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108.死闘の末の絶望

 おかげさまで、なんとか今年の仕事はおおよそ終わりました。しばらく手を着けられていなかった分を回復しないと……


 次回は今年最後、12月26日に掲載予定です。

 バフォメットとの戦闘中、私は彼に対して、切り札となるであろう攻撃魔法を発動させる事に成功していた。


「――業火の息吹(インフェルノブレス)!」


 私の目前に魔法陣が形成され、バフォメットに向かって、高熱で白く輝く巨大な爆炎が吹き出していく。


『おおおおおおおおっ!』

「いける!?」


 私は眼前で吹き出している爆炎で目が(くら)まないように目を細めながら、バフォメットの様子を観察していた。上半身に爆炎の直撃を受けたバフォメットは、苦しみの声を上げながら身体をくねらせ、右手を振り上げていた。


 流石に効果がありそう!? そう思ったのも、つかの間……


『人間ども、小賢しいわぁッッ!』


 一声吠えたバフォメットは、そのまま業火の息吹(インフェルノブレス)をかき分けながら、私の方に向かって突進してきた!

 右手を振り上げたのは、のたうち回っていたのではなくて、振りかぶっていたの!?


 数瞬の後、ついにバフォメットは私の目前にまでたどり着いてきていた。その上半身は黒く焼けただれ、流石にかなりダメージを受けているように見える。

 しかし、拳を握った右手は大きく振りかぶられていて、今にも私に向かって振り下されようとしていた。


 これを食らってしまったら、無事かどうかどころの騒ぎじゃない。間違いなく、ぐっしゃぐしゃになってしまう。

 しかし、"業火の息吹"の発動中だった私は、対応が完全に遅れてしまっていた。


 ま、まずい、避けきれない――ッ!?


「やらせませんっ!」


 次の瞬間、ぐしゃっと言う鈍い音が中央広場に響き渡った。



              ◇   ◇   ◇



 一瞬、気を失っていたのかも知れない。私はいつの間にか、広場の端の方、壁際で倒れ伏していた。でも、とりあえず、生きてはいる。


「い、痛ててててて……」


 どうも、直撃を受ける瞬間、マリアがかばってくれたようだった。

 でも二人とも吹き飛ばされて……10m以上? 結構飛んでるな。よく死ななかったもんだ。


 ただ、マリアのプレートメイルは大きく歪んでいて、その衝撃の強さを物語っていた。彼女は私の手前に倒れ伏していて、少なくとも意識はないようだ。


 私は……右手Ok。左手……あ、動かない。痛みがないってのはマズイかも。右脚は無事。左脚は……ダメだ、動かないな、こっちもマズそうだ。つまりは体の左側が大ダメージって事ね。


 さて、バフォメットと、シャイラさんにクリスは……?


 半身が動かない状態でも、這いずりながら移動して、なんとか上半身を壁にもたれ掛かる事ができた。時たま霞む私の視界の先の方で、彼女たちは未だ、バフォメットとの戦いを繰り広げていたのだった。


「はあああああああっ!」


 シャイラさんは再び、刀を振りかぶって突っ込んでいくが――


『Սառցե նիզակ!』


 バフォメットは軽くステップを踏んで避けると、それまで居た場所に氷の槍を三本ほど出現させていた。必然的に、シャイラさんはそこに突っ込んでいく形になるが――


「なんのっ!」


 飛び込んだ勢いで、氷の槍をそのまま斬り飛ばす。


「今度はウチやでっ!」


 シャイラさんが刀を振るったその隙を無くすかのように、今度はクリスが飛びかかっていった。もっとも、彼女の攻撃の場合、まず通らないのは確定なので、あくまで牽制に徹しているようだ。



              ◇   ◇   ◇



 私は戦闘中の彼女たちの様子を見ながら、これからやるべき事について考えていた。

 ――見たところ、なんとか膠着状態に持ち込めているようだ。もっとも、決定打がなく、回復役もいない以上、ジリ貧である事に変わりはないわけだけど。


 で、あれば、彼女たちが命がけで作ってくれている隙を有効に使うしかない。

 "業火の息吹"ではダメだった。では、もっと強力な魔法なら……


 方針を決めた私は、精神を集中させ、これまで使った中で最高レベルの魔法の詠唱を開始したのだった。

 リチャードさんと開発したけれど、危険すぎてまだ一発も試射していない魔法だ。でも、これなら、いかなバフォメットであっても倒せる……はず!


「"ここに在りしマナの力よ、その力、呼び出しに応じ、我が眼前にその姿を現せ"――魔力励起環(エキサイテーションサークル)


 左手が上がらない以上、右手だけで魔法を制御するしか無い。それでも私は、なんとか第一段階の魔法を成立させる事に成功していた。

 目の前に巨大な魔法陣が形成されているけれど、これは魔力を充填させるための薬室として機能する魔法陣。そこに向かって、周囲に漂う万物から魔力が流れ込み始めていた。それは、まるで蛍火のように光が瞬いている。

 ただし、これだけでは十分な威力にはならない。そこでわたしは、次の魔法の詠唱を開始した。


「"ここに集いしマナの力よ、その力、共に響き、共に奏で、その鎖に連なる(ことわり)の力を高めよ"――魔力共鳴環(レゾナンスサークル)


 最初のものと同規模の魔法陣が、魔力が集中しつつある薬室を挟み込むように形成される。

 これは、魔力を共鳴、増幅させて、威力を数乗倍にまで高めるための魔法陣だ。


 共鳴環の稼働が始まった直後から、一気に魔力の充填が加速していた。目の前に現れた魔力球は蛍火から、次第に光球と呼べる形になっていき、輝度もサイズも急激に増加しつつあった。


「薬室内圧力上昇、エネルギー充填20%、30%……」


 私は魔力球の状況を監視しながらカウントアップを進める。低すぎたら威力は出ないし、溢れすぎたらこの場で自爆してしまうからね。まあ、100%を超えた状態での暴発なら、バフォメットを倒す目的は達成できると思うけど。ただし、計算上ではフライブルクの半分くらいを道連れに、ね。

 と、ここでようやくバフォメットが私に気づいたようだった。


『貴様、まだ何かしようとしているのか!?』


 戦っているシャイラさんとクリスを無視して、私の方に向かおうとする。


「待て! アニー君には手を出させない!」「ちょい待ちぃ!」


 シャイラさん達がバフォメットに斬りかかろうとするが……


『邪魔だ! դետոնացիա!』

「きゃっ!?」「にゃっ!?」


 バフォメットは一声吠えると、どんっと言った感じに、彼を中心に強烈な衝撃波がわき起こった。

 全方位に爆発的に広がる打撃は避けようも無く、シャイラさんにクリスは、はじき飛ばされてしまう。二人ともそのまま地面に転がっていき、そのまま倒れ伏してしまった。意識は無いようだけど、一応、死んでしまうほどのダメージは受けてないだろう。そう思いたい。


『Ֆլեյմի նիզակ!』


 バフォメットは私の方に向かって炎の槍を連続して放ってくるが、すべて眼前の魔力球に防がれて吸収されてしまう。


『くっ……』


 初めて焦った表情――黒山羊の顔だからよく分からないけど――をしたバフォメットは、私の方に駆け寄ると、私の目前に形成されている、白く輝く魔力球を素手でつかもうとした。


『おおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!!』


 しかし、かなりの苦しみの声を上げている。そりゃそうだ。溶岩の中に手を突っ込むようなものなんだから。

 それでも強引に、体ごと持って行って肩ごと振り上げるような形で、バフォメットは魔力球を空高くに放り投げたのだった。



              ◇   ◇   ◇



 まるで花火のように尾を引きながら、白く輝く魔力球は、空中に向かって飛び上がっていく。そして数秒の後、保護していた魔法陣から解き放たれた魔力球は安定を失い、空高くで轟音と共に炸裂した。


「あうっ……!?」


 熱いほどの輻射熱と、嵐のような爆風を浴びながら、負傷によって殆ど身動きが取れない私は石畳の上をゴロゴロと転がされた。幸いにも、エネルギー充填が途中であった事と、爆心地の高度が割と高かった事から、大きくダメージを受けるような爆発ではなかった。

 とはいえ、負傷した部分が痛くはないものの、転がされる事によってジンジンとした熱さを感じている。私は暗闇に飲み込まれそうになる意識を、懸命に保っていた。

 もっとも、この魔法が失敗した以上、最早(もはや)私にできる事は何も残されていないんだけど……


 バフォメットの方を見ると、彼は息を荒くしながら、石畳に片膝をついていた。魔力球をつかんでいた右腕は焼け焦げ、肘から先が燃え尽きてしまっている。


 彼自身も左手はシャイラさんに斬り落とされ、右手は私の魔法で灼けて失い、上半身は"業火の息吹"で焼け焦げているなど、流石にかなりのダメージを受けているようだ。

 しかし彼は、少しの間息を整えると、ぼそりと一言呟いた。


『Ամբողջական վերականգնում』


 すると、彼の身体を中心に黒い闇のようなものがわき起こり、みるみるうちに彼を回復させていく。失われていた両手も、みるみるうちに元の姿に戻っていった。


 ――命がけでなんとか削って行っても、いともあっさり回復される、のか……


 私はその光景を、顔をしかめながら呆然と見守るしかなかった。


 回復を終えたバフォメットは悠然と立ち上がり、唯一意識を保っている私に向かってその口を開いたのだった。


『人間よ、今のは見事だったぞ。あれが(わし)に向かって解き放たれていたならば、いかな儂とてこの身体では持たなかっただろう』

「そりゃどうも。お褒めにあずかり光栄だわ」


 余りの力の差を見せつけられ、もはや敵愾心もなにもない。私は少しでも減らず口を叩くしかなかった。


『ともあれ、今のような術を使う人間は早めに減らしておくべきだな。儂はともかく、グレーターデーモンですら、汝の相手は厳しかろう』


 バフォメットは指をぱしっと鳴らすと、眼前に炎の槍が出現していた。その切っ先はもちろん、私を向いている。


『短い間だったが、楽しかったぞ、人間よ』

『Ֆլեյմի――』


 炎の槍の輻射熱を頬に感じながら、私は目をつぶって訪れるべき衝撃を待つしか無かった。

 ――しかしそこに、一人の少女の悲鳴にも似た叫びが響き渡ったのだった。


「お父さん、だめぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッ!」

 次回予告。


 刃折れ矢尽きた状態の私たちの前に現れたのは、シャイロックさんの娘、ジェシカだった。彼女の自らの命を顧みない行動は、大逆転を呼ぶとある奇跡を起こす。


 次回、「奇跡」お楽しみに!

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