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100.三文芝居の冒頭陳述

 話数ベースでついに100話到達です。いつもお付き合いいただき感謝しております。今しばらくよろしくお願いします!


 次週は11月11日、14日に掲載予定です。

 ギャリーさんと私を被告とする、中央広場を舞台とした公開裁判が始まっている。まずは検察官である、ラシード公安部長による冒頭陳述が始まろうとしていた。


 私たちの対面側にある検察官席についたラシードは、シャイロックさんが座っている裁判長席、そして私たちの被告席、更に傍聴人席の方に視線をやりながら口を開いた。


「先ほどの罪状認否にある通り、被告人ギャリー氏とアニー氏は、共謀して魔族を召喚した容疑が掛かっておるのであります。これより、その証拠の開示を行わせていただきます」


 そしてシャイロックさんに向かって、大仰な仕草で右手を振りながら言葉を続けていた。


「裁判長閣下。ギャリー氏は確かに黒幕であるが故に、確固たる証拠は残していませんでした。しかし、我が公安部は調査により、以下の証拠を手に入れる事に成功したのであります」


 いちいち喋る度に芝居がかった仕草は忘れない。今度は挙げていた右手の人差し指だけをぴっと立てて"一"を示した。


「まず一つ。今回の現象の根源として、フライブルクに要石なる物を利用した都市級結界が構築されておりました」


 散々、要石による結界理論を提案しても無視しまくっていた公安が、ここでそれを理由として使うかね? まあ、彼らが黒幕であるが故に、敢えて無視していたんだろうけど。

 私はムスッとした表情で、まずは彼の主張を黙って聞くことにした。


「要石は、大きさおよそ1m半程度の物体であり、フライブルク中の6箇所に散りばめられて配置されていました」


 そしてラシードは、一枚の羊皮紙を机から取り上げて、空中に掲げて見せた。


「まず、ギャリー氏が黒幕である証拠として、この要石が配置された建物総て、氏の所有物である事を開示します!」


 ラシードの説明に対し、即座にギャリーさんが異議を申し立てる。


「異議あり! 当商会は多数の物件を賃貸用物件として所有しておる。仮にそのうちの6軒が当商会の所有物件であったからと言って、当商会が関与したとは言い切れんぞ!」

「もちろん、五大商会である、デイビス商会は、多数の物件を所有しております。しかし、100%と言うのは統計上、無視できぬ数値ですぞ」

「異議を却下する。建物の所有権というのは重要な情報であると考えられる」


 ラシードはその意義申し立てに対して、落ち着いた口調で返答した。シャイロックさんもそれを認め、異議を却下してしまう。

 やっぱり、これは出来レースの感がひしひしとしてきたぞ。でも、ゴールは何だろう? 私たちの死刑?


「また、この要石というものは、かなりの重量物である事が判明しております。その搬入には大型の荷車が使用された事が分かっておりますが、こちらも総て、デイビス商会の所有物である事が分かっております」


 滔々(とうとう)と持論を語るラシードを見ながら、ギャリーさんは私の方に少し頭を傾けて(ささや)きかけてきた。


「これは……ハメられたようじゃの」

「どういう事なんです?」

「彼の主張は嘘ではなかろう。恐らく意図的に、我が商会所有の賃貸物件及び荷車をチャーターしたのじゃろうな」

「嘘ではないけど、ミスリードを誘う表現、と言うやつですか?」


 私が(ささや)き返すと、ギャリーさんは小さく頷いた。


「その通り。公開裁判と言うものは、如何に大衆が納得する事実を提示できるか、に、かかっておるものじゃ。そしてそれは、真実である必要は、ない」

「そりゃまた厄介な。ノリさえ良ければ、論理的に破綻していても、勢いでカバーできるってわけですね?」

「その通りじゃ。これを挽回するのは並大抵の事ではないぞ」

「まあ、機を見てやってみますよ」



              ◇   ◇   ◇



 私たちがぼそぼそ話している間に、ラシードは次の証拠の説明に移っていた。


「次に、裁判長閣下の手元にご用意してある羊皮紙をご覧下さい」

「これかね?」


 シャイロックさんは、手元の台から一枚の羊皮紙を取り出した。


「その通りでございます。こちらは、要石を用いた都市結界に関する説明が記されております。実際に配置された要石の分布と、この文書に記されている配置図が一致しているため、この文書を元に、この邪悪きわまりない計画が遂行されたものと考えられます」

「なるほど、了解した。それでは、この文書の出所と執筆者は分かるかね?」

「はい、裁判長閣下。本文書は、ギャリー氏の書斎より押収されものであります。そして、執筆者の名前は、アニー・フェイ氏であります」

「承知した。で、あれば、これは重大な証拠と考えられるな」


 ラシードとシャイロックさんの間で繰り広げられる三文芝居。

 ただ、それでも傍聴人の人たちの間ではざわめきが広がり、私たちに浴びせられる視線に鋭さが増してきていた。

 私は、首筋にチリチリするものを感じながら、小さな声でぼやくしかない。


「あれ、公安に頼まれて、私が書いた文書なんだけど……」

「恐らく、公安が踏み込んだ際に共に持ち込んで、ワシの書斎から見つかった(てい)にしたんじゃろうな」

「この雰囲気だと、今更それを主張しても――」

「――通らんじゃろうなぁ」


 そして私とギャリーさんは、揃って小さく首を振った。


「そう、アニー・フェイ。今回の実行犯と目される人物であります。彼女は、かの錬金術師(アルケミスト)リチャードの下で育ち、現在は冒険者学校の学生であります。彼女は類い希なる魔法の才能を持ちながら、残念ながら、この街総ての人間と敵対する道を選んだ、邪悪な『魔女』である事がわかりました」


 盗賊ギルドのフランシスが言い出したからでは無いとは思うけど、不本意ながら、私には『魔女』と言う二つ名が定着しつつあった。濃紺の魔術師の帽子に外套と、強いて言えば魔女っぽく見えなくもない、この格好でお構いなしに強烈な魔法をぶっ放したりしていたからね。

 そして『魔女』という単語が出た瞬間、傍聴者達のざわめきが更に大きくなった。この地方に流れている魔女の伝説は未だ健在で、この辺で育った人間は誰でも、小さな頃に「早く寝ないと悪い魔女に掠われるよ!」なんて言い聞かされて育ったものである。やっぱり、『魔女』は強大な悪の象徴なんだろう。


「わたしが、『邪悪な魔女』ですって」

「それはまあ、その格好ではのう」

「自分では、(美)少女魔術師のつもりなんですけどねぇ」

「……」


 ギャリーさん、私の頭上から足下まで一瞬目を走らせた後、ぷいとばかりに視線を明後日に向けてしまった。

 ――えー、ツッコミなしですか、そうですか……


「つまり、この魔女が計画を立て、ギャリー氏がその権力と財力を用いて、フライブルク全市を魔界と化そうとした。以上が本事件の真相なのであります」

「異議あり! わたしは警備部に所属し、魔族掃討に貢献していたと考えていますが、それに対して矛盾はありませんか?」


 無駄だとは思うけど一応、やってみようか。私は右手を挙げて異議を申し立てた。それに対して、ラシードは全く動じること無く即座に返答を返してくる。


「その理由に対しても、公安の魔術師グループによって検討済みである。アニー氏が掃討したのは、要石の近辺に限られる。すなわちそれは、要石近辺で人間・魔族を問わず、血を流させる事によって、要石の効果を強めようとしたのではないか、と考えられている」

「異議を却下する。ラシード氏の論理には理解できる説得力がある」


 ガバガバの証拠で、ツッコミどころが分かりやすいが故に、ツッコミに対する反論も準備しやすいと言う事か……うーん。



              ◇   ◇   ◇



「検察側からの証拠開示は以上であります。裁判長閣下、現時点での見解をいただきたく思います」

「ふむ……これらの証拠により、被告の容疑は非常に固まっていると考えられる」


 はいはい、猿芝居、猿芝居。今は好きなようにやればいいわ。こちらのターンになるまで黙っていてあげる。

 ……と、悠長に見ていたら、ラシードは突然、傍聴席の方に向かって大きく手を振り上げながら声を上げた。


「傍聴席の市民諸君!」


 突然のラシードの行動に、シャイロックさんは訝しそうな顔をしたが、とりあえず制止しようとはしない。

 そして、その声に応じて傍聴席のざわめきが少しずつ静かになっていき……完全に静まりかえったところで、再びラシードは大声を上げたのだった。


「諸君らに問う! フライブルクに危機をもたらしたこの不逞(ふてい)な悪人共をどうすべきであるか!?」

 次回予告。


 突如始まったラシードの扇動。傍聴席の市民達はそれに煽られて私に対する悪意を沸騰させてしまう。それに対して私は……


 次回、「狂奔、そして」お楽しみに!

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