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第二話 冒険者ギルド

 

 コングに連れられて冒険者ギルドにやってきた。三階建てでそれなりに規模の大きい感じだ。コングがいてくれなかったらとても一人では入れない。


 扉を開けて中に入ると横長のカウンターがあり、衝立(ついたて)で仕切られている。


 番号札を取り、呼ばれたら窓口に行き、素材の買い取り、依頼の発注、依頼の受注をするようだ。



 僕達が依頼ボードに向かって歩いていくと、酒の入った樽ジョッキを持った、一人の冒険者が声をかけてきた。

 顔は赤くなっている。どうやら酒を飲んで出来上がっているようだ。


「なんだあ、ここは乞食が出入りするのかぁ?」


 たしかに僕の身なりはお世辞にも綺麗とは言えない。少し汚れた服にバサついた髪の毛。そんな僕を見て酔っぱらいは不機嫌になった。

 この酔っぱらい冒険者の言いがかりが学校での苛めを思い出し、酒を持って酔っぱらっている姿が父と重なる。

 この身体が弱っているせいか、二つの思い出が僕の腹の底からくるモノを出してしまった。


「うわっ! こいつ俺の足にかけやがった!」


 横を向いて出したため直接かかってないはずだが、半分言いがかりのように、僕の横っ腹に向けて蹴りをしてきた。


 蹴られた衝撃が僕を襲う――――あれ? 痛みを覚悟するが痛みが来ない。

 いや、蹴られているがそれほど痛くない? なぜか優しく蹴ってくれているようだ。意味がわからないけど、丸くなってうずくまっていると、コングが僕を庇いながら謝りだした。


「すみません! すみません! 許してやってください!」


 顔を蹴られたコングは、鼻血を出したまま謝り続けていた。


 僕の失敗を自分の事のように謝るコングに衝撃を受けた。前世では庇ってくれる人も話しかけてくれる人もいなかったのに……これ以上コングが蹴られるのは嫌だ!


 そう思うと体が熱くなってきた。

 コングを蹴る冒険者を突き離そうと僕は慌てて冒険者をドンッと押した。


 ――――ドガンッ! 


 八メートルほど離れた壁まで吹き飛んだ酔っぱらい冒険者。



「「「「「えっ!?」」」」」


 えっ……?

 酒場に居た冒険者や職員は勿論、僕ですら何が起きたかわからない。

 酒場に居合わせている第三者は、壁に衝突した痛みで(うな)っている冒険者と、ポカンとしている僕を交互に見ている。

 どどどどどうしよう! なにかとんでもないことをしてしまった!


 挙動不審な僕に、金髪に銀色の胸当てと剣を腰に下げた、剣士であろう冒険者が話しかけてきた。


「そこの君、いま風魔法でも使ったのかい?」


「その年であれだけの風魔法は考えられないけど……王宮魔法使いの弟子とか……それにしては服装が……」


 今度は、少し肩が出ているセクシーな黒と青のローブを着た女性が話しかけてくる。


 違う! そんな魔法何て知らない! そもそもこの世界に魔法があるということを今知ったのだ。

 しかし今はそれどころではない。突き飛ばした冒険者が腰の剣を抜いた。


 ――――ヤバイヤバイヤバイ!


 剣を右手に持ち、真っ赤な顔でズカズカと歩み寄ってくる。


「ごごめ、ごめんなさい!」


 震える身体、恐怖のあまり頭が真っ白になり、どうすればいいのかわからなくなる。とにかく謝るしかない。


「まて!」


 酔っぱらい冒険者の前に剣を抜き、立ちはだかったのはさきほど声をかけてきた剣士さん。


「部外者は下がってろ!」


「たしかに部外者だが、目の前で子供が斬られるのを黙って見ていられないだろ」


 なにこの人カッコイイ。惚れてしまいそうだ。


「一部始終を見ていたが、このギルドに孤児院の子供が出入りしているのは普通のことだ。それを乞食と(ののし)ったのは君だったはずだが?」


「このクソガキが俺の靴に汚物をかけやがったんだ!」


 少し屈み気味に、酔っぱらいの靴やを覗く剣士さん。


「付いてなさそうだが……それよりも、そんな気にするほど綺麗でもない靴だと思うんだが?」


 真っ赤な顔の酔っぱらい冒険者はぐぬぬぬぬぬっと、息んでいる。


「ちっ! しらけたぜ!」


 酔っぱらい冒険者は捨て台詞を吐いて、冒険者ギルドから出ていった。




 はあああああああ! 怖かったああああ!


 ――――あっ! コング!


「コング君大丈夫!? 僕のせいでごめんね!」


「ハルは大丈夫か? 身体を何度も蹴られていたようだが……」


「うん、なんかやさしく蹴ってくれたみたいで……」


((((うそだー! そんなわけあるかー!))))


 周りの人は全員、心の中でツッコミをいれた。きっと心配かけないように、痛いのを我慢しているんだと、周りで見ていた人はそう思っていた。



 僕は、酒場にいる冒険者達と職員の皆さんに謝り、助けてくれた剣士さんにもお礼を言った。



 それから、僕とコング、そして助けてくれたカッコいい剣士さんと、美人な魔法使い風のお姉さんと、同じテーブルに座っている。


「「ありがとうございました!」」


 あれ以上の騒ぎにならなかったのは、このカッコイイ剣士さんのおかげだ。


「俺は剣士のラルクだ。ギルドランクは銀だ」


「私はシルビアよ。よろしくね」


「おいらはコング! まだ十四歳のため銅ですが、十五歳になったら試験を受けて、鉄ランクになってみせます。そして貴方のような剣士になりたいです!」


 どうやらコングも惚れちゃったようだ。


「僕はハルです」


「君……男だよな?」


「え? 女の子に見えます?」


「う~ん……どちらにも見えるかな」


 いやいや、この不細工な顔で、前世ではいじめら……あれ? 今の顔って前世と関係ないのか? そういえば昨日、目覚めてから今まで顔見てないぞ!


「鏡あります!?」


「手洗いに身だしなみ用のはあったはずだが……」


 僕は手洗いで自分の顔を見てビックリした。今まで見ていた自分の顔とは桁違いに整った顔だった。黒髪の黒目で、男前の顔ではなく中性的な顔立ちだ。


 ハッ! 浮かれている場合ではない、僕のせいで三人に迷惑を掛けたのだ。すぐに戻らないと!


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