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106.武士の誓い

 去年もこの時期にそんな事言っていたような気もしますが、ちょっと本業が忙しいです。


 次回は12月12日に掲載予定です。

 私たちがドタバタやりとりしているのを、裁判長席の机の上にあぐらを掻いて興味深く見ていたバフォメットだったが、ついにその口をゆっくりと開いたのだった。


『さて、もうそろそろよろしいかね?』


 私は、バフォメットに向かって、なるべく(ひる)んだ気持ちを見せないように応答する。


「逃げる市民を攻撃しないでいてくれて、助かったんだけど……どういうつもりだったの?」

『いやなに、人間共が必死で逃げる姿が滑稽でね。軽く楽しませて貰ったよ。そのまま後ろから撃ったのでは余りにもつまらんからな』

「そりゃどういたしまして。でも、攻撃するよう命令されていたんじゃなかったっけ?」


 私の問いに対して、バフォメットは右手を軽く挙げて応えてきた。


『ああ、その通り。では、逃げ散った雑魚共に対しては、こうする事としようか』


 彼がパチンと指を鳴らしたその瞬間……私は、地面が一瞬暗くなったのを感じた。頭上を何かが通り過ぎた?


「なっ!?」


 ふと空を見上げた私は、一瞬心臓が止まったかのような衝撃を受けた。

 そこには、それまで存在していなかった筈の魔族が、空中に十数体現れていた。しかも……それらは明らかにレッサーデーモンではない。レッサーデーモンより一回り大きい、身長2mを越すほどの深紅の巨大な肉体、羊のような角とドラゴンのような翼を持っている。そしてその腰には蛮刀のような巨大な刀を携えていた。


「グレーターデーモン……!?」


 レッサーデーモンが中堅冒険者のパーティで倒せる強さだとすると、グレーターデーモンはたった1体でもベテラン冒険者のパーティでかろうじて相手ができる強さだ。しかもそれが十数体……!?

 いやいやいやいや、ちょっと待ってよ!? バフォメットだけでも充分勝てないのに、この戦力差では勝負にならないよ!

 思わず驚きの声を上げた私に、バフォメットは余裕を持った口調で私に語りかけた。


『なに、安心したまえ。これはお嬢さん達相手ではない』

『Սպանեք և ոչնչացրեք բոլորը ՝ արտաքինից դեպի ներքին:』


 バフォメットがなにやら命令の言葉を発すると、空中のグレーターデーモン達はそれぞれ頷いて散らばって飛んで行ってしまった。


『彼らには、この街を外周から順番に破壊し、雑魚共を中央……ここに向かって追い立てるように命令した。ま、この広さだ。一時間もあれば、この広場にまで戻って来られよう』


 あっさり逃がすと思ったらそういう事か……結局、外周から内側に向かって追い込む事によって、最終的に全滅を狙っているって事なのね。しかも一時間じゃ、バフォメットが憑依したシャイロックさんの肉体が崩壊するのを待つ、時間切れの作戦も使えそうにないよ。


 眉をひそめながら私はバフォメットに向き直り、戦闘態勢に入ろうとしていた。

 ところが、バフォメットは机の上であぐらを掻いたまま、まだ戦闘態勢を取らずに、顎の下に手をやって考え込んでいた。そして、私の方に向き直るとその口を開いた。


『そうだ、儂と戦う前に、一人戦って欲しい人物がおる』


 再び、右手を軽く挙げて指をパチンと鳴らしたバフォメットは、少し大きな声で意外な人物の名前を挙げたのだった。


『トウゴウ・トウベイよ、出てきたまえ』


 しばしの沈黙の後、裁判長席の後方にある出入り口から、トウベイさんがのっそりと姿を現した。いつもの執事服に彼の愛刀を片手に下げている。


『我が肉体はシャイロック・ベルモントから成れり。トウベイよ、その誓いに従い、(わし)に徒なす敵と戦う事を命じる』


 トウベイさんは、「は」とだけ返事した。そして、バフォメットが座る裁判長席の前に歩を進めると、私たちの方を向いて静かにその刀を抜いた。


「ちょ、トウベイさん! こんな悪魔の言うことを聞くの!?」

「憑依されども、その肉体はシャイロック様である事に変わりはございませぬ。本来ならば我が命、この地に流れてきた際に失っておりました。それを助けて頂いた我が(あるじ)を、この命に代えても護る誓いを立てております(ゆえ)


 驚きの声を上げた私に、トウベイさんは悲痛な顔をしながら返答してくる。

 顔をしかめて対応を考えている所に、シャイラさんが声を掛けてきた。


「アニーくん。私が相手になろう。アニーくんは後ろに下がっていてくれ」

「シャイラさん……」


 確かに、純粋に戦闘の事を考えると、私がトウベイさんと闘ってもこの距離では勝てる可能性は少ない。彼の刀が届かない距離でちくちくやればともかく、ね。

 それに、弟子として考える所もあるのだろう。そう考えた私は、シャイラさんの言に従い、傍聴人席の方に離れていった。



              ◇   ◇   ◇



 現在の位置関係は、裁判長席でバフォメットが様子見をしており、その手前の少し広い空間にトウベイさんと、私たちが対峙している状態だ。

 もちろん、バフォメット以外の全員戦闘体勢に入っている。


「師匠、シャイラ・シャンカー、参る!」

「よかろう」


 シャイラさんの愛剣、タルワールという曲刀を正眼に構えるシャイラさん。本来は片手持ちの剣だけど、柄の辺りに左手を添えて両手持ちのように扱っている。

 それに対して、トウベイさんは両手持ちの刀を頭の高さにまでゆっくりと振り上げた。

 更に、ゆっくりとその口を開け、息を吸い込み始めた。猿叫(えんきょう)と言うらしいけど、独特な叫びを上げながら飛びかかり、一撃必殺で切り捨てる、と言うのがトウベイさんの剣法だ。


「キエエエエエッ!」「はあああああああっ!」


 トウベイさんはシャイラさんの方に向かって走り込み始めた所で、シャイラさんは彼女の"必殺技"、マナを使って身体能力を強化する技を使い、飛びかかっていった。中段に構えていた剣を、体が反り返らんばかりに大きく振りかぶり、そして振り下ろしていく。


 ぎぃんッ!


 トウベイさんとシャイラさんが交錯したかと思った瞬間、厭な金属音が響き渡った。

 次の瞬間、シャイラさんは地面に届くまでその剣を振り下ろしていた。トウベイさんの刀は、斬り上げたのか、天空高くを指している。


「拙者が先手を取られるとは……見事なり、我が弟子よ!」


 トウベイさんの頬に、一筋の線が入ったかと思うと、そこから血が流れ出していた。

 でも、シャイラさんは……そのままぐらりと倒れ伏してしまった。気がつくと、彼女の剣は根元の方からぽっきりと折れてしまっている。


「シャイラさんッ!?」


 私は、思わず悲鳴にも似た声を上げてしまう。それに対して、トウベイさんは落ちついた声で私に話しかけて来た。


「アニー様、ご安心召されよ。シャイラ様の命に別状はございませぬ。当て身を少々入れさせて頂いたのみでございます」


 そして、彼は自分の刀に視線を移して言葉を続ける。


「それにしても、今の技はお見事でございました。拙者の刀がこの"村正(ムラマサ)"でなければ、倒れ伏していたのは(それがし)でございましょう」


 話し終えたトウベイさんは、再び刀を私たちの方に向けて振りかぶった。


「ともあれ……次はアニー様でございます。旦那様に(やいば)を向けるのであれば、容赦いたしませぬ」



              ◇   ◇   ◇



 と、そこに、ぱち、ぱち、ぱちと、ゆったりした拍手の音が響き渡った。その主を探すと……バフォメットがトウベイさんに対して拍手を送っている事に私は気付いた。


『確か、トウベイと言ったな……見事なものだ。儂ですら汝の攻撃を見切るのは困難であったぞ』


 バフォメットは拍手を止め、『だが』と言って言葉を続けた。


『倒したものは、きちんと始末しておいて貰わなければ困る』


 そしてバフォメットが右手を軽く挙げると、そこには巨大な炎の槍が浮かび上がっていた。


『Ֆլեյմի նիզակ!』


 魔法の名前だろうか? 何かを叫ぶと、その右手をシャイラさんの方に振り下ろした。それに応じた炎の槍が、未だ倒れ伏している彼女に向かって突き進んでいく。


「シャイラさんッ!」


 私は思わず叫んで、彼女を護る手段を考えた。でもダメだ、間に合わない!


「させん!」

「トウベイさん!?」


 シャイラさんに炎の槍が直撃しようとした瞬間、トウベイさんが炎の槍の射線上に飛び込んでいき、自らの身体で炎の槍を受け止めたのだった。


「ぬうッ!」


 炎の槍の直撃を受けたトウベイさんは、飛び込んだ姿勢のまま転がっていき、そして、そのまま倒れ伏した。体が灼ける焦げ臭い臭いが立ちこめ、背中からお腹に掛けて黒焦げになって、ほとんど貫通しかかっている。どう見ても……致命傷だ。

 次回予告。


 トウベイさんを見送った私たち。そしてバフォメットとの戦闘がついに始まった。なんとか健闘を続ける中、私は切り札の魔法を発動させる事に成功したのだった。


 次回、「バフォメットとの戦い」お楽しみに!

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