20.魔法少女ハニーマスタード、見参!
ようやく、これで第一章が完結です。
※2018/9/13 いよいよ例の活動を開始したい!から改題しました。魔法の名前、間違えていたのを修正しました。
※2018/12/30 次回予告を追加しました。
※2019/1/1 微調整しました。
※2019/8/4 スマホフレンドリーに修正しました。
翌日。
天候は回復したので、朝ご飯の後、日中は街の中をうろうろ。今までは習い事の往復くらいで、それ以外の所は余り歩いていなかったから、細い路地とか歩くといろいろ面白い。
日が落ちてから、またまた魔法少女の格好に扮して、変装もバッチリ決めて出撃。一昨日よりもう少し範囲を広げて散策していると……ダウンタウンの方で、言い争いする声が聞こえた。
屋根の上から隠れて見ると、どうも若い男女連れに、柄の悪そうなおっさん二人が因縁をつけているようだ。
どうしようかと考えていたそのとき、おっさん二人が短剣を抜き放ったのが見えた。思わず心臓がどきりと動き、一瞬、体が固まってしまう。
――でも、距離も遠いし、こちらを向いていないので、なんとか耐えられた。
逆に、目の前で抜かれるよりはましだったかも。
「どうすればいい?考えろ、考えろ……」
なんとかして、短剣をはじき飛ばせば良さそうだ。予備の武器はたぶん持ってないだろう。2本なら何とかなりそうだ。頭の中でシミュレートしながら、魔法の詠唱を始める。
「"マナよ、矢となって我が敵を討ち倒せ"――魔法の矢!」
2本射出し、それぞれの短剣に命中して遠くに吹っ飛ばす。
「だ、誰だ!」
慌てるおっさん達。
絡まれている若い男の方は、女の子を後ろにかばっている。
いいね、いいね、このシチュエーション!
鞄からリュートを取り出し、屋根の上で一人、演奏を始める。魔法少女のテーマソング、作曲、私!
「な、なんだ、この曲は……上か!?」
ワンフレーズ演奏を終えてから、リュートを鞄の中にしまって、屋根の上から顔をだす。
「あそこだ!」
おっさんたちがこちらに気がついたようだ。
「この美しい街の治安を乱す愚か者達よ、天の裁きを受けるが良い……とうっ!」
小声で重力軽減を唱えてから、屋上からジャンプ、くるくる回って着地する。
「人呼んで、魔法少女!」
ポーズを決めてそこまで言ってから、名前を決めていない事を思い出した。
――し、しまった!名前を言わないと格好がつかない!
「魔法少女……あー、ぁにー……いやいやいや」
いや、本名使っちゃったら、変装した意味なくなっちゃうって。
「は、ハニー……ハニーマスタード、見参! 今宵の私はぴりりと辛いわよ!」
よし、これで名前は決定! ――いいのかなあ、こんな決め方で。
「ガキが、大人の仕事の邪魔するんじゃねーぞ!」
おっさんたちは素手のまま広がってこちらに向かってくる。
「正当防衛確認!触られたくないからね、ちょっと痛いよーっ! "マナよ、矢となって我が敵を討ち倒せ"――魔法の矢!」
まずは一本目、魔法陣が一個だけ見えるように敢えてゆっくりと。
「ま、魔術師だと!? ええい、同時にかかれば!」
二人が広がって同時に襲いかかってくる。ま、魔術師相手のセオリーなのは間違いない。
魔法の矢一本目を発動、片方のおっさんの足の甲を撃ち抜く。
もう一人のおっさんが、飛びかかろうとする目の前で、わたしはこう言い放った。
「残念でした。まだもう1本あります」
「なッ――!」
遅延をかけていた二本目を発動、もう一人のおっさんの足の甲を撃ち抜く。
魔法の矢ばっかり使っているけど、やっぱり街の中ではやっぱりこれが便利かな。無駄に音は出ないし、精密射撃できるし、外しても壁とか壊れないし、ダメージは大きすぎないし、当たった跡も、魔法と断定するのは難しい。
後ろで固まっている筈の男女二人に声を掛けよう……と思って、振り向いたら。
「いなーい!?」
に、逃げられた……警備兵を呼んで貰おうと思ったのに。
脚を抱えてうずくまっているおっさん二人に、
「被害者が居なくなったから、今日はこれくらいにしてあげるわ!」
と、捨て台詞を残してから重力軽減、私は三角飛びをしてまた屋上に上がっていった。
おっさん達に帰る方向が分からないように少し遠回りしてから、下宿に戻ってきた。
布団にくるまってから、思いがけずの初出撃が上手くいった事に抑えきれない喜びがあふれてしまう。
「うふ、うふ、うふふふふふふ……」
とりあえずなし崩しながらも、悪人を成敗できたと思うし、今夜はいい夢が見られそうだ!
◇ ◇ ◇
さて、今日はいったん村に帰る日。リチャードさんが迎えに来るのは夕方だけどね。
朝ご飯の後、昨晩行った場所に屋根ではなく道を通って様子を見に行ってみた。
うーん、夜だからよく分からなかったけど、昼通ってみると、あからさまに治安が悪そうな場所な気がする。
昨日の騒ぎの場所は、別に血の跡とか残っている事もなく、特に何かがあったような気配は見えない。――場所を間違っていなければ。
午後からは学校への道を再確認したりしているうちに、リチャードさんが迎えに来る頃合いになってきた。
部屋で待っていると外でノックの音がして……大家さんが扉を開けに行ったようだ。
「アニーちゃん、リチャードさんですよ~?」
ほぼ、時刻通り。私は外出着を来て鞄を持って玄関まで出て行く。
「お久しぶりです、リチャードさん!」
「やあ、アニーくん。一人暮らしはどうかな?」
玄関には、ほんの数日ぶりだから当たり前だけど、いつもと変わらないリチャードさんの姿があった。
「まだ、うろうろ周りを回っているだけです。学校が始まったら、また生活も変わるんでしょうけど」
「ともあれ、何も問題ないようでなによりだ。そうそう、アレックスくんが、汚れ物があるなら持ってくるように言っていたよ」
「分かりました!ちょっと待っててください」
なんと。それを聞いた私は、速攻で自分の部屋に戻って、暴食の鞄に、洗い籠からの服を流し込んだ。
――臭い、染みつかないよね?
「お待たせしました!」
またバタバタと戻ってきた私と一緒に二人で宿屋まで行って、リチャードさんの愛馬を引き出してきた。
◇ ◇ ◇
フライブルクから村に向けてぱっかぱっかと帰っていると……ああ、三日ぶりの我が家が見えてきた。
あれ?家の前に誰かいる……アレックス?
「お帰りなさい、姉様」
「ただいま、アレックス。わざわざ出迎えに出てきてくれたの?」
私の質問に対して、アレックスはすました顔で答える。
「いえ、たまたまですよ」
「ふーん、たまたま、ね……?」
「ええ、たまたま、です」
にやにやする私に、アレックスはすました顔を崩さない。
私はここで馬から降りて、アレックスと家の中へ移動した。
リチャードさんが厩に行っている間、これだけは言っておかなきゃ。
「アレックス、例の服、いい感じに着こなせてるよ!」
それを聞いたアレックスは、肩をすくめて一言だけ。
「そうですか、それは良かったです」
いろいろ言いたいことはあるのかもしれないけど、短く納めてくれると私も余計なことを言わなくていいから、非常に助かるかな。ま、それが分かっての気遣いなんだろうけど。
数日ぶりに3人で夕食を食べて――また、私の大好物だった――数日ぶりにアレックスと同じ部屋で寝る事となった。
明かりを落としてから、アレックスとぽつりぽつりと街の様子について話しているうちに、お互いそのまま寝てしまったようだ。
翌日。久しぶりのお風呂だ。
「あー、やっぱり、お風呂はいいよねぇ……」
結局、街にいる間は、手拭いで拭くだけだったからねぇ。
朝食を食べた後は、これまた数日ぶりの制限なしの套路と、図書室で本の確認。1~2冊、借りていこうかな。
久しぶりの家での時間もあっと言う間に過ぎ、リチャードさんと一緒にフライブルクに戻る時間になってしまった。
ちなみに、持って帰った汚れ物は朝の内にアレックスが洗ってくれて、出かける頃には畳まれて布団の上に置かれていた。
「それでは姉様、気をつけて」
「うん、また週末戻ってくるよ!――リチャードさん、迎えに来てくれますよね?」
私の質問に対して、リチャードさんは軽く頷いて答える。
「もちろん。しばらくはこういう生活でいいかな」
「はい、よろしくお願いします!」
そしてまたフライブルクの下宿先へ。さすがに明日があるから、今日は夜の巡回はお休み。
――明日はいよいよ、フライブルク冒険者学校の入学式だ!
トラウマ、余分だった……これがなかったら5話は減ってるはず。
ともあれ、魔法少女的な活動も、何とか滑り込みでお見せできる事ができて良かったです。
(名前の件もあって、服の色をイエロー系にするかどうか悩んだんですが、エプロンが白だと色味の違いがなさすぎたため、断念しました。濃い色のビスチェと併せればいいんでしょうけど、そうすると、早着替えが……)
さて、これからは学生生活+シティアドベンチャーが中心となってくるはずです。
今後の予定ですが、まず、第二章に向けて、第一章のあらすじを1本掲載したいと考えています。第二章開始時に、タダでさえやたら長い第一章で敬遠されたらイヤだなと言う対策です。
数日後に、並行して進めている「へっぽこ小説書き斯く戦えり」の方で、第一章のアクセス数推移などのレビューを行いたいと考えています。
第二章の開始ですが、せっかく、アクセスが若干伸びてきている所で、非常に怖いのですが、少なくとも1週間程度書き溜めしてから再開したいと考えています。
(現在は完全に書き溜めが0で、下手れば2時~3時まで頑張って書いている状況です……お休みなしの2日毎とか週2回の投稿と、どちらが離れないのでしょうね?)
必ず戻ってきますので、よろしければブックマークや更新登録をして頂けると嬉しいです。
◇ ◇ ◇
次回予告。
フライブルク冒険者学校の入学式の日を迎えた。自己紹介の後、私たちは先生の引率で、これから3年間を過ごすことになる学内を巡って行く。
次回「わたしの名前はアニー・フェイです!」お楽しみに!