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廃墟と春の庭  作者: 石上あさ
4月16日
18/106

4-1:学 校《努力家と昼食の風景》


  ◇  ◇  ◇


「さーて、今日のお弁当なんだろな~♪」

 昼休みになるやいなや彼の机へと飛び込んできた〈イケメン〉が、待ちきれないといった様子で彼と〈グルメ〉が弁当箱を開ける手元を眺めている。

「なんで自分も食べる前提なんだか」

「まーまー、そう言わずにさ?」

「でも、わかる気がするなあ。僕も〈罪人〉くんとおかず交換するのはいつも楽しみだから」

「クマちゃんのは交換だろ。一ノ瀬がやってるのはたかりだから」

「いっつもぶつくさ言いながらも結局くれるあたり〈罪人〉は根っからのツンデレなんだもんな~」

「好きに言ってろ」

 いつものやりとりをしていると、通りがかかった〈努力家〉が不思議そうに彼らに言った。

「一ノ瀬くんって自分のお弁当食べて欲しいって女の子いっぱいいるのに、絶対その2人のしかもらわないよね」

 〈努力家〉は肩口で切りそろえたしなやかな髪が活発な印象の女子である。

 2年生になってから初めて同じクラスになったので詳しいことは知らない――1年から同じクラスの人間についても自分から知ろうとしない――が、有名な〈努力家〉についてはいくつか知っていることがあった。演劇部の部長候補であること。生徒会選挙への出馬も期待されているばかりでなく、検定もそこそこに取得していたり、休日は猫カフェですごしたりという

その人生を全力で楽しみにかかっていること。その武勇伝は彼の耳まで風の便りに乗って伝わってくる。

「それはホントに俺も思う。だから、去年からそう言ってるんだけど、『みんなを平等に扱いたいから誰のお弁当も食べるわけにはいかない』んだと。

 自分にお弁当を作ってくれる人のをいちいち食べていたら食べきれないらしい」

「あー、一ノ瀬くんだと確かに誰々ちゃんが抜け駆けした、とかなっちゃいそう」

 然り。実際、同性である彼ですらときどき『一ノ瀬京親衛隊』を名乗る不穏な連中からの怨念のこもった視線を感じることが多々あるのだ。

「そのなのよ、本当は全部食べちゃいたいのにね。モテる男の辛いところさ」

「贅沢な悩みだね」

「俺もそう思う」

「ま、今に始まったことでもないんだけど」

「僕は、作ってくれたものなら、全部残さず食べたいなあ」

「「そりゃクマちゃんならできそうだけど」」

 そのやりとりを見た〈努力家〉が

「みんな、本当に食べるのが好きなんだね」

 と言うと

「まったくだよ。このシェフ2人の料理がうますぎるったら、もう」

 と〈イケメン〉はへらへら笑いながら彼の唐揚げをひょいと口に入れる。

「ん~やっぱこの味」

「あ、おい。いただきますちゃんと言えよ」

「いふぁふぁひまふ」

「食べながらしゃべるんじゃありません」

「なるほどな~。楽しみにしてくれてる人がいるから、〈罪人〉くんも作りがいがあるって感じなんだね」

「なんか、いい話っぽくまとめられてない?」

「いただきます。わあ、ほんとにこれおいしい~」

「ちょっ、クマちゃんまで。――あ、クマちゃんは食べていいんだった」

 彼らのやりとりを笑いながら眺めていた〈努力家〉が「お食事中に邪魔してごめんね、じゃあ、ごゆっくり~」と言い残して去って行っていく。

 彼はこれが悪いクセだと知りつつも、けれどどこかでしょうがないんじゃないか、とも思いながら、いつもの台詞を呟くのだった。

「・・・・・・やれやれ」

(ま、めちゃくちゃ美味そうに食ってくれるからいいんだけどさ)

 それだけが、普段クラスメイトの言動に見て見ぬふりをしている彼にとって自己満足でしかない独りよがりとわかっていても、罪滅ぼしになるのだった。



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