18.うん、かわいい。こういう服もいいなぁ。
だいぶ巻いてみたのですが、雑になっていないかちょっと心配。感想ご意見いつでも大歓迎でお待ちしております。
初めての感想、ありがとうございました。気持ちが楽になりました!
※2018/9/13 例の服を試着したい!から改題しました。
※2018/12/30 次回予告を追加しました。
※2019/1/1 微調整しました。
※2019/1/18 誤字を修正しました。ご指摘ありがとうございました!
※2019/8/4 スマホフレンドリーに修正しました。
朝の日課を済ませ、いつも通りの朝食。
朝食の後、リチャードさんは用事で街へお出かけ。アレックスは初等学校へ。
私は朝食の後片付けをしてから、家の中が静かである事に気がつく。あれ? 家で一人ってのも割と久しぶりかも。
まあ、持って行くものはだいたい詰めてしまったし、家でやる事は余り変わりなくて、図書室で本を読んだり、中庭で魔法や軽業、武術の練習したりイメトレしたりの繰り返し。
「姉様、ただいま帰りました」
とか何とかやっているうちに、アレックスが帰ってきたようだ。
「おかえりー、アレックス」
あれ? 一人じゃないな。
「こんにちは、アニーちゃん、お久しぶり」
「マルガレーテさん!」
この人は村に住んでいるお姉さんでアレックスの裁縫のお師匠さん。
私がお願いしていた服の縫製を手伝って貰っていたのだ。
「例の服がほとんどできていますので、今日は試着と手直しのためにお連れしました」
「普段は作れない、かわいい服を手伝わせて貰って、ほんとありがとう」
「いやあ、無理を言ってすみませんでした」
早速、私たちの部屋に連れて行って、服を取り出した。
魔法少女ならこれ、という考えの下に作って貰った、ジャンパースカート部分がピンクで、飾りのエプロンドレス部分が白の組み合わせ。
スカートの中に裏地としてつけたペティコートは白。これでスカートをふんわり広げている。エプロンの後ろにはアクセントとして、妖精の羽根っぽい雰囲気の大きなリボン。
それと同じピンクのベレー帽。これには、宝石っぽいガラス玉――さすがに本物は無理!――と、白い羽根を飾りとしてつけている。
あくまで付加魔法的な要素は一切無い、ごっこ遊びとして割り切った服に仕上がっている。
変身魔法は存在しないので、自分で着替えなくてはならない。でもこのスタイルなら早着替えができるのだ。
今履いているスカートのホックを外してから衣装を頭からすっぽりかぶって、元々のスカートをすとんと下ろす。これで完成。
一応、緊急時にはスカートをはいたままでもなんとかなりそうだけど、少々動きづらいかも。
帽子もかぶってみて、姿見の前でくるりと一回転。
うん、かわいい。普段の魔法使いスタイルもいいけど、こういうのもいいなぁ。
「あらー、やっぱりかわいいわねぇ」
「ありがとうございます! 可愛いのを作っていただきありがとうございます!」
「わたしは手伝っただけよお? お礼は妹さんに言ってね」
「うん、アレックス、イメージ通りのができてるよ。ありがとう!」
「それはよかったです。サイズはあっていますか?」
あまりきついと着たり脱いだりが大変だからね。
「うーん、問題ないかな?」
アレックスとマルガレーテさん、私の周囲を回って細々した部分をチェック。
「大丈夫、かなあ?」
「そうですね。問題なさそうです」
二人とも納得行ったようだ。
「あと、マルガレーテさん、申し訳ないんですが……」
「大丈夫よお? この件に関しては、秘密なのね」
「すみません、ありがとうございます。別に悪いことに使うわけじゃないんですが、さすがに皆に着ているのを見られると恥ずかしいので」
――正義の味方になります、って言うのも恥ずかしいし。
「あらあ、みんなアニーちゃんの事を見直すと思うのに」
「どう見られていたのが、どう見直されるのか、想像するとなんだか怖いんですけど?」
マルガレーテさんが帰った後、リチャードさんが帰ってくるまでの時間を使って、この服を着たまま武術の練習をしたり、屋根まで駆け上がったりしてみた。
うん、動きやすさに特に問題はない、かな?
ただ一つだけ問題は、裾が広がったスカートなだけに、何も考えずに上から落ちるとスカートがまくれ上がりかねないって事かな。これには気をつけないとね。
◇ ◇ ◇
夕方になって、リチャードさんが戻ってきた。
この件はリチャードさんにも明かしていないから、帰って来る前にいつもの服に戻している。新しい服は綺麗に畳んで鞄にしまい込んだよ。
そうそう、リュートを入れるのを忘れていた。やっぱり楽器がないとね。
何を隠そうこの私、少しはリュートも奏でられるのだ。呪歌じゃなくて、普通の楽曲だけどね。これも魔法少女につきものだと思ったから、独学で練習した感じ。
さて、今日の夕食はベーコン入りシチューだった。チーズが割と多めに入っていて、私の好きなメニューだ。
夕食の後、リチャードさんが書斎に行ったかと思ったら、小さな革袋を持って戻ってきた。革袋を食卓の上に置くと、ちゃりんと言う音がした。中にはお金が入っているようだ。
「アニーくん、大事な話をしておくのを忘れていたよ」
「はい、なんでしょう?」
「今までは、買い物類のお金は基本的に私の財布から直接出していたが、これからは、アニー君は基本的に独立した財布で動かなくてはならない」
リチャードさんの言葉に、私はお金関係の事をすっかり忘れていた事に気が付いた。
「あー……そうですね」
「家賃と食費が一ヶ月銀貨12枚と、あとは細々必要だと思うから、一ヶ月に銀貨20枚を渡そうと思う。急に必要になる事もあると思うから、別に金貨1枚を渡しておくから、下宿のどこかに隠しておくといい」
「はい、ありがとうございます」
ちなみに、金貨1枚は銀貨20枚に相当する。
お小遣いで月に銀貨8枚……まあ、自分の服とかおやつとか、細々買わなきゃならないとはいえ、例のティーラウンジに通い詰めでもしない限り、いくら何でも足りなくなる事は無いと思う。
余ってきたら、こちらの家の貯金箱に入れておこう。下宿よりは安全だろうし。
「これからは半分独立する事になるからね。アルバイトなども自由にしてもらってかまわないと思う。まあ、これまでも制限していたわけではないが、村ではお金を貰えるような仕事はなかったからね」
「まあ、村だと現物給付でしたよね……カボチャとか、コーンとか、ミルクとか――締めた鶏とか」
「もちろん、何か入り用があれば、遠慮なく相談するように」
「はい、わかりました!」
◇ ◇ ◇
そんなこんなで、リチャードさんの領主館で過ごす最後の夜が明けた。
今日はいよいよ、引っ越しの日。
ま、週末にはいったん戻ってくるから、とりあえず下宿に泊まるのは三泊だけだけどね。ともあれ、朝の日課を済ませ、お風呂の準備。
「おはようございます、リチャードさん、お風呂の準備できましたよ」
「ああ、ありがとう、アニーくん。そういえば街に行ったらお風呂には不自由する事になるね」
「あ、そうですね……考えると、ここは便利過ぎたなぁ」
公衆浴場の場所、確認しとかなきゃ。
それ以外は手拭いで拭くのが精一杯かなぁ。
さて、朝食の後、アレックスは初等学校へ。
「姉様、見送りはできませんが、街では気をつけてくださいね。食べ物には注意してください。ここよりは水質も悪いので、生水も気をつけて。街で変な人に声を掛けられても付いていってはだめですよ? あと、魔法の使用には注意してくださいね。それから――」
「はいはい、わたしの方がお姉さんなんだから大丈夫大丈夫! 3日後にはいったん帰ってくるんだし」
ほんと、どこからこう「お母さん成分」がわき出してくるんだろう?
「本当に心配性なんだから」
「君たちはずっと一緒だったからね、寂しいんだろう。――さて、私たちも出発しようか」
「はーい!」
私たちはリチャードさんの愛馬でフライブルクへ。
引っ越しと言いつつ、持っているのは肩から掛けた暴食の鞄一つだけと言うのがまた反則っぽい。
荷車一杯に荷物を積んで、リチャードさんは御者台で、私は荷車の後の端に腰掛けて足をぶらぶらさせる、とか言う方が引っ越しの雰囲気は出るとは思うけど、実際に乗ると遅くてたまらないと思う。
とか余計なことを考えながらも、無事に街に到着した。
そして、巻いた筈なのに、まだ終わっていないと言う……
次回予告。
いよいよフライブルクでの下宿生活を始めた私。魔法少女として活動を始めるべく、様々な準備を始めたのだった。そう、ついに、長年の夢である魔法少女を実現する時がやってきたのだ!
次回「ついに長年の夢の一ページがめくられるのだ!」お楽しみに!