席を立って帰っていいと伝えてきた。
◇ ◇ ◇
――私たちだけになった教室で、私はシャイラさんに一つお願いをする。
「シャイラさん、ちょっと一つ思いついた事があって、練習につきあってもらいたいんですが、いいですか?」
「ああ、勿論構わないぞ。今日はバイトを入れていないからな」
「うちも今日はなんもないから、見させて貰おかな」
「はい、わたしも大丈夫です!」
事務室に寄って、事務員さんに訓練場を借りる事を伝えてから訓練場へ移動する。訓練所の扉をそっと閉めて、誰も周りに居ない事を確認してから、魔力吸収のバングルを外す。
「"マナよ、姿を変えてこの身を護る盾となれ"――防御!」
私が唱えたのは、本来は体全体を覆って、気休め程度の防御能力を発揮する魔法。
「シャイラさん、この左手に鞘のまま、軽く切りつけてみてくれますか?」
「ああ、分かった」
シャイラさんは鞘のまま曲刀を取り出し、軽くこんと叩く程度にぶつけてきた――が、左拳にぶつかる前に、見えない壁ではじかれてしまう。
「あれ?」
「すみません、もう少し強めに、もう一度お願いします」
「分かった」
シャイラさんはもう少し強めにぶつけてきた……が、やはり同じ結果となる。
「面白いな」
「すみません、もっと強めでも大丈夫です」
「よし、それでは強めに行くぞ」
シャイラさんは振りかぶって、叩きつけるようにぶつけてきた。今度もはじかれたが、さすがに私の腕も反動で大きくはじかれる。でも痛くはないから、実験は成功かな?
「これは一体、どうなっていたんだ?」
「こうすれば分かります」
私は、右手で地面から砂を取って、左手に軽く振りかけた。
左手の周り、直径30cmの球状に見えない壁があるように、砂が丸く覆っていく。
「防御と言う魔法があって、普通は体全体に気休めくらいの防御を行う魔法なんです。でも、こうやって小さくすると、結構な堅さになりそうだったので、試してみました」
「なるほど、これで左手を盾代わりに使えると言う事だね」
さすが剣士のシャイラさん、一目で用途に気がついたみたい。
「はい、魔術師は盾も手甲も使えませんから」
実験が終わったので、次は練習の時間だ。シャイラさんに距離を置いて構えるようにお願いする。
「では、また先日のようにお願いできますか?」
「ああ、油断はしないさ」
私は右半身に立ち、左手を上に、右腕を下に下げて構える。
シャイラさんが曲刀で斬りかかってくるのを、今まではバックジャンプで避けるしかなかったのが、左手ではじいて防御できるようになった。
何回も攻撃をはじかれたシャイラさん、思わず大きく振りかぶった所に隙が、見えた。
「やーッ!」
反射的に私は箭疾歩を繰り出し、突っ込んでいく。
シャイラさんの曲刀をくぐり抜ける事に成功し、シャイラさんに迫っていく。今度も手は拳にせずに開いているけど、こ、このままだとまた先日のように手のひらがシャイラさんの胸に着地してしまう。なので、手をシャイラさんに当たらないように避けていくが……
むにゅ。
その結果、今度はシャイラさんに抱きついて押し倒すような感じになってしまった。身長差から、今度は私の顔面がシャイラさんの胸に……
「ごごご、ごめんなさい……」
「――ッッ!」
シャイラさんはまた顔を真っ赤にして、悲鳴を上げそうになるのを、口を手で押さえて必死で我慢している。あ、涙こぼしてる。
そして、観覧者の二人からツッコミが入る。
「あー、やっぱりなー。アニさん、自分、もしかしてそっちの趣味があったりするんか?」
「そのオコナイは正義にもとると思います!」
「わざとじゃないです!そして、そんな趣味もありません!」
ま、まあ、これで、シャイラさんの剣術は突破できるようになってきたかも。近い将来、ラスボスのクレメンス先生に挑戦できるかな?
あ、シャイラさんの名誉の為に言っておくと、これはあくまで至近距離に近づけるかどうか、と言う勝負だから、こういう結果になっているのであって、もし本当に真剣に戦ったとすると、至近距離に近づいても全然有利にはなっていないよ。体力も違うんだし。
もっとも、本気で剣士と戦うんだったら、私、近づかないで魔法撃つけどね。
「そうだ、そろそろ、抜き身の剣を見せていただけますか?」
「構わないが……大丈夫か?」
「いつかは越えなければならない壁なので。少しでも危なかったら言います」
「分かった。そこに練習用剣があるから、使わせて貰おう」
シャイラさんは、壁に掛かっている練習用剣を持ってきた。
「少し離れておいた方がいいか?」
「そうですね、あと、ゆっくり目に抜いてみてください」
「わかった」
シャイラさんは離れたところに立ち、ゆっくり剣を鞘から抜いていく。妖しく光る刀身が見えてきた。
「――!」
胃に何か物が入ったかのように重くなり、背筋にいやな汗が流れる。
私は大きく深呼吸する。
「アニーさん、大丈夫か?」
「平静も掛けられますから、言ってくださいね!」
「しんどかったら言うんやで?」
「だ、大丈夫です」
なんとか第一段階はクリアできたようだ。
「それでは、いつもと同じようにお願いします。最初はゆっくり目で」
「ああ、分かった」
ゆっくり剣を振りながら近づいてくるシャイラさん。剣が太陽の光を反射して、きらきら光っている。
私は集中して右半身に構えて左手を肩まで上げるいつもの構えをとった。
シャイラさんが手加減して振ってきた一撃を、防御を掛けた左手ではじく。
さらに連続して振ってきた攻撃も的確にいなすことができている。
そもそも、木剣よりも金属製の剣の方が、当たってしまうと怪我をしてしまう可能性が高いため、防御には注意が必要になるのだけれど、我ながら、うまく集中できているようだ。
「大丈夫そうだな」
「はい!」
振ってきた剣を、受けるのでは無く捌いて逆に後ろから押し込む形で加速させ、シャイラさんの体勢を崩す。
「おおっと!」
箭疾歩ではなく、単純な前ダッシュで近づき、シャイラさんの背中側に回る。
シャイラさんの肩を両手で掴んで、試合終了。
「おかげさまでだいぶ自信がついてきました。ありがとうございます!」
それを聞いたシャイラさん、がっくりと肩を落として呟いた。
「それはよかった。でも、その代わり、私の自信がなくなりそうだよ……」
シャイラさんが本当に強いのは、相手をしている私がよく分かっているのになぁ……この一件が終わったら、自信回復のお手伝いをした方がいいかも知れない。
次回予告。
いよいよ、冒険者学校での本格的な授業が始まった。魔術の授業では、未経験者を対象とした詠唱体験が行われる。私は暇だったから、他の人の勉強の手伝いをやってみる事にした。
次回「魔法の授業、始まりました!」お楽しみに!