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第六十二話 禁忌魔法

 

「もう一杯くらはいっ!」


 大声でおかわりを要求するソマリ。側にいるメイドは少し困った顔になっていた。

 酔ったソマリを制御するのは大変だ。もう絶対飲ませないようにしようと心に誓った。


 突然ざわつきだした観覧席。慌ただしくバルコニー周りに集まる兵士達。何かあったのだろうか?


「おい、あれ……」

 ラルクの目線の先には、国王やカレン姫がいる、三階部に位置するバルコニーの手すりの上に、デモン・スティーンが立っていた。


 何かの演出かと思ったが、オリバー騎士団長が殺気だっていて、とても御披露目の穏やかな雰囲気ではなかった。


 地上にいるバルコニー下の兵士達は、デモン総司令が落ちないか心配しているようで、落ちても受け止められるように大きな敷物を持ってきたり右往左往している。


「僕も行ってきます! ソマリさんをお願いします!」


「ハル、俺もいくぞ」

「おいらも!」


 僕に続いてラルク、コングも立ち上がった。

 机に伏せているソマリは、シルビアに任せることにして、僕達はバルコニー下へ走っていく。

 直後、デモンは観衆の方を向き、手すりから一歩踏み出した。


 誰もが『落ちる!』と息を飲んだ。


 だが、落ちることはなかった。落ちるどころか宙を一歩、また一歩と、ゆっくり歩いていた。


 観衆は先程までと違ったざわめきをみせていた。


 僕についてきたラルクやコングも唖然としていた。勿論、僕も驚いたが、何が起こっているかすぐに理解できた。

 身体にうっすらと魔力を(まと)っているのが見える。


 デモン・スティーンは、そのままゆっくりと宙を歩き続けた。


「デモン!」

 手すりから身体を乗り出すように叫ぶオリバー騎士団長の姿があった。


「お前の魔法技術に関しては認めるが、今はカレン様の成人祭の最中だぞ!」

 オリバー騎士団長の声に、歩みを止めるデモン。


 たしかに今はカレン姫が主役だ。花火等ならいいが、他の人物が目立つのはさけるべきだとおもう。


 しかし、デモンの答えは周りに混乱を与えるものだった。

「成人祭? マクラムが攻めてきているのに呑気じゃな」


 マクラム国が攻めてきている。

 これを言ったのが一般民や兵士なら揉み消せたかもしれないが、アルステム国の王宮魔法使い総司令である、デモン・スティーンの言葉となれば、疑う余地はなかった。


「お父様、オリバー、本当ですか?」

 デモンが言ったことなら間違いないのだろうが、今のデモンの行動が普通ではないことから、真相を確かめようとするカレン姫。


 国王ディスパーは「やむえん」と呟き、バルコニーから堂々たる姿で叫んだ。


「静まれええっ!!」

 覇気ある大きな声は、動揺する民衆をしずませることに成功し、騒いでいた民衆は、徐々に耳を傾けはじめた。


「たしかにマクラムは攻めてきている! しかし! まだマクラムは遠い地にいる! 開戦まではまだ日数はある。慌てる必要などない! そして、我が国には屈強なる兵士、騎士、魔法使い、そして最強の三剣がいる! それにアルステム国最強の魔法使いデモン・スティーンは、このように見たことがないような高位な魔法も操ることができる! アルステムが負ける筈がない!」


 遠くまで届く国王の声は、デモンが広げた動揺を押さえつけた。

 それでも、小さなざわめきは残るが、大きな混乱になることはなさそうだ。周りの騎士や兵士達も周りの混乱を静める努力をしている。


「あの禁忌を使うマクラムが攻めてきているのか……」

 ラルクさんの言葉に僕が振り替えると、不安そうな顔の二人がいた。


「戦争なんておいら初めてです……」


「俺だって戦争なんて経験はないさ。昔のアルステムとマクラムの戦いの時は、ここから遠い故郷にいたし、まだ子供だったからな」


「ラルクさんの生まれは、王都でもサイゼンの街でもなかったんですね」


 そういえばラルクの幼少の話は初めてだった。しかし、今はゆっくり聞いているような場合じゃなさそうだ。


「ああ……しかし、最悪この王都までマクラムが押し寄せてきたら、この街も戦場になるかもしれない。そうなる前にシルビアだけでも別の街に避難させないとな……」


「ラルクさんは一緒に避難しないんですか?」


「俺は、サイゼンや王都が好きだ。それに、戦いから逃げる俺なんてかっこよくないだろ?」


 ニカッと決め顔をするラルクは、僕を助けてくれた時のような頼れる男の顔だった。

 僕はそんなラルクが大好きだ。


「おいらだって戦う!」

 少し声を震わせながら見栄をはるコング。


「コングにはシルビアに付き添ってやってほしいんだが……」


「なにいってるんですか!? おいらはどこまでも師匠についていきます!」

 コングの熱意にラルクはため息を吐いた。頭をボリボリとかきむしり「勝手にしろ」と言ったラルクの顔は少し照れているようだった。


「あの、僕がシルビアさんの側にいましょうか?」

 僕の提案にラルクの顔はとても明るいものになった。


「いいのか? ハルが守ってくれるなら安心だが……」


「はい。僕には戦場での殺し合いというのは無理かもしれません……でも、シルビアさんを守るということなら必ずやり遂げてみせます!」


 僕の背中を軽く叩き、「頼む」とだけいって、バルコニーの方に顔を向けた。



 宙に浮かんだままのデモン。身体に(まと)っている魔力量からみて、それほどの魔力を使っているようには見えない。

 つまり、少ない魔力だけで浮いてみせているのだろう。


 白く美しいローブに金色の柄の刺繍が施されていて、それが太陽に照らされて、神秘的に見えた。


 注目を浴びているデモンは体の正面に杖を構えた。

「お前達はなにも怖がることはない。なぜなら、痛みや恐怖など感じることなど失くなるからじゃ」


 デモンの発言に、何をするのか察しがついた国王が、バルコニーから激昂する。

「デモンやめろ! それを使うのは今ではない! 話が違うではないか!」


「国王、今まで禁忌魔法を研究させていただき、感謝しております」


 その言葉にオリバー騎士団長は国王を睨んだ。

「国王! どういうことですか!?」


「こ、これには訳があるんだ! マクラムが禁忌を使い、こちらが危なくなったときの緊急策として、こちらも禁忌を使って対抗するという話だったのだ!」


「それでも! …………それでも禁忌には手を出すべきではないと――――くっ! 弓兵、魔法兵! すぐにデモンを殺せ!」


 オリバー騎士団長の指示で、素早く動く騎士団達。しかし、王宮魔法使い達は自分の上官が禁忌を犯していたことに動揺していて動けなかった。


 弓が放たれ、デモンに無数の矢が飛んでいった。

 しかし、デモンが手を横に振ると、デモンの周りに薄い障壁みたいなものが現れ、矢は全て弾き飛ばされてしまった。


 防御魔法……そんなことまでできるのか……。

 しかも、宙に浮いたままということは、二つの魔法を同時に発動させたということになる。

 アルステム国の王宮魔法使い総司令の実力は確かなものだった。

 三人のやり取りを見守る中、僕が今まで見た魔法など、かわいいものだったのだと実感していた。

 デモンという人物は、長い年月をかけ魔法を研究し、努力をして会得したのだろう。


 デモンは、地上にいる人に視線を向けた。


「さぁ、お前達。マクラムの禁忌魔兵として暴れるのじゃ」

 それを聞いた僕は背筋が冷える思いがした。

 まさか、ここにいる人達に禁忌魔法をかけるのか!? そして僕も、禁忌魔兵というものになってしまう!?


 民間人達は我先にと悲鳴をあげながら逃げ出し、大混乱が起きた。


 デモンは『マクラムの禁忌魔兵として』と言った。

 つまり、この騒動はデモや反乱ではなく、元々デモンはマクラム側の人間だったということになる。


 デモンは膨大な魔力を練りだした。ものすごい量の魔力がデモンの周りに渦巻き出す。

 そして黒紫色のまるで人の顔のような、そんな不気味な形をした魔力の塊が、デモンの杖から次々へと民間人、貴族、兵士、様々な人へと向かっていった。


 人の顔をした魔力の塊が人々の口のなかに入っていく。

 それを見た人達は口を塞ぐが、そんなことは意味がないようだ。塞いだ口の隙間や、耳から入っていき、もがき苦しみだした。


 …………こんな光景みたことがない。まるで、これが地獄といわれれば、納得してしまうような光景だった。


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