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第七話 自分の手で

 

 村から西に向かう僕は、目をキラキラさせているソマリと、ソマリのお供二人と話ながら歩いていた。


 お姉さんと呼んでいたが、「ソマリって呼んでください!」と押しきられ、せめて『さん』付けはさせてもらった。呼び捨てなんて落ち着かない。というか、お供の二人が許さないだろう。


「ハル様は凄い力なんですね! ビックリしました!」


 なにか言われる前にギルドから飛び出たけど、帰ったら絡まれない……少し心配だ。でもソマリもいるし平気かな?

 今回は力を隠すことはしない。どうせどこかでボロが出てしまうだろうし……。


「あの……手を離していただけないでしょうか?」


 後ろの二人から凄い殺気と、ギリギリという歯ぎしりが聞こえて……。


「ダメです! 夜ですし迷子になったら大変です! 」


 嫌とかそういうわけではないけど、今まで女性と手を繋いだことがないから恥ずかしいのだ。

 恥ずかしさを紛らわすために、ソマリとは顔を合わせないように僕は話し続けた。



「実は……今まで自分で獣などを殺したことがないので、だから自分の手で倒したいということと、あと硬貨が僅かしかないので少し資金が欲しいと思いまして」


「え!? それでいきなり熊なんですか!? たしかに熊の素材は高く買い取れますけど……」


「気になっていたんですが、村には人族はいないのですか?」


「いることはいるのですが僅かですね。人族の 中には私たち獣人を嫌う者もいますし、またその逆に人族を嫌う獣人族もいます。なので人族は旅の途中で食料補給などで立ち寄る程度なんです」


「そうなんですか……」


 種族の違いでの差別はどこの世界でも同じか……。

 それからしばらく歩くとようやく熊が視界に入った。僕は立ち止まった。


「熊がいました」


 暗いからいつもより発見が遅れたが熊は三頭いる。


「え……と、どこに?」


 ソマリ達にはまだ熊が遠くて見えないようだ。神様のギフトのせいだろう、他者よりかなり遠くまで見えるのだ。


「ここからは僕一人で行きます、皆さんに迷惑はかけられません」


「私も行きますよ! それに武器も持たないで何言ってるんですか!?」


 少し長い短剣を二本取り出すソマリ、断るとまた面倒そうだな。


「ちっ、なに言ってんだか……もともと俺達頼りだろうがよぉ」


 お供の二人は僕が本当に戦うとは思っていなかったようだ。


「では、三頭いるので一頭お願いします」


 僕は返事も聞かずに走り出す。


「ハル様――――は、速い!」


 僕が猛スピードで走って近づいていくと、熊はこちらに気が付いたようだが遅い、僕は手前の一頭を横から殴り付けた。

 殴り飛ばされた熊は、遠くまで転がり続け、ビクンビクンと身体を震わせた。


 次に少し離れた所にいた二頭。一頭はこちらを向き立ち上がった。そしてもう一頭は僕に向かって走り出した。

 僕は向かってきた熊に対し、僕も正面へ走り出す。

 ありえないスピードで、距離を詰められた熊は反応が間に合わなく、僕の拳が熊の顔に突き刺さる。肉と骨に拳がめり込む感触のあと、熊は木々に向かって飛んでいった。



 追い付いてきたソマリが最後の熊に向かって剣で切り刻み始めた。熊が反撃する、しかし熊の一振りを避けると、ソマリは三回斬りつけて距離をとった。

 ソマリを女性と侮ると痛い目にあいそうだ……。


 僕は最初に吹き飛ばした熊の前に立った、口から泡のような唾液を出し、痙攣している熊を前に僕は拳を握りしめる。


 ……手が震えているのがわかる。


 ソマリとその付き人が少し離れた所から僕を見守っている。どうやらソマリの方も片付いたようだ。


 僕は自分に『殺れ』と奮い立たせる。


 そして、臆病な気持ちを振り払うように、僕は熊の側頭部に拳を叩きつけた。


 血や肉片などが飛び散り嫌な臭い漂わせる。


「はぁ……はぁ……。うっ……」


 ……気持ち悪い……。貧血を起こした僕は、膝を地面につき、そのまま前のめりに倒れてしまった。






 ――――――ん?


 目を覚ました僕の視界には、肩まであるオレンジ色の髪を、左右にピョンピョン羽散らかし、優しい目で僕を見下ろすソマリの顔が目に入った。

 周りをみると付き人が周りを警戒しつつも、こちらを羨ましそうに見ている。


「ハル様大丈夫ですか?」


「――――あ、ごめんなさい……」


「なんで謝るんですか?」


「僕……一人でやると言っておいてこの様です……」


 僕はまだハッキリしない意識のため、膝枕されたまま目を閉じた。ソマリはギルド職員の制服のままだった。

 制服が短パンのため生肌の太ももが温かい……獣人といっても見た目は頭に耳があり、尻尾があるだけで他は人族と変わらないのかもしれない。しかし、女性の膝枕っていいな……。



「ハル様、私はとんでもない失敗を犯しました」


 え? どんな失敗したというのだろうか?


「せっかくハル様といい雰囲気になれたのに、余計な二人を連れてきてしまったことです」


 ――っ! 僕は慌てて起き上がる。


「あ、あの! 皆さん、迷惑お掛けしました!」


 僕はお供の二人に対してペコリと頭を下げる。


「ドウイタシマシテッ!」


 泣きながら怒るお供の二人が怖いです。


「で、では! 帰りましょう! 素材のお金は四等分でよろしいですか?」


 そう言うと、お供の二人は驚いていた。


「俺らなにもしていないけどそんなに貰っていいのか?」


「そんなことないです、僕が気を失っていたときに見張っていてくれてたじゃないですか、それに僕一人では何頭も持てないですし……お二人で一頭持ってくださいね」


 そう言って僕は頭のない一頭をひょいと持ち上げる。


「「アハハハハ……」」


 お供の二人がひきつった笑いになってる。


「こんなことなら、この依頼受けて来れば良かったな……」


 付き人の一人がため息を漏らした。僕の代わりにこの人たちが依頼を受けていれば報償金とポイントが手に入ったのだ。しかし、僕みたいな子供と一緒に行って、依頼クリア出来ると思っていなかったので受けていなかったみたいだ。


「だなぁ……しっかし、まさか武器も持たないこんな子供が……」


「熊を瞬殺とか……普通じゃないよな……」


 僕をジト目するお供の二人。


「ハル様はすごいですね! 可愛くて、強くて、謙虚で、可愛くて!」


 可愛いを二回言ってるっ!


 ソマリの倒した熊はズタズタに切り刻まれていて、素材として良くなかったため置いていくことにした。どうせこれ以上持てないけど……。


 こうして僕達は村に戻っていった。




 村に戻ったら酒場のみんなが集まってきた。


「うおっ! 小僧が熊を担いできたぞー!」

「小僧、血だらけじゃねーか」

「熊を一人で持ってやがる!」


 お供の二人に詳細を求めるため何人かが詰め寄っていく。


「いやぁ、俺ら直接見てないんだよ……。小僧が先に走っていって追い付いた時には、すでに二頭倒していてな」


「「「「はあ!?」」」」


「って、言うか獣人が人族に置いてかれるってどうなんだ?」


「あのなぁ、ソマリちゃんでも追い付けなかったんだぞ! 俺達が追い付けるわけないだろ!」


「「「「まじかっ!」」」」



 素材のお金をもらい、疲れたので寝るだけの宿を紹介してもらい、明かりを点けることなくベットに倒れるように身を投げた。


 今日は色々ありすぎた……。


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