第七十話 オレはラグドール ~ハンバーガーに誘われて~
第六十九話のタイトル変更しました。
ラグドール視点です。
ギルドの裏庭に、倉庫から持ってきた武器を並べていく。
訓練や試験用の武器なので刃引きがしてある。
小僧が手に取ったのは刀だった。ヨハンが愛用している武器だが、俺にはちょっと使いにくい。
小僧の構えは素人のようにスキだらけで、武器の振りは形になっていないように見える。しかし、なぜだかわからないが何かがある。
昨日の話で、ソマリは小僧を絶賛していた。父親としては、他の男が褒められるのを聞くのは耐え難かった。
なので、オレが小僧の実力を見てやろうと思い、オレに向かって武器を使ってみろとけしかけてやった。少し困っている姿はただの子供にしか見えない。
さて、ソマリのいう小僧の凄い所を見せてもらうか――――っ!?
っ速い!
いや、ソマリと同じくらいの速さか。オレがやられるようなスピードではない。オリバーやヨハンの方が速かった。
ただ、思ったより小僧のスピードが速かったため驚いただけだ。
しかし、動きが素人だ。スピードはあるのにもったいない。
…………ぬ? しばらく小僧の攻撃を受けたが……小僧め、本気で打って来ていないな。なめられたものだ。
一旦距離をとった小僧にソマリは応援している。まるでオレが悪者ではないか!
今もソマリが「やっちゃえ!」とか言ってオレより小僧を応援している。
――――気に入らん!
ソマリがうるさいので、条件付きで小僧の旅についていっていいと言うと喜んでいたが、その条件というのはオレに一撃を与えれたらだ。
つまり、旅についていけないと決定しているようなものだ。オレに攻撃を与えれるのはオリバーかヨハンくらいなものだ。
――――む……小僧の目付きが変わった。ようやく本気で来るか。
砂煙をあげ、一気に間合いをつめてきた。速い!
「ぬおっ!」
いままでとは桁違いのスピードに、つい声が漏れてしまったが、ガードは間に合った。しかし、攻撃が重い! この細腕のどこにこんな力が!?
オレが押し返そうとしても、向こうも引く気がないらしい。
その時、ビシッと音と共にオレの大剣が砕け散った。オレは咄嗟に後ろに飛び退こうと思ったが間に合わない。小僧の刀がオレの腹にめり込んだ。
オレはギルドの建物まで飛ばされてしまい、壁に激突した。刃引きしてあるとはいえ、元は殺すための武器だ。ダメージはそれなりにあるが、幸い、向こうの武器も壊れたため、叩き飛ばされる威力は半減したみたいだ。
末恐ろしい小僧だ。
――――気に入った。
この小僧をヨハンに鍛えさせてもう一度遊んでやるとするか。
オレはソマリとの約束通り、小僧の旅についていっていいと言った。だが、ヨハン刀術道場を薦めて、鍛え上がったら再戦すると約束を取り付けた。これでソマリも確実に戻ってくる。
次の日。
支度を終えたソマリと小僧が村から出ていった。小僧は何度も頭を下げていった。
あいつは強くなる。オレやヨハンよりも強くなるかもしれんな…………。
ソマリが居なくなったことで、ギルドの中が辛気臭くなった。
「てめえら、ウジウジしてないで獣でも狩ってこい!」
「そんなこと言ったって、今頃ソマリちゃんと、手を繋いで歩いているかもしれないと思うと……」
「そして、夜はテントで二人一緒に寝るとか……」
「うわあああああああ! ソマリちゃあああん!」
「うるせえっ! てめえら出ていけ!」
被害妄想の激しいバカどもを、ギルドから蹴り飛ばしてやった。
ソマリと離れて十日が経った。
よくよく考えればいつ戻ってくるんだ?
ヨハンがあの小僧を鍛えれば、必ず強くなれるだろう。しかし、その間もソマリは王都に滞在するつもりか?
それから三十日 以上経ち、手紙も送られてこない状況に、様々な憶測が頭の中に浮かび上がる。
このまま帰ってこなかったらどうしよう?
あのハルという少年に騙されているのではないのか?
もしかして……この村に戻ってくる時は、ソマリと小僧の赤ちゃんを抱えて帰ってくるとか!?
そう考えると、居ても立ってもいられない。
オレは最低限やらなければならない仕事を終わらせ、数日の間だけ従業員に任せることにして、オレはギルドを飛び出した。
無駄な荷物は持たないで、携帯食と水と金硬貨を持ち、さっそうと馬で走った。
途中、馬が疲れてしまったようで休憩がてら仮眠をとり、また王都へ走り出した。
――――とうとう王都まで来てしまった。
勢いで来てしまったが、村のギルドは大丈夫だろうか?
ソマリの首根っこを掴み、すぐに連れ帰ればいいか……。
オレが紹介したヨハン刀術道場に行けば、愛娘のソマリがどこに寝泊まりしているか、知ることができるだろう。
まさか、一つ部屋でしかもベッドが一つしかない部屋に泊まっていたりしないだろうな?
もしそうならオレは小僧を殺してしまうかもしれん。
仕事の関係で王都のギルドには来るが、すぐにとんぼ返りするので、王都を眺めたり、ヨハンやオリバーに会いに行く事もなかった。
そのため、こうして王都を歩いているのはめずらしく、なにか自分の村でも参考に出来ることはないかと、そういう目線で見ることができて中々有意義である。
ヨハン道場は昔の場所とたいして変わらない所にあるようだ……が、でかっ!
ヨハンは三剣の名を授かった時に「門下生が増えるだろうから増築しないとなぁ」とか、言っていたが、まさかこんなに大きく綺麗な建物になっているとは……。
あのやろう、門下生からガッポリ硬貨をまきあげていやがるな。
しかし……門の外から中を覗くと門下生達は酒を飲んでいた。こんな乱れた道場になっていたとは思いもよらなかった……。
それはさておき、酒を持っていなさそうな女剣士の門下生を捕まえ、ヨハンを呼んでもらおうとしたが、今日は工房に入っているので話しかけるのは厳禁だそうだ。
ヨハンは刀を造ってるときに邪魔されるのが大嫌いだからな……仕方なく、その門下生に小僧とソマリの事を聞いたところ、宿泊先を知っていると言われた。
だかそれは耳を疑う内容だった。
「ハルちゃんとソマリさんは、王城の客室に滞在しているらしいですよ」
「王城だと!?」
なぜそんな所に……ヨハンがオリバーに口利きでもしたのか? オリバーは騎士団長になっているだろうし、多分今も騎士団長だろう。騎士団長の言葉なら聞き入れるかもしれない。
「いつもなら今頃道場にいるんですが、来てないということは今日はカレン姫のお披露目を観ているんじゃないですかね」
「なに? そうか国王の子は女が産まれたと聞いていたが、もうそんなに大きくなっていたか」
オレはその門下生にお礼を述べ、王城へ向かうことにした。門から離れてすぐ、すれ違いでヨハン刀術道場にアルステム国の紋章の入った馬車がやってきた。
もしかして小僧やソマリかと思い、振り返り様子をみていると、降りてきたのは眼鏡をかけた深緑色のローブを着た細身の男だった。
目的の人物ではなかったことに小さなため息が出たが、気を取り直して王城へ向かった。
城下町は馬で走ってはいけないことになっているためゆっくりしか進めない。
だが、例外はある。
王族、貴族、軍関係の馬車や馬は速度を出してもいいのだ。
しばらく馬に股がってゆっくり進んでいると、先程のアルステムの紋章の付いた馬車が追い抜かしていった。
さっき道場に着いたばかりなのに忙しいこった。
しばらく街並みを眺めながら王城へ向かっていたが、お腹が鳴り出してしまった。
そういえばお腹空いたな……昼飯時ということもあり、周りからはいい匂いがしてくる。
周りを見回すとパン屋に数人の客が並んでいる。店は開いているようだが、なぜ並ぶ必要があるのか?
そして店から出てきた女が看板を立て掛けると「待ってました!」という声を発しながら、並んでいた客が店に入っていった。
看板を見ると
『王族も認めたハンバーガー出来あがりました! 十個のみ! (お一人様一つまで)』
ハンバーガーとはなんだ? 看板には親切にハンバーガーとやらの絵が描いてあるが、見たこともない形だ。パンに何か入っている……いや、挟んであるのか。
しかし、たったの十個しか販売しないとは、少し気になるな……。それに王族も認めただと? そう思っていると心を見透かされたのかパン屋の女が声をかけてきた。
「獣人の旦那。ハンバーガー食べてみないかい? 王族も認めた絶品ハンバーガーだよ!」
「女、それはつまり王族がこれを食べたということか?」
「そうだよ。クロエ姫や騎士団長のオリバー様も大好きさ」
「なに? オリバーも?」
やはり、オリバーは騎士団長をやっているらしい。そしてクロエ姫はカレン姫の妹で、たまにここに護衛を連れ、食べに来るそうだ。
わざわざ、王女やオリバーが食べに来るハンバーガーか……。
「よし、それを二つ頂こう」
「ごめんよ。一人一個までなんだよ。お腹が満たされないなら他のパンを買っておくれ」
「なに? そういえばそのような事が書いてあったな……よし、ハンバーガーと、これを一つくれ」
「ありがとよ」
オレはハンバーガーと他のパンを一つ購入した。
話が膨らみ、結局ラグドール視点は三部になりました。三部目もすぐ更新いたします!




