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113.背中を預けられる者

 アジトの場所は直線で16kmのつもりでしたが、計算すると時間が合わなくなってしまうため、道のりで16km、直線で10km程度の場所としました。台詞では「北北東に16km」なので、まあ一応、変更しなくてもセーフ?


 次回は1月30日に掲載予定です。次回予告の変更などが発生する可能性があります。

※2020/1/27 当初、次回が最終回予定でしたが、想定より長くなったため分割しました。そのため、次回タイトルを「ラストダンス」に変更しました。

 私はフライブルクを離れ、独り北北東に向かって飛行していた。30分ほど山々の上を飛んだ後、私はそれらしき砦が眼下にある事に気がついた。


「確かにこれは、地上からだと見つからないし、近づくのも大変だよねぇ」


 そこは、周囲を稜線に囲まれた盆地になっており、周囲の人里や山道からは全く見えない立地になっていた。楽な山道を通らずに、わざわざ無意味に山頂に登ろうとしない限り、発見される事は無いだろう。もちろん、空からだったら、一目瞭然なんだけどさ。


 そしてその砦は、目立つ稜線の上を敢えて避けるように、外部からの死角となる斜面に張り付くように建てられていた。周囲を石壁で囲まれ、全体の構造としては、おおよそ長さ100m、幅50mの長方形をしている。

 中には他より若干高い見張り塔と居館が一つ、あとは幾つかの宿舎に厩舎、そして小さい礼拝堂が建っていた。石壁と見張り塔は石組みだけど、それ以外は漆喰や板張りなどの一般的な構造でできているようだ。そして、城壁の外には、段々畑が作られており、そこである程度の自給自足体制が取られているように見える。


 今までは地上から攻撃を受けないように、少し高めの高度を維持していた。でも、これ以上高度を下げてしまうと、そろそろ長弓の射程内に入ってくる。鎧をつけてるわけでもない私は、矢の直撃を受けたりすると一撃で致命傷を負いかねないんだよね。

 とりあえず、山砦及びその周辺に人影は全く見えていないんだけど、上空からだと本格的に隠れて無くても、動かないだけで結構分からないものだし、念のために、ね。

 と言う訳で私は、高度を下げる前に弓矢対策をする事にした。


「出ておいで、シルフィ」


 虚空に向かって語りかけた私の言葉に応じ、私の横の空間に(みどり)がかった半透明の女の子が現れる。さらさらの長髪に、ゆったりとした白いローブを身にまとった風の精霊、シルフィだ。


「シルフィ、わたしを飛び道具から護って」


 私のお願いに、彼女は小さく肯いた。次の瞬間、彼女の能力による"矢の護り"が発動し、私の周りを、新たに沸き起こった風が渦巻き始める。

 こうして飛び道具に対する心配を無くした私は、砦の上空を旋回しながら、ゆっくり高度を下げ始めたのだった。

 砦の中に立っている建物を、様々な角度から観察するが、やはり完全に無人のように見える。


「まさか、途中で追い越しちゃった、なんて事は無い、よね……?」


 ここに至る山道、私も道なりに来たわけではないけど、騎馬の人影はとりあえず見えなかったように思う。

 でも、馬で移動していたと考えると、うーん、1時間半くらいかなぁ? 確か、ラシードが中央広場から立ち去ったのが昼三つ(午前10時)頃で、今は昼過ぎだから、もうついていてもおかしくは無い、とは思う。



              ◇   ◇   ◇



 私は警戒を保ったままゆっくり高度を下げていたが、ついに地上にたどり着いてしまった。

 城門は僅かに開いていたから、外に降りて歩いて入ってもいいんだけど、城壁内側の空き地で一番広そうな場所を見つけ、そこに着地する。


 杖と外套を鞄にしまい、私はシルフィを送還した。そして、改めて周囲の音を聴いてみたが、遠くで鳥がさえずる声が聞こえるくらいで、人っ子一人居る気配は感じられなかった。

 ただ、この砦を見渡すと手入れが行き届いていて、これが廃墟ではなく、"生きている"砦である事は間違いなかった。と言う事は、まだ誰も戻っていないのか、はたまた、奇襲を狙って伏せているのか……?


「さて、どこから始めようかな?」


 私は周囲の建物を見回した。

 砦の中にあるのは、見張り塔と居館、礼拝堂、厩舎、そして宿舎らしき建物。塔はまあ、見張り台くらいしかなさそうだし、宿舎と厩舎はいかにも下っ端の人達が使いそうな感じだ。いかにも大した物はなさそうに見える。礼拝堂は……使ってなさそうだ。本来、光の神様用だからね。悪魔教団の礼拝?は別のところでやっているのかな。


「と、なれば、やっぱり、居館だよね」


 居館は、砦の中では一番大きい二階建ての建物だった。建物の形状からすると、一階にホールがあって、二階に城主の居住スペース、って所かな。大事な物があるとしたら、まあ、ここだろう。

 私は周囲を警戒しながら、なるべく静かに居館の玄関に近づき、その扉をゆっくり開ける。幸いにも鍵は掛かっていないようだ。まあ、民家じゃ無くて砦だし。


 扉の中は小さな玄関ホールになっていた。奥には大ホールにつながるであろう二枚扉が見えていて、他に出入り口は存在しない。


「聞き耳聞き耳っと……クリスが居てくれたらなぁ」


 私は奥に続く扉にそっと耳をつけて中の音を確認した。こういう潜入や斥候的な技能は、私たちのパーティではクリスが随一なのだ。まあ正確には、他の誰も持ってないんだけどさ。

 ともあれ、中は完全に無音で、誰も居ないように思えた。少なくとも私には。


 そして私は、ホールにつながる扉をゆっくりと開けた。


 ホールの大きさは幅10m、奥行き20mほど。大きな窓がいくつも開いていて、柔らかな冬の日差しが室内に降り込んでいる。

 一番奥の壁は、フライブルクや周辺地域の地図など、様々な図画が貼られていて、まさに作戦司令部と言った風情だ。中には特に家具は置かれていないけど、その奥の壁の手前に一つだけ演説台が置かれていた。


「さて、次の扉は……あれか」


 その奥の壁の左寄りに、一つの扉があるのが見えた。恐らく、これが二階の居住スペースなどに上がる階段部屋に続く扉だろう。私はその扉に向かって歩みを進め始めた。


 ――そして、丁度部屋の中央に届いたとき、奥の扉が静かに開き、その中の人影が私に向かって話しかけてきたのだった。


「おやおや、この砦には珍しいお客様のようだ」




              ◇   ◇   ◇



 私は奥の扉から現れた人影、つまり、この騒動の張本人、悪魔崇拝教団「真実の目」の総大主教であり、フライブルクの公安部長であったラシードを、じっとにらみつけた。


「ええ、わざわざ、あんたを殴りに来てやったのよ……ラシード!」


 そして彼に対して、びしっと人差し指を突きつける。しかし、彼は私の声にも全く動ずる事は無く、静かに含み笑いを漏らすだけだった。


「くっくっくっくっ……小娘が一人でやって来たと言う事は……大事なお仲間を見捨てて来たのかね?」


 どうも彼は、私がバフォメットと戦う事を放棄して、フライブルクから逃げてきたと考えているようだ。

 ま、普通に考えたら伝説級の魔神である彼を倒す手段は、それこそ神の加護を受けた伝説の勇者でもない限り無いわけだからね。


「あらあら、バフォメットはきっちり倒したわよ?」

「はっはっはっ……お嬢ちゃんは冗談がお上手のようだ。魔族の中でも伝説級のバフォメットを、たかが冒険者学校生徒の小娘風情が倒したと?」


 あくまでまともに受け取らないラシードに、私は肩をすくめて答える。


「まあ、いずれ分かる事……いや、ここでわたしに倒されるあなたには、それを知る機会は無いんだけどね」

「それはこちらの台詞だな。お嬢ちゃんを始末した後に、ゆっくり確認をさせていただく事にしよう」


 そしてラシードは、右手を空中に挙げて、指を一つぱしっと鳴らした。

 その次の瞬間、ラシードが出てきた奥の扉、そして、私が入ってきた後ろの扉から、しゃらしゃらと軽い金属音を鳴らしながら、複数の人影が雪崩れ込んでくる。


 ん、暗殺者なのに、衣擦れの"するする"ではなく、金属音の"しゃらしゃら"?

 以前、ラシード邸で会った時はレザーアーマーが主体だったようだけど、どうも今は下に薄手のチェインメイルをまとっているようだ。私がその際に電撃を多用したから、その対策かも知れない。


 入ってきた暗殺者どもは16人。うーん、思ったより多い。全員、手に短剣やら小剣やらを携えている。そして最後に、ナイトシェードを名乗っていた彼女が現れ、ラシードの前でこちらを向いて仁王立ちとなった。

 今の彼女の格好は、午前中に身につけていた公安の制服ではなく、漆黒のソフトレザーアーマーを主体とした暗殺者としての服装だ。そして、腰に()いていたククリナイフをすらりと抜き、私に向けて構えたのだった。



              ◇   ◇   ◇



「さて、周囲を囲ませて貰ったよ。この狭い部屋では、お得意の垂直移動で脱出する事もできまい? チェックメイトだよ」


 暗殺者どもで私を取り囲んだラシードは、更に余裕を持った様子を見せている。

 確かに普通の魔術師だったなら、ラシードの言う通り、詰んでいる事に間違いない。通常の攻撃魔法で、全周360度をカバーできるものは存在しないから、()()()()、囲まれた時点でどうしようもなくなってしまう。

 私ならば、多重詠唱で同時発射数を増やす事はできるけど、その場合、細かいコントロールができないから、当たる物も当たらない。せめて前方90度くらいまでの範囲に絞りたい所ではあるかなぁ。


 私は周囲を見渡した後、ラシードに向かって横を向き、半身を見せる姿勢を取った。この体勢ではもちろん、背中側のカバーはできないが……


「それにしても、一人で乗り込んで来るとはな。その度胸は買うが、無謀だとは思わなかったのかね?」


 私はラシードに向けて、人差し指を一本立てて見せた。


「一つ、思い違いしている事があるわ」

「ほう?」

「わたしが、ここに独りで来たと思ってる?」


 ラシードは眉を上げて驚きの表情を見せる。


「ほう……誰か他に潜入している人間がいるとでも?」

「ええ、私が背中を預けられる程の人間が、ね?」


 と、ラシード……ではなくて、その手前で立ちはだかっているナイトシェードに向けて、ウィンクする。彼女の表情は残念ながら、特に変わったように見えない。

 んんん? 実は味方と言うパターンだと思ったんだけど……もう一押ししてみようかな。


「それともう一つ。伝言があるのよね」

「伝言? 誰にかね?」

「その誰かさんに、よ。『仕掛けは無事に作動、公安部員の全滅を確認』 これがどういう意味か分かるよね?」


 私の"伝言"を聞いたラシードは、初めて眉をしかめて厳しい表情になった。ナイトシェードの方は、一瞬目を見開き、ようやく口元を少し緩めたように見える。


「公安部員が全滅……だと? どういう事だ?」

「あんたに残された手勢は、ここにいるだけ。あとは、ここを片付ければいい、って事よ」


 下目遣いに薄笑いを浮かべ、挑発的に発した私の言葉を聞いたラシードは、少し考える素振りを見せた。でも、私がデタラメな事を言っていると思ったのだろう、小さく首を振ると、その右手を高く振り挙げたのだった。


「ふん、世迷い言を……出鱈目で時間稼ぎが目的か? もういい加減聞き飽きたわ。構わん、ナイトシェード、この小娘を始末しろ!」


 ラシードが右手を振り下ろした瞬間、ナイトシェードは私に向かって飛び出してきた! そして私の背後に素早く回り込む……が、私に斬りかかる事は無く、途中でその脚を緩め、耳元で小さく囁きかけてきたのだった。


「まったく……危ない事はしちゃダメって言わなかった?」


 そう言うと彼女は素早く身体を回転させる。私は、自分の背中にそっと体重が掛かるのを感じた。ナイトシェード、いや、アマリエが、私の背中に自分の背中を預けたのだ。


 ようし、役者は揃った。さあ、いよいよ反撃の時間だ!

 次回予告。


 ついに総ての決着をつけるときが来た。私は背中を預けるアマリエと共に、最後の戦いに挑んでいく。


 次回、「ラストダンス」お楽しみに!

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