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廃墟と春の庭  作者: 石上あさ
7月1日
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終章-3《ホームセンターめっちゃ楽しい》


  *  *  *


 そういうわけで、文字通り日曜大工をするべく、ホームセンターにやってきたのだった。

 みな意気揚々とホームセンターに入ろうとする。が、入り口の花の苗やら植木やらが置いてあるところで郷村だけが吸い寄せられた。花の甘い蜜に誘われた蜂かなにかのようだった。

「お兄ちゃん、なにやってるの」

「――は!?」

 呼びかけられてすぐに正気に戻る郷村。

「・・・でも草むしりとかしてせっかくさっぱりしたから、花壇みたいなのを作ってみてもいいかもね」

 兄の失態にフォローを欠かさない、よくできた妹だった。

「そうだな。夏休みの自由研究なんかで何かを育ててもいいかもしれんな」

 それに応じて建寛も常識的な同意を示してくれたが、

「自由研究?なんだそれ」

 ここで大河がごく天然にボケをかましてきた。

「・・・大河はこれからちょっとずつ学校行こうな」

 そうだった。仲直りをし、もう夜ごと街へ繰り出して傷害沙汰を起こすようなことはしないと約束してくれたことまではよかった。けれどまだ学校の問題が残っている。大河も来年で中学3年生になってしまうため、できるだけ早い内に勉強に取りかかった方が良いだろう。

 郷村も建寛も、中学程度の問題であれば難なく解ける。大河自身も負けず嫌いでタフなところがあるから、本気になれば勉強くらいはなんとかなるだろう。ただ問題は出席日数と内申点だった。これで追加の宿題や補習やらを開いてくれて、それでどうにか大目に見てくれるくらい心優しい先生ならばありがたいけれど、他の生徒もうん十人受け持つ忙しい人にあんまり多くをねだるのもよろしくない。

 まあ、そのあたりのことは〈補助員〉と〈専門家〉になんとかしてもらうしかないんだけれど――。

(俺、めっちゃ先生に生意気なこと言っちゃったもんなあ・・・)

 そのせいで大河に迷惑かからなけりゃいいけど。いや、もうやむを得まい。あとでちゃんと謝罪しに行こう。そうしよう。


 そして店内に入ると、今度は調理器具コーナーに吸い寄せられる人影が。

「「――は!?」」

「そういうとこ、ほんと兄妹なのな」

 しかも郷村兄妹2人揃っての事案だった。

 妹は我にかえって、慌てて手にしていた商品を棚に戻る。クッキーの型なり、ケーキとかの仕上げ用の回転台、デコレーションコームなんか等々。それでもまだ未練が残ると見えて、横目でちらちら商品を見つめている。そのいじらしい仕草を目にしたとき郷村の兄性本能が火を噴いた。

「恵里菜、好きなものなんでも買っていいよ」

 買い物カゴをそっと差し出す。なんだかんだで心配かけてしまったし、応援もしてもらったのだ。そうでなくても、たまには兄らしいところも見せなければ。

「・・・いいの?」

 周りのよく見える恵里菜らしい遠慮と、それでもあどけない嬉しさを隠しきれない眼差しでこちらを見上げてくる。郷村は微笑みながら頷く。

「もちろん。俺だってこう見えてバイトで稼いでるから」

「ありがとう!」

 そう言って弾ける笑顔が、兄馬鹿と言われてしまうかもしれないけれど、可愛くて仕方なかった。見ているだけでこちらまで嬉しくなるほど無邪気だった。この笑顔のためならなんでもできる。

 するとそれを見ていた変態の総本山、龍造寺建寛も、

「なにやらこちらから文具コーナーの香りが・・・」

 便乗してフラフラどこかへ行こうとしたけれど、

「あのメガネは置いていこう」

 と大河が言うと間髪入れずに、

「そうね」

「賛成」

「行こーう!」

 満場一致で可決になった。

「なぜだ!」

 なにやら悲痛な声が後ろから抗議が聞こえたけれど、ああ無情。これが民主主義。

 その後、木材売り場に辿り着いた郷村が興奮して、薬物を鼻から吸引するがごとく木の香りを嗅いでいたことを除けば、メインの買い物はつつがなく終わった。


 ホームセンターを後にしてみんなで車へと戻っている。

 あいつに木材を持たせたらヤバいとの判決を受けて手ぶらになった郷村が、ホテルの前で女にフられた帰りのように寂しげに消沈して歩いていると、

「なあ」

 後ろから声を掛けられた。郷村は立ち止まって振り返る。そこにいたのは逞しい筋肉をフル活用して大荷物を運んでいる大河だった。

「色々、迷惑かけたな」

 彼の方も見ず、歩きながらぶっきらぼうに呟く。その姿が、なんだかここに来るときの若竹のようにも見えた。そういえば雰囲気もどことなく似ている。あの喧嘩の強さといい、案外、子どものころはこういう感じだったのかもしれない。それが今では国家資格を取得して大学を出て、彼らの生活の手助けをしてくれている。となると、学校その他のことに関しては若竹にお任せしたほうが、波長やらなにやらも合致して上手くいきやすいかも知れない。まあ、それはそれとして――

「なに勝手に過去形にしてるのさ」

 郷村は横を通り過ぎていこうとする大河の肩を陽気に叩く。ところが大河はひどく辛そうな、申し訳なさそうな顔になって、

「・・・すまねえ」

 と言う。どうやら言葉の意味を勘違いさせてしまったらしい。郷村は微笑みながら首を振る。

「そうじゃない。これからはもっとお互い迷惑をかけあうってことさ。一緒に暮らすってのはそういうことだろ?改めて、よろしくな」

「・・・お前らほんと変わったやつらだよな」

「メガネをかけたのが特にね。そういうやつらと渡り合っていくんだから覚悟しときなよ」

「結構体力がいりそうだな」

「それに関しては自信ありでしょ。だいたい、気づいたら大河だってそうなってるのかもしれないんだし」

「おっかない話だぜ」

「そうでもないさ」

 あの犬耳の日、建寛が言ったこと。出で立ちはともかくとしてその言葉は格好良かった。『なにがどう変わろうがお前はお前だ。周りのお前を見る目が変わろうと、お前自身の物の見方が変わろうと、お前はいつでも武井大河なのだ』

 変わっていくことは、恐れるべきことではない。龍造寺建寛が変態としての本性を発揮しながら、己の存在をもって語りかけたのはそういうことだった。

 これから作るフォルテの家は、きっといい家になる。大河と並んで歩きながら、そう思う。目の前には建寛と学と恵里菜がいる。奥の車の中では若竹が待ってくれている。根拠もなにもないけれど、郷村の胸にはこれから素敵な夢が生まれそうな、そういう賑やかに弾む予感があった。



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