第二十二話 仲直り
「ハル君の知り合いかい?」
オリバー騎士団長が、背中に張り付いている僕を脇の下から覗いている。
「えーと……はい……」
なんとも歯切れの悪い僕の返事に、不思議に思う面々。
コングにお前の顔なんてみたくないと言われたし、黙って出てきてしまったこともあり、顔を会わせにくい。
勢いで隠れてしまったが、この状況をどうしたものかと思っていると、コングがオリバー騎士団長越しに話しかけてきた。
「ハル……。あのときは、おいらが言い過ぎた……ごめんな」
びっくりだった。悪いのは僕だと思っていたのに、コングが謝ってくるなんて。
「コ、コング君は悪くないです! 僕が甘えていたんです。その……ごめんなさい……」
「「…………」」
しばらく沈黙が走り、ギルド内のにぎやかな声だけが聞こえる。そんな沈黙を破ったのは頼りになるラルクであった。
「よしっ! もう大丈夫だな!」
コングの肩に手を置くラルク。
ひとまず席について話そうということになり、リアムが来たときにわかりやすいように、扉に近い席に座っておく。
木製の長方形のテーブルを、二つ繋ぎ合わせて、対面にはコング、ラルク、シルビア。
こちら側にはオリバー騎士団長、僕、モモ、ソマリが座った。当然のように僕の左右にはソマリとモモが座っている。
まず最初に口を開いたのはコングだった。
「その、おいらのせい……か、わからないが、ハルがおかしくなった……ような事を聞いて……」
「えっ?」
誰がなんだって? おなしくなったってひどい言われようだ。どこの誰に聞いたらそのような情報が入ってくるのだろうか?
「獣人の村ドベイルの冒険ギルドで、冒険者の手を机に叩きつけたとか……本当か?」
「あぁ……本当です」
腕相撲で力加減を間違えたけど……。
「熊を素手で殴り倒したとか……」
「……倒しました」
「獣人の村のギルドマスターの腹に剣を叩きつけたとか――」
「……叩きつけました」
「ギルドマスターの娘をたぶらかし、連れ去ったと……」
「それは絶対違います」
どうして、たぶらかしたことになっているのやら……これはソマリのファンの獣人にでも聞いたのかも。
「でも、今の状況……しかも一人増えていないか?」
あっ、モモとソマリが両腕にしがみついている。これじゃあ、たぶらかしてないって言っても説得力ゼロだった。というか、いつの間に二人とも腕にしがみついていたんだっ!?
しかし、それについてはソマリも異議ありのようだ。
「誰からの情報から知りませんが、誤解のないように詳しくお話しいたします」
みんなの視線がソマリに集まる。
「私はたぶらかされたわけじゃなく、私がハル様の可愛さの虜になって、その後ハル様も私の虜ぃいもごぉぉ!」
ソマリの口を塞いで、首根っこを掴み、ギルド入り口まで引きずっていき、ソマリを外に放り投げてきた。
これ以上ペラペラ話されたら、僕が恥ずかしくて悶え死にそうだ。そもそも僕がソマリを好きかどうかなんてよくわからない。可愛いとか美人だなとは思うけど……。
「二人がイチャイチャしているということはよくわかった。ハルもいつの間にか大人になったんだな」
「ラルクさん誤解ですって! イチャイチャしてません!」
僕は獣人の村ドベイルに着いてから、村を出るまでの出来事を誤解のないように説明をした。
「――――つまり、ギルドマスターの知り合いに武器を造ってもらい、腕も磨いてもらえと」
なんとか僕の誤解を解きつつ、これまでのいきさつの説明が終わった。
「ラルク様、シルビア様、コング様。私の事は、『可愛いソマリちゃん』って呼んでもらっていいですよ」
ソマリは何言ってるの?
ラルクはソマリの受付嬢スマイルと、「様」付けされたことで頬が赤くなり照れているようだ。
ボスッ! っと、重い音と共に机にひれ伏すラルク。
…………うん。こうなるってわかっていました。
シルビアに横っ腹を殴られたようだ。シルビアは「ふんっ、しらない!」と不機嫌そうにラルクとは反対方向を向いた。
この二人のやり取りを、久しぶりにみた僕は嬉しかった。
オホンっと咳払いをして、僕の話の続きを語りだしたオリバー騎士団長。
「そしてサイゼンから王都に帰る私達が、野盗に襲われていた所を、援護してくれたのがドベイルから王都に向かうハル君達だったんだよ」
「でも今思えば、援護なんて必要ないくらい騎士の皆さん強いですよね……」
「たしかに賊なんてやっている連中は、鍛練などしないからたいして驚異ではないがな。それでも誰もが無傷ってことはないだろうし、万が一ということもある」
そんな会話の中、周りに聞こえない程度の小さな声でボソボソと話すラルク達三人。
「姫様の護衛するくらいだから、かなり偉い人じゃないのかしら? それに姫様とか護衛の人にハルちゃんの力がばれちゃってるじゃないの?」
「このままじゃハルが目をつけられるのも時間の問題じゃないか?」
そんな三人は決定的な話聞かされる。
「あの時のハル君はすごかったぞー。ハル君一人に四人の野盗が襲いかかってきたが、あっという間に倒してしまったからな」
もう手遅れだったー……。と、頭を抱えるラルクとシルビアとコング。そんな気苦労をしているなんて今の僕は気が付かなかった。
「まあ……ハルが一皮むけたら絶対強くなるってわかってたよ」
「コング君……。僕……もう甘えたこと言わないよ。今、刀術習ってて毎日頑張ってるんだ。強くなるから、そしたら一緒に旅をしようね」
「「え?」」
「えっ!?」
ラルクとシルビアが驚きの反応をみせた。それとは別でソマリも驚いてる。うん、ソマリはだいたいわかる。しかしなにか変なこと言ったかな……。
「ハル様ぁぁ……私と二人きりの旅はもうおしまいですかあぁぁぁ」
…………ソマリはそんなことだろうと思ってた。
ガックリ肩を落とすソマリとは対称的に、初めて口を開いたモモ。
「みんな……楽しいよね。みんなが……いいね」
「う……そ、そうだね……」
『みんな』の中に、モモも入ってるかのような言い方で、僕の袖を引っ張るモモ。
し、しまったー!
ソマリとの話が終わるとラルクが話しかけてきた。
「ハル、お前が言ってる武器を造ってもらうって、刀だったのか?」
「はい、それがなにか?」
「もしかして……三剣のヨハンに造ってもらうのか?」
「本人が造るかわかりませんが……ヨハンさんにはお願いしてあります」
「まじかよ……もしヨハン自身がハル専用を造るなら、大金貨二十枚でも足りないかもしれないな」
「「ええええええ!」」
僕とコングが飛び跳ねた。だ、代金は無料だった……よね……? あれ? 心配になってきた。
ヨハン以外の人が造った刀でも大金貨二枚はするという。
「あの人そんなにすごい人だったんですか! 今度私の短剣も造ってもらえるように頼んでみます!」
「「「…………」」」
ソマリって、度胸があるというか、命知らずというか、図太い神経というか……。
ラルクは僕にもうひとつ聞きたいことがあるみたいだ。
「もしかして腕を磨いてもらってるのも――」
「ヨハンさん……です」
「まじかぁ……ヨハン刀術か……」
ラルクとシルビアの二人は羨ましいというより、恐れ多いといった感じのようだ。
「おまえ……授業料はどうしてるんだ?」
「え……そのことについてはなにもラグドールさんからは聞いていないですけど。ソマリさんなにか聞いてますか?」
ソマリに聞いてみたが頭をコテンと横に倒し、『さぁ?』といった様子だ。
「あの、オリバー騎士団長。手紙には授業料の事を何か書いてありましたか?」
「「オリバー騎士団長!?」」
ラルクとシルビアが、目の前にいる人がオリバー騎士団長だとわかると、ビックリした様子で椅子から立ち上がった。
「あ、そういえばまだ紹介していなかったですね。こちらアルステム騎士団長のオリバーさんです」
僕は今さらだけど紹介しておいた。
「はじめまして! 私はラルクといいます! いままでの失礼お許しください!」
「シルビアです。先程からは見苦しいところをお見せしてしまっていて失礼しました」
そ、そんなに畏まるものなの?
「オホンっ。ハル君から紹介してもらったが、アルステムの騎士団長を務めるオリバーだ。今日は休暇日のためハル君に同行しているということだ」
「ラルクさんがあんなにペコペコしている。王都の騎士団長ってそんなにすごいんだ……」
コングなんて半分気絶しているようだ。
「コング、お前でもアルステムの三剣ってわかるよな?」
「勿論です! 紙芝居などで何度も観てました。禁忌を使われた戦争で不利な状況から圧倒的強さの三人が押し返し、アルステムに勝利を導いた三人の英雄ですよね」
漫画などがないこの世界では、英雄物語などネタとしては最高なのである。
ましてや国を勝利に導いたのだから、多少尾ひれがつき、物語を盛り上げることもあるが、まぁ事実すごい人達なのだから、多少尾ひれがつこうが関係ないだろう。
そして書籍は勿論、紙芝居、劇なども開かれているくらいだ。
歴史に名前を刻んだ人物が、目の前にいるという事実にコングは緊張しているようだ。どのように接していいかわからないらしい。
「オリバー騎士団長ってすごい人なんですね……」
騎士団長がものすごい尊敬されていることしると、なぜか誇らしかった。そんな人と普通に接する機会が多かったから麻痺していのかも?
「私からしたら、その歳でヨハンとやりあえるハル君の方がよほどバケモノだがね」
いやいや、まだ勝ててないしヨハンが本気なのかさえわからないので、やりあえているのかどうか……。
「おまえヨハンさんと戦ったことあるのか?」
「道場での相手はいつもヨハンさんなんです。だから、気が抜けなくてすごく疲れますよ……」
「まじかよ……」
ラルクさんが驚きの声を漏らす。
「ラルクさん、ヨハンさんってやっぱり三剣のヨハンさんのことですよね?」
三剣のヨハンという名前は、やはりコングも知っているようだ。
「ああ、ヨハン刀術って言えば王都の剣術でもかなりハイレベルだぞ。指導料もハイレベルだがな……」
「はわわわ……、そんなところで、しかも三剣直々に稽古をつけてもらってるなんて。羨ましすぎるぞハル!」
羨ましがるのは指導料免除ってわかってからにしてほしい。指導料のことで内心ビクビクしているんだから……。
「ヨハン刀術に入門しても、ほんの一握りの門下生しか直接手合わせはしてもらえなくて、それも少しだけだという話だぞ。いくら金貨を積んだところで戦ってもらえるものでもないらしいぞ」
…………たしかにヨハンは金より、戦いの相手が居れば満足って感じだもんね。
この世界は娯楽が少ないせいか、自分を鍛えてきた人はやたらと戦うのが好きみたいだし……。
「ハルはいいなぁ、俺も三剣と戦ってみたいよ……」
ラルクはオリバー騎士団長をわざとらしく何度もチラ見する。あざとい! 「オリバー騎士団長、俺の相手をしてください」と言っているようなものだ。
「なるほど、ラルク君は私とやってみたいのかね。今からハルくん達と一泊で討伐依頼に行くから、よければ一緒にくるといい。その時に少しでよければ相手になろう」
「うおおおおおおっしゃっ!」
握り拳を突き出し、ガッツポーズするラルク。
自分が、どのくらい王都の騎士団トップに通用するのか、試してみたいのであろう。そんなラルクを羨ましそうにみているコングだった。




