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第五話 守れる力

 

 あと二日でコングが成人になる日だ。その日すぐに鉄ランク試験を受けるとの事だ。

 成人のプレゼントは決まっているがあと少し足りない……。


 今日、コングはルリと一緒に孤児院の方の仕事にいっているため、ギルド依頼は行けないようだ。



 僕は一人でギルド依頼の素材採取を受けようと酒場に行くと、そこにはラルクとシルビアがいた。


「よお、ハルが一人でいるなんて珍しいな」


「おはようございます! コング君がもうすぐ成人になって、鉄ランクに上がれると思うので、お祝いに剣をプレゼントしようと思っているのですが、あと少し足りなかったものでお二人の銀依頼に同行させてもらえて嬉しいです!」


「あら~ハルちゃんいい子ねえ。誰かさんも私に何かくれないかしら?」


 シルビアがニヤニヤしながらラルクの顔を覗きこむと、ラルクは慌てて話題をそらした。


「ま、あ、あれだ! ハルは俺らの荷物も持ってくれるから助かるしな!」


 話をそらされたため、膨れっ面になったシルビアは、ラルクの足を思いっきり踏みつけた。ラルクは奇声をあげ、足を押さえながら痛みを堪えているようだ。


 本当この二人は仲がいい。僕もコングとこれくらい仲が良くなれるといいな。


 しかし最近のコングは、試験が近いからか少しピリピリしている気がする。

 日本でも試験前とかみんなピリピリしていたし、そんなものなのかもしれない……。





 次の日の試験前日、僕、コング、ラルク、シルビアの四人でギルド依頼を受けた。今日はラルク達の鉄ランク依頼に同行させてもらった。


 狼の群れが頻繁に、近隣の小さな村に危害を加えているということだ。

 こういう依頼はどれだけの規模の敵がいるか分からないため複数パーティーが受けることも可能だし、また討伐数によって報酬額が変動するというものだ。


 狼の群れが出るという村の付近に僕らはやって来た。見渡してみると他の冒険者達も来ているみたいだ。ラルクが振り返り、僕達と目を合わせる。


「俺達のパーティーはコングが鉄ランク試験に合格するまでという約束だった。そしてコングの今の剣技なら試験は余裕だろう。つまり今日がこのパーティーの最後のギルド依頼だ」


 僕とコングは黙ってうなずく。


「コングは本当に剣が上手くなった。今日の狩りで期待しているぞ」


「はい! まかせてください!」


 コングは元気よく返事した。少し重くて、使い古した鉄の剣を強く握りしめた。


「ハルは敵の数が多いときは、コングの後ろに敵が行かないように立ち回ってくれ。敵の数が少ないならコングと正面に立ち、敵の隙を作ってくれ」


「はいっ!」


 ズシリとした重い鉄の盾を、持ち上げ返事をした。


 しばらくすると右前方にいた冒険者達が声をあげた。


「「いたぞ!!」」


 僕達に緊張が走る。


 ん? 僕は()()()に目を向けた。


「五……いや、六……左側面からも六匹来ます!」


「なに!? 俺とコングは前へ行く! シルビアは狼の動きを見ながら後方から魔法! ハルは後ろと横を警戒しつつコングの後ろ守れ!」


 しばらくして三人にも狼の群れが見え始めた。


「シルビア射程に入ったら前方に炎壁だ!」


 魔力を練り始めたシルビアは、身体に赤い魔力を纏い杖に魔力を込め、杖が赤く光り出す。そして狼が射程に入った。


「フレイムバースト!!」


 狼の下から幾つもの炎が吹き上がり、二匹を巻き込んだ。巻き込まれた狼は炎に包まれて(もだ)え苦しんでいる。


 他の二匹は炎を飛び越えシルビアに襲いかかるが、僕は重い盾を持っているとは思えないようなスピードで、その二匹を盾で左右に弾き飛ばした。

 一匹はふらついているところをシルビアが杖で狼の頭を殴り殺し。

 もう一匹はコングの後方に着地したため、僕はすぐにコングの後ろに付いた。


 コングはハルの一連の動きを見て驚いていた。

(なんでハルはこんな動きができるんだ! ラルクさんとの稽古だってほとんど見ているだけなのに! 今だって盾じゃなく剣だったら二匹とも倒せているじゃないか!)


 ハルに意識が向いていたコングは正面から来た狼への反応が遅れ、左腕を噛まれてしまう。


「ぐわああ!」


 深く食い込んだ狼の歯は振りほどけず、コングは右手の鉄の剣で狼を突き刺した。残りの一匹はラルクがすでに倒していた。


「コング君!」


 僕は鞄から消毒薬と包帯を取り出した。この世界には治療魔法は存在するが皮膚や肉が再生するような高度な魔法ではない。

 せいぜい傷口を浄化し、止血するようなものだ。しかし、それだけでもすごいことだろう。


 ラルクが手早く討伐証拠の尻尾を切り落とし、すぐに街に戻った僕達は診療所に向かい、傷口の浄化のため治療魔法をやってもらった。


 コングの怪我は、二週間程度は痛みが残るとの事だ。


 日も落ちかけて空や白い家をオレンジ色に染めあげていた。


 僕とコングはゆっくりとした足取りで、孤児院へと歩き出した。



「コング君、明日の試験どうするの?」


「…………」


 返事はなく、しばらく沈黙が続いた。


 その沈黙を破り、口を開いたコング。


「ハルは……何で剣で獣を殺せないんだ?」


「気分が悪くなるというか、剣で刺したり斬ったりする行為に躊躇(ちゅうちょ)しちゃって……」


「ハルは力があるから大剣を使えば熊とだって戦えるかもしれない。それに魔法も使えて、算学もできる。依頼報酬は半分自分の物だが、おいらは剣や弓の整備でほとんど貯められない。

 それに比べてお前は盾だけだ。しかも鉄の塊だから整備もいらない。

 いいよな……敵を殺させるのは他人に任せて、自分は盾で守っているだけだから!」


 段々強い口調になっていく、コングは今まで見たことがないくらい怒っていた。



「獣を殺すのが怖い? ルイでも殺せるぞ! ()らなきゃ殺られる場面で、手を抜いているから、こういう結果になるんだ! この怪我はお前のせいだ! そんな奴とおいらはパーティーなんか組めない、お前の顔なんかみたくないんだよ!」


 僕に背を向け歩いていくコングに、なにも言えなかった。



 涙が溢れ出てきた。怒鳴られたからじゃない。僕のせいだ。わかっていたんだ。


 シルビアに向かってきた狼を盾で弾くのではなく、斬っていればこんなことにならなかったのかもしれないと。

 自分の力を全部さらけ出したら、受け入れてもらえないかも知れないから、力を隠していたこと。


 自分は盾で敵を弾いたりするだけだった。

 それでもコングの後ろや横をカバーできるから助けになるだろうけど、殺せる所で殺さないということは、その分コングが危険になるのだ。

 殺すのは三人に任せてしまっていた。


 甘えていた……守れる力があるのに守ってもらっていた。





 僕は街を飛び出し、ひたすら走っていた。僕は本気で走った。なにも考えないで倒れるまで走ろうとしたが一時間位走っても全然疲れない。


 風を切り裂き、凄いスピードで通りすぎていく木々、狼よりも速いスピードで走っている。



 どれくらい経ったのだろうか、ようやく疲れて倒れこんだ。

 僕はもう街には戻れない、合わせる顔がない、面を向かって「お前の顔は見たくない」とまで言われてしまった。


 僕は決意する。


 強くなりたい。


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