102.逆転に向けた反撃
風邪を引いてしまいました……皆様もお気をつけください。
次週も11月18日と21日に掲載予定です。頑張りました!
ところで、感想が話別に投稿できるようになったそうです。一年近く感想を頂いておりませんので、何でも貰えると嬉しいです。
法廷は先程の狂騒から冷め、落ち着いた雰囲気を取り戻していた。
ギャリーさんは既に机の下から出てきていて、私の横で立っている。とりあえず、私に任せてくれているようだ。
私は被告人席で、胸を張って腕を組み、静かに口を開いた。
「さて、わたしがやっていない事を示す証拠は持っていません。やった証明なら簡単ですが、やらなかった証明なんて物はいわゆる悪魔の証明、普通は不可能ですからね」
私は被告席をゆっくり左右に歩きながら、説明を開始した。
「しかし、この事件の真の首謀者を暴き、彼がこの事件を行った事を証明すれば、自動的にわたしたちの無実は証明できます。ここまで、よろしいでしょうか?」
「ああ、問題ない。では、誰が首謀者だと言うのかね?」
私の言葉に、裁判長のシャイロックさんは小さく頷いた。
ちなみに検察側のラシードは、苦虫をかみつぶしたような顔でこちらの言葉を聞いている。彼もまた、先ほどの衝撃からは抜け出せたようだ。
「それは、もちろん……」
私はシャイロックさんの質問に応えて、びしっと人差し指でラシードを指差した。
「ラシード公安部長、あなたです!」
指差されたラシードは、一瞬驚いた顔をしたが、すぐに含み笑いをし始めた。
「くっくくくくく……なんとなんと、この公安部長たる私が、都市級結界を作り出した首謀者とでも言うのかね?」
余裕綽々のラシードの答えに、私は構わず口を開く。
「ええ、その通り。まず、証拠をお見せする前に、二つ三つ、あなたにお伺いしたい事があります」
「ほほう……まあ、よかろう。聞いてやろうか」
◇ ◇ ◇
「では、ラシードさん。三日前の晩ですが、あなたのお宅に侵入者があった事を覚えていますか?」
私の問いに、ラシードは意表を突かれたようだ。顎の下に手をやって少し考えるような仕草をしたが、結局、正直に話す事に決めたらしい。
「――ああ、確かに、侵入者があった」
「私が確認した所によると、最終的に攻撃魔法の使用を含めて交戦の末、逃亡したと聞いています。侵入者の正体について、ご存じでしたら、教えて頂けますか?」
「侵入者は、ハニーマスタードを自称しておったな」
その回答を聞いた傍聴席からは、小さなざわめきが聞こえてきた。必要な回答を引き出せた私は、微笑みながら口を開く。
「なるほど、正義の味方、魔法少女ハニーマスタードが、あなたのお宅に侵入した、と」
「確かに、魔法少女などとうそぶいておるが、やっている事は盗賊に等しいな」
私の『正義の味方』の強調に対して、ラシードは彼女の行動が盗賊まがいである事を示唆して打ち消しに入る。ま、盗賊まがいってのは、否定はできないけどね?
「そう、ハニーマスタード。彼女は、あなたが悪魔崇拝教団の総大主教であり、この事件の黒幕であると言う、あなた自身の証言を聞いています」
「――ほう?」
私の発言を聞いたラシードは、少しの間、動きを止めた。私の発言の真意を見抜こうとしているのか、鋭い目つきで私の顔を凝視している。
「この事に関して、何か申し開きしたいことはありますか?」
私の質問に対して、ラシードはやれやれと言った風情で肩をすくめながら首を振った。
「申し開きも何も、ここにいない人間の伝聞による証言を証拠と言われても、そんな事実は存在しない、としか答えようがないが?」
「そうですか……では」
私は、懐からレコードクリスタルがあしらわれたリボンブローチを取り出した。ラシードや傍聴席の人達にも見えるように、手を掲げてプラプラぶら下げてみせる。
「これは、レコードクリスタルと呼ばれる魔導具です。ご存じですか?」
「ああ、確か、君の保護者殿が作成されている、周辺の物事を撮影・再生できる道具だったか」
「その通り。これはハニーマスタードが撮影した物です。それでは、再生してみましょう」
私はテーブルの上にレコードクリスタルを置き、小さな声でラシード邸での出来事の再生を命じた。
◇ ◇ ◇
クリスタルから光があふれ出し、ナイトシェードと、ベッドに座ったラシードの立体画像を投影する。
初めて見たであろう傍聴席の人達から、どよめきが聞こえてきたが、投影画像の人物が喋り始めた途端に、その声を聞こうと法廷内は静まりかえっていった。
『総大主教猊下に一刻も早くお知らせしたい事がございまして』
『ほう?』
『多少の妨害はありましたが、要石の搬入に成功しました。本日未明にも設置完了するかと』
『それは素晴らしい! よくやったぞ!』
『"魔神召喚計画"も予定通りに?』
『ああ、無論だ。これは寝てはおれんな』
肝心な部分が再生されたところで、私はラシードに向かって口を開いた。
「この通り。この画像は、あなたが総大主教であり、"魔神召喚計画"を指揮している事が分かりますが、いかがでしょう?」
「こ……これは、君の保護者殿が作成された物だ。いくらでもでっち上げはできるだろう! そ、そもそも、なぜ撮影者でない貴様がこれを持っている?」
ラシードは狼狽えた声でわめき散らすと、裁判長のシャイロックさんの方を向いて、大声で抗議した。
「裁判長! 撮影者の証人喚問を要求する! 撮影者不在の状況では、これは証拠としては認められない!」
「承知した。確かに、撮影者が不在の状況では、この画像は証拠としては採用できない。被告は撮影者を登壇させる事は可能か?」
シャイロックさんの要望に対し、私は念のため、言質を取っておく事にした。
「分かりました。では、彼女が姿を現せば、この画像は証拠として採用されるわけですね?」
「ああ、無論だ。ラシード公安部長も、それで構わないね?」
「ふん、出て来ればな!」
同意が取れたところで、私は高らかに声を上げた。
「分かりました。正義を愛する彼女は、この裁判を必ずどこかから見ている筈です! さあ、傍聴席のハニーマスタードよ、ここに現れなさい!」
「む……ッ」
一瞬、どこからかハニーマスタードが姿を現すのかと、ラシードは慌てた雰囲気で周囲を見渡した。
しばらく沈黙がよぎるが、当たり前ながら、ハニーマスタードは姿を現さない。
「…………」
「……………………」
「………………………………」
少しざわめきが起こり始めた所で、ラシードは含み笑いから、高らかに嗤い始めた。
「く、くくくく……はーっはははははっ! この会場にいるのではなかったのかね? いや、ぜひ彼女の姿を見たかったのに、残念だよ」
「くっ……」
彼の言葉に、私は顔をしかめて見せる。
「裁判長閣下、こんな茶番はもう良いでしょう。そろそろ判決に移るべきではありませんか?」
調子に乗ったラシードの声に、私はついにその時が来た事を感じた。
軽く目を閉じて、私も含み笑いを始める。
「なに……何故笑う?」
ラシードの質問に、私は目を開くと、ニヤニヤしながら口を開いた。
「――なーんてね?」
次回予告。
ついに私は今まで隠し通してきた秘密を暴露した。しかしそれは、別の秘密を暴露する事に繋がっていたのだった。それにより、ついに終末のメロディをかき鳴らすための条件が満たされてしまう。
次回、「暴露暴露に大暴露!」お楽しみに!