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10.リチャードさんが練習相手になってくださるんですか?

※2018/9/13 ひたすら練習に励みたい!から改題しました。

※2018/12/19 微調整しました。

※2018/12/28 次回予告を追加しました。

※2019/8/4 スマホフレンドリーに修正しました。

 夜が明けた。

 いつもの時間に目を覚まし、毎朝の日課を始める。

 でも今日の套路は、いつもと違ってマナの動きを制御しながらやってみよう。


 息を整えて両足を揃えて立ち、手も揃えて体の前に。


 腰を落としながら、両腕を前に挙げる。


 左足を素早く前に出し、ゆっくり前進して下ろす。


 今度は右足を素早く前に出し、今度は下ろさずに、緩やかに腰を上げる。


 ――ここで、マナを次に踏み込む右足に集中させる。


「はッ!」


 一気に踏み込み、両腕を曲げ、右肘を正面の敵に打ち付けるような形で振り上げる。踏み込んだ右足から地面の反動と共に、マナを体を通して右肘まで通り抜けさせる。石畳に踏み込んだ右足から、いつもに倍する音が響き渡った。


姉様(ねえさま)、そちらがリー先生に教わった、マナによる強化、ですか?」


 隣の炊事場から、アレックスが顔を出してきた。


「うん、まだ満足にはできていないんだけど、それでもかなり威力が上がった気がする」

「少なくとも、震脚の音量は上がっているようですね。驚きました」


 ま、少なくともアレックスを驚かせるくらいの違いはあったようだ。


箭疾歩(せんしっぽ)というのがまた凄いんだけど、見てみる?」

「いいえ、わたしは朝食の準備がありますので。また今度、お願いしますね」


 と、そのまますぐに引っ込んでしまった。

 相変わらず、武術に興味が無いんだから。


 気を取り直して、日課の続きと、追加して箭疾歩の練習を行う。

 今は朝食前だから軽くだけだけど、あとでみっちりやらなくちゃ。



              ◇   ◇   ◇



 日課を終えた後、手早く身繕いをし、朝食の席へ向かう。


「「おはようございます、リチャードさん」」

「おはよう、アニーくん、アレックスくん」


 変わらない朝の挨拶。


「私は今日は、外出の予定は特にないかな。アレックスくんは学校として、アニーくんは武術のトレーニングだね」

「はい、イメージトレーニングも並行してやりたいと思っています」


 朝食の時に、全員の今日の予定を確認する。

 リチャードさんは書斎に籠もる予定のようだ。

 明日の合格発表の時に、少しでもみんなに成果を見せたいから、できる限りの事はやっておこう。

 アレックスはいつも通り学校……のところで、リチャードさんがアレックスに声をかけた。


「そうだ、アレックスくん。すまない、昨日話するつもりだったが、すっかり忘れていた」

「はい、なんでしょう?」

「例の細工師の件だが、まずは会ってみたいと言ってくれている細工師は見つけられたよ」


 アレックスは少しだけ目を見開いてから、リチャードさんに頭を下げた。


「そうですか、ありがとうございます」

「それで、そのときに何か作品があれば持ってきて欲しいとの事だ。次の習い事の日に会う手配はしてあるが、何か持って行けそうなものはあるかな?」

「次の習い事の日……三日後ですね。分かりました。ありがとうございます」


 アレックスはあまり表情を変えずに礼を言ったが、よく見ると口角が少し上がっている。あの顔は内心興奮している顔だ。ふふふ、お姉様には分かるのだよ。


「何か作るの?アレックス」

「手持ちのものは(つたな)いものばかりですので、今の技術を見せないといけませんから。リチャードさん、銀の地金を少々と、工具を使わせていただいてよろしいでしょうか?」

「もちろん、問題ないよ。使ってくれてかまわない」

「ありがとうございます」


 アレックスも新しい目標が見つかったようで何より。私も自分がやらなきゃならない事をしなきゃね。



              ◇   ◇   ◇



 というわけで、朝食を終えて、再び中庭へ。

 例によって食器の片付けは私の担当だ。バケツに水を汲んで、さっと洗っておく。これでお手伝いは完了。

 これから修行の時間。丸一日で進められるところまで進めておきたいな。


 さて、まずは箭疾歩の練習をやってみよう。

 おっと、練習の前に、跳ぶべき距離を考えようか。

 跳ぶべき距離としては、無駄に長く飛ぶ必要はなくて、腕の長さと長剣の長さを合わせた2メートルを、最速で跳ぶことが目標として考えればいいだろう。

 剣術の試験官がやっていたように、相手の攻撃をバックジャンプで避けて、通り過ぎた直後にカウンターで繰り出すのが一番良さそうだ。


 目標となる水樽を真ん中に置く。

 そして、水樽から2メートルの位置に、目印となるように石ころを置いておく。


 その内側から、バックジャンプで外側に飛び出して、即、箭疾歩で樽まで突っ込んでいく、という寸法だ。


 まずはやってみよう。

 バックジャンプで後ろに跳び、右腕を下に下げ、体を左に捻り下げる。そして、左足で大きく大地を蹴りながら、マナを左脚から右腕まで流しつつ、体のねじりを解放し、右腕を槍のように突き出していく。

 相手が人間なら拳でいいんだろうけど、水樽相手だと痛いので手の平で。その代わり、水樽に触れた瞬間、発勁(はっけい)の要領で衝撃波を叩き込む。

 衝撃波を受けた水樽から、水がばしゃんと飛び出していく。


「うーん、鎧を着た相手でも、この要領で行けそうかな?」


 距離的には現状でもギリギリ問題なさそう。

 でも、余裕を持たせるにはもう少し跳んでおきたいし、速度も今のままでは不十分だと思う。

 後は繰り返して修正していくしかないかな。


 そこへ、アレックスが顔を出してきた。


「姉様、わたしは学校に行ってきますね」

「はいはい、いってらっしゃい」

「お昼ご飯は、テーブルの上にエッグサンドを置いておきましたから、リチャードさんと食べてくださいね」

「はーい、ありがとう」


 今日はエッグサンドか。

 おっと、お昼ご飯の事はさておいて、練習練習、と……



              ◇   ◇   ◇



「――ちょ、ちょっと休憩」


 何回か繰り返して練習したけど、体力の消耗が激しすぎる。

 日陰のベンチにだらっと座って息を整えた。


 そうだ、この間にイメージトレーニングやってみようかな。


 目をつぶってイメージを開始する。


 悪夢の時のイメージだと解決不能――だって、私が小さい子供設定になってしまう――なので、先日の剣術試験をベースにしよう。

 昨日の風景をイメージし、ぎらりと光る抜き身の剣を持った教官を思い出す。


 あ、少し動悸が激しくなってきたかも。深呼吸して、少し落ち着こう。


 よし、再開、再開。


 イメージの中で、教官がぶぅんとゆっくり長剣を振った直後、私は箭疾歩で懐に飛び込み、教官に発勁を直撃させる。


 ふむ、簡単なイメージとしてはこんなものかな?

 あとは少しずつ詳細にイメージしつつ、攻められるところまで攻めてみようかな。



              ◇   ◇   ◇



 何回か繰り返すと、少しずつ慣れてきて、イメージの中の長剣に緊張する事は減ってきた気がする。

 イメージの中で万能感を出しつつ、実際に倒せなかった教官をボコるというのは、なんとなく自分自身がイタい気がしないでもないけど……まあ、仕方ないよね。トラウマ克服のための作業だし!


 休憩もできた事だし、今度はまた箭疾歩の方に戻ろう。


 なんて事を繰り返しているうちに、お昼ご飯の時間になったようだ。


「アニーくん、そろそろお昼ご飯にしないか」

「はい、そうしましょう!」


 リチャードさんが書斎から顔を出してきたので、私も修行を中断してお昼ご飯の準備。アレックスがエッグサンドを作ってくれているので、飲み物だけを準備すればいいかな。

 今日もワインの水割りを作って、リチャードさんと自分のコップに注ぎ分ける。


「それでは、いただこうか」

「いただきまーす」


 食べながら、午前中の成果を報告する。


「午前中は箭疾歩と、イメージトレーニングを交互にやっていました」

「何か得られるものはあったかな?」

「イメージの中だけですけど、少しは慣れてきた気がします。あとは、箭疾歩の方も、最初に比べると、鋭くなってきたかなって気がします」

「それはよかった。後で少し見せて貰うとするかな」

「はい!」


 食べ終えた食器を片付けて、中庭で再び練習の準備。リチャードさんが鞘に入った長剣を下げて出てきた。


「あまり長剣は使ったことがないが、逆に今はちょうどいいかも知れないね」

「え、リチャードさんが練習相手になってくださるんですか?」

「今の様子を見るだけだけどね」


 リチャードさんは鞘をつけたままの長剣を持ち、中庭の中央に立った。私は少し離れた場所に立つ。


「抜き身で無ければ問題はないかな?」

「はい、全然大丈夫です!」

「――ま、お手柔らかに」


 リチャードさんは両手で長剣を構え、こちらにするすると向かってくる。


「ふッ」


 届くかどうかのところで、横殴りに一閃。手加減はしているんだろうけど、それでも意外に鋭い。


 浅いので、軽く気持ちだけバックジャンプしてから箭疾歩。


「やッ!」


 一気に加速してリチャードさんに肉薄する。


「おおっ」


 さすがに殴るわけには行かないので、発勁抜きの手のひらを、リチャードさんに押し当てようとするが、リチャードさんの左手でブロックされてしまった。


「なるほど、これはなかなか面白いね」

「でも、あっさり止められましたが」

「最初の一撃だけはね?すでに懐に潜られている以上、武術優位の距離だよ」

「そうですか?ありがとうございます」


 リチャードさんは長剣を肩に担いで書斎の方に向かいながら、言葉を続けた。


「思ったより実際に試してみる機会は早く訪れるかも知れないね。ともあれ今日は午前中の練習を引き続きやった方がいいだろう」

「あれ、つきあってくれないんですか?」

「剣を振るのも結構大変でね。今はまず自分の型を固める段階だよ」

「はーい、がんばりまーす」


 ――実際、他にする事も無いし、今日はこの二つを繰り返しやっている間に日が暮れてしまった。

 ちなみにアレックスは、学校から帰った後、晩ご飯を作る時間になるまで、作業室に籠もってゴリゴリやっていたみたい。



              ◇   ◇   ◇



 頃合いを見て、アレックスが炊事場から中庭に顔を出してきた。


「姉様、もうそろそろ晩ご飯ですよ。そろそろ終わってくださいね。あと、晩ご飯の前に着替えておいた方がいいでしょう」

「はあい、アレックス。今日は久しぶりに一日中動いてたし、確かに、結構汗かいちゃったかも」


 アレックスの勧めに従い、自室で運動着から普段着に着替えて体を拭く。

 一日中体を動かす事はあまり無いし、今回は割と全力で使ったから、筋肉痛になっちゃうかも……


「今日はポトフです。猟師のアンドリューさんに(きじ)を分けていただいたので、そのお肉も使っています」


 おお、贅沢だ。

 ちなみにこの館の食事は、並の農家よりは上、お貴族様よりは下、という水準になっている。

 田舎が好きでも、食事レベルは都会並みを維持したいそうだ。


 さて、そのちょっと贅沢な夕食を取りながら、私はリチャードさんに進捗を報告した。


「リチャードさん、今日はあれから結局日が暮れるまで続けてしまいました」

「そのようだね。何か得られる事はあったかな?」

「型にははまってきた気がします。でもまだまだばらつきもあるし、速度も警戒されている相手には足りていないと思いますので、まだまだですね」


 進歩があった事を聞いたリチャードさんは、笑みを浮かべながら答えた。


「そうか、まあ明日、そのお友達に披露するには十分じゃないかな」

「まあ、方向性は見せられるので、今はそれでよしとするしかないですね」

「あ、そうそう、今日は一日中練習をやっていたんだね?」

「あ、はい、そうですけど……」


 リチャードさん、懐から何枚か小さな布を取り出してテーブルの上に置いた。


「いくら若いといっても、最近これ程は体を動かしていなかっただろうから、寝るときにこれをつけておきなさい」

「なんですこれ?」


 テーブルから取り上げてみる。

 なんだかしっとりしていて、ミントの香りがする。


「湿布だよ。筋肉痛の予防になるはずだ」

「あ……お気遣いありがとうございます」

「明日も馬に乗らなきゃならないからね。筋肉痛を抱えているとつらいだろう」

「はい、ぜひつけさせていただきます」


 私は湿布を懐にしまい込んだ。

 リチャードさんは今度はアレックスの方を向いて話しかけた。


「ところで、アレックスくんは今日は何かあったかな?」

「いえ、わたしは別に。学校でも特に問題は起きておりません。ただ、今朝お話させていただいた通り、銀の地金を少々いただいております」

「そうか、いや、問題ないよ。がんばってるね」

「ありがとうございます」


 さて、晩ご飯の片付けを手伝って、今日はあとは眠るだけ。

 おっと、寝る前に貰った湿布を貼っておこう。ふくらはぎ、太もも、二の腕と貼っていく。ひやひやして気持ちいい。

 最後に背中……は、貼れないぞ。


「アレックス、ちょっと背中に湿布貼るの手伝ってくれる?」

「……はい、姉様」


 とりあえず、妹は使い倒してしまおう。便利便利。


 明日はいよいよ運命の分かれ道、合格発表だ!

 中一日、練習だけで終わるから短くなるかと思ったら、思ったより長くなりました。なお、繰り返しておりますが、武術に関しては、聞きかじった知識をベースにファンタジーを練り込んだフィクションです。



 次回予告。


 合格発表のため、皆でフライブルクに出発する。なんとアレックスまでついてくる事になってしまった。そして学校で、3人の女の子達と再会する。


 次回「みんな、おめでとう!」お楽しみに!

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