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98.呉越同舟

 やっぱり更新が週に一回って少ないですよね。とはいえ、書き溜めも少なく、これ以上ペースを上げると結局原稿を落としてしまうハメになりそうで……


 次回は10月31日に更新予定です。

 冬の日の早朝、下宿に突然現れた公安の二人組、ナイトシェードだかアマリエ(と、もう一人の中年の男)によって、私は公安の詰め所まで連行される事になってしまった。


 私とアマリエが下宿前に乗り付けた馬車に乗り込むと、御者台の男は鞭を振るって馬車を動かし始めた。雪が積もっているため、かなり慎重に運転しているようだ。

 二人乗りの車内はそれほど広くはない。私が奥に、アマリエが手前にと、二人横並びで座っている。



              ◇   ◇   ◇



 馬車が動き出してすぐに、私はアマリエに拘束の理由を尋ねることにした。


「それで、わたしにどんな容疑がかかっているんです?」

「その前に、状況の変化をお伝えします。ちょっと、外を見て頂けますか?」


 アマリエの言葉に、私は鎧戸を少し動かして、馬車の外をのぞき見た。

 うーん、雪が積もってるからか、早朝だからか、人通りは少ない……んだけど、あれ?


「……なんで、こんなに公安と軍務が立ってるの?」


 そこかしこに、軍服を着た公安の人間や、軍務の傭兵達が歩哨のように立っているのが見えた。一カ所の人数は二、三人と少なめだけど、完全に戦闘装備で固めている。

 ふと漏らした私の疑問に、アマリエは静かに答えてきた。


「本日未明をもって、魔族襲撃に対抗するため、臨時救世評議会が結成されました。それと同時に、公安部と軍務部の一部は、終日の城門封鎖令及び戒厳令を発令しており、フライブルク評議会の活動は一時的に停止、警備部の活動も制限下に置かれています」


 しれっと言われた言葉を頭で解釈し、私はその内容に驚愕して振り向いた。


「え、それって……クーデターって事!?」

「端的に言うと、そうですね」


 アマリエのすました顔を見ながら、私は頭の中で考え始めた。


 まず、警備部はクーデター派に入っていない。本部まで制圧されたかどうかはまでは分からないけど、いずれにせよ活動は難しそうだ。

 クーデターの理由として、魔族襲撃に対抗すると言っているけど、これはもともと公安の自作自演の事件だ。つまり、評議会や警備部、盗賊ギルドなどの活動を抑制して、これから行う魔神召喚の儀式を行いやすくするため、か……私の拘束も、その一環なのかも?


「なるほど、状況は分かりました」


 私の反応に、アマリエは少し笑みを浮かべた。


「あら、思ったより動揺しませんね?」

「そこまでやるかとは思ったけど、まあ、あなたたちなら、やって不思議じゃないですからね。――ところで、親玉の名前を聞いてもいいですか?」


 肩をすくめてから改めて質問した私に、アマリエは白々とした態度を崩さずに回答してきた。


「親玉……臨時救世評議会の評議会長、と言う事ですね? シャイロック・ベルモント氏がその任に就かれています」

「そうですか……」


 予想通り、ではあるけれども、聞きたくは無かった名前を耳にして、私は小さく首を傾けた。


「予想通りの名前、のようですね」

「当たって欲しくは無かったですけどね。――あと、もう一つ。私の具体的な容疑を聞かせて貰っていいですか?」


 私の質問に、アマリエは一瞬小首を傾げたが、すぐによどみなく回答してきた。


「あなたの容疑は、このフライブルクに、要石を使った都市級結界を形成し、魔族召喚の儀式を行った事、です」


 アマリエの言葉に、私は眉間にしわを寄せて問い返す。


「わたしが、この事件の、首謀者って事なんですか?」

「ええ、私たちは、その認識で動いています」


 自分たち公安が首謀者のくせに、白々しい態度を崩さないアマリエに、私は無駄だと思いつつも質問してみた。


「証拠……は、まあ、どうにでもでっち上げられるでしょうけど、その根拠を聞かせて貰っていいですか?」

「それは裁判の際に公開されます。二日後に、中央広場で公開形式で行われますから。ご安心下さい、あなたにも反論の機会はありますよ」


 いつぞやチャリティショウをやった中央広場で公開裁判、か。どう吊し上げするつもりなんだか……って、もしかして、私を生け贄にするための裁判!?


 と、親指の爪を噛みながら考え込んでいた私に、いつの間にか、アマリエが近づいてきており、耳元で密かに囁きかけてきた。


(御者には聞こえないように。静かに聞いて)


 私は思わずびくっとして、無言で彼女の方を振り向くと、彼女は唇に人差し指をやって、静かにするようなジェスチャーをしていた。その表情はこれまでと比べると、人間ぽいというか、いたずらっ子っぽい笑みを浮かべて見える。

 私は極小の声でアマリエに問い返した。


(どういう事ですか?)

(このデタラメな容疑、ひっくり返せる証拠は持っているわよね? この裁判、思う存分、引っかき回してやってね)


 まるで自分が味方であるようなアマリエの台詞に、私は困惑の顔を浮かべるしかない。


(あなたは一体……)

(今は何も言えないわ。全てが片付いてから、ね。いい子にしてるのよ、アニー?)


 彼女は悪魔崇拝教団の暗殺者で、私と交戦した事もあって、そして、私を殺した?事もある、強大な、敵。そんな彼女の突然の態度の変化に、私は混乱の色を隠せなかった。なにこれ? 罠?

 でも、何だか、この口調、記憶のどこかに引っかかるものがあるような……



              ◇   ◇   ◇



「ほら、警備部の本部が見えてきました」


 困惑する私を尻目に、アマリエは再び突然、これまでと同様の飄々とした態度に戻り、窓の外を手で示した。外を見ると、確かに馬車は警備部本部前を通過している所だ。

 建物の前では、魔族対策本部の面々、つまり、冒険者パーティ的な戦える人達が入り口で踏みとどまっており、公安及び軍務の傭兵達とにらみ合っていた。


「戦ってはいない?」

「ええ、できれば内部まで押さえたかったのですが……安心してください、この通り睨み合いで、交戦には至っていません」


 警備部が占拠されておらず、損害も出ていない事を聞いて、私は胸をなで下ろしていた。そんな私を再び無言でしばらく眺めていたアマリエだったが、馬車が公安本部に近づいた辺りで、再び口を開く。


「さて、そろそろ公安本部です。裁判までは、申し訳ありませんが、独房にいていただきます」


 ちなみにその独房、旅館の一室とまでは行かないにせよ、地下牢でひどい目に遭う程では無く、座敷牢での軟禁程度で済んだのは不幸中の幸いだった。

 もっとも、その間は誰とも連絡を取る事はできなかったんだけどね。


 ともあれ私は、アマリエの言葉の通り、裁判のその日まで独房で独り、静かに過ごす事になったのだった。

 クーデターと言えば雪でしょ?と、降らせてみたはいいものの、一人称視点では殆ど意味がありませんでした……起こされるまで寝てるんだもん……


 次回予告。


 二日後、ついに公開裁判の日が訪れた。中央広場に連行された私は、そこに役者が揃っている事を確認する。そしてついに、公開裁判の開始が告げられるのだった。


 次回、新章「最終章-3 フライブルクのいちばん長い日」第一話「公開裁判へ」お楽しみに!

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