最終話 二人の願い
一万文字近くあるため、ゆっくり読めるときに読んでくださいね。
ついに完結!
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まだ早い時間とはいえ、広場には少なからず幾人の人がいる。
叫んでしまって悪目立ちした僕はそそくさと馬車へ逃げ込んだ。
「いやぁ、これを見せれる時が来るなんてな」
馬車に戻ってきたオリバーは石像を見せることができて満足そうだが、僕は恥ずかしくて、しばらくはこの付近に近寄らないでおこうと決めた……。
どうやらオリバーの話によると、石像は他にも二つあるという。
王城の庭園と、僕が前世ハルでお世話になった孤児院の庭にもあるとのことだ。
それで門番が僕の顔を見て、石像がどうとか言っていたのか……。
他にもサプライズを用意してあると言われたが、この調子では不安しかない。
せっかくの王都だったが、またゆっくり来る機会はある。今は獣人の村ドベイルに行くのが先だ。
どうやらラグドールは早く帰りたいらしい。
ラグドールは獣人の村で冒険者ギルドを経営している。
そして今、ラグドールが不在の間は副ギルド長に任せているらしい。
ソマリは受付係員の人数が少ないときは受付係員として手伝っているが、基本ギルド長であるラグドールの補佐として事務的な仕事をしているという。
その事務的な仕事を任せることになったのは、僕のせいだとラグドールは言うのだ。
ソマリは僕との別れから、上手く笑顔が作れなくなってしまったというのだ。自然にやっていたことだけに、いざやろうとするとできないようだ。
「オマエがソマリの笑顔を取り戻すんだぞ」
バンっと僕の背中を叩くラグドール。
「大口開けてバカ笑いして欲しいじゃねえか……」
ラグドールは娘を思う父親らしい顔をしていた。
僕だってソマリには笑顔でいてほしい。
僕は成人してから、こっそり会いに行く予定だった。
その時、誰か素敵な伴侶がいて、ソマリが幸せそうなら僕は黙って故郷へ帰るか、そのまま知らない地へ旅にでも出ようと思っていた。
それなのにソマリには伴侶どころか、僕が死んでから恋人も作らず、恋話すらしなくなったという。
あの明るいソマリが? とても信じられなかった。
――――獣人の村ドベイルへ向かう馬車の中。
「ところで……オリバーさんって国王ですよね?」
…………何を言ってるんだ? みたいな顔しないでください。
「よほど暇なんですね……」
王城へ寄らなかったのは、一度帰ってしまうと城から出てくるのが困難になるからではないだろうか……。
僕を連れ去りに来ただけじゃなく、わざわざ石像を見せるために王都へ寄り、ドベイルの村にまで付いてくるのだから暇じゃないなら何だというのだろう。
「暇ではないぞ。忙しい中、ハル君のためにこうして付いてきたのではないか」
「僕のためってなんですか?」
「それはほら、あれだよな?」
そう言ってヨハンに振るがヨハンの返事も、「あぁ? あれだ」と意味不明なものだった。絶対理由などなく面白そうだからとか、そんな理由なのだろう。
ガウルの件だが、オリバーが僕との約束を果たし、誠意を持ってガウルを治療し、最大限にもてなしたらしい。
そして、ガウルもオリバーには身ぶり手振りなどで必死に気持ちや言葉を伝えようとしてくれたとか。
ただ僕と正面から殴りあった腕は再起不能になっていたらしく、片腕の生活となってしまったようだ。
しばらくしてアルステムを出ていったガウルに、オリバーは育ちやすい作物と野菜の種を袋一杯に持たせたとか。
もちろん治療中の間に栽培法方を実演してみせたらしい。
ガウルが無事に帰れているといいな……。
僕達が獣人の村ドベイルに着いたのは次の日の夜だった。
――――そう、こんな夜だった。
獣人の村ドベイルの周りを囲む獣避けの柵は、人の背ほどのブロック塀に変わっていた。
村の入り口ではあの頃と同じように松明に照らされる門番の姿があった。
門番として入り口を守る二人の獣人が、馬車に近づいてくる。
腰に剣を刺している門番は、まだ十代であろうと思われる若者二人だ。
門番は御者をするリアム騎士団長に問いかけた。
「何用で来られた?」
門番の声に反応したラグドールが馬車から飛び出した。
「オウ。門番ごくろうさん」
「ラグドールさん! おかえりなさい!」
ラグドールを見た途端に、笑顔になった若い門番。ラグドールが「がんばれよ」と激励すると、「ありがとうございます!」と元気に返していた。
ラグドールを目標にしているらしいが、目標にするのは剣術だけにしてほしいものだ……。
村に入ってすぐの所に冒険者ギルドがある。
馬車から降りた僕は、冒険者ギルドの扉の前に立ち、建物を見上げた。
懐かしいな……。サイゼンの街から逃げ出した僕は、この村にたどり着いたのだ。
そして、お金がないため冒険者ギルドで少しでも稼げる依頼はないかと、このギルドに入っていった。
そして、そこでソマリと初めて会った。
少し感傷的になって立ち尽くす僕を誰も邪魔することなく、また、誰も中に入ろうとしなかった。
僕は不思議に思い、後ろを振り返った。
リアム騎士団長は力強く拳を握って見せ、「がんばれ」と口が言っている。
ヨハンは腕を組んだまま黙って僕を見つめているが、心なしか顔の表情が柔らかい気がする。滅多に見れない顔だ。
ラグドールは手でシッシッと払いのける仕草をして、早くいけと促している。
オリバーは親指を立て、片目を瞑りウインクした。
なるほど……僕が主役ということらしい。
僕は扉に視線を戻した。
――――中にはソマリがいる。
そして冒険者ギルドの扉を開けた。
ギギギと木のきしむ音と共に、カランカランと扉に付いていたベルが鳴る。
ギルドの中に入ると懐かしい光景と匂いに身体がブルっと震えた。
この身体になってから冒険者ギルドに入ったのは初めてだ。
受付カウンターには知らない若い獣人の受付嬢が二人立っているがソマリではない。ソマリの姿は見当たらない。今日は非番なのだろうか?
周りを見渡すと酒を飲み交わす獣人でテーブルを埋めつくしていた。
そんな中、一人の獣人と目が合った。周りの獣人よりひときわ筋肉マッチョなその獣人だが、よく見るとなんか見覚えが……いや、気のせいか?
僕と目があったその獣人の飲んでいる樽ジョッキがカタカタカタと小刻みに震えているようだ。次第に口から酒が溢れだしてきた。
「いや、バカな……しかし……」
なにやら僕を見てブツブツ言っているようだ。
「そっ! ソマリちゃん! おい! ソマリちゃんちょっと来い!」
筋肉マッチョの獣人がカウンター奥に向けて叫びだした。周りの獣人も何事かと視線を向け静かになった。
どうやらソマリは奥の部屋にいるようだ。
「おい! ソマリちゃん! あのガキがいるぞ! ハルってガキだ! ゆ、ゆゆゆゆ幽霊になって出てきやがった!」
――――ゆ、幽霊……? どうやら僕を知っている獣人のようだが、幽霊とは失敬な!
ようやく冒険者ギルドの建物に入ってきたラグドール達。
その中でも一際大笑いしているラグドール。よほどツボったらしい。「ゆ、幽霊かっ! たしかにっ!」と目に涙を浮かべ笑い続けていた。
その後ろでリアム騎士団長が「入らないで見守るって言っていたのに……」と愚痴をこぼしている。
「あっ! ギルドマスターおかえりなさい!」
受付の若い獣人の女の子がラグドールに挨拶をする。続けてテーブル席で飲んだくれている獣人達からも声をかけられていた。
「「ラグドールさんオカエリ!」」
「オウ。今帰った」
――――その時、奥から鞘に入ったままの短剣が飛んできて、ソマリを大声で呼んだ筋肉マッチョの額に直撃した。
ゴッッ! と、鈍くて大きな音がとても痛そうだった。
建物の奥から、切られた耳を隠すかのように小さな帽子をかぶった、オレンジ色の綺麗な髪の獣人、ソマリが姿を現した。少し痩せたかな……髪は肩までしかなかったが、背中辺りまで伸びていた。
「ハル様の話をするなと……あれほど言ったのに……!」
大きい声ではないが、怒りのこもった声で、その筋肉マッチョな獣人を威圧した。
「ヨウ、ソマリ。留守ご苦労さん」
「お父様……あれ? その特徴的な着物はヨハン様じゃないですか。それにオリバー……国王様と騎士団長になったリ……リ? ……リ、なんとか様」
「……リアムです」
名前を忘れられてしまったリアム騎士団長は少し悲しそうだ。
そして、ようやくソマリの視界に背の低い僕が目に入った。
どんな反応をするか少しワクワクした僕だが、ソマリは突然目付きを悪くし、僕以外に視線を移した。
「お父様……そして皆様……もしかして、ハル様に似た人を連れてきて、私が満足すると思ったのですか?」
――――なるほど、そういう見方もあるのか。年を取ってないし、むしろ若返った僕は以前よりも背が低いかもしれない。
成長期の二年ほどの差は大きいだろう。
ソマリのピリピリとした声に、肩をすくめるだけで何も言わないオリバーやラグドール達。
オリバーが僕にウインクをする。どうやらここからは僕に任せるようだ。
僕がカウンターに近づくとソマリもカウンターへとやって来た。
じっと僕をみてボソッと声を漏らした。
「似てる……」
そりゃ、神様が一緒の顔にしたのだから、似ていて当然である。
僕は胸からタグプレートを出した。
タグプレートを見た目ソマリは「ハル……カ」と呟き、少しガッカリした様子だ。
名前が違っていたことに落ち込んだのだろう。少しは期待していたのかもしれない。
僕は依頼紙が貼ってあるボードへ行き、いくつかの依頼を取り、再びカウンターへ戻った。
「この中の討伐依頼で、一番近い場所の依頼と、おおよその生息場所を教えていただきたいんですが……」
ソマリは聞き覚えのある僕の声に反応した。そしてここで昔言った言葉にソマリが強い反応を示した。
「あ、あの……どれも鉄と銀ランクの依頼なので……ハル……カ様は……受けられません」
ソマリの声が震えだした。ソマリもあの時の同じような言葉で返してくる。教科書通りなのか、それともあの時と同じ言葉をあえて選んだのかはわからない。
「素材の買い取りだけはしてもらえますか?」
「できます……けど半値ほどになります……」
「それで構いません。場所を教えてもらえますか?」
震える声からやがて泣き声に変わりだした。
「ひ……一人で……いぐ……んですか……」
涙を拭いながら必死であのときのやり取りを再現するソマリ。
…………覚えていてくれたんだ。
すると後ろから先ほどの筋肉マッチョの獣人が話に入ってきた。
「おいおい! ソマリちゃんを泣かすような小僧は許せねえな! 俺と勝負しろ!」
その獣人は怒っている様子はなく、むしろ嬉しそうだ。
――――っあ。思い出した!
僕がこのギルドで腕相撲をした獣人だ! そういうことならこの獣人にも協力してもらおう。
「勝負ですか……腕相撲でいいですか?」
「おっしゃっ! あのときの再戦だ!」
僕と筋肉マッチョの獣人はテーブルの上で手を組み、腕相撲の準備をする。
「オイ。俺はあの時油断していたんだ。だから負けたが、今度は負けねえゼ?」
「本気で来ていただいて結構ですよ?」
昔、僕がここに来たときの事を知らない獣人達から様々な声があがっている。
「おい、なにやってんだ?」
「ムッチーノと子供が腕相撲するらしいぞ」
「そんな無茶苦茶な……あの子供の腕がもげてしまうぞ」
このマッチョ獣人、ムッチーノという名らしい。ここにきて明かされる名に僕は苦笑した。このマッチョ獣人にピッタリの名じゃないか……。
筋肉ムチムチムッチーノ……。
僕とムッチーノが組んでいる手の上に、ソマリが手を添える。
静まり返る中、オリバーとラグドールの声が微かに聞こえた。
「腕相撲? ハル君は何をやっているんだ?」
「フッ……小僧がこの冒険者ギルドに来たときの再現だな」
「なるほど、それでソマリ君は泣いているのか」
二人の上に添えたソマリの手は、僕の手の方へ来てやさしく触りだした。
「本当に……本当にハル様……なんですか……?」
僕はその問いに今はまだ答えないまま、ソマリにスタートを促した。
――――そして。
「始めっ!」
――――――バキッ! バキャバキッ!
ソマリの掛け声と同時にテーブルの砕ける音が響き渡った。
勿論叩きつけられたのはムッチーノの手だ。
あの時と全く同じ光景が再現された。
「ぬぐおおおおおお!」
と、痛みを堪えながら叫ぶムッチーノだが、どこか嬉しそうなのは、僕があの時の子供とわかったから? それともドMだから?
周りの獣人は唖然としているが、ソマリは僕の名を呼びながら近づいてきた。
「ハ……ハル様……」
「ソマリさん」
僕の口からソマリの名を呼んだ瞬間、泣き顔だったソマリが喜びの顔に変わった。
僕に飛びつくソマリをそっと受け止めた。
「このかわいい顔……このきれいな声……この飛び抜けた強さ……この抱き心地……ハル様ああああ」
抱き心地ってなに……。だがそんなツッコミはするはずもなく、黙ってソマリを抱きしめ続けた。
「どうして……すぐに来てくれなかったんですかああ」
泣きながらソマリが、溜め込んでいた事を吐き出し始めた。
「赤子から人生やり直していましたから……」
「オリバー様から聞きました……ハル様は他の世界で死んで、この世界に転生したって……だから、もしかしたら、またすぐに来てくれるかもって……ヒック……ヒグッ……」
僕はオリバーの方に顔を向けたが、オリバーはラグドールの大きな体にサッと隠れてしまった。
――――オリバーさん!
まったく……転生のことをソマリに言うもんだから、変な期待をして待っていたんじゃ……。
「それにしても……」
涙は止まらないが、今度は少し怒っている顔になった。
「なんで私に内緒なんですか! ラルク様も知っていたんですよね!?」
う…………これではまるでソマリだけ仲間外れにしていたみたいではないか。
「ち、違いますよ……? ソマリさんに危険が及ばないように……ですね……転生者なんて知れたら国から追われる事になるかもだし……」
「じゃあ、なんでオリバー様には言ったんですかあ!」
「うぐぅっ!」
反論できない! ソマリは口が軽そうだから、と本当の事も言えないし……!
不満をぶつけだしたソマリの涙は止まっていた。
「それに……!」
ええっ!? まだあるの!?
「それに! …………これじゃあ釣り合いがとれません…………」
「えっ?」
「だって……私……もう三十……モゴモゴですし……」
年齢を気にしているのか。女性は特に気にしそうなところだ。
「ソマリさんはとても綺麗になりましたね。僕みたいな乳臭い子供と貴方みたいな素敵な女性では釣り合いが取れませんね」
「ち、違います! そうじゃなくて――――」
「それでも僕はソマリさんが好きだ」
「――――――っ!!」
泣き止んでいたソマリの目に大粒の涙が溜まった。
「僕の一度目の転生は、母との約束を果たすためだったのです『みんなを守れるような強い子になって』と。
そして二度目の転生は、僕自信の願いを果たすためにこうして生まれ変わってきました」
「……ハル様の?」
「僕は死ぬ前、『ソマリさんに幸せになってほしい』と願いました。しかしソマリさんの幸せは『僕とずっと一緒にいること』だと言っていました」
「今もっ! 今も変わっていませんっ! 私の幸せはハル様と共にあります!」
力強く答えるソマリからキラキラと涙が飛び散った。
「ソマリさん。僕とこれから先もずっとそばにいてください。それが僕の願いです」
「ハル様っ!」
ボロボロと涙を流しながら僕の唇にソマリの唇を重ねてくる。
それと同時にギルド内から悲痛の声や祝いの声が飛び交った。
「ソマリさん、さすがにこんな大勢の前でキスは……」
「こんな大勢の前でプロポーズしたハル様が悪いんです」
た、たしかに……。今になって恥ずかしさが込み上げてきた。
「あ、あの……ソマリ……と呼んでください」
顔を赤く火照らせモジモジしているソマリは可愛かった。
「ソマリ……」
ソマリの名を呼んだ事によって、幸せそうな顔するソマリは格別に可愛かった。
僕はソマリの唇に吸い寄せられるようにソマリと唇を重ねた。
ギルド内は更なる盛り上がりを見せ。樽ジャッキまで飛び交っていた。
「ソマリさんおめでとう!」
「幸せにな!」
「うおおおおおおん。ソマリちゃんんんん! 幸せになあああ!」
「うぐおおお手が痛いい!」
「ソマリ先輩いいなああ!」
などなど沢山の祝福の言葉をいただいたのだが、何か変な声が混じっていたが気にしてはいけない。
この時、心から幸せというものを感じていた。
そんな幸せを感じていると後ろからドーンと誰かに飛び付かれた。
この感動の時間を邪魔をする奴は誰だと振り向くと。顔立ちや体つきがすっかり大人になったコングの姿だった。
「ハル! おめでとう!」
「なっ! なんでコング君がっ!?」
「ばかやろー! おいらはハルよりずっと年上なんだからコングさんと呼ぶんだな!」
「コング、うれしそう。テンション高い」
えっとこの美人さんは……
「む? ハル、私を忘れた? モモよ」
「えええええっ! あぁ……そう言われると……」
昔は黒髪のショートだったが、今はさらさらのロングヘヤーになっていた。
だってあの頃は十歳くらいだったような……。そしてあれから十四年だからもう二十四歳前後。
そりゃ、わかるはずないって……。
「こらっ、年上だからって何偉そうにしてんだっ」
胸を張って偉そうにしているコングの頭をチョップした人物がいた。
ラルクだ! そして隣にはシルビアも!
二人は手をヒラヒラさせて「久しぶりー」と軽い感じだった。
たしかにこの二人は僕が転生者と知っていたから、飲み込みが早く、大して驚かないのかもしれないけど……。
おや……シルビアの手を握っている、僕より少し背の高い女の子は……もしかして!?
「お子さんですか!?」
「そうよぉ。こうしてこの子がここにいられるのもハルちゃんのおかげよ。ラシール挨拶しなさい」
「ラシールさんよろしく」
僕は笑顔で挨拶をしたが、ラシールは顔を真っ赤にしてシルビアの後ろに隠れてしまった。
「あらあら、ハルちゃんの事を小さい頃からずっと話し聞かせていて、この子の憧れがハルちゃんになってて……だからきっと恥ずかしがっているのよ」
「もっ、もう! お母さん言わないでよ!」
モジモジしながら前に出てきたラシールは僕に挨拶をしてくれた。
「ラ、ラシールです。英雄ハル様に会えて嬉しいです」
なんだかチラチラ僕を見る視線が熱い。
それを感じ取ったソマリが僕をギュッと抱き寄せる。
「ハル様は私の夫です!」
おおっと、早速ソマリが夫婦宣言したが気が早いね!?
「もーソマリちゃんったら、この子は別にハルちゃんを取ろうと思ってないわよ。憧れと好きは別よ?」
「むううう……」
ソマリは納得しようとしているが納得しきれないようだ。
「それよりハル。お前背が縮んだか?」
「うぐっ! 小さくなったというか今十二歳なので……年齢相応かと……」
ちょっと背は小さい方だが、まだこれから伸びるもん! ふんっ!
「オリバー様からの伝言は、『ハルを見つけた。大至急ドベイルの村の冒険者ギルドで隠れて待機せよ』との門番からの早馬だったからな。どういう経緯か知らないだよ」
あっ、オリバーの言っていた他のサプライズってこの事か!
僕はオリバーに顔を向けると、今度は堂々と顔を出していてウインクしてくる。
調子のいい国王だ……。
「ハル様……これをお返しします」
ソマリから渡されたのは僕が使っていた刀だ。
鞘から少しだけ刀身を出してみると綺麗な蒼い波紋が輝いていた。
ずっと持っていただけではなく、手入れまでしていてくれていたんだ……。
「ヨシ、これでやっと戦えるな」
――――えっ?
「ラグドールの次はぁ、俺だからな」
えっ?
ラグドールもヨハンも闘気全快で武器に手をかけた。
周りの獣人達が覇気に当てられ、青い顔しながら後ずさっていく。
「ソ、ソマリ……逃げるぞ!」
僕はソマリを抱き上げて扉を蹴飛ばし外に飛び出した。
扉は壊れてしまったが、幸せそうなソマリの顔に免じて許してください!
「オイイイイ! 小僧まてえっ!」
「俺から逃げると思ってるのかあ!?」
やばい。この二人の目がマジだっ!
僕は白い魔力を纏い、空中に足場を作って、トンットンッっと空へと駆け昇っていく。
「ずっ! ズリイっ!」
地上ではラグドールが何か言っているが、無視してそのまま高く高く上がっていく。
星がキラキラと輝く雲ひとつない夜空。
そんな空を二人で貸しきりにしているかのようだ。
僕の首に手を回し顔を近づけてくるソマリ。
月に照らされてはいるが、誰にも見られないような高い空で、熱い口づけをする。
「ハル様……私、幸せです」
「僕も幸せです。ところで……これから何処に行きましょう?」
もう一度軽くキスをしたあとに、ソマリは最高の笑顔でこう言った。
「ハル様となら何処へでも!」
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沢山ある小説の中、読んでいただきありがとうございました。
ついに完結してしまいました。
もっとこの人物達で物語を書きたい気持ちはありますが今はここで切り上げたいと思います。
そしてここまで読んでくださった皆様には感謝しかありません。
ここまで続けられたのも、ブックマークや評価をしてくれた皆様のおかげです。
最後にお願いがあります!
☆☆☆☆☆星マークに評価をしてもらえると嬉しいです!
それでは次回作でお会いしましょう☆




