15.自己紹介、やっちゃいましょう!
土曜日は14時頃が日中では一番投稿数が少ないっぽかったので、この時間に入れてみました。
※2018年12月現在は13時過ぎを中心に更新しています
※2018/9/13 改めて自己紹介したい!から改題しました。
※2018/12/28 次回予告を追加しました。微調整しました。
※2019/8/4 スマホフレンドリーに修正しました。
ティーラウンジでの紅茶とお菓子祭りは続いている。
「そうだな……アニーさんには秘密を教えて貰ったから、私も秘密を一つ教えるとしよう」
と言うとシャイラさんは、軽く両目をつむって小さく歌うような言葉を発し始めた。でも意味は分からない言葉だ。
少し経つと、天井にぶら下がっているシャンデリアのろうそくから、明るい光の塊がふわりふらりと空中を漂ってシャイラさんの方にやってきた。
「これは……光の精霊? 精霊魔法の明かり、ですか?」
私は術式魔法しか知らないからさっぱりだったけど、アレックスはその正体に気がついたみたい。
シャイラさんはつむっていた目を開いて肯定した。
「その通り。我が国は、この辺りと違って、神様よりどちらかと言えば、様々な精霊を信仰していてね。私は巫女としての才能があったようで、精霊と少し話すことができる」
そして、軽く手を振って、空中の光を四散させた。
「だが、私自身は剣に生きるつもりだから、あくまでこれは隠し芸に近いな。無論、皆には内密に頼むよ」
シャイラさんのお願いに、皆は口々に同意する。もちろん、私もね!
「はあ……うち以外は全員魔法が使えるパーティやったんか。でもまあ、内緒言うんやったら、わかったわ。誰にも言わへん」
「わたし、精霊使いの人って初めて見ました!でもナイショなんですよね……ええ、神に誓いますから、大丈夫ですよ!」
「勿論、秘密にします!」
ここで私は、まだ簡単な自己紹介しかしていなかった事を思い出し、皆に自己紹介を提案する。
「――あ、そういえば、入学試験の時に簡単な自己紹介しかしてなかったですよね。せっかくだから、今、やっちゃいましょう!」
ここだと他人の目もないし、これを機に改めて自己紹介をしていく事にした。
「ふむ、そうだな、私は――」
シャイラさんの家は、なかなか男の子が生まれなくて、シャイラさんは子供の頃から男の子と同格の力を持つように育てられたんだとか。そして、数年前、待望の男の子が生まれたんだけど、病弱だったから、跡継ぎを巡って自分たちではなく、周りの人間が勝手に盛り上がってしまっていたんだって。で、それを嫌って一人出奔して紅茶の国からこの国までやってきたんだとか。
剣士で育てられるとか、お家騒動とかって、間違いなく庶民じゃなくて、お貴族様、それも、騎士とか男爵とかじゃなくて、もっと上っぽいよね……?
マリアさんは教会の孤児院育ちで、もしかしたらドワーフの血が入っているのかも知れないんだって。だから私以上に小柄で、いろいろ出るべきところが出ていないと……ごほん。なるほど、それであの腕力の源はそうなのかもしれない。このままだと、かなり早期にメイドとか何かで孤児院から出される所だったんだけど、ひょんな事から神様の声を聞いて、神官の道を目指す事になったんだって。
クリスさんの家は、両親がフライブルクで健在で、弟とかもいて、それ以外にもなんだかいろいろ出入りしている人達がいるみたい。さっきの答えを聞くと、なんだかユニークな人達っぽいけど。大家族だけに、早く自分自身という食い扶持を減らさなきゃならないから、冒険者を目指しているんだとか。
そして、私たちの事は、子供の頃に襲撃されて、両親については全く知らない事、姉妹二人してリチャードさんに拾われてお世話になっている事、生き別れの姉がいるかもしれない事なんかを話した。
マリアさんは私の話を聞いたらやたら感動して、神様はいらっしゃいます!いつか幸せになる日が来ますよ!みたいな事を言ってくれたけど、私的には、マリアさんの境遇の方が大変な気がするんだけどなぁ。まあ、善意から言ってくれてるのは間違いないんだけど。
◇ ◇ ◇
一通りの皆の話が終わった頃、食べるものも飲むものもだいたい全部頂けた頃合いとなっていた。お昼の時間も過ぎた頃だし、お腹もいっぱいだし、うーん、そろそろお開きかな?
「鳴らすよー」
執事さんが置いていったベルを持って、みんなに予告する。な、なんだか少し緊張するな。
軽く振ると、ちりんちりんと涼やかな音色がなった。
そして、しばらくするとノックの音がして、執事さんが静かに入ってくる。
「失礼いたします。お呼びでしょうか?」
「十分いただきましたし、そろそろ失礼したいと思います」
「承知いたしました。お会計はいかがいたしましょう?」
「わたしでお願いします」
見るからにこの中で一番幼いアレックスが言ったことに、執事さん、少し驚いた顔をした。
「ほう……あ、これは失礼いたしました」
耳元でぼそぼそと値段を囁かれたアレックス、懐から銀貨5枚……と、もう1枚を追加して執事さんに渡した。
「こちらで。お釣りは結構ですよ。――少し安くして頂いていますよね?恐らく銀貨8枚程度かと思いましたが」
「お祝いとお伺いいたしましたので。また、お若く華やかな皆様に来ていただき、店員一同感謝の気持ちも含ませて頂いております。ぜひ、またお越し頂ければ、と。それにしても、お若いのになかなか鋭い目をお持ちで、わたくし感服いたしました」
「いえ、こちらこそ、ありがとうございました」
会話を聞いて、私たちもお礼を言う。
「「ありがとうございました!」」
そして、ぽつりと呟く私。
「でも……次はなかなか来られないだろうなぁ……」
「だな」「ですねぇ」「せやなぁ」「そうですね」
それに答えて全員、それぞれの違う表現で同じ意味の言葉を呟くのだった。
◇ ◇ ◇
喫茶店から外にでて、とりあえずこれからどうするか皆で相談した。
「私は、これから下宿を当たろうと思っている。確かアニーさんも下宿だったかな?」
シャイラさんは、早速下宿を探すみたい。今は宿に泊まっているから、滞在費用が馬鹿にならないもんね。
「はい、私もこれから行ってみたいと思ってます」
せっかく誘ってくれたので、もちろん私も付いていく。
「すみません、私、午後から教会で仕事しなきゃならないので、これで失礼しますね!」
「あー、うちもつきあいたいんやけどな、いったん戻って合格の報告せなあかん。次、会うんは来週の入学式かいな?」
マリアさんとクリスさんは、今日はここでお別れみたい。まあ、仕方ないよね。それに、また全員一緒だと、目立ちまくってリチャードさんイヤがりそうだし。
「それじゃ、また、来週!」「来週から、よろしく頼むぞ!」「皆様、姉様をよろしくお願いしますね」
「はい、また来週!」「ほななー、さいならー」
と、手を振って二人とお別れ。
「あ、私たちはリチャードさんと合流するつもりなんですが、シャイラさん、どうします?」
「どうせ目的地は一緒だろう、ご一緒させて貰うよ」
三人で、リチャードさんが待っている三月の兎亭へ。
いわゆる酒場っぽいけど、中を覗いてもリチャードさんいないな。
確か、店員に聞くように言っていたと思うので、立っていた若い店員さんに聞いてみた。
「すみませーん、リチャードさんってこちらに居ます?」
「あ、リチャードさんのお連れさんですか?こちらへどうぞ」
奥の個室の方へ案内されると、そこではリチャードさんが一人でちびちび飲んでいた。
「おや、後の二人は帰ったのかな?」
「はい、用事があるとかで。で、私とシャイラさんは、学校で紹介された下宿屋さんに行ってみたいんですが……」
「ああ、いいよ、これから行こうか。どこにあるんだい?」
貰ったメモをリチャードさんに渡す。
「ああ、これなら学校の近くだね。ここから歩いてもすぐだよ」
と、席を立ったところで、思い出したように聞いてきた。
「――ところで、君たちはもうお腹いっぱいだね?」
「あ、はい。おかげさまで、いろいろ食べる事ができました」
「それなら結構。私もここでちびちび食べてしまったから、お腹がいっぱいだよ」
あ、もともと、お昼をみんなで食べる話をしていたから、私たちが食べたかどうか、気にしてくれたのかな?
リチャードさんは、素早く会計を済ませ、お店の外へ。
こうして私たち四人は、紹介された下宿屋さんに向かうのだった。
次回予告。
下宿屋さんに訪れた私たち四人。三階とその上の屋根裏部屋の選択肢がある事を聞いた瞬間、私は屋根裏部屋を希望した。どうしてって?それは、屋根裏部屋の方がいい理由があったから!
次回「屋根裏部屋がいいんですが、いいですか?」お楽しみに!