第9話 訓練所に入ったんですが。
訓練所に入ると人がたくさん、というわけでもなかった。
「あれ?思った以上に人が少ない…?」
パっと数えて10人もいなかった。
基本みんな入るから多いと思ったんだが?
「先に来た人は締め切りまで先に施設の中で住み込みをしてる場合が多いわ。それと最近、悪いニュースのせいで入りたがる人が少なくなったのよ。命は一つしかない。ならないことを否定することはできないわ。」
「悪いニュースって?」
「…魔族が動き始めたのよ。」
魔族と言うとアミールさんにけがを負わせたあの犬の集団のことか?
たしかにあんなのがたくさん現れたら命がないと思うだろう。
それでも来る人はそれほどの理由でもあるんだろうか。
「とりあえず先に受付に行きましょ。」
受付に行くと一人で書類を処理している人がいた。
「いらっしゃいませ。訓練所の志望者でしょうか?ってミラさんじゃないですか!」
「ええ。でも今日は案内に来ただけよ。お手伝いはしないよ?」
「そうですか…。」
受付の人はしょんぼりしていた。
「帰る前に聞きたいのだけど、今月の訓練講師は誰かしら?」
「えっと、たしかホシさんだったっけ。」
「…ずいぶん厳重になってるわね。それほど危ないことになってるってことね。」
なにか話しているけどまったくついていけない。
二人して難しい顔しているけど、さっきの悪い話についてなのかな。
ミラさんが情報持ってるのはこういう時に聞いているからなのか。
「じゃあ私はそろそろお暇しようかしら。」
「もう行っちゃうんですか?」
「言ったけど、案内に来ただけだわ。それより待たせたらいけないでしょ?」
「あ!すみません。訓練所の志望者でしょうか?」
よかった。完全に蚊帳の外だったけど話を進められた。
「はい。そうです。後ろの4人もそうです。」
「じゃあユウ、ティラにリンにソーラとスウ。訓練所、頑張ってね。」
「今までありがとう。店にもできたらちょくちょく顔を出すね。」
「ええ!」
ミラさんが笑顔で答えると手をひらひら振りながら出て行った。
さて、今度こそ訓練所の手続きを。
「まさかミラさんの知り合いだなんて…。」
どうやらまだ進めないらしい。
「ああ!また私はほかのことを!えっと、私はウィル・デルトル。ミラさんとは違って元々は普通の冒険者でしたが。まずこれをどうぞ。ここに名前を書いてください。」
そういわれて紙を渡された。
「この時期ですので恐らくですが門のところで名前を書いたと思います。ですがそれとは違い手形はなく指紋ということと各一人ずつ別の紙に書いてください。合格した場合そのまま使われるので。」
この時期、というと村から来た人が多いのか?
さすがに俺たちみたいに飛ばされた、みたいな人はいないだろうけど。
渡されたのは全部で5枚の紙だった。
いたってシンプル。
名前を書くところと指紋を押す場所。
ここまではほぼ門の時と同じだ。
違うとしたら何か少し大きめの四角で囲まれたところがあった。
そこは書かないでください、と書いてあったからなにか向こうで記入するのかな。
門の時同様、特に問題なく書き終わりウィルさんに渡した。
「では名前を読み上げるので、読み上げられた人はこちらに来てください。」
何をするんだろうか。
名前と顔の照合なのかな。
「では、ユウ・ミグラトルさん。」
「あ、はい。」
また俺が最初かい。
前に出たらウィルさんがインクが入った瓶を手に持って、何か魔法を唱えていた。
「【スケッチ】!…はい!大丈夫ですよ。」
「おお!」
さっき空白だった四角で囲まれていたところに俺の似顔絵が描かれた。
前の世界だと魔法ではなく機械に移行したものを使っていたな。
「これぐらいの魔法でしたら訓練所に入っている間に学べると思いますよ。」
こんなに古い魔法は懐かしいなあ。
でもこれ不器用な人には少し難しい魔法だったはず。
もちろん俺は無理だけど。
「では、次はティラさん。」
「はい。」
ティラも呼ばれ、リン、ソーラ、スウも同じく似顔絵を描かれた。
「こちらでの手続きは以上です。では施設のほうを案内しますのでついてきてください。」
書類をまとめるとウィルさんがカウンターから出てきた。
訓練所の入り口の反対側、カウンターの隣の奥の扉に入った。
そこは外から見た時に見えなかった奥の建物だった。
受付は後から前に建てたような感じなんだろう。
施設は二階建てでけっこう広かった。
1階はホールがあり、どこかの豪邸みたいな造りだ。
シャンデリアなんてものはないけど。
「ここが訓練所?」
「一応そうよ。1階は講義室があるんだけど講師によっては使わないわ。2階は住み込みをする人用の宿泊施設があるわ。ご飯は豪華ではないけど出しますよ。」
住み込みとはまた便利だな。
特に案内する場所はないらしく、部屋の案内だけですぐ2階に移動した。
「部屋はこの215号室をご利用してください。ご飯は朝昼晩の3回。あと何かあったらカウンターがあるところまで来てください。では私はこれで。」
そう言うとお辞儀をして戻っていった。
さっそく部屋に入ろうとドアを見てみたら、鍵はなかった。
けっこう危険だな、これ。
「あ!一応これは言っときますね。募集は今日までなので明日から訓練が始まります。詳しくは今日の夜当たりに伝言が来ると思うので確認しといてくださいね。」
ひょこっと壁から顔を出して伝えてくれた。
締め切りが今日までとはギリギリだったのか。
「とりあえず入るか。」
「おー!昨日より広いね!荷物もないから広々できるー!」
部屋は昨日の宿屋より少し大きいぐらいの部屋だった。
昨日と同じく5人一緒。
これはこれでありがたい。
「じゃあ夕飯まで休みますか。」
休めるときに休む、これ、とても大切。
―※余談注意※―
そろそろ書きたい部分へ突入したいデス。




